他愛ない会話
新年一発目になります
その後、登校する時に見送りに来たレミリアさんに「撮影頑張ってね」とエールを送って普通に登校。
……って、早くて来月。長くて夏休み超えるのか。そりゃ通信制の学校通うよね。
改めて彼女の事情を理解しながら歩いていると、「あれ、ジャンヌさんは?」と佳織が訊いてきたので「今日から遠方で撮影だって」と言っておく。
彼女はそれを聞いて「あ、そうなんだ」と平静を装いながら返してきた。驚きより嬉しさの方が勝っているのが推測できた。
だからといってその理由までは考える気はないけど。
「すごいよねぇ。撮影の間の授業は出なくても、きちんとテスト受けるっていうんだから」
「私だって学校の授業の他に家業の勉強してるんだけど?」
「その家に生まれた宿命だから仕方ないでしょ。レミリアさんもそうなんだろうけど」
「そうだね……」
言外に条件が違うことを示したら、彼女は感じ取ったのか声のトーンが落ちた。
ひょっとして褒められたいのだろうか。それとも愚痴を言いたいだけ?
そんな考えが頭を過り、まぁ訊いてみればわかるかと結論付ける。
「大変だろうね、そういうのは。選んだ、選ばざるを得なかった道だけどさ」
そういうと、「そうなんだよ!!」と大声で彼女は肯定した。
「出来ない、なんて言えずに必要なことを一気に教えて来るんだよ! しかも一気に! だから必死にやるのに、一度しか教えてもらってないのに覚えていないだけで説教が初めなんだよ! もう何度嫌気がさしたか」
彼女の愚痴に頷きながら感想を呟く。
「やっぱり大変だねぇ」
「本当だよ……おかげで勉強もずれ込んでいるし」
「まぁ頑張りなよ。会社を継ぐことになるのは殆ど確定しているんだしさ」
「いやだよ正直。小学生の頃に戻りたいなぁ」
「過ごした時間は戻らないよ」
彼女の願いをバッサリ切る。現実逃避しても現実は変わらないし。
こんなことばかり言っているから冷たい印象なのだろうかと推測していると、「本当に連君はリアリストだね」と言われた。
「理想がないし、現在に追われているからね」
「あはは、確かにそうだね」
「「…………」」
会話が途切れる。二人の歩みは止まらない。
このまま学校に到着してもいいかなと思ったけど、そういえば聞いてなかったことを思い出したから話しかける。
「ねぇ佳織。誕生日パーティって何時?」
「えっ? 一応来週の予定だけど……来てくれるの?」
「自分から行くことはないかな。けれどまぁ、行くにしても行かないにしてもプレゼントは必要でしょ?」
「無、無理しなくてもいいよ? 今月中でも」
なぜか心配されたので「そんな長いスパンだと逆に出来なくなりそうだから心配しなくていいよ」と言っておく。何作るか決まってないけど。
今日中に考えておけば余裕かな。そんなことを確認していると、「それじゃ、期待してもいいの、プレゼント?」と目を輝かせて訊いてきたので、「お金のない一般人に高額なものを期待しないでね。パーティで渡すにしても笑われるぐらいのものしか渡せないから」と予防線を張っておく。
「笑うわけないよ! 連君が準備したプレゼントなんだから!!」
「佳織の周りの人のことを言っているんだよなぁ……」
「うっ」
否定できないことに言葉が詰まったようなのでそれに対し笑いながら「ま、頑張って準備するから、本気で僕を参加させたいなら知恵を絞りなよ」とアドバイスを送る。
果たして彼女は思いつくだろうかと思いながら腕を組んで首を傾げている隣の佳織をチラ見した。
教室に到着して自分の席に座って準備をしていると、またクラス委員の人が声をかけてきた。
「よっ」
「おはよう。どうしたの? コミュニケーションをとってくれるの?」
「まぁな。お前、自分から話す気ないだろ?」
「それはまぁ、ないね」
「そこは即答するなよ」
デコピンを食らいながらそう言われたので、おでこの痛みを無視しながら頭を掻きつつ「で、今日は一体何を話そうと?」と質問する。
「ん? なんだかんだお前に主導権を握られている気がするが……そうだな。ジャンヌさん今日はどうしたんだ? 風邪でも引いたのか?」
ひょっとしてレミリアさんなのかなと予想しながら「流石に分からないよ。彼女とは方向が同じなだけで詳しい身の上話をする仲じゃないから」と設定に則した内容で誤魔化す。嘘だけど。
正直こんな嘘なんてつかなくてもいいのだろう。手間を考えればメリットなんて僕の周りが静かになるぐらいだ。それが最大のメリットとしてあるけど。
とはいえクラスの女性陣はある程度知っているわけだし、そのうち何か言われそうだと予測していると「そうなのか。それは悪かった」と謝られた。
呆気に取られてから「いや、別に気にしてないけど」と我に返って答える。
「そうか?」
「そうだよ。別に精神的に嫌な気持ちになったわけじゃないし、そんなに知りたければ先生に訊いてみたらどう?」
「それもそうだな」
それで納得したようなんだけど、何かを思い出したのか彼は続けた。
「ところで、池田って趣味あるのか?」
「え? 急にどうしたのさ」
その話題に行きつく思考回路が分からないので瞬きを繰り返す。多分他愛ない世間話のつもりなんだろうけど。
……これに乗れないのも『普通』じゃない証なのかな。
そんなことを思ったから、言われる前に「読書ぐらいかな」と差し障りのない答えを言う。
「お、おう。ってことは何か? 漫画とか読むのか?」
「漫画は読まないかな。あと、一人の作家しか読んでない」
「マジで? ちなみに誰?」
「知らないと思うけど、水蓮って人」
正直に答えたところ彼は腕を組んで記憶をたどっているようだ。多分、記憶の片隅にもないだろうけど。
水蓮さんは寺井菫さんの母親だ。去年知った。どうして宣伝しないのかは知らないけど、初版から数が少ないから読者の絶対数は少ないはず。中古で売ってるのをあまり見ないことから考えても。
まぁこれは僕の範囲での想像だから間違っている可能性が高いけど。
う~~んと唸ってから彼は「駄目だ。分からん」と降参した。
「まぁだろうね」
そんな時に、庄一が「よぉ」と挨拶してきたので「おはよう庄一」と返す。
「って珍しいな、村田が連と話してるなんて」
「昨日から話しかけてくれているんだよ」
「そうそう。何だかんだで碌に話さなかったからな」
「ふ~ん。殊勝なこって。ってか、連と会話が続くってのも凄いぞ」
席に座って彼は言う。というか僕と会話してる人は村田っていうのかとその間に納得する。
村田君は庄一の言葉に「いや、続かねぇなこれが」と正直に言ってくれた。
「だろ?」
「ああ。ミステリアスと言えば聞こえはいいんだが……答え以上に発展しないんだよ」
「分かる。中一の頃からそうだったからこいつ」
指をさして笑いながら言うもんだから僕も拗ねるように「悪かったね」と言っておく。
「でも楽でしょ、互いに」
「そういう問題じゃ」
言葉の途中でチャイムが鳴った。庄一は言葉を飲み込み、村田君は席に戻る。
そんな中で圭がいないことに驚くこともなく今の会話を考える。
事務的な会話は嫌だってことだよね。無駄じゃない無駄ってことだろう。
圭が風邪をひいて休みだという話を聞きながら、友好的になれない理由の一つがこれかなと冷静に分析にしている自分がいた。




