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君黄昏はほの暗く

この作品は、というか私が書く作品のほとんどは、読者が期待する恋愛模様に行きません。(今更

 大体一週間ぶりに秘密基地――多分大黒天の社に来た。相も変わらず雑草は伸びており、これ以上成長するなら、見えなくて困ることは確実だろう。そのうち刈り取ろうかな? 大黒がやってくれればいいんだけど。本拠別に移しているから無理かな。


 そこまでやる義理って果たしてあるのだろうかと思いながら戸を開いて、誰もいないのは分かり切っているのに「久し振り」と挨拶しながら入る。


 誰もいないって言っているから返事は当然ないんだけど……だけど……。


『どこ行ってたんだ。一日でも道具を使わなかったら感覚が鈍るぞ』

『毎日使ってこそ職人への道が開ける』

「仕事じゃないんだからそこまで言わなくていいんじゃないかなぁ……」


 シルフと同じように脳内に響く『声』。それらの言葉に呆れながらも呟く。


 はぁまったく。いくらここにもらった大工道具を置いといたからって、喋りだすなんて非常識すぎるんだけど。ああ、神様云々があるからそこらは意味ないのか。なんたって僕の周りに非常識を体現した存在が集まっているのだから。


 自分で作った棚を見ながら座り込んでから「どうしたものかなぁ」と呟いたところ、道具達から苦言を呈された。


『辛気臭い気持ちで扱うなよ。完成品は人の心を映し出すのだから』

『仕事に集中できてこそ、だ』

「……相変わらず厳しいなぁ」


 言われている意味も理解できている。だっていつものことだから。

 面倒だからと盛り付けの手を抜いたり、掃除場所の一部を手を抜いたりすると、明らかに分かってしまうしね。


 少しの間何も考えずに棚を眺めていた僕は、こんなことを聞いてくれるわけないと思いながら「相談したいことがあるんだけどさ」と漏らしたところ、『そんなもの道具にするな』と正論を言われた。まぁそう言われるのは分かり切っていたことだけど。


 そんなやり取りを聞いて我慢できなかったのか、シルフが『神様達に話はしないのですか?』と訊いてきたので、少し考えてから「あんまりしたくないなぁ」と答える。


『なぜ?』

「だってさ、神様の答えってつまるところ『強制』な『回答』じゃん。それが現実になるだけ。そんなものは『相談』とは言わないよ」

『だったら先程の占い師に聞いてもらえばよかったのでは?』

「あれは無理。あそこ迄怪しげな雰囲気出してるのに疑わないで下さいなんて、絶対に」

『でしたら友達や家族しかいないのでは? それすらも嫌なら勝手に悩んでくださいとしか』

「………言うしかないかな」


 シルフは僕の表層を読み取れるのだから何を考えようが反論してきそうだ。お節介の極致に感じるのはどうしてなのか分からないけど。

 提示された案は思考にあったものだ。話しても無駄だと思ったから自然と選択肢から外れたもの。


 だけどそれは本当なのだろうか。そう疑うと、もう一つの可能性――僕の脆弱さが明確になる。


 つまり、嫌われたくない。


 孤独でいることを望んでいるのに、他人から嫌われるような行動を率先してやろうとしない。

 どうでもいいと考えているのに、どうしても他人が窮地にいると助けてあげたくなる。


 それ自体は一般的な考え方であり、間違ってはいないんだろうけど……。


 少しだけ思いを馳せてから「今度は何を作ろうかなぁ」と話題を変える。


『そんなことをやっているから精神がおかしくなるのでは?』

「……ツッコミが相変わらず鋭いね」

『そんなことは良いですから』


 なんだかこうやって素直に注意されるのは初めてな気がする。新鮮な気持ちだ。いや、あんまり嬉しいわけじゃないけど。

 親とか姉からこんなこと言われて子供は成長するのかなと実感した僕は、寝そべって床をごろごろする。財布とか諸々痛いけど気にせず。


 少しの間それをやりながら考えをまとめぴたりと転がるのをやめる。


「……痛い」

『当たり前です』

「今度は机作ろうか」

『なら早いうちに作れ! 感覚が鈍くなる前に!!!』

「うん分かった。それじゃ、またね」


 多少すっきりした僕は、そのまま小屋を出た。



「夕飯どうしようかな」


 とりあえず家での方針を決めたから家へと帰る道。

 夕飯要らないって言ったから自分で作るしかないけど、何か食べたいかなとぼんやり歩きながら考える。


 基本的に最低限の炭水化物さえ取れれば生きていけなくはない筈。ご飯をお茶碗に一杯だけでも。栄養の偏りがあるから太りやすくなったりするのだろうけど。あとは脂質とかタンパク質とかカルシウム――人が成長するのに必要な栄養素を挙げればきりがない――だけでも生きていけるんじゃないかな、多分。


 極端に言えば料理自体が栄養バランスの悪い食べ方。栄養食品でも食べておけば健康上何ら問題ないんじゃないかな?


