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旅行最終日

飛ばします

 色々と考えを改めながら過ごした旅行。いきなり日付が飛んで吃驚したと思うけど、あそこからここまで特に驚くようなことが起きたわけじゃないし、お金もお土産を買って足りたから問題らしい問題はほとんど発生しなかった。


 僕が暴発してちょっと色々あったぐらいだし、うん。


「何が暴発したんだよ。ありゃ真面目にキレていただろ」

「……まさに一喝」

「というか、初めて見た気がするんだけど。本気で怒った連の姿」

「まぁそもそも滅多なことじゃ怒らないけどな、こいつ」

「……あの怒りは妥当」

「そこまで怖かった? あの時も訊いたけど」


 列車の中でその時を思い出して首を傾げると、女性陣の方から「勿論!」と声が上がった。


「言葉の可能性を見たけど~あそこまでいくと怒られていない私達も怒られた気がしてきたよー」

「普段怒らない人に限って怖いのは誰でも同じなのはわかったけど、それでもレンだけは怒らせてはいけないのは胸に刻んでおくわ」

「私が見たのは二度目ですけど……慣れませんね」

()を助けてくれたから嬉しかったですが、やっぱりレンは怒らせたくありません」

()を助けてくれたからとても嬉しいけど……連君のあの表情は久しぶりに見たなぁ」

「良識を持ち合わせているという証左でありますが、少しは加減した方が警察沙汰になりかけなかったと思います」

「…………」


 以上が女性陣の評価。文歌さんは黙っている……というよりは、その光景を思い出して背筋を震わせているのではないだろうか。視界に入る彼女を観察していると、全身が細かく震えているのが分かるから。


 あの人もあの人で何かズレているんだよなぁ……よく続けられているよ本当。


 そんなことを考えながら、みんなが言っていることを思い返す。


 あれはただ、レミリアさんと佳織がナンパされて迷惑そうだったのと、ナンパしていたやつが遊んでいる雰囲気を出していたので丁重にお断りしてから彼と、その仲間たちに彼らの未来を煽るだけ煽った。具体的に言うと、君はそれが楽しいのだろうけど、その内に認知してとか、刺されたりとか、身の破滅を招きかねないことをしていることを理解できてる? に始まり、彼らの目から光が消えて頭を抱えだすまで十分ぐらい言葉を吐き続けた。


