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切り替わりは鮮明に

新年度最初の更新となりますね。

 色々と気が重くなったのでそのまま帰ったらレミリアさんが食べずに待っていた。一緒に食べたかったからと照れ笑いを浮かべられては、なんといえばいいのか言葉が見つからない。

 姉さんが作ったという料理は、特に変わったこともなく美味しかった。「ダメ出ししていいわよ」とか言われたけど、料理に正解はない。作る人それぞれに考えがあるのだから、それを批判するのはなんというか、もったいない。あまりにもまずければ言うよ、勿論。


 そんなことを言ったら姉さんが苦笑していたけど。両親も。


 で、レミリアさんは今日自分の身に起こったことを話してくれた。業界に関して興味もないしそも今日学校に来ない理由がそれで確定していたから、それ以上深く知る気もない。

 思えばこんな風に食事をしながら誰かと会話すること自体なかった気がする。半分以上は一人だったし、両親は二人で話してることも多かったし。


 食べ終わってから食器を片付け、なんでいきなりこんなことになっているのだろうかとぼんやり思う。


 レミリアさんは必死に話しかけてくれている。僕はそれを受け入れているふりをして返している。誰にだってそうだ。ただ、相手側が勘違いしているだけなんだ。何も伝えないから。なにも伝わらないから。


 問題があるとしたら自分側。伝わらないと相手を、全人類を見限っているから、言わない。実際はごく一部なんだろうけどさ、僕の人生で遭遇するならその一部の割合の方が高い気がする。なんとなく予想だけど。


 前にも言った。『僕は僕以外のことに関して興味がない』と。

 他人は他人。他人の状況や現状が気になるほどお人よしでも人間でもないと。

 そう思っているんだけど、レミリアさんには甘かったり庄一の心配や圭とは楽しく話している。佳織との再会は割と嬉しかった自分がいる。


 圧倒的な自己矛盾。どうでもいいのに、いざ行動を共にするとそれなりに気にかかってしまう。よせばいいのに首を突っ込んで一緒に悩んだりする。


 人間の多面性を見ているようで頭が痛くなるなぁと考えていたら、朝食の準備をしていたらしい。レミリアさんが「レ、レン!」と叫んだので我に返って気が付いた。包丁握って野菜切ってるんだもん。自分でもびっくりだ。


「何作るつもりだったんだろう……?」


 思わず漏れた言葉を聞いたのか、レミリアさんは引いていた。


「え、無意識、ですか……?」


 誰だってそうなるか。苦笑しながらその結論を出して「そうみたいだ」と答え、切ってある材料から自分で作ろうとしていたものを判断する。


 多分おかずなんだろうけど……この切り方から察するに煮物かな?


 出してある食材からもそう予想を立て、もうこのまま下準備――煮物だったら煮込むので実質調理――を始める。

 切ってはボウルに。切ってはボウルに。その繰り返しで使う食材を切り終えたら、本当は一種類ずつが良いらしいんだけど、そんなにコンロがないのと面倒なので一つの鍋に全部ぶち込んで、薄い味付けで煮込む。あんまり感覚でやると失敗の元なんだけど、三十分ぐらいの感覚でやめる。薄い味付けの理由は、味を吸い込む以上、最初から濃いと食べたら悪影響を及ぼす料理になるから。初めて目分量でやった時の味は思わず鍋ごと捨てたくなったぐらい濃かったし。


 で、待ってる間は包丁とかまな板とかボウルを洗って拭いて片付ける。やり終わると大体十分掛からないんだけど。

 レミリアさんが呆然とこちらを見ている中、ひょっとして調理風景初めて見たのかなと考えながら次の料理を考える。元々無意識に作り始めていたので献立が何一つできていないし。


 そう言えば食材何があるんだろ。鍋蓋が勢いよくカタカタ揺れているのを確認して火力を落として材料を見ることに。


 と、ここでレミリアさんが再起動したのか「あ、あの!」と勇気を振り絞った感じで呼びかけてきたので材料の良し悪しを見ながら「どうしたのレミリアさん」と訊いてみる。


「わ、私も料理をして構わないでしょうか!」


 いったん作業を中断して冷蔵庫を占め、鍋がぐつぐついっている中少し考えてから「別にいいけど」と答える。


「本当ですか!?」

「むしろ作ってくれたらありがたいかなって。レミリアさんが何を作れるのか知らないけど」

「あ、それは……その」


 彼女は俯く。あんまり期待してなかったので「まぁ、作れる料理作ったら? 失敗しても経験として活きるんだからさ」と励まして冷蔵庫の中身を再び物色する。

 別に料理が作れなかったからと言って怒りはしない。僕だって最初はできなかったのだから。ただ、両親みたいに丸投げにするのが怒りの原因なだけで。

 彼女の腕前知らないからとりあえず保険となる料理も用意した方が良いかなと思いながら味が落ちそうな食材に当たりをつけていくと、「ちょ、ちょっとすいません!」と言って卵を数個持って行った。


