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事後処理

 集団洗脳の恐ろしさを感じたあの日――入学式の日から11日が経過した。


 事態は8日目の抗争紛いにより収束。犯人は自分が不利だと理解するや否や脇目もふらずに逃げたらしい。取り逃がしたくはなかったと元が悔しそうにつぶやいていたけど、ボロボロにまで追い込めたんだからすごいと思う。僕のところにはなにも来なかったしね。


 で、僕には何が起こったのか分からないけど、洗脳された人たちがその日同時に失神したらしい。全員搬送され、終わったと気を抜いて電源を付けたら電話が鳴りやまなくて本当に焦った。


 ――この件は能力者の暴走、ということで片付くそうだ。僕にも箝口令が敷かれた。そして恐らく事件の真実をひた隠しにして真実味のある嘘で世界を騙すのだろう。学校のダメージも少ないけれど、しばらく学校自体が休校になることが決定したらしい。僕達4日目から学校行ってないからどうでも良かったけど。


 で、収束して3日。姉さん達はまだ目を覚ましていない。庄一も、レミリアさんも、久美さんも、レイジニアさんも、洗脳の『被害者』たちが。


 だから僕は姉さん達が入院している病院に来ている。


 別に毎日来る必要もない。ただ、自分の目でいつ起きるのか確かめるには来るのが手っ取り早いだけ。


 ……まぁ目を覚まさないから脈を測っている機械と姉さん達を交互に見てから部屋を出るだけなんだけど。


「あ、『凪』の弟さん」

「あ、マネージャーさん。お見舞いですか」


 久し振りに家に帰ってからため息をつくだけじゃすまない状態になっていたので、それを片付けつつお見舞いに向かったところ姉さんのマネージャーと遭遇した。どうやら見舞いに来ていたらしい。


 ああ、姉さんが倒れた時についていてくれた人が彼女。僕が慌てて病院に来た時に状況を説明してくれた人だ。かなり焦っていたので落ち着かせて、だけどね。あと父さんたちの上司やレミリアさんのマネージャーとも知り合った。父さんたちの上司は昔会ったことがあるから久し振りからの軽い状況説明だけで済んだけど、マネージャーさん達とは初対面なので僕に説明する時要領を得なかったから。


 で、まぁ姉さん達が意識を取り戻したら連絡するということで連絡先を交換した。昨日は来たかどうか知らないけど、よほど心配されているんだなと思った。商品価値とか。


「まだ寝ているわ」

「ありがとうございます。お仕事頑張ってください」

「ええ……『凪』の言った通りの子ね」

「姉さんから、何か?」


 僕は仕事先の姉さん達のことは知らない。そもそも勝手に飛び出した先のことすら知らないのだから当然だろうけど、僕自身興味がなかったため向こうも話してこなかったのだろうと勝手に想像する。あまり興味が持てないのは事実だけど。


「『私以上に立派になっていた』って。彼女ったらこっちに来てからずっとそればっかり。向こうじゃそんなに自分の事話さなかったけど、やっぱり地元ってすごいわね」

「……そうなんですか。まぁ向こうで苦労した甲斐があったのではないでしょうか? 今じゃ売れっ子ですからね」

「そうね。ここ最近元気なかったみたいだけど……まさか暴走に巻き込まれていただなんてね……気付かなかったわ」

「まぁ日常生活に支障が出ない範囲だったので気付きにくかったでしょう……ところでお仕事の方は?」

「あ、そうね。少し話し込んじゃったわ。またお見舞いに来るから」

「お願いします」


 姉さんのマネージャーが駆け足で消えたので、僕は部屋にノックもせずにはいる。

 本当は個室だったのだけど、人数過多のせいで家族は家族として押し込まれた。だからこの部屋には姉さんの他に父さんたちのベッドもある。若干狭い。レミリアさんは当然個室。向こうには連絡してきてもらったレミリアさんのお父さんたちがいる。


