誕生日当日
もうすぐ八十話。
で、何とか間に合わせることが出来てレミリアさんの誕生日会当日を迎えることができた。前日まで量産したうえで箱やラッピングやってたから間に合うか不安だったけど。
「で、あんたはいつも通りに起きるのね」
「両親が仕事だからというのもあるけど、体が覚えちゃったから仕方ないね」
七時ごろ起きてきた姉さんが言ってきたので軽く返す。
出発時間は昼頃だそうで、夕方にパーティを行いそのまま泊りという流れ……というのが姉さんが言っていたプラン。
泊りの部分に反対したけど姉さんが色々言ってきたので諦めることにした。
「心配し過ぎでしょ流石に。たった一泊二日よ?」
「その一泊二日すらも不安にさせるのが現状の両親なんだけど」
「たまには信用しなさいよ。私達が生まれる前までは互いに生活できていたでしょうし」
「……訊いてみる?」
「…………」
誰に、何をというのは想像できていたようで渋い表情をする。朝食を食べ終えてのんびりしている僕は、「あまり知っても得しないし、いっか」と流す。
「そうよ。藪を突いて蛇を出す必要ないわよ」
「電話してカウンター食らいたくないだけでしょ」
「……なんであんたはそう一言余計なのかしら」
「身内に容赦しないからでしょ」
姉さんの恨み言を適当に返してから予定の詳細を思い返す。
えっと、撮影の現場となっている地域の出演者が宿泊しているホテルが会場で……ご両親は不参加。メッセージ自体は送ってくるという話だっけ。
先に主役以外集合しておき、大々的に祝う準備をして迎えると。
僕以外はその間に情報交換や親睦を深めるという重要なことがある、と。
そこからの流れは去年経験したパーティと変わらないとのこと。何人かのプレゼントがその場で開けられるとか言ってた気もする。これに関しては嫌な予感しかしない。
絶対笑いものになるなぁと思いながらも、今更プレゼントの中身を変える気にならないし、此処までやってきたのにもったいない。折角箱まで作って包装したのに。
しかし我ながらよくやったよと感心しながら、弊害で最近頻発する欠伸。
その姿を見た姉さんは食事の手を止めてから「だったら今日ぐらいゆっくり寝ていればよかったじゃない」とため息交じりに言ってきたので「そんな器用なこと出来ないよ」と肩を竦める。
寝坊することはめっきり減った。小学生の頃はそれなりにあったけどね。
それはつまり、体が慣れてしまったということ。経験が体に刻み込まれ、体内時計が脳に信号を送り、いつも起きている時間に意識が覚醒してしまう。まぁどういう感じで起床時間が変わらないのか分からないけど実際。
気を張っているからなのか、それとも本当に慣れた結果なのかは脳科学の分野になるだろうから分からないけど、ね。
それにしてもさ。
「まさかスーツを持つとは思わなかったよ」
「買わせたあたしが言うのもあれだけど、試着の時驚いたわよ。あんた似合いすぎ。着こなすってこういうことなんだろうって思うぐらいに」
「そうかな? まぁしっくりくるとは思ったけど」
言いながらも、学校を休んで買いに行ったことを思い出す。昨日の事だけど。
まぁ学校に知られないように動く必要があったから移動が大変だったけど、姉さんが目をつけていた仕立て屋さんでスーツを採寸して作ってもらった。
僕みたいな子供でも嫌な顔一つせずに採寸してくれた店主は、僕に似合う色だと言ってジャケットとズボンを漆黒色にしてくれた。潜在的な性根の悪さに気付いてこの色にしたのだろうか。そう考えると人を見る目がある気がするこの店主。
完成したのがその日の夕方。その間に一旦別れて箱を作りに社へ。言い訳は適当にして。
木材に関しては行く途中に買う。不審がられたけど、適当に理由を言って誤魔化す。
テーブル作る過程で出た端材で作ろうかなと思ったけど、同じものを作る必要があるのでまとめて買う。
とはいっても作り方は簡単。上蓋以外を升の様に組み、被せる感じ。
まぁ口で言うほど簡単なわけじゃないんだけど。
前日まで作っていた人形達を綺麗に収容する大きさをフェリアに計算してもらいながら設計したんだけど、底面の一辺が30cm、高さが20cmと少し大きなものとなった。そのおかげで上蓋も一辺32と少し大きくなった。板の厚さは5mmね。
なんで上蓋を少し大きくするかというと、蓋を開ける時に摩擦で開けにくい状況を作らない為。1cmぐらいあればすんなり開けられるし。
……まぁ、隙間が大きいってことは不意の振動で中身がずれるってことだけど。そこらはまだやってみないと分からないからなぁ。
なんて考えながらパズルのピースみたいに凹凸を削り、鑢をかけて嵌め込み、動くことがないのを確かめて2つとも完成させた。
――を家に持って帰ったら姉さんにバレた。当たり前だけど。
「持っていくんでしょ、あれ」
「当り前だよ。用意した以上、その日に合わせて渡さないと失礼じゃん。いくら周りに笑われようともさ」
「(……笑う人間はいないと思うわね)」
ぼそっと呟いた姉さんの言葉に首を傾げながらも、「ひとまず掃除しようよ。時間はあるんだし」と姉さんに声をかけた。
二人で手際よく掃除をやったら時間が余った。それでも一人でやるより時間がかかったけど。
準備するのもたいがい終わってるし……何しよう?
