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日常と非日常の狭間で

日に焼けたけど元気です

「…………ねぇ、圭」


 この地下室は圭が目をつけていたらしい。なんでも、中学時代に使っていた場所に似て軍事施設だったらしく、情報屋の一人が何かあった時のために整備していたとのこと。その情報屋は今、普通に生活できているらしい。僕達と同じであるにもかかわらず。


 僕の声にパソコンを見続けていた圭が反応し、振り返ってきた。


「…どうした?」


 表情を浮かべず、眉一つ動かさない鉄面皮。いつも通りの彼であり、僕の知らない彼でもある。

 果たして僕は圭にどう見られているんだろうかと考えながら、勉強をやめ圭を見てから訊いてみた。


「……これ、収束すると思う?」

「たぶん、する」


 間髪入れずに返ってきた答えに僕は一応の安心してから「少し、寝るね?」と言って机に顔を伏せた。



 ――――

 ――


 入学した次の日。


 いつも通りのことをしていつも通りに学校へ行く。

 こうした日常を享受できているというのに、昨日のあれのせいで非日常が見え隠れしている気がする。

 中等部時代に元と面識があるはずなので両親や姉さんにある質問をしたところ、予想通りの答えが返ってきたのでもう確定。


 学校へ向かいながら現状の手の施しようのなさにため息をつく。レミリアさんはいない。急遽仕事が入ってそっちへ行った。昨日電話でそんな話を聞いた時の彼女の反応は、無表情だった。


「おっはよ、連君♪ あれ、レミリアさんは?」

「用事があるって」

「ふ~ん、仕事かぁ」


 佳織は知っているからか、すぐさま事情を把握した。まぁ大企業の娘だったらしいからね。

 う~ん。こういっては何だけど、いなくなる前と変わった気がしないなぁ。多分、彼女自身がそうさせているのだろうけど。


「ねぇ連君」

「何さ、佳織」

「聞いておきたいんだけどさ、レミリアさんとどういう関係?」

「姉さんの知り合い」


 表面上の関係はそんなものではないだろうか。客観的に考えて僕はそう答える。それで、僕は自身の内面の変化に気付く。


 ――ああ、戻ってきてるな(・・・・・・・)、と。


 あの頃から戻ってきたはずだというのに、自分から進んでこの状況下の中で戻って行こうとしてるのが理解できた。

 でも止められる気がしない。いや、まだそれほど劇的な変化は起こしてないから周りには気づかれないと考えてもいいのか。

 佳織との久し振りの会話という名の近況報告に適当に相槌を打ちながら、自分の中の絶望感にあらがい始めた。



 さて。学校に来てしまった。もはや完全に非日常を感じる場所となってしまった此処に進んで登校したいなんて思っていないけど、日常的には登校しないといけないので、しなければならない。

 圭と庄一と合流して部活とかの話をしながら教室へ到着したら、中等部時代よりひどくなった修羅場を目の当たりしてげんなりする。助けを求められたけど、僕にはそんな余力はないので手を振るだけにとどめた。


 そして授業が始まった。とはいってもオリエンテーションなので、授業をやっているとは考えない。

 部活や委員会の話は適当に聞いて不参加と明瞭に記入した。理由も忘れずに記載した。これで何か言おうものなら僕は徹底抗戦して入らないようにする。


 その時の雰囲気が恐ろしかったのか声をかけてきた庄一が引いていたが、そんな反応なんて偶にされるので気にならない。それに、自分達だって堂々と不参加って書いてるのだから同罪だし。


 そんな徹底抗戦の構えだったんだけど、あっさりと通ったので拍子抜けした。どうやら過剰になっていたらしい。


 まぁそんな日常を謳歌していたんだけど、昼休み庄一を放置して圭が僕のことを昼食に誘ってきたので素直に応じたところから再び非日常が顔を出してきた。


 指定された屋上へついて行くと、疲れた顔をした元と思いつめた表情をしている花音さんがいた。

 圭に呼ばれたのかなとぼんやり考えているとガチャリと音がしたので、圭が鍵を閉めたんだなと理解する。


「って、え?」

「……」


 思わず振り返ると、何を思ったのか圭は屋上への入り口へ薄い膜を広げていた。

 広げ終えた彼はこちらに振り返り、「…昼食を食べるか」といつも通りの声でしゃべって元たちへ向かったので、もう後戻りできないんだなと入口の方を見てから圭について行った。