 部屋に入った僕は脈が正常なのを確認して死んだように眠っているのか瞼を開けない家族の顔を見ながら「何やってんだよ父さんたちは……」とげんなりする。


 原因は帰宅してからだ。


 物は散乱。これはいい。


 食器は使ったのが多少放置されている。まぁ予想はできていた。


 変なものが置いてある。まぁ覚悟はしていた。ここまでは良い。予想の範囲内だから。


 だけど風呂場がものすごく汚くて、洗濯物が放置されていることには驚きを隠せなかった。おまけに姉さんの部屋も汚い状態に戻っていたし。


 姉さん本当に独り暮らし出来ていたの……? なんて疑問に思う状態にげんなりしながらお見舞いに行ってから風呂場を掃除して洗濯物を数回に分けて行った。これが終わった次の日。当日は自分の部屋がきれいに保たれていたことに安堵して床で寝てた。


 で、次の日に食器や調理器具を片付けて部屋の掃除をして……って一人大掃除(年末恒例行事)をしていたところ、姉さんの通帳を見つけた。これがさらに衝撃的なものだった。


 結構貯金出来てると思ったら、僕がいなくなった次の日に半分ぐらい引き落としているのだ。


 一体何に使ったのかと頭を抱えながら驚きを処理して掃除をしたけど、気になってしまったのでとりあえずメモする。

 そして冷蔵庫の中身がないので買い物するついでに商店街の人達にそれとなく姉さんが最近来たかどうかについて聞いたところ、次のことが分かった。


 どうやら姉さんは父さんたちにせがまれて生活費を下したらしい。あと、多分僕のせいで姉さんがやけ酒したことも原因らしい。言ったのは悪かったと思うけど、向こうの方が悪い自覚ないのかなと思ったり。


 で、今日は家の口座から引き落とされた分のお金を姉さんの口座に代理で入金して元に戻してから見舞いに来た。流石に結婚資金にでもなるのだから可哀想だし。まぁそうなる原因作ったの僕なんだろうけど。


 というより入院費の支払いどうしよう。一括で良いかな。その方が面倒も少ない気がするし、父さん達の会社の方から見舞い金貰ったし。あ、でも保険に入ってるんだった。姉さん知らないけど。帰ったら保険の資料確認して担当者の人と話しないと。


 様々なことに対する考えをまとめながら椅子に座り家族を眺めていると、ドアがノックされたので「どうぞ」と返事をする。


「やぁ連君」

「お久し振りです。いつも娘がお世話になっています」

「あ、すいません」


 僕は慌てて立ち上がり彼ら――ジャンヌ夫妻に頭を下げる。

 その行動を見たお父さんの方――エリーテルさんが慌てた様子で「い、いやそこまで気を遣わなくていい」とがっしりした体格とは裏腹の返事をしてくれたので、頭を上げてから「このようなことになってしまい、申し訳ございません」と再び頭を下げた。


「…………」

「……君が頭を下げる必要は、ないんだぞ」

「それでも、です。一緒にいたのですから。早めにお二人に連絡した方が良かったと今にして思います」


 まっすぐに視線を向けてそう答える。終わったとで後悔は出てくるものだ。今回も今言ったようなことが挙げられる。まぁ言ったら僕が「何言ってるんだ」状態になっていたろうけど。


「そこまで自分を責めなくてもいいんですよ、連君」


 二十代と言われても信じる肌のツヤや若さを醸し出しているお母さん――リーナさんが僕のことを心配してくれるのかそう言ってくれた。その言葉は一応、心の内に留まった。

 僕は目を瞑って少し考えてから、「そういえば、どのようなご用件でしょうか?」と首を傾げる。


「いや、私達に連絡してくれた君の家族が気になってね」

「私はそれを見守っているであろう連君のことが」

「母さん!」


 本音駄々洩れのリーナさんに僕が苦笑すると一喝したエリーテルさんが咳払いして「まぁ大丈夫そうで何よりだ」と呟いたので、僕は自分の中で固めていた本題を二人に話すことにした。


「リーナさん、エリーテルさん」

「はい?」「なんだ?」



「彼女を連れ戻す(・・・・)のであれば、僕は引き止めませんよ」


「「……」」


 二人は、閉口した。

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