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恩返し(人)

お久し振りです。生きています。

 バステトさんと散歩していた途中で僕の中の何かが切れたらしく、大黒が慌てて乱入してきたことでそれ自体が終わったお詫びとして魚一匹その日に送られてきた。


 それ自体は問題はないんだけど、なんでグレードが上がっているんだろう。高級品送って誠意を見せているつもりなんだろうか。

 そこまでしてもらう気はなかったんだけど……と思いながら鱗をとってきれいに三枚におろした僕は、使い切れないよなぁと思いながら思いつく限りの魚料理を作ることにした。買い物に行ってからね。


 さくさくと料理を作っていく。刺身に始まりカルパッチョ、竜田揚げ、あら汁……使える部分を全部使う勢いでやってみたけど、残念ながら一般家庭では半分消費するのも難しいと実感した。大きく切り分けてステーキとか作ってみたのはいいけど、テーブルに乗せ切れなかった。

 絶対何か言われるなぁと思いながら、自分の分の寿司を握って一人で夕食をとった。


 午後七時。両親が帰ってきた。ソファに座ってテレビを見ながら考え事をしていたから適当に返事をした。

 で、案の定リビングにきて二人は言葉を失ったようだ。


「もう外でないだろうからさっさと荷物置いてきてよ二人とも」

「お、おう」

「そ、そうね」


 いそいそと二階に上がった気配を感じ、誰かに相談してみようかな一応と結論を出してキッチンへ向かった。


 寿司を握るためにね。



 両親が僕が寿司まで握ったことに驚きが隠せないのを尻目に、手を洗いながら反省点を考えていた午後七時半頃。姉さんが疲れたような声で、レミリアさんは久しぶりに上ずった声で「ただいま」と言っていたので「おかえりー」と返しておく。


「はぁつか……」

「お、おお渚。早かったな」

「おかえりなさい、二人とも」

「……また無駄な出費したの、二人とも」


 疲れてるのがわかる表情がさらにくっきりと分かってしまいそうな感じで姉さんが両親に尋ねると、二人は声をそろえて「今回は違うぞ!」と否定する。


「私達が帰ってきたときにはすでにこの状況だったんだ!」

「そうよ! たまに誘惑に負けそうになる時はあるけど、連の顔を思い出して自制してるんだから!!」

「なんで踏み止まるのに僕を思い出さないとダメなのかなぁ……貰ったんだよ。知り合いに。脂乗ってておいしいよ。まだ半分以上あるけど」

「……あんたの人脈どんな広がり方してるのよ」

「あ、あの渚さん。どうしたんですか?」


 見てないレミリアさんが姉さんに尋ねると、「先に着替えてくるわ」と翻して二階へ上がる。

 必然的に現状を見ることになった彼女は、瞬きを数回してから感想を叫んだ。


「豪華すぎませんか!?」

「こうでもしないと消費できないし。あ、着替えるなら先にどうぞ」


 そう促したら彼女は慌てて二階へ向かった。

 戻ってくるまでに魚料理のレパートリー増やす努力しないとなぁと携帯で調べ物をしていると、「相変わらず美味しいな」と父さんがしみじみ呟いた。


「それにしても、お寿司も握れたのね」

「片手で数えるほどしか握ってないから初心者に近いよ、恥ずかしながらね。自分の分だってシャリが多かったり握りすぎたし」

「……そこまでひどいか、これ?」

「別に気にならない程度じゃない?」

「それらも実は店の人からしたら、減点物のミスがいくつかあるんだよね」


 そういうと両親から、お前はどこを目指しているんだと声を揃えて言われたので、少なくとも家から出ても困らない程度をと冗談めかして答えながら寿司を握り始める。

 僕が握り終わる頃には二人は席について言葉を失っていた。


「それにしてもまさか寿司まで握れるとはね……料理に関しては何でもできるんじゃないの?」

「出来ないこともあるんだけど。弟のハードルをむやみに上げないでくれる?」

「ちなみに、何が出来ないのよ」

「……ジビエの解体。一回見たことがある程度だからあんまりやり方わからない。あとは、キノコの採取ぐらいかな見間違いそうになるだろうし。他は……あんまり覚えてないや」

「それ出来たらびっくりどころの騒ぎじゃないからね」


 そりゃそうなんだろうけど。

 姉さんの発言に肯定し、そういえばレミリアさんって魚料理苦手だったかなと今更気になったので、料理を見つめている彼女に「食べれる?」と今更な質問をする。


「え、あ、大丈夫です。い、いただきます!」

「はいどうぞ」


 ……どうしたんだろうか。態度がかなりよそよそしい。結構あるけど、ここ最近は普通だったのに。

 ひょっとして彼女、明日何かしたいのかな? 彼女の思考をさりげなく考えてみる。

 誰かと遊びたいなんて、そこまで勇気のいることだろうか……ああ、男性を誘うならそうかもしれない。彼女、少し奥手というか緊張するみたいだし。


 まぁ頑張ってほしいね。そんなことを思いながらいつも通り両親が使った皿を片付け終えたので、ソファを両親に陣取られ、一人で座れる場所がないので立ったまま「そういえば明日の朝食作るの?」と聞いてみる。