 なので僕自身自分が食べるものに拘っていない。料理する時は拘るけど、食べれば生きていけるという点だけを見ればこだわる必要性が見当たらない。


 一番安上がりなのは家にあるもの。次がスーパーで半額シールとか張られた弁当など。その次がコンビニのおにぎり。

 明日も学校あるし、今後こういうことを繰り返すようならいっそのこと一ヶ月おんなじ料理でもいいかもなぁと結論を出したところ、「もし、そこの方」とまた呼び止められたので足を止めてそちらを見る。


 道の脇に陣取っているそれは、家に帰るときに声をかけられたあの占い師そっくりだった。


 五秒ほど見てから「間に合ってます」とぶった切ってその場から駆け出した。


「あ、あの!」


 待つわけないでしょうに。何必死になっているんだろう?

 必死に逃げてる事実を棚に上げてそれに対してそう思った。



 しばらく走って追いかけてくる気配とか周りに似た気配がないことを感じたので息を整えるようにペースダウンしていく。いきなり止まるとしばらく動けなくなるからね。

 家まで半分ぐらいの距離まで戻って来ていた。なんであの占い師は声をかけてきたんだろうかと息を整えながら考えようとしたところ、五メートルほど先に信じられない光景が見えたので足が止まる。


「……え」


 街灯が照らされている下に、先程振り払ったはずの占い師がであろう人が同じように露店を構えているのだから。


『シルフ』

『なんですか』

『さっきから見かける不審者の気配、分かる?』

『…………ええ』


 …………逃げられないじゃん。

 シルフの声に正体を悟り、膝に手を置いて乾いた笑いを浮かべる。


「ははは、はははは……ハァ」


 肩を落とす。どう好意的にとらえても厄介事に発展するものだろうから。

 だって『神様』は『世界を操る』。彼らの動きが世界の流れを作る。その流れを壊すのは容易ではなく、九割九分九厘はそれに流される。

 神様ごとに役割があるのは交流して分かって来たけど、基本的に僕らは彼らにとっては『駒』だろう。僕は対等に見ているけど、信仰する人間からしたら罰当たり甚だしいことだろうね。


 だからこの時点で、波乱な日々が再び襲い掛かってくるのが予想できたから叫びたい気持ちを抑え込む。夜だから近所迷惑だし。

 疲れとはまた別のせいで足取りが重くなった。引きずる様に歩きだして通り過ぎようとしたところ、声がかけられた。


「そ、そこまで嫌にならないで!」

「そう言われてもなぁ……」


 立ち止まってそう答えると、かぶっていたフードを彼女(・・)は外して泣きそうな顔で「そ、そんな……」と声を漏らした。


 身長はそれなりにあるんだろうけど、顔が幼いからかどうしても年齢が計れない。神様だろうから意味のないことだけど。

 そろそろ本気でどこかへ行こうかな。そう思いながら通り過ぎてそのまま歩いていると、後ろでこけたのか「うえぇぇぇぇん!」と泣きだしたようだ。

 ちゃんと注意しなよ。ため息交じりに言いたい言葉を抑えてそのまま歩いていると、目の前――それこそ鼻と鼻がくっつきそうなほどの距離にいきなり釣り目の少女が出現した。


 反射的に後ろに下がろうとしたところ、その少女が僕の腹部に手を置いた――と同時にその少女の顔面辺りにハリセンが振るわれた。


「全く。姉さんの過保護には呆れたものです」


 ハリセンを振るった少女は冷静にそう呟くと、僕の方を見て「お騒がせして申し訳ございません池田様」と謝罪して頭を下げてくれた。

 瞬きをしてから「あ、うん……」と頷く。


「って、ウルドちゃんにヴェルちゃん!? ど、どうして!?」

「スクルド姉さんが彼に会いに行くというので連れ戻そうと」

「まさかの会わせない気だった!?」


 後ろからいつの間にやら来たこけた少女――身長が小さい気がする――が問いかけたらハリセンを持った眼鏡をかけた少女が淡々と返した。漫才みたいだ。

 というか壁にぶつかったであろう少女は……? なんて飛ばされた方を見たけど居らず、視線を戻したら自分の怪我そっちのけで怒っている小さい少女――スクルド、かな? の隣で息を荒げていた。


 …………やばい姉妹だなぁ。


 思わずメガネの少女に同情したくなるような場面だった。

では

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