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学校再開

もう五十話超えてます。一極集中だとこんなことになるんですね

 再会した次の日に爺ちゃん達は帰った。僕の顔を見れたことで少しは安心したらしい。

 レミリアさんと佳織は案の定暗い表情をしていた。鬼の居ぬ間になんとやら。僕が買い物に行ってる間に彼女達がだいぶ厳しい言葉を投げつけられたのが容易に想像できた。フォローする気はないけどね。


 で、その日の夜に姉さんが帰ってきた。警戒しながらだったので「爺ちゃん達なら帰ったよ」と言うと安堵していた。まぁ、その十分後に爺ちゃん達から電話来て騒いでいたけど。


 僕はその日いつも通りの日常を過ごした。両親は途端に家事を放棄したから、自主的にやるなんて淡い幻想を抱く気にもなれない。嫌になったら消えるって言ったことを忘れているんだから、本当に呆れるよね。


 ああ、一応爺ちゃん達が引っ越した先の住所はもらった。調べたらリゾート地で有名な場所だったけど。相当倹約していたんだなぁと感心する。単に稼いだお金の半分も使わなかったのかもしれないけど。


 で、次の日。いよいよ学校が再開する。

 久し振りの学校で、何人残る意思があるのか不明瞭で在学者数の減少が予想できないけれど、高校生としての日々が始まる。

 レミリアさんは仕事だ。言われた言葉が辛辣だったのか、生返事になっていることが多くなった。心ここにあらずと言った感じ。だからまぁ、仕事で変なミスするんじゃないかと心配になる。言わないけど。


 そんな訳で久し振りの登校。果たして何人残っているかなと思いながら「行ってきます」と家を出た。




「おはよ」


 教室に入りながら誰に向けたわけでもなく挨拶をして見渡す。

 学校に来てから目立った人数の減少は見られていないから転校した人はいないのだろうと思ったけど、考えてみると凄いことだよね。なにせみんな事件の被害者であるというのにそれを乗り越えて戻ってきているのだから。


 僕? 乗り越えた……と言えるのかな。多分乗り越えてないと思うけど。あとは、臆病者だし。

 他人をどうでもいいと言い切っておきながら、自分の考えを素直に話すことで現状を変えてしまうことに怯えている、臆病者だ。

 この気持ちのズレはどうしたらいいのだろうか。気が重たくなっているのを自覚しながら席について「おはよう」といつも通りに挨拶したところ、圭だけが返事をして庄一はいなかった。


「あれ、庄一は?」

「……さぁ?」


 どうやら来ていない様子。珍しいと思ったけど、爺ちゃん達に言われた言葉がレミリアさん達同様に影響を及ぼしている可能性が否めないので欠席するのかもしれない。


 まぁ真に受けるのは良いんだけどさ……個人の自由だから。それで心が折れてこないってのはどうなんだろう。学生の本分は勉強なのに。


 誰もが僕の様にはいかないことなんて明白なんだけど、それでも思う。特に社会に出ている彼女達に対しては、強く。何言われたのか想像でしかないけど、それで暗くなって仕事に支障をきたすなんて。


 思わず息を漏らす。圭はそんな僕を黙って見守っているというか観察していた……しているようだ、かな。

 何も言わないままこちらを見ているのでこちら側も何も言わずに黙々と授業の準備をする。しながら、転校生が一人だけ来ているのを確認して内心で驚く。

 転校初日に事件にかかわったというのに普通に学校にこれることに。いや、僕の予想が悪い方向にしかいかないからかもしれないけど、それにしても。


 人間って存外強いよねと傍観する立場で思っていたところ「……記憶処理」と圭がポツリと漏らした。

 思わず手を止めて聞き返す。


「記憶処理? これだけの人数を?」

「……人数が多いからこそ。後遺症を残さないため」

「そっか……」


 少し安心する。この凄惨な事件という経験をなくしてあげるという救済に。体は覚えているだろうけど、記憶処理されてしまえば勘違いとかで終わるだろう。僕はぶっちゃけ要らないけど。あまり起きたことを振り返る性格じゃないし。


