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誕生日会其の二

 レミリアさんを介抱してもらうために別室にお姫様抱っこで運んで戻ってきたら視線の筵だった。予想が出来ていた事なので大して気になることはなく、おなかが空いたので適当に料理をつまもうかと皿とフォークを取ってテーブルに向かったところ、「いきなり空気持ってくとはね」と言いながら飲みかけのコップを目の前に出されたので受け取ってから「レミリアさんには悪いことしたよ」と呟く。


 それを聞いた姉さんは「あの子もだいぶ強い方なんだけどね」と呟いてから「畳みかけたのが原因だろうね」と反省するように呟いた。

 飲み物を少し飲んでから「取り敢えず何か食べさせてよ」と言っておく。


「……分かったわ。その皿貸しなさい」

「なんで?」

「あんたが突っ込むと食べれないわよ」


僕を残しても結果が変わらない気がするんだけど。素直にそう思いながら大人しく皿とフォークを姉さんに渡す。


「お願い」

「そこで待ってなさい。気配を消さずに」


 警戒されてるなぁと思いながらホテルマンが近づいてきたので飲み干してそのまま渡す。

 彼は素直に受け取り「お代わりはどうですか?」と訊いてきたので「大丈夫です」と断っておく。流石に立ち食いでコップを持ったままはきついし。

 とりあえずレミリアさんより先にお偉いさんへ挨拶をすることになりそうかな。ホテルマンを見送ってから行動の指針を思い浮かべていると、「レミちゃんが失神するなんて初めて見たよ」と明るい声が聞こえた。


 話題から察するに僕に向けられているんだろうなと思いながら声がした方に体を向ける。後ろの方から一瞬悪意のある視線を感じたけど無視。

 そこにいたのはさっきレミリアさんと一緒にいた二人の女性。多分レミリアさんの友達だろう。年齢は大して変わらないと思う。


 片方は身長が僕より少し低い。地毛かどうかわからないけど茶髪の短いポニーテール。体形は努力してるのか標準ぐらいで胸の方はレミリアさんよりあるんじゃないだろうか。多分、彼女が声をかけてきたんだろう。

 もう一人が僕より少し背が高い。黒髪でショートなのは役柄の影響なのか元々がそうなのか分からない。体形はほっそりとしていて、胸もつつましいのではないだろうか。黙っているというか、真顔というか。ともかく表情の変化が少ない人のようだ。圭みたい。


 一通り外見の観察が終わったので話しかけてみる。


「初めまして。お話は姉さんや『エミリー』さんから聞いていると思いますけど、」

「『凪』さんの弟君でしょ? よく聞いているよ~」


 ……名乗らせなかったのはどこで誰が情報を得るか分からないパーティだからかな? あとは部外者だからか。まぁ多分向こうは名前を知っているだろうけど。


「あの、失礼ですがタレント名を教えていただけませんか?」


 全然知らないのでとりあえず訊いてみる。すると「レミちゃんから聞いてないの?」って驚かれたので「プライベートの話は一切といっていいほどしませんので」と返しながら、人に興味を持たない弊害だなぁこれもと思う。多分変わらないと思うけど。


「そうなんだぁ。それなら自己紹介しよう! 私は『シューナ』で、こっちが『紗里奈』!」

「自分で出来たんだけど……よろしく」

「あ、はいよろしくお願いします」


 言ってお辞儀をする。

 頭を上げてから何か言われる前に「何か用ですか?」と用件を聞いてみる。

 すると僕の態度があっさりし過ぎているせいか、『シューナ』さんは首を傾げた。


「あれ、それだけ?」

「テレビを全くといっていいほど観ていないので誰も知らないのです」

「えぇー!? 広告とか雑誌に載っていたりするんだけど、知らないの?」

「広告なんて新聞読まないので見ませんし、雑誌なんて買わないので」

「…………はぁ~」


 悉く否定したら彼女は息を吐いて肩を落とした。どうやら自分が有名人である事をステータスとしているのかもしれない。でも認知度百パーセントなんて人いるんだろうか。芸能人やミュージシャンの名前なんて覚えてなくても生きていけるのに。


「残念だったね、『シューナ』」

「『紗里奈』だって知られていないってことなんだけど~? 悔しくないの?」


 その問いかけに『紗里奈』さんは「私は自惚れていないから」と冷たく返す。歯に衣着せぬ物言いで、普通だったら喧嘩になるだろうに、友達だからか「これでも頑張っているんだけどなぁ」とぼやいた。

 姉さん来ないかなと視線を外すと、「ちょ、ちょっと興味なくすの早くない弟君?」と再び僕に話が回ってきたので元々個人情報に興味がないのでという言葉を飲み込んで「姉さんが料理を取りに行ってくれているので」と返す。


 そんな時に、再び入り口付近が騒がしくなった。どうやらレミリアさんが復活したようだ。


「『エミリー』さん戻ってきたみたいですね」

「え、そう?」

「恐らくは。入り口付近がざわついているようなので」


 その言葉に『シューナ』さんが入口へ視線を向けたと同時に、マイクを通してレミリアさんが『先ほどは申し訳ございません。折角のパーティに水を差すようなことをしてしまい』と謝罪していた。


『改めまして。本日は私の為にこのようなパーティを催していただき有難うございます。まさかドラマの共演者の方々と事務所の皆様にこうしてお祝いしていただけるとは思いもしませんでした……と、挨拶はこれぐらいにしますね。皆様、ありがとうございます!』


