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ある姉弟の会話

 着替えている間にフェリアに話しかけてみる。


「大分調べものしていたみたいだね」


 机に置いた携帯電話は振動を少し発生させた。

 これは学習しているってことなのかな。そんなことを考えながら着替え終えてから携帯電話の画面を見ると、『調べないとご主人様を手助けできませんので!』とガッツあふれる言葉が表示されていた。


 ありがたい事なんだろうけど、手助けが事件的なのか日常生活的なのかで反応が分かれるんだよなぁ。


 とりあえずイヤホン買っておけば誰にも声を聞かれなくて済むかな。

 勝手にしゃべらないようにとは言ってあるけど不安なので買うものを脳内でリストアップする。もちろん、レミリアさん達の誕生日プレゼントの材料。


 散々悩んだけど、自分の技術や財政状況を鑑みたところ羊毛フェルト人形を送るほかないと結論を出した。


 なんでそんな結論に至ったかって? 現状の誇れる技術が裁縫や料理といった家庭的な部分だったから。あと、材料費が割と良心的。

 一応ネットでやり方を軽く調べておけば問題はないかな。編み物や服を作るよりは簡単だろうし。


 時間もないからさっさと準備しないと。そう考えた僕は携帯に向けて「羊毛フェルト人形のやり方調べておいてね」と言ってから財布と手提げかばんを持って部屋を出た。


 階段を下りてリビングに戻ったところ、姉さんが料理を作り始めていた。


「ありがとね、弁当箱洗ってくれて」

「気にしなくていいわよ」

「で、悪いんだけど、これから誕生日プレゼントの材料買いに行くからそのまま夕飯作ってくれない?」

「そう。なら夕飯の時に話があるから、覚えておいてね」

「はーい」


 話って何だろう。ひょっとして誕生日会の計画かな?

 可能性の高い推測をしながら、家を出た。



 食材を気にしないで買い物をする、というのは些か非日常を感じる気がしなくもないけど、裁縫とかするのに必要な材料も買っていたからそこまででもない。

 やっぱり人形は動物とかの方が良いんだろうかと種類を考えながら歩いていると、携帯がポケットの中で振動したことに気付いたので立ち止まって取り出す。


 そこに表示されていたのは、フェリアが調べたフェルト人形の作り方の一覧だった。どうも片っ端から情報を拾ってきたようで、かなり重い。

 仕方ないので自分で情報を取捨選択することに。


 とはいっても生まれて間もなくてもこういう本能なのか、一番有力なサイトが一番上に来ているようなので苦労はしなかったけど。

 残りを全部消すと随分軽くなった。フェリアは申し訳なさそうにしているけど、それとは別に思うところがあるのだろう。どこか悲しげだった。


 感情豊かだなぁと思いながら、僕は歩を進めた。


 普通に歩いていると最近染まって来てるなぁと自覚するようになる。

 何だろうか。神様たちとそれなりに関わっているからなんだろうか。どうにも視界に捉えてしまう。


 光る粒子みたいなものが。


 ……明らかに『普通の人』が見てはいけないものだよなぁ。

 だんだん『普通』から外れているのを自覚すると、やっぱり不安になる。見える景色が変わるというのは、人が考える以上に途轍もない変化であり下手すると発狂するほど精神的に追い詰められる。


 思わず遠い目をしたくなるけど、この変化を受け入れないと周りに勘付かれて下手に騒がれそうなので極力無視することに。向こうからちょっかい掛けてくる様子もないし。


 そういえば勝手に喋られても困らないようにイヤホン買って来ないといけないんだった。

 はぁ、出費が嵩む。


「どうしたんだ連? 俺の店に来るなんて珍しいどころじゃねぇんだが」

「イヤホン、それもマイク付きの奴が欲しいんだよ。ある?」


 商店街について電気屋に行ったら驚かれた。その自覚はあるけども。

 とりあえず欲しいものがあるか聞いてみると、タブレットに僕の注文を入力してから「ちなみに形状の注文は?」と訊いてきたので少し考えてから「目立たなければいいよ」と答える。


