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撮影と昼食

 一枚目は注文通りにタキシードとウェディングドレスの披露宴バージョン。


 二枚目は医者と看護師。


 三枚目は執事とメイド。


 四枚目はアニメに出てくる王子様とお姫様のドレス服。


 で、五枚目が大昔に存在していた「着物」という衣装。


 もちろんポーズや撮影の背景も一枚ごとに違う。

 最初は教会の入り口前で、次が診察室。三枚目がゴシック調の部屋の中。四枚目がお城で出て来る王の間みたいな場所で、最後はとても古い建物――こんな世界になる前に存在していたであろう――の前が背景。ポーズに関して言うなら、最初は記念写真を撮るかの如く(現状がそうだけど)肩を並べて直立不動。二枚目は僕が座っていて、レミリアさんがカルテかなんかを持ってきた感じに。三枚目は一枚目と同じポーズで、四枚目は僕が彼女と向き合った時に傅いた。最後も立っているだけ。


 ……実際にやってみたんだけど、これは思った以上に楽しいだろうね。自分で衣装作ったりしてなりきるというのは。

 すべての工程を終え、写真ができるまで館の中で座って休憩しながらそんな感想を抱いていると、「楽しそうでしたね、レン」と彼女が話しかけてきた。


「うんまぁね。自作してまでやってる人たちの気持ちが少し分かったよ」

「レンが楽しそうでよかったです……でも、あ、あれはやりすぎです!」

「う~ん……王子様の時? でもドラマとかアニメとかで良くあんな光景出て来るじゃん」

「で、出てきますけど! こ、心の準備が!!」


 思い出したのか頬を赤らめて抗議してきたから怒気も感じられなかったので「ごめんね」と軽く流しながら、少し考える。

 拡大解釈すれば、コスプレと俳優・女優って似てるよね、って。


「……レンって時々大胆ですよね」

「そうかなぁ……」


 レミリアさんの呟きに天井を見ながら返す。別に誰でもやることをやっているだけなのだから、特別大胆だなんて思ったことはない。そもそも大胆ってどういう意味なんだろう。

 僕からしたらレミリアさんの行動が時々大胆に思えるんだけど……何て言ったら、価値観の相違でまた口論になりそうなので「恥ずかしいなんて思ってないけど」と付け足しておく。


「え、あのポーズが恥ずかしくないんですか?」

「逆に聞きたいんだけど、俳優さんがあんなポーズするのに恥じらいあるの?」

「えっと……人によるんじゃないでしょうか。王子様系の人たちは慣れているんでしょうが、それ以外の方はやりたがらないかと」

「そうなんだ。じゃぁ普通じゃん。このぐらいなら」


 ごり押し気味に言ってみたところ、レミリアさんは見事に混乱していた。


「確かにそうかも……でも、あんな告白や求愛シーンで使われるポーズなんて、まず理想として語られるぐらいにやる人がいないし……」


 悪いことしたかなと思いつつも声をかけることなく写真が出来上がるのを待っていると、ホープが勝手に現れて『お昼ですよだ――ご主人様!』と知らせてくれた。

 ああそんな時間か。あれ、現像ってこんなに時間がかかったかなと考えながら「分かったよ」と返事をして彼女を見る。


『お昼ですよお嬢様!』

「ひゃっ!」


 突然近くで叫ばれたせいで彼女の思考は中断し、危うくのけぞりそうになる。

 今の叫び声かわいかったなと心の中で感想を抱いていると彼女は立ち上がり、原因を睨みつけていた。


 とりあえずそっとしておくことにして、ホープに質問する。


「昼食ってどこでもいいの?」

『そこに関しては完全指定です。二人きりになれる場所だと言っておきますね、先に』

「それって夕食とかの方がいいんじゃないかな……」

『このチケットを利用される方でも泊まるなんて稀ですので』

「そっか……」


 きっと宿泊代が高いせいもあるんだろうな……。

 普通こんな自虐しないんだろうけど、ここは正直に設定されているのかな。そんな考えに至ったところ、『ちなみにここから徒歩で結構かかる場所にありますので、貸し出しているローラーパックを装着することを推奨してます』と付け足された。


