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割かし初めての遊園地

 なんだか恥ずかしいような、不思議な気分でカップを回した。明らかに撮影対象になっているのが分かったので無表情で回していたせいか、楽しいかどうか判断ができなかった。

 レミリアさんは……どうなんだろう? 僕の表情を窺いながら楽しんでいた、のかな。いや、絶対に楽しめない感じだな言ってて。


 降りた時にどうやら撮影された写真を貰った。普段はお金を取るみたいだけど、チケットの特典の一つで無料みたい。写っていたのは僕たち二人がコーヒーカップに乗っている姿。レミリアさんは笑顔みたいなんだけど、自分の表情が不釣り合いなほどないので申し訳なくなる。


「ごめんね、レミリアさん」

「い、いえ! こちらも無理に連れてきてしまったので!!」


 そんなことはないと思うんだけど。明らかにこっちの心構えの問題だろうから。

 周りの雰囲気に呑まれずいつもと変わらない感情を維持している自分。ここまでくるとロボットじゃないかと自分を疑いたくなるほどに何も動かないので、荒療治するいい機会なのかもしれないと考える。


 だってここまで来て楽しめないなんて『普通』じゃないしね。


 なんて思い、そこからどうしようか考える。

 感情の起点はすべからくとは思わないけど、何かしら理由があると思っている。その人の価値観次第で感じる思い、抱く感情が違うのは当たり前。

 でもたぶん、大まかなところは一緒なのだろう。理由は違えど、分類は。


 となると僕はまだ楽しもうとしてないのかな。せっかくの機会だというのにね。


「…………」

「あ、あの、レン?」

「……ん? どうしたのレミリアさん」

「また考え込んでいる様子でしたが、やっぱり嫌でしたか?」


 不安そうに質問してきたので笑顔で「いやいや。レミリアさんと一緒に来れているんだから、嫌じゃないよ。ごめんね、考え事してて」と謝っておいてから自分の頬を叩く。

 隣でレミリアさんがビックリしているけど気にせず、自分の感情を童心に返しそうと思った。



 まぁひとまずは、演技でもいいから燥いでみようかな。次第に素になるだろうし。




 そんなわけで。


「さぁレミリアさん、次どこ行こうか!」

「え? レ、レン……大丈夫ですか?」


 なんか彼女にとても心配された。楽しもうとしたら。

 まさか初手で躓くと思っていなかったのでちょっとテンションが戻りながら、事情を説明することにした。


「この雰囲気に乗って遊園地を楽しもうと思ったんだけど……そんなに変だった?」

「!? い、いえ! ぜ、全然そんなことありません! とても驚いただけです!!」

「そうだろうね。というわけだから、これからちょっとテンション上げてくよ?」

「だ、大丈夫です! むしろ大歓迎です!!」


 彼女の言葉に苦笑しながら「じゃ、次はどこに行く?」と歩きながら聞く。


「えっと、次はレンが行きたいところで大丈夫です」

「あ、交互に指定してく系? そっちの方がいっか……というわけでホープ。聞きたいことがあるんだけど」

『なんでしょう旦那様』

「こっから近いアトラクションって何かある?」

『そうですね……大体人気のアトラクションが集まっている場所ですので時間がかかるんですが』

「あるの? 時間がかからない場所」

『はい。マニア以外に来ない場所なので、空いてます』

「それは?」


 好奇心のまま質問したらホープが黙ってそのアトラクションを表示した。レミリアさんはそれを見て衝撃を受けており、かくいう僕も思わず頬が引きずってしまった。


 だってコスプレ館だったから。そりゃそこまで人来ないわ。他に比べたら。


 少し考えてから、僕はレミリアさんに聞いてみた。


「…………行く?」

「え!? ほ、本当に行くんですか!?」


 もう彼女の顔は真っ赤だ。そりゃ恥ずかしいだろうけど。


『ちなみに特典として衣装五着まで無料で撮影できます! アニメから僕達みたいな衣装まで揃ってますよ!!』

「え、枚数制限ないの?」

『あ、一着につき一枚なので五枚です。すいません』

「あ、そうなんだ」

『旦那様女装しますか?』

「今すぐこの機械壊してもいいんだけど」

『前言撤回します申し訳ございません』


 なんてホープと漫才もどきをしていたところ、レミリアさんが視線を合わそうとせずに俯きながら「ど、どうしても行きたいのですか……?」と小さい声で訊いてきたのでう~んと自分の考えをまとめてから答えた。


