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入園はサプライズとともに

 列が動いたので思わずそれに合わせて行動したことから考えるに、もう先頭は入園しているのだろう。

 まぁ確かにここまで広ければ何回来ても飽きないだろうけど。そんなことを考えながらゆっくり動く人込みを眺めていると、「驚きましたか?」とレミリアさんに聞かれたので「少しはね」と返す。


 ここパラダイスランドは前にも言った通り島一つ丸々遊園地の施設がある……と言うと語弊があって訂正すると、遊園地となるのは八割ほど。残り二割が社員寮や彼らが使う商店など。だから「ほぼ」だね。

 で、確か聞いた話だと遊園地内にホテルがあるとか。それも、グレードがあるらしい。まぁ泊まってまで満喫したいなんて思わないから僕的にはどうでもいいけど。


 というか、全アトラクション制覇するのに何日かかるんだろう。純粋に疑問だ。


 待っている間は暇なので、彼女に経緯を聞いてみることにした。


「そういえば誰から貰ったの、これ?」

「えっと、此処の事務所の所長からですね。特別扱いしてるわけじゃないけど、って前置きされて貰いました」

「…………フラれたのかな?」

「なんでそんな発想になるんですか!?」

「というか、所属人数どのくらいなの?」

「世界規模で言いますと1000は超えてるはずですね。年に一度全員集まってのパーティがあるんですけど、会場がとにかく広いですし。ここは……新設したばかりなのでまだ異動希望を出した人だけですね。10人位ですよ」

「なんだかんだでお金あるんだねぇ」

「ははは……」


 そんな感じで芸能業界事情。とはいっても僕は圭ほど知らないし受け売りだから大雑把に説明すると。


 俳優やタレントを抱えている会社と、芸人を抱えている会社、そして歌手やバンドを抱える会社に分類されるんだけど、いろいろ変遷を経て芸人は1社だけ、俳優・タレントは2社のどちらかに所属していることがまず前提となる。個人事務所は消滅した。だから、なりたいならそこが経営している学校行ったり、スカウトされたり、家の関係プラス実力があると認められることが必要となる。

 音楽業界は10社ぐらいあるんだけど、所属せずに個人、あるいは集まった人たちで自主制作するからほかの2業界よりは混沌としているらしい。


 …………ああ。個人で動画を撮影してサイトにアップロードしている人たちもいるけど、その人達の半分は危険行為に関しての注意喚起だったり、解説してくれる親切な人たちで、もう半分は自分の成果物を世間に見せたいという目的で上げてるらしく、芸能界に干渉していないらしい。一度見たことあるけど、これを本当に人の手で作ったのかと思ってしまうぐらい完成度の高いものだった。


 ゲーム攻略とかも上がっているけど、それぞれ自分の楽しみ方を見つけているらしい。それに共感するものや鼻で笑うものがいて毎度論争になるんだとか。


 そんな身の回りの芸能情報だけど、知ったのは割と最近。そもそも興味がなかったし、そこまで視野を持つほどの余裕もなかった。


 ……今度日曜大工の動画見てみようかな。みんなどんな作り方してるのか、どんな道具使っているのか興味出てきたし。

 そろそろテーブルの設計図書かないとなぁと考えていると、「ちなみに、私と同年代の方が多いんですよ」と言われた。


「へぇ。姉さんが連れてこない限り接点もなさそうな話だ……というか、いきなりどうしたの?」

「いえ……なぜか話が上の空で進行していた気がしたので」

「ああ、ごめんごめん」


 気がした、ね。なかなか鋭くなってるような気がする。ひょっとして僕の表情とか観察されているのかな?

 だとしたらまだ頑張らないといけないのか。大体の人が僕の感情を読み取れないとか言ってるから安心(・・)してるけど。


 『表情とは、人が感情を表すために必要だが、社会に紛れるなら隠すことを意識しろ』――小学生になる前に叩き込まれ、今も芯の一部として機能しているその言葉に従っている。というか、実際そうしないと今僕が生きている気がしない。