「ゆっくりしなさいよ。休みなんだから」
「姉さん化粧良いの?」
「まだ大丈夫よ」
ソファを占領してだらけている姉さんに声を掛けたら、手を振りながらそう返ってきた。
椅子に座ってその姿を見ている僕は、ため息をついて「確かに休みなんだけどさ、何かそわそわしない?初めてで緊張してるからかな? 落ち着かなくて」と心情を答える。
そしたら鼻で笑われた。
「ちょっと?」
「あんたが緊張で落ち着かないなんてありえないでしょ」
「いや、するけど」
「じゃぁ今の気持ちを正直に答えなさいよ」
「暇」
「ちっとも緊張してないじゃない」
……そういわれたらなんか、そんな気がしてきた。
我ながら単純だなと思っていると、「やることないならこれから行く場所の情報でも集めといたら?」と言われたので「それは昨日の夜にやったから」と返す。
レミリアさんが撮影で滞在している場所はここから四時間かかるという――ラクアイヤ。僕も初めて知ったんだけど、この島はどうやら撮影に使われることを前提としている模様。島の半分を市街地に開拓し、残り半分を自然豊かにすることでどちらの雰囲気も自然に撮影できるとのこと。
当然、そこに住んでいるのは顔出しが出来る人たちや、事務所に所属しているけど超若手な人たちで、そこに事務所の違いは関係ないらしい。
で、そんな島だから鎖国でもしているのかと考えるのだろうけど、観光客は歓迎しているとのこと。恐らくスカウトのためなんだろうけど。
って、名物とか名所とか諸々を寝る前にフェリアが調べてくれた。学習しているらしく、だんだん検索結果の候補が少なくなってきた。調べる速度も速くなってきたようだけど、時々どこから引っ張り出したのか分からないデータが紛れていたりするのが心臓に悪すぎる。
そこまで思い出し、「というか、場所調べたところでさっさと帰る気だからね」と続けると、「折角親の子守から解放されるんだから素直に遊びなさいよ子供らしく。レミリアでも誘って」と真剣な口調で反論された。
「なんでそこでレミリアさん出て来るのさ?」
「明日レミリアオフなのよ」
「だから誘って遊びに行こうって? だったら姉さんが行けばいいじゃん。男と二人、しかも僕なんかと一緒にいたところで気を遣わせて休みじゃなくなるし」
「そんなのあんたが決めつけるもんじゃないわよ」
「知ってるけど、前回の経験で向こうもそう思っているんじゃないかなって」
「……ならこの家出ていくのが普通じゃない?」
「まぁ、確かに」
姉さんの言葉に納得するように頷いていると、「あんたもそろそろ子守離れする時じゃない? 自分の人生を考えなさいよ」と爺くさい説教を受けた。
確かに親の不安が胸のうちの半分を占めているの確かだけど、もう半分は環境が変わったことによる事件の遭遇あるいは対処率が増加する不安があるから気乗りしないのだ――と言ったら今度は「心配し過ぎ」なんて馬鹿にされるだろうから言わないで「いの一番に自分の人生を歩み出した人に言われてもなぁ」と反撃しておく。もう根に持ってないけど。
うぐっ、なんて自滅したようなので、荷物をそろそろ持ってこなきゃなと思いながら黙って自室へ向かった。