「何分ぐらい?」

『ざっと二十分ぐらいでしょうか』

「じゃぁいらない。そこまで遠くないし」

『ここまで結構歩きましたよね? 疲れてないんですか?』

「慣れてるから別に」

「お待たせいたしました」


 移動手段が基本徒歩のみとしてはそこまで辛いと感じていないと言ったところで、撮影してくれたスタッフが戻ってきた。袋を持って。


「こちらにはウェディング衣装で撮影した写真を挟めた写真立てを入れております。他の写真も現像し、データもメモリーカードに移してこちらに入れてあります」

「ありがとうございます」


 ずいぶんとオプションが盛沢山なんだけど。受け取って少し間をおいてから懸念事項を質問する。


「いくらかかります?」

「このサービスはチケット利用だと無料です」

「あ、はい」


 そういえばさっきのアトラクションの料金払った記憶がないんだけど、最後にまとめてなのかな。

 レストランの料金絶対すごいことになりそう。そんなことを思いながら「ありがとうございました」と律義に頭を下げてから館を出ることにした。


 レミリアさんは慌ててついてきた。



 案内通りに歩いて到着したレストランは、隠れ家的な感じでひっそりと佇んでいた。喧騒がこの遊園地の日常なら、さながら静寂という非日常を携えた場所だった。ホテルが建っている場所の路地裏とか分かりっこない。


 僕達のことを他のお客様方は気になっていないようだ。まぁ自分たちが楽しく過ごしたいから来ているし、妥当と言えば妥当だけど。


 で、店に入ったら四人のウェイターが両脇に並んでいて「お待ちしておりました」と声を揃えて頭を下げてくれた。まるで高級店のもてなしみたいだ。遊園地の本気がうかがえる。


 レミリアさんが呆気にとられているようだけど、寺井さんの家でこれ以上の歓待を受けたので気にならず「レミリアさん、こういったことに慣れてないの?」と質問する。


「な、慣れませんよ。こうしたお店に来ること自体少ないので」

「お席へご案内いたします」

「じゃ、行こうか」

「あ、はい……って、レンはどうして平然としているんですか?」

「友達の家でこれ以上の場面にあったからね」


 レミリアさんの質問にそう答えながら、高校生にも対応を変えないとかプロだなぁとスタッフを見ながら思った。


 促されるように席に座り(荷物は預けた)、何かの記念日よろしくなテーブルで対面な僕達。

 高級感あふれる場所の中で私服という、ドレスコード制限に引っかかって追い出されそうな感じ。明らかに場にそぐわなくて恐縮してしまいそうだ。


『緊張してますご主人様?』

「そりゃね。高級店何て入ったこと一度もないし」

「え、そうなんですか?」

「いや、なんでレミリアさんも不思議そうなの?」


 基本外食せずに自炊で生きてることぐらいもう分かっているはずなのに。

 そう思いながら訊いてから、答えにたどり着いた。うちの爺ちゃんたちだ。

 なので、彼女が教えてくれてから間を置かずに答えた。


「だって、レンのお爺さん達が有名人ですので」

「僕が生まれて頃には多分、爺ちゃんたちとは一緒に暮らしてなかったはず。小学生前までは遊びに行っていたけど、お祖母ちゃん達が母さんを扱きながら料理を作っていたから」

「……あ、そうなんですか」


 どうやら返答が早すぎたせいで引いたようだ。前は結構驚いていたんだけど、さすがに気味が悪くなったのかな?

 まぁだからと言って自重する気はないけど。そんな決意をしてたら変な空気となった。それを見計らったのか、ウェイターの一人が「こちら炭酸水でございます」と言ってグラスに注いでくれた。多分これが本来ならシャンパンだったりするのだろう。なんだか申し訳ない。


 ならそろそろ料理が運ばれてくるのかも。そんな期待を胸に彼女を見ると、先程の雰囲気はどこへやら。こちらをじっと見つめていた。

 瞬きすると彼女は視線を外す。いつものやり取りなのでもう気にならなくなってきたけど、そんなに僕を見て楽しいことでもあるのだろうかなんて毎度思う。


「料理をお持ちしました」


 うん。もう食べよう。

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