 じゃぁあまり今回の件は吹聴してはいけないね。言う気もないけど。

 方針が決まったので「消さない人って僕達以外にいるの?」と興味本位で質問してみたけど、沈黙された。本格的に教えてはいけないものらしい。

 まぁどうでも良かったからいいか。些細な疑問だったし。そう思い直してから教室を再び見渡して――元たちが来ていないことに気付く。


「また事件? 良いように使われてるねぇ彼らも」

「……辛らつだな」

「そうかなぁ」


 そんな風にとぼけていたら先生が来たので、休み時間とかどう過ごしたものかなぁとぼんやり考えた。




 昼食の時間になった。


 庄一は結局来なかった。先生側の説明では体調不良だとか。圭は知っているだろうけど聞いていない。心配は一応しているけど、下手にこじれる恐れがあるのなら触れないことにしている。


 で、久し振りに独りで食べている。誰も来る気配のない屋上で。


 変わり映えのない青空を眺めてから自分で作った弁当を食べるために視線を戻す。


 誰もおらず広い空間。切り離された空間と言っても過言でもないこの場所に一人居座っていると、自分の心(・・・・)のような気がしてくる不思議。実際に見た記憶がない(・・・・・・・)というのに。


「はぁ……」


 ため息をつきながら弁当を食べ始める。だって悩んでいるから。いや、悩んでいるというのは正確じゃないかも。せめぎ合っているといった方が正しいかな。


 昔に戻ろうとする自分と、変わろうとしている自分で。


「難しいよね、本当」


 誰にも聞かれないのは分かっているけど、呟く。風に流されていることを自覚して、それでもなお整理のつかない自分自身に対して。


 弁当を食べる箸が遅くなる。段々気が重くなってきて。自分自身が最も早く辿り着いた答えを肯定するべきか否かを考えて。


 誰にも言わない。誰にも相談していない。相談したところで心が軽くなるわけじゃないし、相談したところ悩みがうまい具合に解決するなんて奇跡はあり得ないことを理解しているから。


 ああ。


「僕は」


 思わず天を仰ぐ。のどかな空で、照り付ける日差しは夏ではないのに強い気がする。僕の心中とは真逆。


 せめぎあいは結局、終わっていた。悩みは結局、捨て置いた。


 生活が一新したばかりだというのに、僕は逆行することを選んでしまった。


「変わろうと、しないんだなぁ……」


 しみじみと呟いてから弁当を食し、終わってから片付け表情を消して教室へ戻ることにした。



 お帰り、僕。それじゃ初めに、縁を切ろうか。


 そんな決意を胸にして。




 放課後まで飛んで。


 独りさっさと帰路についていると『マスター』と呆れた声が脳内に響いた。

 いちいち立ち止まることもせず『どうかした?』と返すと『あそこ迄露骨にする必要性は?』と質問してきた。


『そう? 表面上変わり映えしてない筈だけど?』

『その自覚はあるんですね……あまりの差異に皆さん気付いていないようですが、高度な距離の置き方をする人間なんてマスターぐらいじゃありません?』

「高度かなぁ……」


 思わず漏れてしまう。それほどまでにシルフの質問が判らないから。単純に話を合わせた上で自分の作業をしていただけだというのに。すべての時間で。


 人は、熱心に話を聞いてくれる人に対して饒舌になり易い。いくらでも話せばレスポンスしてくれるから『理解してくれる』という心理が働く結果だと思われる。なんといったって人類の根底には自己主張というエゴがこびり付いていて、それの高低差はあるだろうけどゼロではないからだ。もちろん僕にもあるのだろう。だから理解されていないのが分かると僕だって怒る。話の返答=理解だと脳がインプットしているからだろうけど。


 で、べらべらと余計なことまで話す人の心理としては、話を聞いてくれる人を見つけるための話題を探るためと、話を聞いてくれた人を逃したくないという寂しさなどが読み取れる。つまり、聴いてる側がある程度相槌を打っていれさえすれば、理解してようが話している側にはあんまり重要じゃないという解釈もできる。流石にそれを偉い人の話でやったら怒られるだろうけど。


 それを、僕はやった。これからもやるつもりだ。


 僕はどこまで堕ちていくのだろうかと考えながら歩いていたところ、呼び止められたので足を止めてそちらへ視線を向ける。


 そこには、フードをかぶり、水晶玉をテーブルに乗せた「占い師」の風貌をした存在がいた。

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