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本当困る

 姉さんが学校をズル休みしろと言ってきたので思わず「え」と正気を疑った。


 罪悪感が有るからではなく、身内に休みを強制されることに。普通ならそんなこと言わないと思っているから。


 一体どういう意図なんだろうかと思いながら「ズル休みを勧めるのは家族としてどうなのさ?」と訊いてみたところ、「聞いたわよ」とまるで僕を告発するような言い方をしてきた。


「何が?」

「あんた、中学生の頃学校休んでタイムセール行っていたんですって? しかも風邪を本当に引いても」

「…………あー」


 姉さんの口調に納得がいった。そりゃ、それを知っていれば休むことに抵抗なんてないよねと言えるわけだ。でも出処はどこだろう。商店街?

 その考えを見抜いたのかどうかわからないけど、「買い物してたら世間話で振られたのよ。あんたのタイムセールの話。この調子だと私達に言ってないこと、あとどのくらいあるのかしら」とため息交じりに説明してくれた。


「というか、それでスーツを作るとどんな関係があるの?」

「学校の制服で行ったら流石に目立つわよ。それに、レミリアの話聞いたり最近のあんた見てたら遅かれ早かれ必要になると思うわよ」

「あ、そう」


 どんな考えでその結論に至ったのか分からないけど、姉さんの言葉を想像して思わず顔をしかめる。


「確かに面倒になりそうだね。明らかに浮いてる」

「でしょ? それなら善は急げよ。丁度今週誕生日会以外で休みの日――つまり明後日だから、その日に作る以外選択肢ないからね」

「一日で出来るの? というか、誕生日会何時さ」

「今週の土曜日」

「おかしいよねそれ」


 なんだその強行スケジュールは。頭おかしいんじゃないだろうか。

 驚けずに反論したところ、「言っとくけど、企画自体は先週からあったからね」と言われた。


「じゃぁなんで切り出さなかったのさ?」

「……仕事」


 メールするなりレミリアさんを介さずに連絡すれば問題なかったのでは? そう思ったけど、疲れてそんなことも考えられなかったんだろうと思いなおす。

 が、ため息をついてしまう。


 すごいギリギリの締め切りで仕事とってこられた側って、こんな理不尽の中耐えて仕事するのかなと世の中の常識を疑っていると、「悪いと思っているわよ」と視線を合わせない姉さんが。


 ……睡眠時間一時間削れば間に合うかな、プレゼント。


 ぼんやりと今後の予定を組み立てていると「で、言い訳は大丈夫なの?」と訊いてきたので「まぁ適当にでっちあげるよ。精神病院に行くんで休みますとか」とあながち嘘でもない理由を例えに出す。

 そういうと姉さんは嫌な顔をした。


「どうしたのさ?」

「あんたからそんな言葉聞きたくなかったわ」

「原因作っておいて聞きたくないとか都合のいい言葉は、言われた方が怒るからあまり言わないでね……ごちそうさま。自分の食器は洗っておくよ。その代わり本当に用事があるとき以外部屋から出ないから後よろしく」


