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祖父母の正体

「ただいまー」

「おお無事に帰って来たか連! 良かった!!」

「レミリアちゃん達も長旅ご苦労様。楽しかった?」


 リビングに入ってからすぐに両親の不自然なまでの心配様。それをソファで眺めているのが爺ちゃん達。

 多分空気を読むなら「ありがとう」の言葉ぐらい言えばいいんだろうけど、僕の口から真っ先に出てきたのは「気持ち悪いんだけど」だった。


 両親は固まり爺ちゃん達の視線は鋭くなる。けれど僕自身に向けられた視線じゃないから気にせず両親の脇を抜けて爺ちゃん達の前に移動し、「久し振り。玄関開けたら物投げてくるとかやめて欲しいんだけど?」と挨拶してから「はいお土産」とお菓子を差し出す。


「よくわかったな」

「初日に父さんが焦った声で電話して来たからいるのかなって」

「ありがとうございますよ連。相変わらず鳳来さんに似て気配りや状況の把握が良いですね」

「まだまだだ」

「そうですか。あなたが張り合ってどうするんです」

「勘が鈍ってなくて安心したな、俺は。あのままだったら間違いなく眉間に受けてたし」

「そうやってすぐに試すのはやめなさいな龍前さん……あら、連。西条さんとはお知り合いだったのかしら?」


 その問いかけに僕が答えるより早く佳織が隣に来て緊張した面持ちで喋りだした。


「お、おおお久し振りです和良さん!」

「貴女に訊いたわけではありませんよ。他人の問いかけを妨げるのはダメだと以前教えたはずですが?」

「もう、申し訳ございません!」


 そう言って頭を勢い良く下げる彼女を見て、和良お祖母ちゃんの職業を思い出して現状から推測したものを、答えるついでに本人にぶつけた。


「佳織とは小学六年まで一緒だったんだよ……ってことは何? 家庭教師ってお金持ちの子供達に対してだったの?」

「正解です。やはり鳳来さんに似てきていますね」

「ですよね」


 その同調に爺ちゃん鼻で笑っているんだけど。そんな感想を抱きながらも脳内にある可能性が浮かんだので、そのまま聞いてみた。


「ひょっとしてさ、爺ちゃんたちみんな有名人?」


 その質問に対し四人とも『何を今更』と答えたので僕の表情筋が固まる。その勢いで父さん達に視線を向けたところ、彼らも初めて知った様子で瞬きを繰り返すだけ。


 え、じゃぁレミリアさんはどうして知っていたんだろ。


 唯一関わり合いがなさそうな彼女が驚いている理由が見当つかないので、視線を向けて質問してみる。


「え、レミリアさん知ってたの?」

「え、あ、はい。とても有名な方々、ですよ。私は面識がありませんが。逆になんでレンが知らなかったのか分からないんですけど」


 驚いているからかかなり冷たい感じで返って来たので「え、いや最後に会ったの小学校に上がる前ぐらいだったし、そもそも何をやっていたとは言っていたけど誰相手にとか、そういう説明してなかった気がする」と真顔で返す。


「え、え~? そ、そんなものなの~?」

「そんなものでしょ? 父さん達だって覚えてないし」

「「えっ」」


 いきなり話題を振られたことにおののく両親だったが、鳳来爺ちゃんは「どうでもいい」とバッサリ切る。


 池田鳳来。眼鏡をかけていて白髪を染めていない。目つきが鋭いのだが表情を一切変えないので偶に迷う時がある。体脂肪という言葉が置き去りになっているぐらいには引き締まっており、自分にも他人にも厳しい父さんの父。心理学者をやっていて大学の教授だというのは聞いたことがあるけど、一体どんな意味で有名なんだろうか。彼の妻である琉偉祖母ちゃんの職業である教育者とは何を示すのだろう。龍前爺ちゃんと和良祖母ちゃん(母さんの親。苗字は谷崎)は分かったけど。


