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不安定

 呼び止めた占い師であろう人物を注視してから歩を進める。占いなんて興味がなく、たとえ当たっていようがいくらでもズルが出来るようなものに人生を任せようなんて露ほども思っていないから。


 ぶっちゃけ個人情報さえ事前に揃えれば、適当にでっち上げても信憑性あるのが占いだと考える。初対面に過去のことを当てられたら、なんとなく信じようとなる。それに付け込んだ一種の詐欺だ。


 未来視なんて能力を持ってるならまぁ分かるけど、そんな人材が露店で売らないなんてやるほどこの世界での価値は低くない。あえてやる人は否めないけど、大体は高給取りだ。いるのといないとじゃ色々変わってくるのだから。


 なので正直占い師とかに関わる気なんて一切ない。



 すぐさま歩き出した僕にその存在は慌てて声をかけてきたみたいだけど、そんなことはお構いなし。もとより近親者の助言や親しい人間の発言以外に価値を感じていないのだから止まる通りもない。


 あまりにしつこい場合も考慮して、ちょっと遠回りして帰ろっと。


 いらぬ保険だろうけど一応掛けた。




「ただいま」


 どうやらしつこい側じゃなかったらしく、遠回りしたらすぐさま気配がなくなった。それでも道は変わらないけれど。

 ロスした分さっさと終わらせないとなと思いながら首を回して靴を脱ごうとしたところ、二足分――姉さんとレミリアさんの分が置いてあったので帰宅していることを確認し、やってくれているんだろうなと予想を立てて自室へ音もたてずに戻ることにした。


「何しよう」


 レミリアさん達は恐らく洗濯物とかやっているんじゃないだろうか。夕飯とかも。混ざろうとしたら僕一人で終わらせてしまいそうな結果になるのが目に見えるので、私服に着替えて椅子に座り天井を見ながら考える。


「……久し振りに行こうかな。今から行ったら夜だろうけど」

『どこかへ出かけるので?』


 うん。置きっぱなしの道具も気になるから。脳内でそう返事をした僕は、財布と家のカギと携帯を持って二人に気付かれないように静かに出ることを目標にしながら部屋を出た。


「あ、おかえりなさい、レン。その、すいませんでした」


 一階に降りたら買い物へ行くのかリビングから出てきたレミリアさんとばったり遭遇した。こういう時の運が限りなく悪いのはどうしてだろうかと思うけど、考えても理論的に答えを出せないものに脳を使っている暇もないので「これから買い物?」と確認する。


「あ、はい。収録が早く終わったので洗濯物も取り込んでおきました」

「……ああ、ありがとね」


 姉さんでもやったかどうか怪しいことを率先してやってくれることに思わず涙が出そうになるけど、それは隠して素直にお礼を言う。感情が乗っているかどうかわからないけど。

 そんな返事なのに、彼女は顔を少し赤らめて「い、いえ、今まで甘えてばかりでいましたから……」と返してきた。


 姉さんに聞かせたい言葉だなぁと思ったけど、聴かせても期待した反応が返ってくるわけないので置いといて、「僕もこれから出かけようと思っていたし、途中まで一緒に歩く?」と提案する。提案しながら、何言ってるんだろう僕と内心で呆れる。


 自分で距離を置こうとしているのに、逆に距離を詰めかねない行動をしているのだから。


 その内心に気付いていない彼女は驚いてあたふたし、俯いて「お、お願いします……」と了承してくれた。


『人を狂わせて楽しいですか?』

『狂わせるって……その通りなんだろうけどさ』


 シルフの言葉に先月のことを思い出し、似たようなことをしているんだなという事実に思わず嫌気がさす。最低で愚劣で、やってはいけないであろうことをしている自分に。

 自己嫌悪で自殺という思考に陥っていると、「帰ってきたの、連。だったら挨拶ぐらいしな」と姉さんが声をかけてきた。レミリアさんの声とかで気づいたのだろう。

 でもそんなことに気付いたところで、姉さんの言葉を素直に聞くほど思い入れもなければいい感情を抱いていない。だからつい、そのままの感情――暗く、低く、冷たい声で返した。


「――夕飯はいらない。待つ必要もないから」

「え?」

「どうしたのよ?」


 それ以降僕は何も言う気になれず、レミリアさんにした提案も反故にし、一人で家を出た。


 ――ひとまずは感情を整理した方が良いかな。





 ……連が出て行ってすぐ。

 彼の行動に違和感を覚えたレミリアは、頭を掻いている渚に声をかけた。


「あ、あの、渚さん」

「ん? どうした、レミリア」

「レンの様子……おかしくありませんでした?」

「ん~?……まぁいつもより何も言わない気はしたけど」


 彼の行動を思い返しながらそう答えた渚だったが、レミリアは納得できていなかった。


「それ以上に、その……うまく言えないんですが、暗くありませんでした?」

「あいつっていつもあんな感じじゃなかった? まぁ気になるのもわかるけど、その前に買い物行ってきなさい。戻って来た時に終わってなかったら何言われるか分からないから」

「そ、そうですね……」


 渚の言葉に思考を切り替えて買い物へ向かうことにしたレミリア。だが内心では連が見せたあの雰囲気が気になっていた。

 一方の渚も、レミリアを見送ってから自分の作業に戻りつつ弟の様子がおかしいことを気にしていた。


「連ったら大丈夫かしら? あの様子だと突然退学してどこかへ行くとか言い出しそうね……それを止める理由なんて、私たち家族にはできないことだけど」


 多分、いや絶対許されていないでしょうし。

 内心でそう呟きながら、表情では視線を下に落としつつ冷蔵庫に残っていた材料を調理していた。


 レミリアが外に出たところ、佳織が玄関前で立ち尽くしていた。

 その雰囲気がなにやら重苦しかったので、彼女は思わず声をかけた。


「あの、西条……さん。どうかしたんですか?」

「……あ、ジャンヌさん。ちょっと、ね……」


 翳りのある表情に、反射的に「レンと話したんですか?」と確認してしまった。

 それに対し佳織は隠す気はなかったようなので素直に頷いた。


「ジャンヌさんは話したの?」

「は、はい……レンが出ていく前に少し」

「そっか……」

「「…………」」


 互いが玄関先で沈黙する。彼女達が想い人に対し共通認識を抱いたからだろう。

 ただし。


 レミリア・ジャンヌは違和感しか覚えていないことに対し。


 西条佳織は昔の記憶がフラッシュバックしたが故の危機感を抱いている違いはあるが。


 先に沈黙を破ったのは、佳織だった。


「ところでジャンヌさん。買い物これから?」

「……あ。すいません!」

「あ、うん。こっちこそごめんね」


 佳織の謝罪の言葉を背中で受けながらレミリアは急いで商店街の方へ向かう。それを見送ってから空を眺め、佳織は漏らした。



「……もう、無理なのかな。私は心配だよ……」



 そのつぶやきに、『誰も』返事はしなかった。

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