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そして遭遇する

 しゃべったりなんだりで電車のお時間は過ぎていき、気が付いたら到着していた。

 改めて振り返っても相当濃かったようなそうでもないような日々。楽しかったというのは嘘ではないけどそれ以上につかれたという言葉が出てきたので順位をつけるなら下の方なのだろう。


 で、もしかしたら僕はそんな日々の代償に今日を迎えたのかもしれない。


 駅を出た僕は、みんなが明後日から学校だとか言ってる中俯いて歩いていた。

 家に電話はしていない。けれど、悪い予感というのは半分以上当たるし、初日の夜に掛かってきた電話が懸念材料としてある。

 元気にしゃべっている中独り俯いていることに気付いたらしいレミリアさんが「あの、お疲れですかレン?」と優しく質問してくれたので、意を決して僕は言った。


「レミリアさん」

「は、はいっ。どうしました?」

「大変いいにくいんだけどレミリアさん……今日は家に戻らない方が良いかもしれない」

「……え?」


 僕の発言が予想外だったからか固まる彼女。それにつられて庄一達も固まる。

 まぁそりゃそうだろう。自分で帰宅拒否を促すなんて僕じゃあり得ないに等しいんだから。

 でも、そうでもしないと悲惨な目に遭いそうだから。そんな予想が容易にたてられてしまうのだから。


 流石に僕たち家族みたいなメンタル強者じゃないと正論パンチを耐えるなんて厳しいだろうしね。爺ちゃん達の。


 せっかくの慰安旅行が最後におじゃんになりかねない。今後の彼女を考えるとそれだけは避けた方が良いだろうし。

 そんなことを考えていたところ案の定「どうして、ですか?」と聞かれたのでみんながいる中正直に説明することにした。どうせ隠し通せるものでもないし。


「たぶんだけど、爺ちゃん達が居座ってる。レミリアさんが一緒に住んでいることぐらいわかってると思うけどね向こうは。それでもさ、正直会わせるなら今じゃないと思うから」


 覚悟があるなら来てもいいけど。その言葉を意図的に言わない。そこまで言っちゃうと、彼女は即「行きます!」と言いかねない。

 素直に引いてくれたら嬉しいんだけどなぁと思いながら返事を待っていると、庄一が「え、お前に爺ちゃんとかいるの?」と訊いてきたので「父さんと母さん、両方健在だよ」と答える。圭は正体を知っているのか目を見開いているけど僕以外気付いた様子はない。みんな僕の発言した内容に耳を傾けているせいだろうけど。


 さて返事はどうなんだろうかと思っていると、「心配してくださりありがとうございますレン。ですが、私は大丈夫です。一緒に帰りましょう」と強く返事をしてくれた。

 あーそっか。そうなるのか。はぁ。


「……後悔しても知らないからね」

「大丈夫です。覚悟はできています」

「あ、私も連君のお爺ちゃん達見に行ってもいい?」「お嬢様」

「え、佳織も? ……来るならいいけど、学校にはちゃんと来てね?」

「なんでそんな心配されるのさ!?」


 下手すると引き籠りの廃人作りかねないからだよ。

 彼女の憤慨に対して特に反論せずみんなに別れを告げて帰路についた。




 ……はずなんだけど。

 怖いもの見たさなのか庄一がついてきた。元はレイジニアさん達と一緒に帰って、圭は庄一が誘ったけどそそくさと立ち去った。……やっぱり知ってるみたいだ。


「つぅか、お前がなんでそこまで逢わせたくないのか不思議なんだが」

「逆に庄一は怖いもの知らずだなと感心するんだけど。僕はちゃんとオブラートに包んで警告していたはずなんだけど。普段言わない事なんだから大人しく従って欲しかったよ」

「でも連君がそこまで言うんだから逆に気になるよ! それに、家も近いし」

「庄一どうするのさ」

「走って帰ればいいや。挨拶したらな」

「あっそ」


 果たしてあいさつしたぐらいで素直に帰してもらえるのだろうかなんて不安がよぎる。まぁ庄一の自業自得で切り捨てられるけど。

 肝心のレミリアさんはというと、胸に手を当てて深呼吸を繰り返してきた。あの返事はどうやら強がりのようだと分かる。だから言ったのに。


 段々と家に近づいてくるのに、むしろ気が重くなる。家がどうなっているのかというよりいるかどうかが気になるからだろう。電話をしたかったけど、確定させるのが嫌だったから。


 ひょっとすると姉さん、ずっと家に帰ってないのだろうかと予想を立てながら歩いていると、「しかしなんだな。祖父母の話なんて初めて聞いたぜ。ってことはその人たちも『何かしらの天才』なのか?」と訊いてきたので「当たり前じゃん」と即答する。


「え、何の話?」

「佳織は知らないんだっけ。僕の一族ってね、何かしらの天才的能力を駆使してるんだよ。姉さんは演技。父さん達は交渉とか仕事方面でって感じ」

「え、なにそれ。私たち能力者よりよっぽど社会向きじゃん。羨ましいなぁ」

「その分極端にできないものが在るんだけどね。両親は家事全般ができて無くて、姉さんは掃除。今普通にできているのか知らないけど」


 そうやって説明していると、「じゃぁ連君は家事の天才だね!」と佳織が褒めてくれた。

 それに二人は同調したようだけど、強制的に積み重ねなければいけない状況下にいたら誰でもできると思っている僕からしたら疑問に思うところだ。でもみんな佳織の意見に頷くのだろうけれど。


