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誕生日会閉幕

 結局、パーティ中に喋ることは殆どなかった。強いてあげるならプレゼントの時ピンポイントで僕の箱を開けることになったので、その時に少し。

 あとは、絡まれた相手に対して穏便に解決しようとしたけど目立つ結果になった時に。


 で、ケーキをみんなで食べるという中に相変わらず混じらずにトイレに行ったりしてシルフに呆れられながら閉幕まで時間を過ごした。


 今はパーティが終わったのでそれぞれが今後のために動いている。


 僕はというと、姉さんを探していた。


『連絡した方が早いですよね?』

「気付いてくれればね」


 この人込みの中だ。ひょっとすると姉さんは僕のことを忘れて飲みに行っている可能性もあるから、まだ時間が経過していない内に見つけて鍵を受け取りたい。

 ふらふらと気配を消して探し回っていると、会場を出てしまった。


「ありゃ、ひょっとすると姉さん呑みに行った後かな?」


 思わず頭を掻きながらそんな言葉が漏れる。まぁ集団の中にいられたら分からないんだけどね、ざっと見て回っただけだし。

 フェリアに頼んでメール送ろうかなやっぱり……そんなことを考えていたところ、ソファに一人で座っているレミリアさんを見つけた。


 休憩中なのかなと思いながら、姉さん探しを一旦やめて彼女に近づくことにした。



「ふぅ」

「お疲れみたいだね、レミリアさん。誕生日おめでとう」

「!? レ、レン!? ど、どど、どうしたんですか?」

「姉さんからカギを預かろうと探してたんだけど、その前にレミリアさん、あれ『エミリー』さんじゃないとまずい?」

「あ、だ、大丈夫ですよ!」

「まぁ君と終わってからゆっくり話そうかなって思ってたから……隣座っていい?」

「!? ひゃ、え、あ、ああの! だ、大丈夫、です……」


 声がだんだん小さくなっていたけど了承したようなので隣に座ってから「いやーすごいねぇ、誕生日会って」と感想を漏らす。

 彼女は数回深呼吸してから「……はい。毎年嬉しいです」と言っていた。


「去年初めて当事者になったけど、困惑が先行したなぁ」

「あははは……慣れない人はそうかもしれませんね」

「特に事情がない限り”普通”は祝ってもらうんだろうね」

「そう、だと、思いますよ」


 ……なんで切なくなる話題に持っていくのだろうか僕は。

 染みついた習性なのかなと考えながら、自分で話題を変える。


「そ、そういえば残りのプレゼントって部屋で開けるの?」

「え、えっとですね、それは明日にでも開けようと思ってます。その、レンのインパクトが強すぎたので……他を開ける気が」

「……ごめんね?」

「あ、謝らないでください! とても嬉しかったんですから!!」

「ならよかったよ……明日といえばさ」


 と、切り出しかけて彼女自身が言っていた予定を考えて黙る。

 彼女にだって休みの日の使い方がある。それを潰す様に提案するのは些かどうなのだろうかと。

 そんな僕を気にするかのように、彼女の方から「明日、ですか?」と訊いてきた。

 ……まぁ、提案だから良いのかな。選択の余地はあるし。そう考えて開き直った僕は「姉さんから休みだって聞いたんだけど」と続けることに。


「あ、はい」

「レミリアさんさえ良かったら、この島を案内してほしいんだけど……どうかな?」

「……え? あの、すみませんが、もう一度仰ってくださいませんか?」

「明日良かったらこの島案内してくれない?」


 聞き間違いだと思った彼女が質問してきたので同じことを言ったら固まってしまった。理由は分かるけどそこまで衝撃的……だろうなぁ。受け身な僕が人を誘うというのだから。


「ほ、本当にレンなんですか?」

「いや、疑うのも無理ないけどさ」


 あんなことを経験したらまぁ妥当な警戒の仕方だけど。

 正直証明が出来ないので「そこらは置いといてさ、大丈夫? 他にやりたいことがあるなら断ってもらってもいいから」と付け足したところ、「そ、それは大丈夫です!」と食い気味に否定した。


 そこまで否定しなくてもいい気はするんだけどなぁと思いながらも、「ま、大丈夫なら明日期待するから。また明日ね」と立ち上がりながら彼女に言い、集まっている人を無視して姉さんを探しに移動した。



 ま、すぐに姉さんがこっち来たから手間が省けたけど。




 姉さんから部屋の鍵を受け取って別れた僕は直行してここに到着した時と同じ服に着替え、バスタブにお湯を溜めながら列車の中で読んでいた本を読む。

 家のことが正直気になって仕方がないけど、この場でそこを気にするというのは無粋なのだろう。

 まぁゴールデンウィークの時気にしてなかった……訳ではないけども。


「なんだかなぁ」


 パラリ、とページを捲りながら独りごちる。その間にも蛇口からお湯が出てる音が聞こえる。というか、それ以外の音がほとんど存在していない。

 独りでいる時は大体こんな空間。静寂が空間を支配し、自分がしている作業以外興味関心をなくす。まぁ他の人でも仕事していたらそうなんだろうけど。


 …………。


 本を閉じる。どうにも集中できない。


「ふぅ」


 ベッドに本を置いて立ち上がり、お風呂の様子を見に行く。覗いてみたら殆どたまっていたので止めることにして、風呂に入る前に時計を見たところまだ八時頃。

 入っても暇な時間が続くので、財布を持ってこの際探索しようと思い立ち、鍵と携帯と財布を持って部屋を出た。



一階、ロビー。そこまでエレベーターで来た僕は、一先ず調べた結果と齟齬がないか周辺マップを探す。

まぁフェリアが調べた情報の方が新しいだろうから必要はないのだろうけど、何事にも確定開示情報が大事な部分がある。状況的に頼れないことが多いだろうし。


 パンフレットはすぐに見つかった。入り口付近に並んでいたから。

 量自体が少ないのは最低限でいいという予算の都合なのかそれとも観光に来る人が多いからなのだろうかと思いながら一部手に取ってから、飲み物を飲みながら空いているソファに座って確認しようと自販機を探す。