「目立たない、ね……ああ、在庫があるわ」

「本当?」

「ああ。黒でイヤホンとマイクが直結してるやつ。片耳タイプで耳に入れる部分の半分の厚さで口元までマイクが伸びてるって感じだ。長さ調節は可能だぜ。左右両方ある」

「それ以外は目立つの?」

「まぁな。ゲーム実況用のヘッドホンとマイクの一体型とかしか揃えてねぇ」


 選択肢がない、というのが逆にありがたいのは即決できない人間だからだろうか。

 値段と形状を確認すると、それなりに在庫があるのと僕ということで四割引きで売ってくれるとのこと。形状の方は有明月の上部に満月がくっついた感じ。試しに左右両方試着してみたけど、邪魔になる感じがしなかった。

 で、これを買おうと思ったけど右と左どっちを買おうかと少し悩んだ。

 別にどっちでも変わらないのだろうけど、どちらが自分的に良いのかを考えて。

 結局左にした。そこらはもう何となくだ。


「充電式だからな、それ」

「充電器セットじゃないの?」


 そう聞いてみたところ、「お前パソコン持ってるか?」と言われたので「親なら」と答える。


「マジか?」

「うん」

「あーそっか。これな、USBで充電できるから基本的にパソコンにつなげて充電するんだが……」

「ケーブルあったかな」

「……よしっ! 他ならぬ連のためだ!! サービスしてやる!」


 そういうと店の奥に引っ込んだかと思ったらモバイルバッテリーとUSBケーブルを持ってきた。


「それらはつけてやる」


 その言葉に僕は驚いた。


「えぇ!? それは流石にまずいよ!」

「良いんだよ! これからこの店で電化製品買ってくれれば!」


 そうまくしたてられるように言われても、申し訳なさが先だってしまう。


『先方がああ言うのですから素直に礼を言って貰えばいいじゃないですか』


 何を迷う必要があるんですか? と脳内でシルフに言われて思わず反論しそうになったけど、向こうの目が本気なのを確認して「あ、ありがとうね」と言いながら素直に受け取ることにした。


「おう! ……ところで、イヤホンだけなら音楽を聴くだけで納得できるんだが、どうしてマイク付きなんだ?」

「え? 電話の相手を知られたくない時とかに必要だと思って」

「ってことはなんだ? お前彼女出来たのか!?」

「まさか。そんなことはないよ」

「お、おうそうか……ありがとよ」

「うん。またね」


 何やら気落ちしてしまったようだけど、僕は気にせず本命の店へ向かうことにした。


「いらっしゃい! って、連君! 久し振りじゃない! 食事なら渚が作るって言ってたけど、今日はどうしたの?」

「フェルト人形を作ろうと思って材料を買いに来たんですよ」


 驚かれながらも挨拶してきた彼女――裁縫関係のお店の一人娘で看板娘、姉さんの同級生の遠藤千亜妃さんに対し正直に返す。

 すると彼女は何かピンと来たのか「誰かに渡すために?」と質問してきたので「まぁそんなものです」と隠さずに答える。


「そっか~プレゼントか~」

「えっと、何か?」

「ううん何でもないよ! ……で、フェルト人形って羊毛? それとも生地に詰め込む方?」

「羊毛ですね」

「分かったよ。おかあさ~ん! 羊毛フェルトの在庫ある~!?」


 店の奥に向けてそう叫んだところ、「自分で探しに来なさい!」と返ってきたのが聞こえ、バツが悪そうにして「ちょっと待っててね」と彼女は店の奥に消えた。

 待ってる間にフェリアが探してきたサイトを眺めて確認していると、バッテリーの減りが早いことに気が付いた。まぁ原因は特定出来るけど。


 とはいえ注意したところでしばらくは直ることがなさそう。まるで子供を温かく見守る親みたいな心境なんだけど。


 僕まだ若いよね? 誰に確認するわけもない心情に達していると、あったよ! という声が聞こえた後に走る音が聞こえ、彼女が両手で抱えるようにいくつかの袋を持ってきてくれた。