 そう考えると僕の自己評価の低さは何とかしないといけないのだろうかと思ったりするんだけど、僕以上に過酷な環境下で生きて僕以上の腕前だって世界は広いのだからいるだろうし、素直に考えられない。キリのない考え方だけど。


 その状態で文歌さんの方をちらっと見る。後ろを歩いている彼女は表情を変えずに静観している。駅にいた時は諫めたというのにそれ以降は話題に交わろうとしていない。メイドとしては当然なんだろうけど、諫めたならそのまま強制連行すればいいのにと思っている僕からしたら不自然。


 う~ん。ひょっとすると僕の情報収集しようとしてるのかな。令嬢がこうして一緒にいようとする人だから。

 でもそこまで有名な人じゃないから拍子抜けするんじゃないかなぁ。なんて考えていたら「そういや、職業ってなんだよ?」と庄一が訊いてきたので答える。


「大学教授に道場主。これはお爺ちゃん達。祖母ちゃん達は家庭教師に校長先生だったかな」

「……なんだかんだ言って結構金持ってる家庭なんだな」

「まぁ僕にお金をくれるぐらいにはゆとりあるんじゃない? 金欠の状態で孫にお金渡すほどあの人達も優しくないしね」

「レンの周りって、厳しい人ばかりが集まりますね」

「そうかな? むしろ厳しい人の方が少ない気がするんだけど」

「「「…………」」」


 心当たりがあるのか目を逸らして黙ってしまう三人。心当たりがあるのだろう。それを別に追求しようと思えない僕は眼前に存在する自宅を前にして立ち止まる。そして深呼吸する。


「――よし」


 みんなの態度なんて気にせずにインターホンを鳴らす。少ししてから「どちら様でしょうか?」と母さんの声が聞こえたので「ただいま」と言っておく。

 たったその言葉だけのはずなのに家の中から盛大な音が聞こえる。その時点で僕は半信半疑だった予想が事実になったことに肩を落とす。


「あ、あの、レン……?」

「ああ、レミリアさん。覚悟してね(・・・・・)

「は、はいっ」


 顔は強張ったままだろう。けれど、そこはもう向こうもわかるだろう。長年生きているんだし。

 数回深呼吸しているのに向こうから開けてくれる気配がないので、意を決して鍵を開けて扉に手をかけ、いやな予感がしたので扉の陰に隠れるように開ける。


「? あだっ!」


 首を傾げて突っ立っていた庄一が眉間に当たったのかのけ反る。一体何を飛ばしてきたんだと扉越しに警戒していると、「ふむ。鈍っていないようでなによりだな」と声が聞こえたので恐る恐る顔を扉から出して出迎えてくれた人を確認する。


「…………龍前爺ちゃんと鳳来爺ちゃん。お久し振りです」

「なんだなんだ元気がないぞ! せっかく元気づけてやろうと思ったのに」

「龍前。口調」

「ん? ああ……ゴホン。連が事件に巻き込まれたと聞いていても経ってもいられなくなったから来たんだがどうやらすれ違いになったようだな……それで、見覚えがある顔が二つに、その男は誰だ?」


 威厳を保とうとした口調をする、顎髭を伸ばし、ちょんまげという超古風な髪形をしたうえで冬でも下駄に甚兵衛を着ている引き締まった老齢の男性――龍前爺ちゃんが問いかけてきたので「友達と今一緒に住んでる子と近所に引っ越してきた子だよ」と簡単に説明する。


「あ、どうも。連の友達の岡田庄一です」

「ほぉ。だいぶ身体能力を持て余しているようじゃの、お主」

「……え?」

「考えることから逃げたら機械でしかないぞ少年」

「……あ、はい……」


 庄一の爺ちゃん達の評価。相変わらず辛口だけど、現状を示しているのだから恐ろしい。

 現に指摘された彼は何も言えずに俯いている。僕は何も言わない。それ以上にレミリアさんと佳織が何も言わないのが気になったから。

 一体どういうことなんだろうかと思いながら玄関先だったことを思い出して「あ、どうする庄一? 今日このまま泊まる?」と質問する。


 少し反応が遅れた彼は「い、いや帰るわ。また学校な」と言って踵を返して走り出した。

 一応釘を刺しといたから気に留める必要はないんだけどなぁと思いながら後ろを見ていると、文歌さんの表情が映った。


 無表情……に近い驚き。辛うじて平静を保とうとしているのだろう。理由は分からないけど。


「さっさと入れ。居候と西条家の一人娘。保護者代わりも含めて」

「「「!」」」


 有無も言わせない淡々とした口調で鳳来爺ちゃんが指示してリビングへ行ったので、「あ、どうぞ」と促して僕も家の中へ入ることにした。



 ……それにしても、なんで彼女達黙ったままなんだろう?

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