遊園地へ
なんだかんだで六十話。読んでいる人たちがどう思っているかわかりませんが、
翌日午前五時。
いつも通りに目を覚ました僕は彼女は果たして眠れないままになっていないだろうかと心配しながら服を、それなりに見栄えのよさそうに思うものに着替え財布・家の鍵・携帯・本をバックに入れて下に向かう。
「とりあえず洗濯物しようかな」
レミリアさんが起きていなかったので日課をする。そこでふと朝食どうするんだろうと疑問に思った。
順当に考えれば駅弁とかそこらだと思うけど……。
そこらは訊いてみればいいか。そう結論を出し、僕は洗濯機のドラムが回る音を聞きながら彼女が起きてくる間にコーヒーを飲むことにした。
五時半。
二階からどたばたと音が聞こえだした。レミリアさんが起きたようだ。
洗濯機が終わったので干そうとしたときに聞こえたので、だいぶ慌てているなぁと苦笑していた。今日の天気は晴れるようだし、降ったとしても姉さん達がいるから大丈夫だろう。
あーバイト、どうしようかな。洗濯物を干しながら考える。最近出費が嵩んでいるから、貯金額が減り続けているの目にすると、危機感を覚える。
こういう感覚両親にないのかなと疑問に思いながら、当面の金策としてのバイトしたい職業について考えながら洗濯物を干していった。
干し終わったころにレミリアさんが下りてきた。色は統一したようで、清楚とか可憐って表現して間違いないと思う。今肩で息をしているけど。
「お、おはよう、ご、ございます……」
「おはようレミリアさん。歯を磨いたら行こうか?」
「は、はい……」
歯を磨いて時刻は五時五十分。出発時間にはまだ早いけど、僕達は家を出た。レミリアさんは茶色のハンドバックを両手で持って。僕は子供の頃に使っていたリュックを背負って。
並んで歩いていると、彼女のほうが声をかけてきた。
「そ、そのリュック、可愛いですね」
「一番容量少ないのがこれしかないんだよね。ま、小学生の頃だけしか使ってないし、ほつれもあまりないから。でも成長して使うとやっぱり違和感あるなぁ」
「あはは……でも最近そういうの流行っていますし大丈夫ですよ」
変な目で見られなくて済みそうなのは分かったけど……。
昨日から聞きたかったことを丁度良かったので質問してみる。
「ところでレミリアさん」
「は、はい!」
「今回行く遊園地ってどんな感じなの? というか、名前何?」
その質問に対し彼女は少し悩んだ様子を見せてから「そ、それは到着してからでいいですか……?」と確認をとってきたので、一応主導は彼女なのだから強気で言われても文句は言わないんだけどなぁと思いながら「そういうことなら」と引き下がる。サプライズ的なものと解釈しておく。
で、こうして普通に歩いていると、彼女のお腹が鳴ったようだ。朝早くに起きて何も食べていないのだから当然だろうね。顔を赤くしてお腹を押さえている姿が可愛いけど、そこに触れず「早くいかないと電車に間に合わなくなるんじゃ?」と、ハッとして「そ、そうですね!」と言って駆け足になる。
食事はとりあえず駅についてから切り出そう。そう考え、僕も後を追った。
電車には間に合った。朝食は駅弁だった。
で、今は国内にある世界最大規模と名高い遊園地『パラダイスランド』へ向けて移動中。
直通便だからみんなそこへ行くのかな……なんて駅弁を食べながら周囲を見渡して考える。
子供の燥ぐ声や、大人たちの世間話や与太話。はては友人同士で行くからか、予定の確認をする女性達。
みんながみんな楽しそうにしている。そこまで魅力的なのかは疑問だけど、彼らにとって良き思い出になるのだろう。
彼らの気持ちに果たして共感できるのだろうかと表情を変えずに弁当を食べつつ、隣で細々と食べているレミリアさんを見る。
いきなりこういう場所に誘うなんて何か気持ちの変化があったのだろうか。あるとしたら誰かに後押しされたかだろうけど。
最悪お別れの恩返しかな。そんな予想をしながら、ちらちらと乗客たち(主に男)が向けてくる視線についても考える。
まぁそんなものはレミリアさんが綺麗で可愛いからに決まっているんだけど。あとは隣にいる僕に対する嫉妬? 彼女のもう片方の隣は女性だし。