 食事を終えてから自分で空にした食器を重ねながら言っておく。そうでもしないと間に合わない。

 宿題はしばらくないらしいし、ある程度の無茶と融通は利く。

 さっさと始めないとと決意をしながら、食器を洗い始めた。



 で、自室に戻って買ってきたものを床に広げる。机に置いたら場所が狭くなるから。


「とりあえず充電器とイヤホンはさっさと充電してと……問題はフェルト羊毛か」


 床に座って素材を見ながら何を作ろうかと考える。

 彼女たちが喜びそうなのはなんだろうか。プレゼントとして恥ずかしくないものは何だろうか。

 様々な候補が頭をよぎる。動物、植物……そこからそっくりな人形、犬、猫、バラ、桜、ひまわり……等々。

 一通りノートに書きだしてから、どのぐらい作ろうかなと考える。何となく二人の間の数を同数にしないといらぬ誤解や騒動が起きそうだから。


「植物は別に良いかな……これで作るなら」


 ノートを眺めながら自分のアイディアを潰していく。そうしていくことで、無駄に材料を消費する必要がなくなる。考えなしに全部作るとか暇人じゃないし、僕。

 で、残った動物で作ることにしたけど、さてどうしよう。彼女たちにそれぞれ同じものを作った方が喧嘩は起きないだろうけど、それはそれで手を抜いた感じがするんだよなぁ。


 ……うん。二人それぞれ微妙に種類を変えればいいか。人形を彼女たちにすればそこまで面倒にならないだろうし。

 ここまで決めたらさっさと作り始めた方がいいね。うん。

 誰にも邪魔されない環境が出来ている状態なので、道具を取り出し床に転がしたフェルト羊毛をいくつか机の上に置いたところ、電話が鳴った。


 思わず頭を抱える。ピンポイントでやる気のはしごを外すのは誰なんだろうかと。


『レミリア・ジャンヌって人からです!!』

「ああ、うん。叫ばないでね部屋の外に聞こえるから」


 うるさいので指摘すると、音量を小さくしてから『すみません』と謝った。その間も振動は続いている。

 忘れ物でもしたのだろうかと思いながら、「もしもし?」と仕方なく電話に出る。


『も、もしもしレンですか!? えっと、その、そちらはお変わりありませんか?』

「姉さんが休みだったみたいで、家事を一通りやっていた事かな。変わってることは」

『なるほど……?』


 彼女の呟きから、そういったことが聞きたかったわけじゃないのを理解したので、「なんでか今日、帰り際に元に追いかけられたんだよね」と言ってみる。


『それって、何か用事があったのでは?』

「そうなんだろうけど、こっちも用事があったしどっちかというと彼も逃げていた感じがしてね。そのぐらいかな」

『あはは……そうでしたか。元気そうでよかったです』

「それにしても、電話なんて珍しい。何か嫌なことでもあったの?」


 初めての状況なので探りを入れてみたところ、『そ、そういうわけじゃありません!』と強く否定された。

 まぁそれなら良いけど。でもそれ以外に電話をかけて来る理由ってなんだろ?

 前例がないので首を傾げていたところ、『そ、そう言えば!』と向こうが切り出した。


「なに?」

『た、誕生日プレゼントをいただけるという話でしたけど、無理はしないでくださいね?』


 これから数日で用意することは彼女にとって無理に入りそうだなぁと考えながら「大丈夫だって。今月中に渡せるようにするからさ」と曖昧に返しておく。

 僕からしたら無理ではない。たかが睡眠時間を少し削りそうだなと思うぐらいなだけ。

 でも周りからしたら心配する範囲になるのだろうなと思いながら言葉を待っていると、彼女は『そ、そう言ってくださるなら、期待しますね?』と電話越し(対面していたら上目遣いで言われているんだろうなと想像できる声)で返ってきた。


「というわけで今から準備するから、電話切るね」

『あ、すみません! お願いします!!』


 なにやら言いたいことがあったのだろうけど呑み込んだ様子で電話は切れた。もっと話したかったのだろうけど、こちらにそんな余裕が現在ないので通話が終わったことを確認したら机に置き、腕を伸ばしてから作業を始めた。



 一時間で三体。犬や猫、ウサギといった簡単な部類に属している動物を作ったからそれぐらいなんだろう。ちなみに、一時間の計測はフェリアが(勝手に)やってくれた。おかげで集中力が途切れた。

 まだまだいけるのにと思いながら椅子に座って首を回していると、ノックする音が聞こえた。


「どうしたの?」

「ただいま、連。何してるんだ?」

「おかえり父さん。プレゼント作ってるんだよ」

「そうか……まぁ体壊さずにやりなさい。当日参加出来なかったら、彼女()が悲しむぞ」

「だろうね」


 扉越しの父さんの意見を天井を見ながら肯定すると、「分かってるなら気をつけろよ」と言って扉の前から消えたようだ。

 足音が一階に消えるのを聞きながら、僕はぽつりとつぶやいた。


「まぁ今更だよなぁ、その注意も」

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