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お化け

 知り合いの子供を合流させて、僕はレミリアさんに連れられて(腕を組んで)再び移動中。

 場所はさっきと同じジェットコースターだと思ったんだけど、向かっている方向が違う気がする。


「レミリアさん」

「何ですか?」

「さっきと向かっている場所違うけど、いいの?」

「あ……、えっと、そうでしたか?」


 入れ知恵でもされたのかな? なんか慌てているけど。

 まぁ彼女の番だから別に文句を言うわけじゃないけど、本当少しだけ気になった。

 ま、これ以上深く言うのも野暮だね。そう判断して「いや、レミリアさんの行きたいところに行ってくれればいいよ」と答える。


「あ、はい。ありがとうございます……そういえば」

「ん?」


 再び歩き始めた彼女は一層僕に体を近づけて「天神さんと普通に話をできるなんて、すごいですね」と褒めてくれた。

 耳元に感じる彼女の吐息に少し緊張しながらも表情を変えず「なんだかんだ言って連絡を取り合ったことがあるからね」と答える。


「……そもそも連絡を取り合う時点ですごいことですよね」

「だろうね。立場的には接点なんてないに等しいし……やっぱり僕、『普通』じゃないのかな?」

「それは……」


 彼女は口ごもる。その反応は予想できていたので別段傷つかないけど。

 おかしいな。バステトさんに指摘されてキレたのに。現状そんな感情が湧かない。良いことなんだろうけど。いや、あの時は多分、矛盾を突かれて何も言えなかったからキレたのか。


 となると現状は違うのか。そう結論を出したところ、「レン!」と組まれている腕を強く引っ張られながら彼女に叫ばれた。


「……あ、ごめん」

「相変わらずですね。もう」


 仕方がない、といった表情を浮かべるレミリアさん。確かに考え事ばかりで人の話を禄に聞いていない気がしなくもないけどさ。

 でも考えることが習慣になっているからかすぐに疑問を解決しようとしてしまう……って、またやりそうになった。


 ひとまず切り替えるため、僕は向かっている方向に何があるのかを思い出しながら彼女に話を振った。


「ところでさ、レミリアさんって怖いの大丈夫?」

「……え、なんで今それを聞くんですか?」

「いや……向かっているのがホラー系をテーマとした場所だから」

「…………」


 彼女は黙ってしまった。多分、目的地を当てられたからだろう。否定でもすれば選択肢が増えるという考えに至らないあたり、驚いているんだろうね。わかりやすい。

 まぁ彼女が行きたいなら別に止めないけど。さっきも言ったので心の中でとどめておき、黙ったままだけど歩いている彼女と一緒に、彼女が向かう場所へ向かった。



 ホラー系は思った以上に本格的だった。


 まるでも何も、この一角だけは完全に遊園地として「楽しませる」というコンセプトを無視し、ホラーとしての「恐怖を感じさせる」という一点を突き詰めた感じ。はっきり言って異様だ。こんなエリアが何の疑問も抱かれずにこの遊園地に存在し、続いていることに。


 そも、此処に常連客はいるのだろうか。絶対初見で二度と行かないエリアに認定されそうなんだけど。


 切れかかっている照明。木々が鬱蒼と生い茂って日光を殆ど遮り、カラスの鳴き声が響きながらも他の生物の気配を感じる……まるで迷子になった時の心細さと恐怖心を呼び起こされる感じ。入ってこれなんだから、奥へ行ったらどんな光景が広がっているのだろうか。想像したくないな。


「……レミリアさん」

「な、なんでしょう、か」

「声、震えているよ?」


 僕の指摘に彼女は無視。それどころではないのが窺える。これだけで何となく彼女が怖いところが嫌いなだと考えられる。僕もあまり好きではないけども。


「……レンは平気そうですね」

「どうだろ? 表情に出さないからいつも通りだと他者から見ればそう思うのだろうけど、実際は驚きそうかも」


 このまま行くということなので仕方なく歩を進める。進めば進むほどに不気味さは増し、彼女の怯える様も酷くなる。それが功を奏しているのか、僕自身が怯えることはなかったけど。

 このまま行くのもどうかと思うのだけど、彼女が行きたい場所なのだからそれぐらい尊重しないと。


 まだ夏でもない(梅雨を過ぎていない)季節だというのに、このエリアだけ体感温度が下がりつつある気がする。ここだけ冷房を別でつなげている可能性が高そうだ。あとは心理的な影響があり得る。


 レミリアさんのスピードに合わせて進むこと五分ぐらい。驚かしてくる存在に出会うこともなく森を抜け、廃村に到着した。ここまで本気で作りこむ運営は、どこか頭のネジが外れている気がする。


「ホープ?」

『なんでしょうご主人様』

「こんなゾンビゲームに出て来る舞台そのまま作って、運営大丈夫? 実は年齢制限あるとかない?」

『大丈夫です! このエリアはこの遊園地の代名詞の一つで、割と人気なんですから!!』

「……え、本当に?」


 信じられない言葉に思わず聞き返す。ここまでホラー色強いエリアで滅茶苦茶不気味すぎるというのに。

 内心で感想を述べていたところ、ホープが『本当ですよ!』とエリア別の人気順を表示してくれた。見事に上位三位に入っている。

 このエリア、実はそれほど怖くないのだろうか。そう思わせるほどの人気ぶりに真顔になっていると、『ちなみにご主人様の目の前にある廃村がこのエリアのアトラクションの一つですよ! カップル向きといえばカップル向きです! おススメですよ!!』なんて胡散臭い売り文句を続けていた。


 とりあえずしがみついている彼女を見る。腕にしがみつき、目を瞑って体を震わせている姿は、かわいいを通り越して心配になるレベルだ。どうして来ようと思ったのか。


 …………克服したいのかなぁ。


『違うと思います』

『そう考えた方が楽じゃん。色々とね』

『…………』


 慣れてきた思考の割り込みをすぐさま返してから「行く?」とレミリアさんに最終確認する。


「…………はい」


 どうしても行きたいというので、このまま進むことにした。




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