この場合はどう見られているんだろうか。運よく隣を座ることができているラッキーボーイなのか、彼氏なのか。……半分半分かな。
弁当を食べ終えたので片づけてからバックに入れ、あと一時間ぐらいあるので本を取り出して読み始めた。
電車の動きがゆっくりになったようなので本を閉じてバックにしまおうとしたところ、右肩に感触が。
思わず視線を向けたところ、レミリアさんがしなだれかかっていた。集中していたからか気づかなかったらしい。
……いや、普通は気づくんじゃないだろうか。僕はどこまで集中していたのだろう。荷物盗まれてないかな。
『安心してください。お二人の荷物を盗むような不届き者はいませんでしたよ』
『ありがとシルフ』
自然とやってくれたことに礼を言ってから、とりあえず彼女をゆする。
「レミリアさん、レミリアさん」
「う、うぅ……レ、レン…………?」
ゆすられて目を覚ましたのか寝ぼけ眼で僕の顔を認識し、同時に意識が覚醒したのか顔を真っ赤にして慌て始めようとしたので「ここ電車だからね」と注意する。
それで慌てて自分の口をふさいでからしばらくして落ち着いたのか、手をどかして「す、すいませんでした」と照れ臭そうに謝ってきたので気にしていなかった僕は「疲れてたんでしょ」と言っておく。実際昨日はそれなりに遅かったし。
二足の草鞋って本当に大変だよね。よくやるよ。
毎回そんな感想を抱いてるけど、いう気はない。気分を悪くしそうだしね。
これから何て言おうかなと思ったところ『まもなく終点です』とのアナウンスが聞こえたので「もうすぐ到着だね」と言っておく。
「は、はい。そうですね……」
「レミリアさんって何度か来たことあるの?」
「あ、はい。何度か用事がございまして」
「そうなんだ。だったら、レミリアさんに案内してくれるんだね。お願い」
「……はい!」
元気いっぱいに返事をしてくれたので復活したようでよかったと安堵して、彼女の手を自然と握りながら電車を降りた。
握った手がほんのり暖かかったのは、彼女が驚いていたからだろうね。
電車を降りたら人ごみに流されそうになった。彼女の手を握って正解だった。うん。
だいぶホームが混雑している。その中で僕たちは離れ離れにならないように手を握っているのが功を奏しているのか、この混雑の中でもお互いの姿が見えるぐらいには近くにいた。
もうこうなったら彼女は緊張しないのか、僕の手を強く握って「えっと、どうしましょう?」と苦笑しながら聞いてきた。
「どうしましょう、ってね……。とりあえずはこの人込みから……」
抜け出さないと。そういおうとしたところ、『ご来場のお客様方に連絡します。ホームが混雑の極みとなっておりますので電車が出発いたしません。申し訳ございませんが、列を作り詰めてください』とのアナウンスが流れてきた。
その結果どうなったかというと、先頭の方が段々列を作り出したらしい。四列となったようなので、うまい具合に僕とレミリアさんが隣同士になるように調整して、並ぶ。
そしたらいい具合に中間ぐらいになったので、彼女の手を放して「一時はどうなることかと思った」とつぶやく。
「そうですね。離れ離れになったら困りますもんね」
「そうなんだよ。僕チケット持って……ないんだけど?」
ペアチケットにしろ、チケットないと僕がどうしようもないんだけど。
そんなことを思いながら彼女を見ると、思い出したのか「あ、すみません!」と言って携帯を取り出す。
「今、送りますね」
「ごめんね」
「い、いえ。私が忘れてたので!」
そういいながら操作していたらしく、少しして携帯に『レミリア・ジャンヌさんからチケットが送られてきました』とメッセージが表示されたので『OK』を押す。
そのまま画面を表示させると、パラダイスランドの招待チケットだった。普通に入園するだけで万近くのお金がかかったはずなのに、こんなものあるんだと思わず感心する。
で、このチケットを眺めていて何かおかしい気がしたんだけど、それが何かまでは分からない内に列が動き出した気配がしたので、慌てて前を向いて動きを合わせることにした。
記憶に残れば幸いです




