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誕生日会其の三

 所長と別れてから姉さんと一緒に歩いている。


 まぁ、小言貰ってるんだけど。


「あんた年相応って言葉理解してる?」

「大人の対応した方が丸く収まるでしょうに。外面良ければ勝手に身内の評価が上がるんだし」

「そんなこと気にするの、あんたぐらいよ。確実に面食らってるわよ」

「オーディションとかこんな言葉遣いで来るだろうに」

「はぁ。それにしてもどこかしらボロが出て来るものよ。あんたと違って」


 僕はボロを出してないといわれてるけど、どうなんだろう。厳しく見る人ならいいそうな気がする。


「で、どうするの?」

「もう夕食は良いかな。大人しくふらついてるよ。気配を消して」

「レミリアのところにはちゃんと顔を出しなさいよ。さっきの不意打ち擬きじゃなく」

「あまり話しかけられる対象になりたくないんだよなぁ」

「……ま、まだ始まったばかりだから頑張りなさい」


 そうエールを送ってくれた姉さんは、そのままホテルマンを捉まえてドリンクを受け取ってから女性が固まっている方に向かった。

 残された僕は皿とフォークをホテルマンに渡してから誰かに話しかけられる前に気配を消して会場内を歩き回ることにした。



 始まって一時間が経過した。その間僕は人ごみに紛れながら会場内を移動していた。

 誰にも話しかけられないことを目標にして動いて結果的にたどり着いた場所が最初にいたところと同じ。帰属意識があるというのだろうか。自分の家でもないのに。


 ひとまず誰も近づいてこないことを確認しながらひっそりと佇んで機会があったら話でもしようかなと受け身な考えをしていると、「慣れませんか?」と誰かが僕に近づきながら声をかけてきた。

 思わず視線を向ける。そこにいたのは落ち着いた雰囲気を身にまとい、好々爺と見間違う白髪が混じった男性だった。


 物好きだなぁと思いながら「初めてに近いので」と無難に返しておく。けれど、警戒はする。何せ現状気配は消しているはずなのだから。さっき話しかけられなかったのにってね。

 この人の目的は一体何だろうかと警戒していると「なるほど」と納得していた。


「君の気配の断ち方は二回目だから気が付けたのさ。とはいっても、分かる人なんてこの場にはいないだろうから安心していいと思うね」

「…………あなたはどうやら兼業(・・)してそうですね」


 ある程度ぼかしてついてみたところ、彼はぽかんとした表情をしてから左手で顔を押さえて俯いた。よく見ると肩が震えているので笑っているのだろうか。

 いくら俳優だからといって日常的に気配の消し方や探り方を研究しているわけじゃないだろう。だから兼業といって揺さぶってみたんだけど、これは正解とみていいのだろうか。


 そんな結論を確認せずに黙ってみていると、その人は顔を上げた。笑顔だけど、雰囲気は真剣そのもの。空気を切り替えたってことだろう。


「……池田君。恐れ入ったよ。まさか出会って数分もかからずに正体を当てるのだから。素直に称賛する。いかにも、私は君の友達の同業者だ」

「そうでしたか……」


 素直に思った。当たっててよかったと。

 表情に出さず胸をなでおろしていると、「ただまぁ、趣味が武芸な人間も世の中にいるから安易な決めつけは首を絞めてしまうぞ?」と忠告を受けた。


「ありがとうございます」

「ふむ。数少ない前情報通りの人物だな……まぁ君に話しかけたのは情報を集めるほかにも目的はあってね」

「なんでしょうか?」


 前情報が少ないって何だろう……。あまり関わり合いにならないから最低限の情報しか持ってないって意味かな? そんな結論に達しながら首を傾げると、「”彼”は元気かい?」と質問してきた。


「今週一日休んでましたね。理由は聞いていませんけど。それを除けばまぁ、いつも通りだったんじゃないでしょうか?」


 答えて疑問が浮かぶ。なんでそんな質問をしてきたのかと。

 そんな疑念に気付いていないだろう彼は、僕の答えに「そうか」と喜んでいたようだ。

 というか、自己紹介されてないから分からないんだけどこの人。一体誰なんだろう?


