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サボったツケがここにきてッて感じですねお久し振りです。

 荷物を下に持ってきて読書を始めてすぐに時計を見た姉さんが慌てて飛び起きて二階へ向かった。

 一ページも進んでないけど時間を悟った僕は、持っていくカバンに本を入れてから腕を天井に伸ばした。


 それから30分ほどテレビを見ながら最近この地域を騒がせている事件の進展を冷めた目で見ていたところで息を切らした姉さんが降りてきたので、テレビを消してから荷物を持って「このまま行く?」と訊いてみる。


「ちょ、ちょっと待って……」

「あっそう」


 まぁ時間に余裕はまだあるからいいけど……息を整えるなら歩きながらでも良いような気がするんだよなぁ。

 テレビを消しながらそう考えていた僕は、それでも言うことはせずに黙って台所の方へ向かいコップに水を入れて姉さんに渡す。


「焦り過ぎだよ全く」

「う……すまないわね」


 そう言ってから渡したコップの水を一気に飲む。そうして飲み干したコップを自分で持っていき洗い出す。

 そして水気をきって布巾で拭いてから片付け、息を吐いてから「悪かったわね、行くわよ」と言ってきたのでお昼どうするんだろうかと思いながら「うん」と頷いた。



 昼、駅弁。


 列車の中、隣同士で食べながら世間話をする。


「世界が違うところに行くって気が進まないなぁ」

「そのうち知り合うことになるだろうから誤差よ、誤差」

「連れて来るのは勝手だけど、良識のある範囲で連れてきてね? それでも僕は逃げるけど」

「あの二人みたいなことするわけないでしょ。というか、逃げるな」

「なんでさ。姉さんがもてなしなよ。僕関係ないよ」

「私の実家の他にあんたを見たいって言ってるのよ」


 見世物じゃないんだけどなぁと思いながら弁当を食べ続けていると、「それに、会社の人に会わせて挨拶しないと」って付け足す。


「保護者は僕じゃないし、マネージャーさんと連絡とり合っているから、たまに」

「……は?」


 姉さんの箸が止まる。

 ひょっとして彼女から話を聞いていないのだろうかと思いながら「四月に昏睡状態で入院している間に姉さんとレミリアさんのマネージャーと連絡先を交換したんだよ……知らなかったの?」と肩を竦める。


てっきり知ってると思っていたんだけど。その文章を言わずに弁当を食べ続けていると、「ちょっと待ちなさい」と眉間にシワを寄せていた。


「どうしたのさ」

「さらっといわれりゃ、こんな反応にもなるわよ……」


 其の後に一人でぶつぶつと呟きだした。刺激したくないのでそのまま弁当を食べ終えて片付ける。そして自分の隣の席に置いてある箱を見てやっぱり大きいなぁと反省する。

 明らかに作り過ぎに分類されるこれを、彼女はきっと苦笑いを浮かべながら受け取ってくれるだろう。何となくそう断定できる。


 なんと注釈を入れればいいのだろうとぼんやり考えていると、「あんた、最近どんなやり取りしたの?」と質問されたのでメールの内容を思い返しながら「主に姉さんの体調とか。あとはマネージャーさんの個人的な悩みとか」と端的に答える。


「……はぁ。何やってるのよ、あの子は」

「仕事やってるんでしょうに。姉さんに直接聞かない理由は聞いてないけどさ」


 そうフォローを入れたらこちらにジト目を向けながら「あんたも律義に答えてるじゃない、まったく」と言われたので肩を竦める。

 答えた、と言っても僕は道しるべとなるものをその相談で返答したわけじゃない。せいぜい姉さんを観察できる範囲内での状態を話しているだけだ。個人的な悩みに関しては適当に相槌打ちながら考え方を変えるように促しているだけ。


 僕が言葉を切ったら姉さんも黙った。そして自分が弁当を食べている途中だったことを思い出したのか、止めていた食事を再開する。


『ご主人様ご主人様。どうしてメールを完全に削除したんですか?』


 タイミングを見計らっていたのか、この沈黙のタイミングでイヤホンから声が聞こえた。でも隣に姉さんがいるし、周りにも少なからず人がいるので黙って携帯電話を取り出してメモ帳に「前にも言ったと思うんだけど」と前置きするように書いてから説明する。