 部屋に戻ってやればいいのだろうけど、あそこで集中できないがために出てきたのだから本末転倒な気がして戻る気になれない。

 で、自販機の前に来て何買うか悩む。

 基本的に清涼飲料水を飲むには飲むけど、お茶か水かコーヒーか牛乳の方が多い。

 どうせなら飲んだことのないものでも買おうかな。記念みたいに。


 その結果。


「まず……」


 地雷かどうかわからないぎりぎりのラインの商品を買ったら後悔した。

 なんというか、それぞれの味が喧嘩してる。多分、配合率とかつなぐための材料を間違えたまま販売したのだろう。

 一気に捨てたくなったけど、もったいない精神が働いてもう一口……不味い。


 これは天罰なんだろうかと遠い目をしていると「何やってるんだ、おい」と声をかけられた気がしたので顔を向ける。


「ああ、因縁つけてきた人」

「確かにそうだが、その覚え方されると腹立たしいな」

「でも事実じゃないですか」


 向こうは黙った。

 黙るなら突っかからなきゃいいのに。そう思いながらもう一口飲むかどうか缶を見ながら悩んでいると、「そのくそ不味いの買ったのか。勇者だな」と事情を悟ったのかそんなことを言った。


「飲んだことあるんですか?」

「最初に来た時にな。女性や男性の一部は好きらしいんだが、一口飲んだらすぐに捨てた」

「なるほど……まぁホテルにあるぐらいですから需要はあるんでしょうね。で、どうして話しかけてきたのですか? 無視すればよかったでしょうに」


 冷たく突き放す様に言ったところ、「謝りたかったんだよ」と小さく言われた。

 色々と言いたいことが湧き出てきたけど、我慢して「そうですか」と答えておく。


 僕のその声をどう読み取ったのか推測しないけど、彼は「悪かったよ。あれはお前の言う通り完全に逆恨みだ」と自分の非を認めた。

 さっさと認めればあれほど騒ぎになることもなかったのではと思ったけど、激情の中理性をコントロールするなんて大半の人類には不可能なことだという事実を思い返して「分かっていただけて良かったです」と淡々と返す。


 するとその返しが予想外だったのか「お、おう」と言葉を詰まらせた。

 基本的に謝罪の言葉に意味を感じない。起こったことは覆らないのだから。

 だからなのか、自分が謝罪する時どうしても軽くなってしまう気がする。謝る気持ちは理解できるんだけど。


 それ以降何も言わない僕の空気に耐えられなかったのか、彼は髪を掻きながら「なぁんか調子狂うな」と呟いてから自販機に向かってお金を入れて二回ボタンを押した。


「ほらよ。謝罪の品ってわけじゃないが、こっち飲めよ」

「あ、ありがとうございます」


 自分で買ったものを目を瞑って一気に飲む。飲み干して吐きそうになるのをこらえて喉を通り過ぎるのを待つ。そのあとに貰ったジュースを間髪入れずに飲む。


「――――はぁ~~美味しいって素晴らしいですね」

「……いやお前凄いな。全部飲んだのかあれ」

「なんか勿体無かったので。やっぱり。貧乏性ですから」

「それでも捨てて仕方がない味だと思うんだが……やっぱり凄いな」


 感心しているようなので、「そういえば、どうしてこちらに? 僕を探してきた訳じゃないですよね?」と気になったことを質問する。

 彼は一口飲んでから「売店で菓子を買いに来たんだよ。酒飲めないからな」と答えてくれた。

 年齢ってそうなると大して変わらないのかな。彼の派手目な外見でそう考察していると、「そういや、『エミリー』さんに島の案内してもらう約束したようだな」と言われた。


「まぁ解散気味の場所でその提案をすればすぐばれるでしょうね」

「あの後彼女暫くソファから動けなかったみたいだぞ」

「悪いことした気がしますね……」


 ようやく気分が持ち直したので本来の目的であるパンフレットを開いて情報の齟齬を拾う。

 向こうは思わずと言ったところで「情報収集か?」と訊いてきたので「事前情報との違いを確認しているんです」と正直に答える。


「なんでそんなことを?」

「やっぱり現地で確認しないと実際の移動に支障をきたしかねないですから」

「……マジか」


 僕の答えに彼は驚いた様子らしいけど、顔を上げていない僕からは窺えないのでそう予想しながら交通情報とか周辺マップを見ていく。

 ……まぁ細い路地を除けば大体合っているのかな。流石フェリアと言ったところなんだろうけど。

 確認が取れたのでパンフレットを畳んでいると、彼が「お前本当に年下かよ?」と呆れを多分に含ませて呟いた。


 上なんだ。それも、大して離れていなさそうかなこれだと。


「僕今年で十六ですよ」

「うげ、『エミリー』たちと同い年っていってたが、マジかよ。落ち着き方が同年代、下手したら同世代より落ち着いてるって」

「よく言われますけどね」そう言って肩を竦める。


 その反応を笑っていた彼が当初の目的を思い出したのか「ま、明日頑張れよ」とエールを送ってきたので明日起こりうる可能性を急いで浮かべた僕は「あ、ちょっとその件でお話があるんですけど」と彼に起こりうる可能性とその対処について話すと、顔を赤くしてから最終的に呆れながら了承してくれた。


 さ、僕も買い物してから風呂入って寝よう。


 姉さんが戻ってきたのは深夜。飲み過ぎたのかそのままベッドインしてしまった。

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