 ……卵焼きかな。となると料理初心者に近いのかな。

 こだわればこだわるほど難しい料理なんだよね実は。そんな感想を抱きながらどんな感じかなと鍋蓋を開けて煮物の様子を見る。


 ……まだ煮込む必要あるかなこれは。味見してないけど。

 一口食べてみる。まぁ味はあるって感じかな。

 いつもより味が薄いけど、まぁ明日の朝まで放置するならこれぐらいでもいいかな。

 そう判断して火を止め、鍋を冷ます。そしてレミリアさんの様子を見たら、慣れた手つきでかき混ぜていた。


 思ったことが思わず口に出た。


「料理出来たんだ」


 あしまった。思わず天井に視線を移して後悔していると、それに気付いたかどうかわからないけど「いえ、家庭科でやったぐらいです。渚さんやレンみたいに上手にできません」と返してくれた。その口調にどうやら怒りは含まれていなかったのでとりあえず安堵しながら「あ、そろそろコンロに移動してくれないかな? 他の料理作るから」と言っておく。


「は、はい!」


 そそくさと移動してくれたので、それじゃ作りますかと気合を入れて鮮度の悪い食材を取り出していった。




 料理も終わりお風呂に入って。


「そう言えばレミリアさんって、明日学校に来るの?」

「あ、はい! 行きます」

「そっか。小テスト頑張ってね」

「え、どの教科ですか?」


 ストレッチを久し振りにやりながら感情の再確認をしている中で彼女に確認を取ったところ、知らなかったのか驚いていたので思い出しながら答える。


「殆どの教科は休み明けのテストだって不意打ち気味にやっていたよ。僕が選んだ教科もそうだったし。みんなも頭抱えてたよ」

「そ、そうなんですか!? あ、急いで勉強しないと!」

「頑張ってねー」


 リビングでテレビを見ていた彼女はそのまま急いで二階に行った。

 僕の方もストレッチを一通り終えたのでどうしようかなと腕を伸ばしたところ、姉さんが「ちょっと連」と声をかけてきた。


「何?」

「……その、大丈夫かしら?」

「なんの確認? そんなことより両親の心配したら?」

「「うぐっ」」

「どうしようもないでしょ、もう」

「酷くないか渚!」

「そうよ、連に見捨てられるなら分かるけど、あなたに見捨てられるいわれはないわ!」

「そんなこと堂々と言うべきじゃないんだけどなぁ……で?」


 話を戻してあげるように姉さんに話題を振ると、我に返った姉さんは覚悟を決めたのか口を開いた。


「あんた、退学して出ていこうって強く思ってない?」

「…………」


 流石に血のつながった姉弟なのかピンポイントで当ててきた。意外と分かってくれるものらしい。

 だけど現状をどう表現したものか分からないので黙っていると、「別にそうなったとしても私は反対しないわよ。貴方におしつけてしまったから。だけど、仲がいい人たちにはちゃんと言ってから出ていきなさい。そのぐらいは守ってね」と言われた。

 後悔からの発言なのかうちの一族の考え方からなのか判断がつかないその言質にどう答えたものかと考え、現状を口にする。


「確かにその気持ちはあるよ……だけどさ、そうじゃない気持ちもある。七対三ぐらいかな? 分からないけど。そういう訳だから……すぐに出ていかないと……思う。分からないんだよね、気持ちが」

「そう……それならひとまず安心できるわね」


 そういうと姉さんは優しく微笑んでくれた。

 今まで見たことのないその表情に思わず後ずさる。


「何よ」

「今姉さんが一度も見せたことのない表情をしたから……何か反射的に」

「私があんたの心配したらいけないのかしら?」

「僕は一度も姉さんの心配したことないけどね。向こうに行ってる間。今は……仕事に対する熱意とか大丈夫かなって心配してる」

「あっけからんと言ってくれるわね……あと、そんな気遣い不要よ」

「そう? じゃぁ仕事仲間で彼氏に出来そうな人いる?」

「うちの両親のことを大丈夫と言える人じゃないと無理だから、いないわね、今までの共演者じゃ……って、なんでそんな心配されなきゃいけないのよ」

「だってそんなこと気にしてるだろうから売れ残りそうだなと思って」

「……」


 思わず本音で答えたら姉さんに滅茶苦茶怒られた。

 ただ、笑いながら怒っていたからそこまで本気で怒ってるわけじゃないのかも。ひょっとしたらこれが姉弟のやり取りなのかな?


 あ、両親は滅多打ちにされたのが堪えたらしくヤケ酒してから歯を磨いていそいそと二階に上がった。

 堪えたなら改善する努力見せなよって話だけど。

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