「いやさ、コスプレ館って言葉を耳にしても実際に行ったことないから少し気になって。あとお昼になる前にもう一か所ぐらい回りたいと思ってさ。僕のクラスでも実際やってる人いるみたいだし」

「あれ? レンって他のクラスメイトとお話ししていました?」

「いないけど。黙っていれば情報は勝手に聞こえてくるでしょ。休み時間とか、登校時とかに」

「……え?」


 彼女の目が点になった。でも僕の方はそこまでおかしなかことを言っていない。黙っていれば他の人たちの会話が聞こえるのは誰だって同じなのだから。

 ま、それは今置いといて。


「行く?」

「……はい」


 しばしの間葛藤した彼女は、最終的に頷いてくれた。これが佳織だったら絶対に自分が行きたい場所を優先的に行きそうだな、なんて考えながら「じゃ、行こうか」と手を差し伸べた。



「ここかぁ」

『今ならすぐに入れますよ!』

「ありがと」


 礼を述べて、自然と手をつないでいるレミリアさんと一緒に扉を開けた。


 三階建てのほかに比べたらこじんまりとした此処。場所もちょっと外れた場所にあるからか人気が少ない。それでも人気があるらしく、今まで撮影した人たちの写真がホールの至る所に飾られている。


「いらっしゃいませ。チケット利用のお客様方ですね。連絡は受けていますので早速案内いたします」


 スタッフの方が出てきたと思ったらすぐに歩き出した。対応が早いのはそれだけ人が少ないからだろう。僕達の方が慌ててついていくことになった。


「こちらが衣装ルームになります。当然、撮影は一緒になります。着替えは男女別です……が、チケットの方々には他の方々とは違い一着特別な衣装がございます。それを着ていただくかどうかはお客様次第ですが、いかがいたしましょう」

「えっと、その衣装って教えてもらえるんですか?」

「はい。その衣装はずばり、ウェディングドレスとタキシードです」

「……あー」


 思わず納得。そりゃそうだ。このチケットは大人のデート用なのだから。

 これ本当に本命の人と来ないと悲しい結末しか迎えないんじゃ……そんな悲しいことを考えていると、レミリアさんが食いついた。


「着れるんですか!?」

「はい」

「着ましょう、レン!」

「え、いいの?」

「はい!」


 さっきまで恥ずかしがっていたのは一体何だったんだろうかと思わずにいられない食いつきぶりに、女性にとってああいう衣装は憧れなんだろうなと解釈してから「じゃ、それ最初にする?」と確認する。


「あと四着あるけど」

「あ、そうですね」

「よろしければカタログをお見せしましょうか? そうすればすれ違うことなくお決めになることができると思いますが」

「ありがとうございます」


 スタッフの意見に頷いたところではそこのベンチでお待ちくださいと言って歩き出したので、座ってから「それにしても、広いねぇ本当」と感心する。


「そうですね。ちなみになんですけど、私達がいる場所はこの遊園地の中間に位置しているんですよ」

「ってことは有名アトラクションって真ん中に集結しているの、此処」

「はい。それを囲うようにブース……というより、テーマですね。それに関係するアトラクションが集まっているんです。そこに関係したレストランとかも」

「は~すごいなぁ……雰囲気合わせか。徹底的だね」

「お持ちしました」


 レミリアさんにレクチャーを受けていたところ持ってきてくれたようなので、それを受け取って広げてから彼女との間に置いて「それじゃ、決めようか」と言った。

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