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ようやく

 それから説明を受けている間に準備が整ったということなので、おとなしく案内されてどうもここに滞在するときに必須なアイテムを受け取って装備し、園内へ。


 といっても普通の入場口からではなくスタッフが出入りしている場所からだけど。


「それではお楽しみください」


 そういうとスタッフは一礼する。境界線で動かないのを見るに、見送りのつもりなのだろう。

 その人に頭を下げてから園内に視線を移し、人の多さとアトラクションの数に僕は圧倒される。


「……すごいなぁ」

「……ふふっ」


 隣で笑われたのが分かったけど、気分を害して時間をつぶすのももったいないのでさっさと使う。

 入園時に渡された、この遊園地のナビゲートや行列状況、果ては精算までを管理、実行してくれる腕時計型のデバイスを。

 何でも入園者はこれを装着するか、有料アプリで配信されている似たようなものをDLしていることが条件らしい。事前情報のない僕はそもそも知らず、レミリアさんはアプリをDLしていなかったから二人とも前者という選択をとることに。


 で、それがこのチケットのせいか、ピンク色でハートがあしらわれたものでペアルック。確かにデートとかで同じものを身に着けている人は多いようだけど、これは少し恥ずかしい。

 ただ恥ずかしがってもいられないので起動させるために側面の突起を押す。


 すると時計が見える場所から映像が飛び出た。


『起動ありがとうございます! 初めまして、私此処のマスコットキャラを務めております「ホープ」と申します! 本日はよろしくお願いしますね旦那(・・)さま!』


 反射的にもう一度同じボタンを押して終了させる。


 その行動を彼女を見ていたらしく、「あ、あのレン? どうしたんですか? 顔が少し赤いようですけど……」と心配された。

 これ本当にデート用なの? と彼女に対し適当に返事をしてからもう一度ボタンを押して起動させたところ、ホープと名乗ったここのマスコットキャラクター――少年みたいな容姿で瞳の中に星がある――が、『申し訳ございません!』と頭を下げていた。


『マスター方に特徴を聞いてきました。いつもの応対(マニュアル)通りにやって不快になられたのなら申し訳ございません』


 会話できるんだ、これ。感心しながらも、特に驚くことはない。だって普通のことだし。


 AI……これは昔の呼び名だっけ。今は確か電子人。僕達が生み出した、データでありながら僕達と遜色ない言動ができる存在。こういった施設内の案内や、さっき言った動画の主役として登場して人気を博している。

 最近では彼らと一緒にできるゲームが開発されているとか言われている。


 そんな彼らを一から作るって確か途方もなくお金がかかるはず……そんなことを考えながら「ああうん。次からちゃんと装着者の特徴を聞いてから挨拶しようか」と軽く注意する。あの不意打ちに怒るのも変な感じがするし。


 彼もそれ以上引きずる気はないのか『気を取り直しましょうか』と言ってくれたので相槌を打ってから、質問する。


「ところで、一応このチケットコース制らしいんだけど、具体的なルートは決まってるの?」

『決まってません! 私達はおすすめのアトラクションをお教えし、その混雑状況などを報告、ルート検索などをするので!!』

「つまり、勝手に回れってことね……」


 ずいぶん投げやりだなと思いながら彼女に視線を向けたところ、起動させたようだ。が、僕と同じように反射的に終了させてしまった。顔は僕以上に真っ赤だ。


『……重ね重ね申し訳ございません』

「悪気はないんでしょ? なら別にいいよ」


 ホープとそんな会話をしながら、ゆでだこをほうふつとさせるほど赤く染めて動かない彼女の手を握り、引きずるようにこの場を移動した。


 さすがに動かないのも怪しまれるしね。



 ホープに施設の案内を聞きながらレミリアさんを引きずって少し歩いたところで彼女が戻ってきた。


「あ、レ、レレレン!?」

「戻ってきたんだ。とりあえずそれもう一度起動させたら? ここ広いから起動させないときついよ」


 意識が戻ってきたようなので立ち止まって手を放し、起動を促す。

 彼女が恐る恐るといった感じで起動させたところ、映し出されたのは正座して頭を下げる――土下座の姿勢をしている電子人の姿。


 レミリアさんが驚いている傍らで、僕はホープに話しかける。


「僕と態度違くない?」

『遅く起動されたのに同じことを繰り返したからこってり絞られたんです。それに、土下座してご主人様はどう思います?』

「あ、そっちになったの今度は……まぁ、驚きはするだけだね。というかご主人様やめて?」

『あ、すみません。私お客様のお名前を言えないようプログラムされていますので。それに、私たち専用のペアチケットで入園したのですからそこらは我慢していただくほかありません』