 黙って首を傾げて反応を見ていると気付いたのか、「自己紹介がまだだったね。私のタレント名は『カラス』。今の間だけはそう呼んでほしい」と名乗った。

 まるで今後も付き合いがありそうな言い方だなぁと勘繰りながら「私に何か御用でしょうか?」と質問したところ、「用件は特にないがね、折角来たのに楽しもうとしない若人が居たから話しかけただけさ」と言われた。


 ……周りを窺うと誰もテンションが高く、この場の雰囲気も高揚していると感じられる。

 って、冷静に考えている時点で彼女に悪いことをしているのだろうか。そもそも空気になっているなら良いも悪いもないのではないだろうか。

 ここら辺を考えているのがダメな点なんだろうなと再確認し(直ることはないと自覚している)、「主役より目立ったら意味ないじゃないですか」と漏らした。


「確かにそういう解釈もできるだろうけどね。そんなことを気にしてたらパーティに参加できないと思うね」


 御節介の戯言だと思ってもらって構わないよ。そういうと彼は僕のそばを離れ近くにいた男性に笑顔で話しかける。その間に僕は少し場所を移動しながら気配を周りに馴染ませる様に現す。

 本音を言うと目立ちたくない。僕の評価がどうなっているのか知らないけど、一人に見つかって話しかけられた場合、芋づる式に人が集まる。僕の精神上、それは避けたい。

 せめて転校生みたいな集団による質問の波状攻撃をされないことを祈ろうと思いながら、ホテルマンに飲み物を貰い(ノンアルコール)とりあえずレミリアさんにもう一度会うために移動することにした。




 見つけて近づいてみたら人に囲まれていたので大人しく引き下がることに。


『どうして話しかけないんですかご主人様?』


 状況が見えているわけではないだろうに的確な質問をフェリアがしてきたので、人ごみから抜け出してから呟く。


「彼女を独り占めするのは別に今じゃなくていいと思ったからね」

「ひゅ~! かっこいいセリフだね弟君!」


 茶化されたことに驚き反射的に声の主へ向く。彼女――『シューナ』さんが僕の肩を組んでいた。

 いつの間に……と内心で警戒度を上げていると「ねぇ弟君! レミちゃんについて訊きたいんだけど!」とフレンドリーに話しかけてきた。


 さてどこまで答えようかなと瞬時に回答範囲を絞り込もうとしていると、「――レミちゃんと、どこまで行ったの?」と耳打ちしてきた。


 ――――。


「どこまでって?」

「もう! 隠さずに言っていいんだよ!? キスとかした?」

「してませんけど?」

「あ、れ?」


 間髪入れずに答えたら彼女の動きが固まったと思ったら「ほ、本当に!?」と確認を取ってきた。


「そういうのは本人に訊けばいいんじゃないですか」


 なんで相手側に訊いてきたのだろうと思いながらもそう答えておく。

その返答と表情で理解したのか、彼女は肩を落とした。

今の内に離れようかなと少しずつ距離を取っていたところ、肩を抱き寄せられて顔を突き合わせるような形で密談が始まった。


「(どうして!? レミちゃんと一緒に暮らしてるのだからそれぐらいやるもんじゃないの!?)」

「(あの、ドラマや本の読み過ぎでは? そもそも一緒に住んでいるということは預けてくださった両親の信頼があるからで。さらに言うと、そんな発想今までありませんでしたけど)」

「え、え~?」


 聞くに堪えないのか自分から距離を取る彼女。というより、なぜそこまでして情事を訊ねてくるのだろうか。世間話のわりにハードすぎる気がするんだけど。

 深読みし過ぎる弊害かなと分析しながら黙っていると、おでこに手を当てて疲れた表情をしだした。


「……レミちゃんに訊いてもテンパるだけで答えにならないから聞いてみたけど、まさかの何もなしかぁ……」

「……弱みでも握りたいので?」


 首を傾げてその理由に言及する。我ながら酷い理由だと思うけど。

 流石に友達として最低なんだけどそんな理由なら。そんなことを考えていたところ、「そんなひどいこと考えるわけじゃん!」と否定が返ってきた。


「私はレミちゃんがどのくらい頑張っているのか訊いてるだけなんだから!!」

「……最近家事は率先してくれてますよ。洗濯物は」

「いや、そういうことじゃないんだよ……」


 どれだけ人のゴシップに執着するんだろうかこの人は。彼女が欲しい情報を読み取れたので少しげんなりする。そして嫌な可能性に思い至ったので頭を抱えたくなる。

 もうこの話題を終わらせてとっとと離れよう。そう決意してぶつぶつ言ってる彼女から何も言わずに気配を消して、黙ってその場から離れることにした。


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