 怒りをぶつけたのは合っているけど、まだ本気じゃない気がするんだよなぁ……。

 自分でもよくわからない怒りの上限。激情に身を任せて怒ることは果たしてあるのだろうか。もしあるのなら、それは、


 僕の沸点の上限になるのだろうか。


「どうしたんだよ? また考え事か?」

「うんまぁ。僕の怒りの上限ってどこなんだろうって、気になって」

「あ~~……それは分かんねぇ。それなりに一緒にいても、お前が怒ること自体見ないからよ」

「だよね」


 両親が飲み過ぎた時が一番ひどかった……と思うけど。それは言わないでおく。きっとそれ以上に怒りを露わにする機会があるだろうし。


「まぁ、そんなことはどうでもいいよね。話を振っておいてなんだけどさ」

「いや、少しは気になるんだが」

「……まぁ、それはおいおい」

「ははは……僕としては、連の身体能力が気になるんだけど」

「え?」


 元の今更な疑問に僕は思わず聞き返す。卒業式前のイベントでの光景を憶えていないのだろうかと思い。

 けど、その言葉に思い出して興奮したようにレミリアさんと佳織はしゃべりだしたけど。


「本当に凄いよ! ためらいなくビーチボール蹴り飛ばせるのもそうなんだけどさ、隣にいたのに気付いたら前から来たものを受け流したり!!」

「そうですよ! レンは謙遜していますけど、あんな風に滑らかに動けるなんてちょっとやそっとじゃできませんからね!!」

「そんなものかな?」

「まぁ水場であんだけ動いて滑ったりしないのはすごいことだろ。超能力とか使わないで」


 そう言われてひとまず納得する。でもそこまで足場が濡れていた気がしなかったんだけど。とは思っておく。


「というか、レミリアさんと佳織……あれ? 佳織は……見たことなかったっけ?」

「ないよ! あんな動き方したところなんて!!」


 そうだっけと思いながら記憶をたどってみたところ、そもそも佳織と同じクラスになったこと自体少なかったことを思い出した。


「そう言えばないかもね」

「でしょ!? ……ところでさ、どうして普段からあんな動きしないの?」

「目立つじゃん。それに、家のことで体力使うのに普段から体力使って過ごしたくないんだよ」

「あ、そっか。愚問だったね」


 ここらでひと段落したとみて、僕はみんなに言った。


「あのさ、そんなことよりみんなはもっと元について問い詰めるべきじゃないかな?」

「!? へ、え、あ、な、なななん、なんでさ!!」


 一人離れた席に座り、あたかも関係ないように振舞っていたので仕返しに話題を振ったら顔を赤くして列車が動いているのに立ち上がって叫んだ。

 なんで僕が話を振ったかというと半分は僕の話題ばかりになっているのが嫌だったから。残り半分の三分の一が嫌がらせで、三分の二は素直に話に混ざればいいのにというお節介だ。無理やり僕の身体能力の話題を持ち出したけど、驚いているのは少人数。出発したばかりだし、早いうちに隠れられない話題を提供した方が……ね。


 それに便乗してなのか、庄一は思い出すように呟いた。


「そういやお前、一昨日どっか行ってたよな? 寝ようにも鍵変えられたら面倒だからって起きてたんだがよ」

「……まぁ、帰ってきて何があったのかは分かり易かったからいいが」

「元? またあんた隠し事してるわけ!?」

「し、ししししてないよ!」


 久美さんの追及を必死にかわす。どうやら彼女達も知らないようだ……当事者である一人を除いて。

 あの後絶対に合流してるはずだからそちらに目を向ける方が自然だと思うんだけど。久美さんを観察しながら疑問に思ったけど直接聞くことはせずに本を読むことに。


「って、さらっと逃げんなよ連。お前に聞きたいことはまだあるんだよ」

「内容によるけど。黙秘権を行使する質問なら、僕は遠慮なく行使するからね」

「分かったよ……まぁ訊きたいことは簡単でこうして旅をしてどうだった? ってやつなんだが」


 なんか総括して感想を聞かれたので、しおりを挟んで本を閉じてから旅行中の記憶を思い返し考える。


 なんだかんだ言って遠ざけていた前半があるし、後半もまぁ色々と面倒な事態に陥った気がしてるからどちらかというと…………


「楽しいというより、疲れたって印象しか残らなかったかな」


 頷きながらそう答えたところ、庄一は真顔で溜息をついてから「流石にそれはないわ」と非難する。


「だから言ったじゃん」

「オブラートに包むとか思うだろ、普通」

「感想をオブラートに包んで意味ある?」

「……庄一。不毛」

「……ああ、そうだな」


 肩を落としたようなので、僕は他の感想を脳内で考え「まぁ、人情を実感できた旅行かな」と付け足したところ、盛大にため息をつかれた。

 思わず「え、どうしたのさ?」と訊ねたところ「お前ってたまに盛大に読まないよな」とよくわからない言葉をいただいた。


 いや、単純に感想が欲しいと言われたから答えただけなんだけど。

 釈然としない気持ちを燻ぶらせていると「ちょっと連!? 話題ふったの君なんだから助けてくれない!?」なんて列車の中だというのに大声で助けを求められた。

 思わず注意する。


「他の乗客に迷惑でしょ」

「いや! そ、そうなんだけどさ……って、」


 そこから先の言葉を言わせず、息を吐いてから「ぶっちゃけさ、帰ったら尋問できるでしょ? そこでしつこく聞く必要ないでしょ。聞き過ぎて嫌われる可能性も考慮できないほど焦っているなら話は別だけど」と身もふたもない言い方をする。

 それだけで女性陣の会話は止まったので、寝た方が効率的かなと思い始めた。



 帰ったら更に疲れそうだからね。

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