 まぁ別に本心が見抜かれているわけじゃないからいいのかな。警戒しなくて。

 そんな結論に至ったところ、僕達の番になっていた。


 そのまま進んだところスタッフの方に「チケットをお見せください」と言われたのでそのままの画面を見せる。もちろん彼女も。

 そこで気づいた。


 二人同時に見せたそのチケットを見たスタッフ二人が、一瞬獲物を見つけた狩人のように表情を消したことに。

 一瞬、だまされたのかと考えたけどすぐさま笑顔に戻り「すみませんが、お二人ともこちらへ来ていただけませんでしょうか?」と言われたので、柔らかい言い方してるけど実際は強制だよなぁと思いながら「わかりました」と素直に従う。レミリアさんはどこか不審な目をしながらも僕と同じようにうなずいた。


「申し訳ございません。ではこちらに」


 周りの人に何事かという視線を向けられながら、このチケット実は面倒なものだったんじゃないだろうかとという疑問に駆られた。



 スタッフの一人の後ろについていくと、入り口から少し離れた場所に小ぢんまりとした事務所みたいな家に案内された。


「どうぞ中に」

「あ、はい」


 促されるまま中に入ったところ、そこは応接室なのかスタッフの休憩室なのか判断しづらいけど、ロッカーに冷蔵庫、そしてソファにテレビが置いてあった。

 案内してくれた人はそのままソファに座り「お座りください」と言って反対側のソファを示したので、不通に座る。

 この時点でこのチケット実はすごいんだなぁという感想を抱いたんだけど、レミリアさんはやっぱり怖かったらしい。


「すみません。私たちのチケットに不備でもあったのでしょうか?」


 まぁ当然と言えば当然だ。貰ったチケットでこうなったのだから不思議でしょうがない。

 その疑問に対し、向こうの方は「怖がらせて申し訳ございません」と謝罪を一言述べてから「そのチケット自体はきちんとこちら側で発行したものです」と説明を始めた。


「そうなんですか」

「はい。それでここからお二方が知らないだろうという前提で話を進めさせてもらいますと……そのチケットはカップル、それも成年された方々向けに発行しているペアチケットなのです」

「え!?」


 彼女はとたんに顔を赤くして驚く。僕の方はというとそれほど驚くことはなかった。

 いやだって、ねぇ? 僕達だけってことはチケットをくれた人側に原因があるんだし。となると僕の予想もあながち間違っていなかったってことになるのか。悲しいけどね。


 でもこれってどう処理するんだろうと向こうの対応について内心で首を傾げていると、「ですので、今回お二人には本来のオプションのうち成年向けの機能は使用不能とさせていただきますが、よろしいでしょうか?」と言われた。


 なるほど。もうほぼそのまま流用しても問題ないってことか。まぁデート用のチケットらしいしね。

 想像を膨らませると成年だとホテルかな? まぁた何とも重いコースだ。何も知らずについてきても、最後の最後でフラれるんじゃないかな、これ。

 誰とも付き合ったことがないながらの想像力でそんな結論を出しながら、「僕は大丈夫だけど、レミリアさん大丈夫?」と質問する。


 彼女は真剣な顔つきで何かつぶやきながらテーブルを見つめていた。

 何回か瞬きして見つめていたところ、視線に気付いたのかこちらを見て我に返り、続いてスタッフの方に顔を向けて「え、あ、すいません。もう一度教えていただけないでしょうか?」と質問する。


「要は、ある程度制限はありますが、特に問題はありませんというわけです」

「あ、そうなんですか……はい、大丈夫です」

「そうですか! ありがとうございます!!」


 そういうと無線機を取り出して彼は、誰かに僕たちが了承したことを伝え「すみません。準備が整うまではもうしばらくここにいてもらいます」と申し訳なさそうに言って席を離れ、飲み物をくれた。


「こういうことってありませんでしたか?」

「そうですね。年齢が近しい方々ぐらいでしかありませんでしたね」


 ま、そうだろうね。

 する必要のない確認をしてから出された飲み物を飲む。お茶のようだ。

 こういうのすら園内だと高いのはどうしてだろうと内心で首を傾げていると、「あ、あの、レン」と小さい声で彼女が呼んだようなので視線を向ける。


 彼女は僕の方を見ずに俯き、若干顔を赤くしながら「す、すみませんでした」と謝ってきたので「別に大丈夫だよ」と答える。オプションのあるなしってだけだし。

 と、ここでその肝心なオプションについて聞いてなかったことに気付いたので、「そういえば」と話を切り出す。


「なんでしょう?」

「いえ、このチケットが大人のデートプラン用のチケットだというのは分かったんですが、どんなオプションがあるんですか?」

「あ~そうですね、その説明をいたしましょう」


 僕の質問でスタッフは納得したようで、説明を始めた。

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