「…大丈夫か、元、花音、連」

「ん? ああ、ありがとうね圭。もう本当に何が何やらって感じで」

「ありがとうね木村君。おかげで助かったよ」

「……連は?」

「え、あ……僕は、その……大丈夫、じゃないかな」

「……やっぱりそうか」

「え?」


 圭の呟きに元が反応する。僕は弁当を食べながら何を話すつもりなのだろうと考えた。

 少ししてから、圭が答えた。


「……非常事態宣言だ。本件に限り元と花音の指揮系統は元達の上司である『ユニバースポリス』ではなく、上位組織である『メーティス』に移されている」

『!?』


 僕達の箸が止まる。ユニバースポリスというのは元たちが所属している「正義の味方」。そこで解決した事件で花音さん達が司法取引だか契約で働いてるそうで。元々特殊性のある犯罪解決が主な業務らしく、表立っては動いてない組織とのこと。元たちがなんでそんなところで働いてるのかは知らない。興味がなかったし。大変だなと思っただけで。


 それを当てられたことにどうやら元たちは驚いているらしく、「ど、どうしてそれを知ってるの!?」と圭に詰め寄っていた。

 対し、冷静に、いつも通りに話す。


「それに対して答える気はない……といいたいが、それだと納得できないだろう。詳細は省くが、俺は今お前たちと組織をつなぐ連絡係とでも憶えていてくれ」

「「…………」」


 沈黙する級友。それをしり目に僕は黙々と食べながら「で、指示って何? 事態の収束以外ないだろうけど」と言っておく。


「……そうだが、連は大丈夫か?」

「…ああ、心配してくれてるんだよね。まだ、大丈夫。駄目なら連絡して圭の指示に従うよ」

「そう…………分かった」

「って、連はどうしてここに!? 圭、一般人に聞かせられない話じゃないの普通!!」

「連は俺達と同じ。運良く外れた当事者なのだから呼んだ。もちろん組織の方も了承している」


 だが二人に対する指示に関しては聞かせない……推測出来てるようだが。と言って圭は内ポケットから封筒を取り出して花音さんに渡す。

 彼女はそれを受け取り、封筒の中身を元と一緒に読む。それを見ないようにして、僕は圭に質問した。


「原因は中島愛って人でしょ?」

「……」

「体育館に入ったらみんなああなるのに、よく無事だったね、圭」

「…あの時対策をしていた。だから効かなかった」

「そっか……今回()れっきとしたサポート役なんだね」

「……連」

「何?」

「……相変わらず、恐ろしい」

「そう?」


 首を傾げた僕に何かいいたそうにしてたようだけど、僕からしたら普通に過ごすプラス援護をするっていうのが恐ろしい。まさにスパイとかそんな役割をその年でこなすんだから。ある意味合ってるけどね。


 そうこうしてると二人が読み終わったようなので、圭は「まだ指示はない。だから変わらずに過ごしていていい」と言った。




 放課後。

 いつも通りの日常を表面上過ごした僕達は、追いかけられたり普通に帰ったりと悟られることなく行動できたのかもしれない。多分、向こうに気づかれて泳がされているのかもしれないけど……それはまだかな。たまたまって考えるだろうし。


 心労が溜まっているのが分かる。何気ない回避が自分を引きずり込むという、いい例なのではないだろうか。だとしても解決策として自分も大人しく引っかかる、なんてことは嫌な気がする。

 今日は一人だ。佳織がついてきたがっていたけど、一人になりたかったので丁重にお断りした。下手に会話して僕の精神崩壊を加速させたくないし。


 予測はできている。対策は思い浮かばない。自分が内側から摩耗しているのが分かる。

 今夜は手のかからない料理で良いかな。これ以上気分を下げたくないし。


 商店街の人達やスーパーの人達はどの程度ああなっているのだろうかとぼんやり考えながら肩を落としつつ帰路へ着いた。



 買い物へ行って商店街の人達やスーパーの人達と軽く会話して分かったのは、肯定するのが少数だということだった。おそらく、関係のある人中心に使用されたのだと推測できる。そのことに関しては安堵できた。多少は。

 適度に値引き交渉して財布にかかる負担を軽くした買い物を終えた僕は、特に何事もなく家に帰れた。視線を感じなくはなかったけど、敵意らしいものがなかったので無視した。


 夜。

 いつもなら仕事終わりで帰ってくるはずのレミリアさんがいないので姉さんに聞いたら「撮影が長引いて泊まるってさ」と言われた。


 僕のメールには、そんなこと送られてこなかった。そう言おうと思ったけど、ただ「そうなんだ」と言って深く追及しなかった。


 そして三日目。僕にとって悪夢の日を迎える。

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