「まだ、あったけど……」


 そのまま会計の台に並べる。一気に離したので、散らばったものを拾うのに苦労した。

 で、持ってきてくれた色は白・黒・赤・黄・青の全部で五色。店の奥にあと二十色ぐらいあったそうなので、目についたものを持ってきたのか基本色ぐらいしか持ってきてないのかは判断しないけど。


「ひとまず青以外の四色を買うことにして……茶色とかベージュとかありません?」

「えっと、確かあったかな……確認していい?」

「どうぞ」


 頷いたらもう一度奥へ。そこまで焦らなくていいんだけど、僕のことを考えてくれているんだろう。

 そう考えてから少しして二袋持ってきてくれた。色が決まっているからか、割と早かった。


「これ、だよね……」

「あ、はい」


 色を確認して僕は頷く。これだけ買って決まってるのが動物とかぐらいしかないし……まずいかな。

 もう少し色増やそうかな……なんて考えたかったけど、時間が夕食の時間帯になったのでこれ以上悩むのもどうかと思い「それじゃ、この六色買います」と宣言する。


「分かったよ。それじゃ、お姉さんが一色おまけしちゃうからね」


 そういうとこっそり緑色のフェルトを一緒に入れてくれた。


「え、良いんですか?」

「良いの良いの。母さんも文句は言わないし」

「……ありがとうございます」


 普段買い物する時は積極的に値切っているからか罪悪感がすごい。値切りは家計の負担軽減の一歩だから罪悪感がないけど。

 人ってこんなに親切になれるんだろうかと内心で首を傾げたけど、自分が割とそういう人間だったことを思い出して納得する。


 さぁ戻ろうっと。




「ただいま」

「遅かったじゃない」


 何の事件に巻き込まれることもなく帰宅したら怒られた。時間が遅くなったからだろう。とはいえ例の事件は深夜帯に発生しているようなのである程度安全だと思うんだけど。

 反論もせず、買ったものをひとまず自分の部屋に置いてからリビングへ向かうと、姉さんが料理を並べていた。


「もうちょっと待ってね」

「手伝うけど」

「良いわよまだ」


 そういわれたので大人しく自分の席に座る。まだということは片付けとかを頼む気なんだろうと姉さんの言動を予測しつつ。

 それにしても、慣れない。家で僕以外の人だけが料理をしているのが。姉さんの動いている姿を見ながらも、そう思う。

 どうやらできた料理を片端からテーブルに並べているらしい。昔僕もこんなことをしていたなとぼんやり懐かしむ。


 往復する時間もそうだけど、疲れるから次第にまとめて運べるように調理時間を調整するようになったっけ。まぁ疲れることには変わりないけど。

 こうやって他人の行動を眺めていると口出ししたくなるのは人間の性なんだろうかと観察していると、ようやく終わったのかエプロンを脱いで自分が座る椅子の背もたれにかけてから座る。


「ふぅ」

「お疲れ?」

「別に……って言いたいところだけど、やっぱり重労働よね、家事って」

「そりゃぁね」


 軽く同意する。「やっぱり」なんていらないと思いながら。

 そして食事を始める。そんな僕の姿を見て姉さんも食べ始める。


 二人で黙って食べている中、姉さんが切り出した。


「ねぇ連」

「何さ? 話があるってやつ?」

「そうよ……頭にあると思うけど、レミリアの誕生日会の話」

「今月間違いなくここにいないのに?」

「撮影場所でやるのよ。キャストも巻き込んで」


 ……随分と盛大の様な…………?

 スケールが想像できないので食事の手を止めて瞬きをしていると、「それでなんだけど、あんたのスーツ急いで作るから、明後日学校休んでくれる?」と無茶な要求をしてきた。

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