表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/98

あるニュース

 レミリアさんと朝食の下準備をした翌日。

 普通に起きて料理して、そういえば今日からレミリアさんドラマの撮影でしばらく家に帰ってこないことを思い出す。ドラマの撮影って基本的に一か月以上かかるらしいし。遠い場所ならなおさら。今回はその遠い場所らしく、撮影場所付近で泊まることになると。


 そのことは学校側には言ってあるので特に出席日数が足りなくなるわけではないとは言っていたけど、どことなく寂しそうだった。理由はいくつか想像できるけど、それをぶつけたところで解決にならないので考えない。


 昔のような生活に戻るんだなぁ暫くと思いながら調理を進めていると、階段を下りてくる足音が聞こえた。


 あれ、姉さんこの時間から仕事だっけなんて思いながらもそのまま進めていると、「おはようございます」と元気にレミリアさんの声が聞こえたので顔を上げる。


「あれ、レミリアさんどうしたの? まだ出発する時間じゃないよね」

「えっと、暫く会えませんので、お手伝いをしたいと思いまして……」


 ゆっくりしていればいいのに。そう口に出そうとしたけど踏みとどまる。

 どうにも変わろうと思ったことをすぐに忘れる。気を付けていないとすぐに元に戻ってしまう。

 危なかったと思いながら、「それじゃ、この料理終わったら洗濯物干すから、昨日言った順に残りやってくれない?」と提案する。


 すると彼女は嬉しそうに笑顔を浮かべ「はい!」と言った。


 さ、さっさと洗濯物干そうっと。



 洗濯物を干し終えたらレミリアさんが弁当を詰めていた。まぁ残っていたの二品ぐらいだから妥当と言えば妥当か。

 邪魔をするのもどうかと思ったので大人しく席に座って見守っていると、僕の視線に気付いたらしい彼女が作業を中断して慌てた様子で「す、すみません! 勝手にやってしまいました!!」と謝ってきたので「別に気にしなくていいよ」と笑いかける。


「少しでも進んでやってくれたんだから怒らないよ。ありがとうね」

「あ、こ、こちらこそ……」


 最後の方何やら小声でつぶやかれたので聞こえなかった。けれどまぁ、それより気になることがあったので質問する。


「あれ、弁当箱一つ多いけど、姉さんの分?」

「あ、いえ。これは、私の分です」

「え?」


 しばらく戻ってこないというのに弁当を持参する理由が分からなくて困惑する。向こうで差し入れとか弁当とか共演者たちと食事とかあるだろうに。


「どうして?」

「え、えっと、その……食べて撮影に対する緊張感をなくしたいからです」


 僕の料理は精神安定剤か何かだろうか。思わずそんな感想を言いたくなったけど、やっぱり飲み込んでから「まぁ役に立つなら別にいいけど」と答えておく。


「すみません」

「別に謝らなくていいよ。一応余裕はあるんだから」


 そう言ったら彼女は作業を再開したようなので、視線をテレビに映しチャンネルのボタンを押してテレビの電源を入れる。

 始まったのはニュース番組。丁度昨日レミリアさんと話していたニュースが流れていた。


「……」


 テレビの情報は商店街の人から集めた情報と大差ない。ただ、果たし状を送られていたという新情報が出てきただけ。

 道場破りにしては手の込んだことをしているなんてコメントしているけど、正直想像できないならコメンテイターなんていらないと思う。的外れなことしか言わないなら、考え方が乏しい事しか言えないなら、そいつらはもう廃業した方が賢明だ。


