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誕生日会(レミリアさん)

はい、誕生日会の始まりです

 揺さぶられて目を覚ましたら姉さんがドレスを着ていた。

 目を擦りながら時計を確認したところ、五時を少し回っていた。


「……着替えないとね」

「あっさり自分で結論出せるあたり、あんたもだいぶ似てきたんじゃない?」

「近づいてるのは良いことなんだろうけど、素直に喜べないのは何でだろうね」


 首を回しながら返事をした僕は立ち上がり、持ってきた荷物の中からスーツというより着替えを入れたバックをベッドに置いてスーツを取り出す。


 取り敢えずシワがないことを確認してから着替える。

 ズボン、革靴、ワイシャツ、ジャケット、ネクタイと戸惑うことなく着替え鏡を見ながらネクタイの位置を調整しているところ、姉さんが呆れた声で「いくら身内だからって、恥じらいはないの?」と言ってきたので「身内だからないんでしょうに。姉さんだって家だと薄着でうろついてるじゃん」と言い返す。


「それとホテル内じゃ違うでしょ」

「でも姉さんだって僕が寝ている間に着替えたんでしょうに。人の事あんまり言える立場じゃないと思うけど……って、やめようか。不毛すぎるし」

「……そうね。にしても、買った私が言うのもなんだけど、似合い過ぎてるわね」

「ありがと。着られているわけじゃないからほっとするね」

「それは高校生が抱く感想じゃないと思うわよ」


 そうかなと思いながら革靴の爪先で床を叩いてから「じゃ、行こうか」とプレゼントの箱を持って待っていた姉さんに言った。


 会場は僕達が泊まっていた階の下。六階の食事ができる場所を貸し切ってやるらしい。まぁ八階に泊まっているから少し遠く感じるんだけど。


「そういえば姉さんは何にしたの?」

「ん? 化粧品」

「被らないことを祈ろうね」

「消耗品は被っても喜ばれるものよ」


 一応使用期限はあるはずなんだけどなんて思いながら六階についた僕達は、人の集まり具合で分かるパーティ会場にそのまま歩みだす。

 で。

 姉さんの後ろをついていく形で近づいた感想はというと。


「やっぱり場違いじゃない?」

「堂々としてればいいじゃない。それに、溶け込みさえすれば何も言われないわよ」


 要するに空気になれということかな。まぁその方が実際楽だからいいけど。

 果たして上手くいくかなと思いながら受付に到着。


「あ、凪さん! そちらが弟さんですか?」

「そうよ」

「カッコよく決まってますね! あ、プレゼントはこちらで預かりってますので」

「はい……ほらあんたも」

「少々大きいので苦労をおかけしますが、こちらです」


 自己紹介をそのまま流して姉さんに倣いプレゼントを渡したところ、やはり大きいことが災いしてか、受付の人が驚いていた。

 そりゃそうだろうと同情しながら引き渡した僕は、そのまま会場に入った。



 人が多い。

 当たり前だと肯定できるその安直な感想が真っ先に頭に浮かぶ。

 本格的なパーティなんて子供の頃を除けば二度目。相変わらず常識の欠けている自分の想像力のなさが露呈する結果となった。


 ……でもまぁ。裏を返せば見つけにくいというわけでもあるし。久し振りに気配の消し方を復習する場にはもってこいかも。

 ポジティブに考え直した僕は、きっと有名人ばかりなんだろうけど興味がなかったので静かに姉さんから離れ人ごみに紛れた。



『そろそろ始まりますよ、ご主人様』


フェリアが時間になったことを教えてくれる。その間僕は、誰もが集団となって会話しているこの空間の壁際に一人佇んでいた。

 料理はつい先ほど運ばれたが、主役が来ないと手を付けないのか誰も気にする様子はない。逆に飲み物は大体の人が手に持っている。


 誰もが誰かと談笑している。同業者だからという仲間意識がそれを可能としているんだろう。

 そう考察しながら、舞台となっている此処のホテルマンたちはせわしなく働いているのを見る。思わず手伝いたくなる位には右往左往しているようなのでこの際やろうかなと考えながらも、角の不自然に空いている場所で動かない。