 なんで案内する側に諭されているのだろうか。

 でもまぁ旦那様よりマシであるのは明白なので、「分かったよ」とあきらめてうなずく。

 ちなみにレミリアさんは「お、お嬢様ですか!?」とか驚いていたけどその呼ばれ方にするようだ。まぁ最初の方がインパクトと恥ずかしさはあるし。


 気を取り直して。


「レミリアさん、最初どこに行きたいの?」

「へ、ええっとですね……」


 慌てながら施設をいくつかピックアップしていき、そのうちの一つを恥ずかしそうに言った。


「そのコーヒーカップに行きませんか?」

「?」


 コーヒーカップ? なんでコップがアトラクションなの?

 意味が分からないので真顔で何も言わないでいると、レミリアさんが確認するかのように問いかけてきた。


「あの、遊園地に行ったことはないと言っていましたが、ひょっとしてアトラクションも知らないんですか?」

『このご時世知らない人の方が希少ですよご主人様!』

「ジェットコースターに観覧車にお化け屋敷……バンジージャンプとかでしょ?」

「でしたら、どうして知らないんですか? 結構有名だと思うのですが」

「有……名…?」

「え?」


 えっと、変なこと言ったのかな? ……いったんだろうな。

 彼女の表情から当たりを付けたところ、真剣な表情で僕を見たと思ったら手をつかんでそのまま歩きだしてしまった。

 今までとは逆転した構図に驚きながらもおとなしく歩みを合わせると、ホープが『ここから五分ぐらいかかりますよご主人様』と目的地に到着する時間を教えてくれた。


 笑顔で。



 レミリアさんに引っ張られながら歩いて到着した、彼女が言っていたコーヒーカップ。言いえて妙な名前だけど、正式名称が何なのだろうか。


 というより。


「回るだけで何が楽しいの? メリーゴーランドや観覧車でもいいじゃん」

『ご主人様、当アトラクションの批判はやめてくださいませんか!?』

「分からないなら乗りましょう! そして感じてください!!」

「え、あ、うん」


 もう勢いのまま、されるがままに歩く。説明してくれないのは面倒なのか、言葉では表せないからかわからないけど。なんて考えながら。


 それなりにある行列の最後尾に並ぶ。ご丁寧に『待ち時間は三十分ぐらいですね』と報告してくれるホープには感心する。


 ここまで来て途端に挙動不審になっている隣のレミリアさんの雰囲気を感じ取りながら、こんな風に薦められるのは初めてだなぁと思う。だってみんな、僕が疑問に思うことに絶対的な自信をもって答えてくれないんだもん。途中で詰まって向こうが諦めるものだから、ね。


 なので僕の周りにあるほとんどは自分で使いたいなと思ったものが置いてある。プレゼントはともかくとして、部屋に物がないのはそれも関係している……はず。


 そろそろ大工道具を家に置いてもいいかなぁと考えていると、「す、すみませんレン……」と謝る彼女。


「気にしなくていいけど。レミリアさんがあんなにアグレッシブだったの初めてのような気がしたし」

「そ、それは……レンがあのままだったら動かないと思ったからで……」

「あー、それは。うん。ありえるね」

「ここまで来てただ時間を浪費するのもって思いまして」

「そうだね」


 実際それは十分にあり得たので頷いておく。どうしても否定から入ってしまうのが原因なのだろうけど、果たして治せるのだろうかと思いながら。


 そこから無言になり、行列の流れに乗って僕達の番に。

 スタッフは僕たちの顔を見た瞬間に「こちらにお乗りください」と指定してきた。

 まぁ特別チケットなのだからこういうのでもあるよねなんて納得しながら指定されたコップを見て、思わず絶句する。レミリアさんは瞬きを繰り返すだけ。



 だって、めちゃくちゃ装飾されているのだから。



 これさ、苦行じゃない?

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