『携帯電話のメモリ内からなくなっていれば余計な詮索されて君が見つかるなんて可能性がなくなるの。他人に見つかったら面倒でしょ?』


 その説明文を頷きながら読んでいたフェリアは思い出したように『そうでした。これは前に訊きました』と申し訳なさそうに謝罪してきた。

 やっぱり説明したよなと思いながらポケットに携帯電話を入れてから、フェリアが扱っている正体を推測する。


 彼女はおそらくデータを操れるのだろう。復元できないように、なんて人間が作ったプログラムでは厳しい条件をあっさりとクリアするぐらいだから。ただその分、バッテリーの減りが早い。彼女が入ったことでバッテリーの充電を毎日やらないといけないのだから。

 ファーストコンタクトの壁の正体はフェリアだというのは間違いない。0と1の集合体なんて、シルフは関係ないし。

 現実にも干渉できるというのは見方を変えれば頼もしいかなと思いながら、姉さんの質問を適当にあしらってから残りの時間で本を読むことにした。



 午後三時。島に到着した。


 駅弁をゴミ箱に入れてから姉さんが予約した兼パーティ会場となるホテルへ直行。案内板に場所が記されていたのでちらっと見て記憶してから急いで移動。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

「サプライズにしたいならさっさと部屋に籠ろうよ。時間がかかるほど勘付かれる可能性が高まるんだからね」

「場所ぐらい」

「姉さんが改札出て来るまでに覚えたから。分かりやすい場所だし」

「……」


 質問が飛んでこないのでそこまで衝撃的なことを言ったわけじゃないだよなぁと思いながら周囲に気を配りつつホテルへ移動した。


 ホテルは見上げたら首が痛くなりそうなぐらい高かった。20階、いや30階だっけ確か。


 ヒューマニーステーションよりは低いけど、ホテルってどこも高いのが普通なんだろうかと疑問に思いながら、レミリアさんらしき姿が見えないことを確認して中に入った。


 何とかついてきた姉さんがそのままチェックインし、部屋の鍵を受け取って移動する。その間も周囲の警戒をさりげなく行う。

 なんでスパイみたいなことをしているんだろうと思いながら、実際こんなことしたら怪しまれること確実なのでスパイの人も大変だなぁと同情する。


 エレベーターに乗っている間、姉さんが僕を見て呆れていた。


「なんで挙動不審になってるのよ? レミリアはまだ来てないわよ」

「撮影が早く終わってくる可能性とかあるじゃん」

「そこらはうまいことやってるでしょ、向こうが。それに、レミリアのマネージャーからまだホテルに向かっていませんってメール来てるし」

「あ、そうなんだ」


 姉さんの携帯を見せてもらい納得したので息を吐いて緊張を解く。


「ところで何時からだっけ?」

「六時」

「レミリアさんがホテルに到着するのはその三十分前?」

「そうね。懇親会と言われてくるはずだからドレスとかの着替えを考えるとそのぐらいが妥当ね」

「僕達の会場入りは?」

「十五分前でいいでしょ。早く行ってもやることないし」

「なら目下の問題は時間を潰すだけだね……」

「そうなるかしら……?」


 チン、とエレベーターが到着する音が鳴る。

 どうやら自分達が泊まる部屋の階に到着したらしい。

 とりあえず近くの部屋がレミリアさんの泊まる部屋じゃないといいなと思った。



 部屋の構造はシングルベッドが二つ部屋の殆どを占領している感じ。かろうじて化粧台となるテーブルと椅子、テレビや冷蔵庫が設置されているけど、いかんせん狭いのでその機能を十分に発揮できるのか不思議。

 風呂とトイレが一緒になっていて、申し訳程度にカーテンによる仕切りが存在する。一応、浴場があるらしいのでそちらを使うのも選択肢に入る。


 とりあえず自分の荷物を奥のベッドの近くに置いてから座り、「ところでさ、姉さん」と話しかける。


「何?」

「とりあえず偉い人に挨拶したら自由行動でいいの?」

「…………会場からあまり出なければいいわよ」

「了解。ほぼ部外者だから大人しくするよ」

「レミリアと会話ぐらいはしなさいよ」

「は~い」


 移動の疲れからか欠伸が漏れたので、仮眠しようと思いそのままベッドで寝た。

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