まぁ、飲み物を取りに行くぐらいなら違和感を持たれないのだろうけど、動いて露見するのもどうかなぁとぼんやり考えているとアナウンスが響いた。


『お待たせしました! これより本日の主役であるエミリーさんの登場です!!』


 ライトが一斉に消え、入り口のみ再点灯した。入口とは反対方向にいるので遠くから見えるだけだけど。

 体の向きがみんな入口へ向く。その間にと僕は一人お酒を配膳していないホテルマンへ向かう。

 僕の接近に気付いていないようなので黙ってコップを一杯お盆からとり、そのまま離れる。

 完全にスリ。会場が湧いているけどそんなことお構いなしの自分に苦笑する。

 一応口をつける前に匂いをかいで確認する。ただのオレンジジュースのようで良かった。


『ここまで来たのに同調しないのですか』

『姉さん経由でバレれば自然と行くよ。それまではこの無関心ゆえの空間に浸らせて』

『時折出て来るその詩人のような言葉はどこから出て来るので?』

『どこだろうね』


 シルフの話を切ってからオレンジジュースを飲む。その間におめでとうの言葉や拍手、レミリアさんの返礼などがあったけど、集団に関わらずにいる僕は冷静に観察しているだけ。

 ……って、そういえば姉さんと挨拶しないといけない人いたじゃん。先にやっておけばよかった。

 少しずつ飲みながら思い出したので思わずうなだれる。しまったなぁ、これ。


 と、そんな時にフェリアが『渚さんからメールですよご主人様』と言ってきたので「内容教えて?」とインカム越しで伝える。


『えっと、『急いで来い。中央にいる』だそうです』

「分かったよ。メールには返信しなくていいからね」

『分かりました!』


 先に挨拶できるのは偉い人かそれとも本日の主役どっちだろうか。なんて考えながら、人ごみの中に紛れて中央に向かった。



 人ごみから抜け出したらレミリアさんと姉さん、そしておそらくレミリアさんの友達二人がいた。彼女たちを囲うように人混みが出来ていたようだ。僕が抜けてきたのは男性の方が多かったけど、女性の方が比率が多いらしいこの会場は。当たり前か。


 と、気配を消して近づいてきた弊害なのか気づかれる様子がない。シルフ達が何かやっているわけでもないはずで、僕一人の技術で成立しているはずなのに。

 声かけて挨拶するのが普通か。なんで姉さんにも気づかれていないのだろうかと思いながら息を吐いてから「来たよ姉さん」と左手を上げて声をかける。


「ったく、あんたさっきまでどこにいたの?」

「部屋の隅。というか人混みかき分けてきたのにすぐ気づかないってどうなの?」

「……どのくらいいたのよ?」

「一分ぐらい?」

『正確には五十秒ぐらいですよご主人様!』


 僕の適当な答えにフェリアが反論したのを流していたところ、姉さんが信じられないようなものを見る目で僕を見てきた。

 なんでそんな反応されるのか分からない僕が肩を竦めてレミリアさんの方を見ると、顔を真っ赤にして固まっていた。脇にいる二人はその反応が新鮮なのかニヤニヤしている。


 仕方がないので声をかける。


「レミリアさん?」

「!? な、レ、ほ!?」

「だから言っただろう『エミリー』。ちゃんと連れてきているって……登場の仕方は私も予想外だけどね」


 レミリアさんの様子に呆れているのかそれとも僕に呆れているのか分からない口調で話してから目線を向けてきた。その目には「ちゃんと祝え」と言われている気がしたのでなぜか固まっている彼女に近づき、「誕生日おめでとう、レミリアさん」と笑顔で伝えた。


 何の工夫もないただの祝辞のはずなのに、彼女はそのまま後ろに倒れ込んでしまったので反射的に支えることに。

 周囲が驚いているようだけど、この後の進行大丈夫なんだろうかと少し心配になった。

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