 そこのところ説明してくれないのかなと淡い期待を抱きながら「そう言えば夕飯食べたの?」と質問する。

 それに答えたのは龍前爺ちゃんだった。


「まだだな。材料がないと喚いて駄々をこねていたところに連が帰ってきたところじゃから」

「あ、そうなんだ」


 きっと作りたくなかったんだろうな。ただでさえやらないのだから、その悲惨さは想像に難くない。

 父さん達に視線を向けないでそう結論を出した僕は「僕が旅行に行った日からここに?」と確認を取る。


「いや。次の日。それからいるが、ここに戻って来たらしい渚と一向に会わん」

「あの子も勘は良いですから、仕事に精を出しているのでしょう」

「全くなってない」

「ははは……」


 それ多分、子供の頃が原因だと思うんだけど。僕も苦手意識少しあるから。

 そんなことを顔には出さずに愛想笑いだけで流した僕は、「材料あるの?」と訊いてみる。


「長旅で疲れたでしょうし、ゆっくりして大丈夫ですよ連」

「そうしたいんだけどさ、ゆっくりしすぎて体が鈍った気がして微妙に危機感があるし、どうせ日常が変わることがないだろうから調子を戻しておかないと」

「「「「…………」」」」


 爺ちゃん達が黙った。しかも真剣な表情をして。逆に父さん達は気まずい表情を浮かべている。レミリアさんも申し訳なさそうだし、事情をあまり把握してないのか佳織は首を傾げている。僕も不思議に思っているけど。


 一般的から見たらうちの両親なんてダメな親に見えるのは誰でもわかることだ。そうなったのは少々爺ちゃん達の教育が間違ったからだというのに気付いてない様子だけど、修正なんてほとんどしようがない。実の息子から見てもね。


 やがて何かを決意したのか鳳来爺ちゃんが口を開いた。


「連」

「なにさ?」

「ここが嫌になったらうちに来い。引越ししたから住所は変わったが」

「引っ越しって……お墓とかどうするのさ?」

「以前までのは破棄した。引っ越した先に新しく墓を建てた」

「あ、そう」


 淡々と説明されて僕は頷く他なかったけど、言いたいことはあったので「でもさ」とつなぐ。


「その選択をするならきっと、僕は一人でいなくなってるよ」

「――そうか」


 僕の発言で何かを理解したのだろう。鳳来爺ちゃんは目を瞑って深く頷いた。

 空気がしんみりしだしたので、「じゃぁちょっと冷蔵庫の中身確認してから買い物行ってくるね」と明るく言って行動した。




「思った以上に何もなかったんだけど……一体どういう生活したらあんなになるんだろう」


 冷蔵庫の中身の少なさに驚きながらも買い物に出た僕。助けなんて期待してないから誰もついてきてないこと自体は不思議じゃない。むしろ当然だと思っている。何かやるときに誰もいないことが。


 ……まぁ最近、日曜大工(こっちの方がしっくりくる)をこっそりやっているのが拍車をかけているかもしれないけど。


 変わろうと思って結局変わらない僕って本当に道化みたいだなと嘲笑しながら歩いていると『また難しいことを考えているようで』と脳内に声が響く。

 すっかり忘れてた。家にいた時随分おとなしかったから。


『基本的に誰も周りにいない時でないと可笑しな人だと思われるのでは?』

『まぁそうなんだろうけど。というか、さらっと思考読んだ?』

『読むというより、感情の波が伝わってきた感じです。貴方の思考に関しては読めそうにありません』

『そうなんだ……』


 いったん脳内で会話をやめて考えてなかった夕食と明日の朝の分の食材を考える。

 そして材料のなさから今の時間で空いてるかどうか不安になって駆けだした。


 量が多いから買えなかったらきついし!




 いつもの商店街に行って帰ってきた挨拶もほどほどに食材を買っていく。その際ちらっと両親の話が出たけど、どうやらまともに買い物していたらしい。ただしちょっと心配するような場面もあったらしいけど。

 そんな話を聞きながら、ちゃんと生活できたんだなぁと感心する。監視役がいたからだろうけどほぼ。


 ともかくいつもより大量に買いだした僕は、いつもより重い荷物を両手で運ぶ。とはいえ年末みたいな自体じゃないだけマシだ。台車借りないと運べやしないのだから。

 慣れって怖いなぁと歩きながら、現状に苦言を呈した。


「……誰も彼もが今更過ぎるんだよなぁ」


 そう。今更過ぎるのだ。どちらについて行きたいという選択肢の前じゃなく、それ自体を通り過ぎた先に僕がいるのに、誰もが僕の現在地の前で考えている。そんな考えはとうの昔に消えているというのにそんなこと誰も気づいていない。


 言わないのが悪いのだろうか。示さないといけないのだろうか。

 旅先で変わろうと思った矢先の現状にげんなりする事態に。困ったものだ。


『ちゃんと言えばいいのでは?』

『それしかないかぁ』


 隠しているからみんな誤認する。言わないから”信じている”。


 ――やっぱり僕達(人間)は都合のいい生物でしかないんだね。

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