「私達休みになったからいらないわ」「そうだな」

「私もそうね。マネージャーに週一の休みを取って家族の時間を大事にしてって言われたわ」

「じゃぁいらないのね」


 ふぅむ。今更過ぎるその動きに反論してもいいけど、いい結果にならないのが目に見えているので黙ろうとして、ちょっと話を聞いてもらおうかなと父さんたちが帰ってきたときから考えていたものを相談することにした。


「あの「あ、あの、レン!?」……どうしたの、レミリアさん」


 いきなり割って入られたけど、それくらいでムッとすることはないので話を促す。食べていた彼女が急に声を上げたのが珍しいのもあるけど。

 そんな僕の配慮を彼女は「え、さ、遮ってすみません!」と謝ってきたので「別に僕のほうはくだらない用事だからいいんだよ」と言っておく。


「で、僕に何か用?」

「あ、あの、その、わ、私と!」

「うん」

「ゆ、遊園地へ行きませんか!? チ、チケット貰いましたので!!」


 あれ、僕誘うのに緊張していたんだ。いや、いつもしてるけどさ。少しは慣れるものじゃないだろうか。

 そんなことを思いながら「遊園地ね……」と思わずつぶやく。


「あ、あの、ダメ……ですか?」

「ん? いや、行ったことないんだよね、実は」

「……え?」

「「「は?」」」


 正直に答えたら、みんな目を見開いてこっちに視線を向けていた。


「あんた、遠足とかでいかなかったの?」

「そういう日は大体休んでた。誰にも邪魔されないからのんびりしてたよ」

「「「「…………」」」」

「あと修学旅行とかは前日に風邪ひいたりして丸々休んだね。だから去年の夏休みに行ったのが初めてになるのかな」


 そこまで言うとみんな何とも言えない表情をする。レミリアさんと姉さんまだ食事中なんだけど、時間が無くなるのにいいのだろうか。

 指摘せずに話題を戻す。


「で、一緒に行きたいの、僕と?」

「……え、あ、はい」

「ふぅん……別にいいけどさ。僕お金ないから一緒に楽しめないよきっと」

「そこは大丈夫です! 私に任せてください!!」


 そういわれると、やっぱり申し訳ない。僕のためなのか自分のためなのかわからないけど、そこまでしてもらうのは。

 彼女が元気よく返事してくれた言葉を否定しようと思い口を開いたところ、先に姉さんが喋りだした。


「良いんじゃないの? 少しは他人の世話になることに慣れたほうが」

「でもさ…」

「人の厚意を無碍にするなんて、気持ちを踏みにじるようなものでしょ」

「それぐらいなら頻繁にやってる気がしないでもないけど」

「……それをやめる第一歩にしなさいよ。別に誰も彼もがあんたに対して取引とかしたいわけじゃない。純粋にお礼がしたい人だっているのよ」


 言うだけ言ったのか食事を再開する姉さん。確かに人類すべてがだめだなんて思わないし、トップにふんぞり返っている人でも屑じゃない人がいるかもしれない。そして、僕に対してやってくれることに裏がないだろうということも考えられる。


『だから難しく考えすぎです』

『いや、保険というか最悪の可能性の考慮は必須でしょ』

『この場合、純粋に貴方にお礼がしたいと受け取ればいいのでは?』

『…そうかな……』


 シルフにお説教を相変わらず受けながら、彼女に言われたことを考察して納得する。

 まぁ確かに。あそこまで緊張して誘ってくれているのだからそこまで斜に構えなくていいのかも。お金に関しては…………甘えてもいいのかな。彼女が大丈夫と言ってるのを信じて。


 最終判断をして了承する意味で頷いたところ、彼女は瞬きをしてから「ほ、本当に大丈夫なんですか?」と聞き返されたのでもう一度頷く。


 すると彼女は笑顔になってから真顔に戻り、「そ、それじゃ、明日の朝六時ぐらいに出発したいんですが、大丈夫ですか?」と確認してきたので苦笑しながら「いつもの起床時間と変わらないから大丈夫」と答える。


 それが聞けたので満足したのか、彼女は時々にやけながらも食事を再開した。


 ……まぁ、保険としてある程度のお金を持参しておこうかな。

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