 その言葉に会場中が拍手をするので倣って拍手をする。『シューナ』さんもやっているんだけど、僕に近づいてきて「よく気付いたね~」と感心していた。


「周囲の方に注意がいっているもので」

「なるほどねぇ……それにしても弟君さ、レミちゃんの事どう思っているのー?」

「友達。それが一番当てはまると思っていますよ」

「何とも固い表現するねー……珍しいよ」

「でしょうね」


 と、姉さんが皿に肉料理ばかりを載せてこちらに来たので流石に飽きると思うんだけどと思いながら、「お二人も食べに行ったらどうですか?」と促す。時間が惜しいし。

 そんな僕の思惑に乗ってくれたかどうかは神のみぞ知るだけど、「そうだね! またね、弟君!!」と『シューナ』さんが離れていき、『紗里奈』さんも「そうね」と呟いてどこかへ行った。


 その二人が消えたと同時に姉さんが来て「はい」と皿とフォークを渡してきた。

 礼を言って受け取ってから黙って食べ始めたところ、「あの二人と何話してたのよ?」といわれたので「自己紹介ぐらいだよ」と答える。


「というか、肉料理しか並んでなかったの?」

「良いじゃない。若いんだから」

「偏食はあまりしないから何とも」


 そう言いながら、ロボットが調理しただろう料理を食べる。素直な感想として美味い不味いのどちらともいえない数々だ。コストからしたら大量発注することができる強みはあるんだろうけど、素直に食事と考えるとあまり受け付けない。自分で料理をし続けた弊害だろうか。


 同じように楽しめないというのは明るみになったら面倒だなぁと思いながら食べていると、「レミリアのところ先に行くの?」と訊いてきたので「まずは事務所の偉い人だよ」と返す。


「別に彼女の方は連絡してもいいし、話す機会なんていくらでも作れるでしょ。そっちより姉さんが世話になっている人の方に挨拶に行くのが自然だと思うけど? 僕達一度もあったことないんだから」

「……あんたに参加者の話してないと思うんだけど、なんでいると考えたのかしら?」

「有志で開くには規模が大きすぎると考えたから」

「……」


 姉さんは閉口したらしい。食べ終えた僕はこれ以上何か料理を食べる気がしないけど一応持っておくことにして、固まっている姉さんに「ほら行こうよ」と促した。



 姉さんと共に所属事務所の所長の処へ向かう。その間姉さんは声をかけてきた相手に軽く返事をするぐらいには大人な対応をしていた。僕はただ後をついているだけ。

 みんなそれなりに名声がある人たちなんだろう。僕からしたら興味がないの一言に尽きるのでその名声を知る由はないけれど。


 圭辺りなら裏情報含めて記憶してそうだなぁとぼんやり思っていたところ、「ああ所長」と姉さんが声をかけたのを聞いて視線を向ける。


「ああ『凪』君……彼が弟君かい?」

「はい」


 ワイングラスを片手に人の好さそうな表情で確認をしてきた小太りの人がそうなのかと認識してから、姉さんに小突かれる前に自己紹介と挨拶をすることにした。


「初めまして。姉からご紹介にあずかりました弟の池田連です。いつも姉がお世話になっております。今後とも御社の発展を希います」


 とりあえずマナーとして一礼。

 頭を上げて反応を窺ってみたところ、呆気に取られていた。姉さんも、周りで談笑していた人たちも。


 一応爺ちゃんたちの教育の関係でこれぐらいで来て当然だから姉さんが驚くのがおかしいんだけどなぁと真顔で思っていると、我に返ったのか「ああ、ご丁寧にありがとうね。私は君の地元にできた事務所の所長だよ。『凪』君や『エミリー』君から話に訊いていたけど、相当しっかりしてるみたいだ」と言葉を返してきた。


 僕の若い頃よりだいぶしっかりしてるよなんて言葉を聞き流しながら、当初の目的は達せられたけどどうしたものかなぁと悩む。

 会話を続けたとしても僕にメリットはない。事務的な会話をするためだけに近寄っただけだし……ってところがダメなんだろうなぁ。

 と、此処であることを思い出したので「そういえば」と会話を続ける。


「『エミリー』さんに遊園地のチケット渡しませんでしたか?」

「ん? ああ、あれか。とったはいいけど使い道がなかったから確かにあげたよ……それが?」

「そのおかげで楽しい思い出が出来ました。ありがとうございます」


 そういってお辞儀をする。彼は瞬きをしてから理由を把握したのか「なるほどねぇ」と呟いてから「いやぁ僕の方もお礼を言わないとと思ってたんだよ」と続けてきた。


「四月の件ですか?」


 間髪入れずに問いかけたら「……まぁ、それもあるけど」と苦笑いを浮かべながら答えてくれた。


「君が『エミリー』君の同居や『凪』君の帰郷に寛容なおかげで、彼女達が向こうにいた時以上に活躍出来ているんだ。それに関して会社の代表としてお礼を言いたいんだよ」


 別に寛容なわけではなく、姉さんが強制的に決めたことです。美談になってそうなので否定したかったけど、わざわざ否定して空気を壊すのも姉さんがいる手前どうかなと思い直して「どういたしまして」と返した。


 それから少し雑談して別れたけど、やっぱり話題の先読みに困惑された。逆に話しづらいのかな、辞める気はないけど。

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