「なんで事件性のニュースって、真実を予想する力が少ない人ばかり呼んで話を聞くんだろう。だからテレビなんて『使えない』んだよ」

「え?」


 呟きが聞こえたのか彼女は再び作業を中断したようだ。だけどその問いかけに似たような声に答える気は僕にはない。ただテレビの画面を退屈に見ているだけ。


 ただの主観。人に納得させる必要性のないもの。だから言わない。

 『正しい』なんて所詮僕自身の意見。この番組を作っている人たちからすれば猛反発なんだろうけど、変わることのないもの。だから賛同者を必要としていない。


 もっとも、こんな思考を知りたい人はいるのだろうけど。


 後ろで作業している気配が感じられなかったので、「手伝おうか?」とテレビの画面を見ながら問いかける。


「え……あ、だ、大丈夫です」


 彼女はそう言って作業を再開したようだ。その間で流れたニュースで、襲撃事件とは別に気になるニュースが何件か見つけた。


 一つはVRMMORPGというゲームジャンルがいよいよ世間に現れること。

 一つは世界各地で原因不明の崩落事件が起こっているとのこと。

 一つは犯罪件数が昨年よりどこの世界でも多いペースであること。


 これ以外にも不安に駆られるニュースはあったけど、インパクト的には霞んでいた。


 最初のニュースは大昔の時代に存在した当時の最先端ゲームをようやく復元・発展させられたのだから。

 この時代のゲームはネットの知識を用いて徐々に復元されてきた。確か家庭用ゲーム機より先にゲームセンターの方が復元されたとか。

 オンラインゲームは最初から存在していたらしいけど、利用者が廃人になる恐れがあるために色々制限があったらしい。よく分からないけど。


 そういえば何気なく知っているけど、なんでネットは無事だったんだろうか。大陸は沈み、島だらけとなったこの世界で。


 ……やめよう。これ以上考えたら世界の真実を知ることになる。精神上良いものではない。


 切り替えて崩落事件について。

 これは単純に遺跡の入り口が塞がれるというもの。中には観光地となっている場所があるとか。

 幸い見回り以外に人がいない時間帯に崩落が起こったとのことだけど、犯人は追って来られないように入り口を壊したんじゃないだろうかと勘繰る。また変な事件の伏線になりそうだ。


 最後の犯罪件数は……うん。その内の一件に巻き込まれた身としては純粋にうれしくない情報だったから。比例グラフのように上昇傾向なら、また何件か巻き込まれるのは容易に想像できる。この世界に安全地帯なんて存在しないし、人が住んでいる以上争いが起きないのは周りに誰もいない時だし。


「はぁ……。レミリアさんも気を付けてね。撮影場所で事件に巻き込まれないようにね」

「ひぇ! あ、ありがとうございます!!」

「ところで、弁当の盛り付け終わった?」

「あ、はい! お、おわりました!」


 ……なんで慌てているんだろう。

 思わず首を傾げたくなったけど、それより朝食の方が大事だったのでテレビから視線を外して立ち上がり、台所の方へ向かった。



 そのままの流れでレミリアさんと一緒に朝食。六時過ぎだ。そろそろ姉さんが起きて来る。

 食べながらの話題はレミリアさんのドラマ内容……ではなく、なぜか先程の僕の発言だった。


「あの、流石にテレビが『使えない』っていうのは訂正してほしいんですけど……」

「どうしてさ?」

「一応、私や渚さんはテレビに映る仕事をしているので、バッサリ言われるといい気はしません」

「そりゃ誰だって自分のやってる仕事否定されたら怒るよね……そもそもそんなにテレビ見ないけど僕」

「……そういえばそうでしたね。渚さんが送ったドラマのBD、封が開いた様子がないって言ってましたし」


 興味も時間もないから見てないというのは流石に失礼なので、「送られても忘れるんだよね。忙しすぎて」と誤魔化しておく。


「見てあげたらどうですか?」

「今更じゃない? それに、初期の演技が恥ずかしくてやっぱり見るなとか言いそう」

「それは……確かに私でもありますね」


 話題を逸らせたことに内心で喜びながら、互いに笑う。意見があったというのがあるし。

 和やかな雰囲気のまま食事が進み、終わった頃に姉さんが起きてきた。


「おはよう……あれ、レミリア早いわね」

「おはようございます渚さん。ちょっと台本の確認とか出発前にしたいと思ったので」

「ふ~ん……まぁ良かったんじゃない? あんたの気が済むならそれで」


 何やら察したような表情で頷いてから顔を洗うためか洗面所へ向かった。

 姉さんを見て、レミリアさんの方便を見抜いたのかなと思いながら二人分の食器をもって流し台に移動していると、彼女が驚いたようで僕の方を勢いよく見てきた。


「どうしたの?」

「え、えっと……少し驚いたんです。いつの間にかレンが私の食器も一緒に運んだことに」

「そう? いつもやってると思ったんだけど」

「あれ、そうでしたか……?」


 真顔で返したら彼女は思い出す様に呟いて首を傾げる。

 でも実際いつも通りの行動だ。基本的にレミリアさんが食べ終わらないから、彼女の分までやらないだけで。夕飯時とか最近はともかく昔は両親の食器をこれで片付けていた。二人とも食べ終わっても持ってこないし。


 僕にとって特別なことはしていない。ただ自然と意識に違和感を覚えさせずに動いただけ。


 でもこれを言ったらまた普通じゃない云々言われそうだなぁと思ったので、「そんな細かいこと良いからさ、台本の確認でもしてきたら? あとはやっておくから」と方便を逆手に取る。


「あ…………はい」


 悪いことしたかなぁ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