みんなで行こう
洗濯物を終え、詩音さんにお礼を述べてから自室へ戻ったら圭が起きていた。時間も七時ごろとまだのようなので、洗濯物を促して部屋を出て行ってもらう。
何がしたいという訳じゃない。だって元と庄一寝ているから。ただ、朝食の時間被せたくないから、なんて。
起きてるのが僕だけになったので、堂々と指輪を取り出してテーブルに置く。
すると、声が聞こえた。
『おはようございますマスター』
『……ああ、おはようシルフ』
挨拶を返したところ、『これからよろしくお願いします』と丁寧にあいさつされたので、不思議な感じだなぁと思いながら「よろしく」と漏らした。
昨夜お詫びと称して渡された(押し付けられた?)指輪。ロキさん曰く風の大精霊が宿っているという。無意識に呼びかけて指輪をはめようとしてたのは、その指輪に掛かっていた力だとか。なんとはた迷惑な力をかけてくれたんだと思ったけど。
で、昨日。夢の中で『彼女』と挨拶を交わした。といっても、長々としたものじゃなく、まぁ呼び方とか自己紹介程度。目的は一応はっきりしているし。
そんな訳で脳内で彼女と会話ができるようになった。傍から見たら指輪に話しかけるやばい奴に見えないから堂々と出せるけど、見られたら出所を聞かれるので面倒。
指輪から視線を外し、天井を見ながら思わずつぶやく。
「今日、どうしようかな?」
昨日はいそいそと風呂に入って寝たので、まぁぶっちゃけ今日の予定に関してのすり合わせを行っていない。一緒に行動したいなら別に断る理由もないけど、単独行動を気付いたら執ろうとしているので意見が一致しないならひとりで散歩するのも選択肢に入る。
何言ってるんだこいつと思われるけど。
『なぜ悩むのか、理解に苦しみます』
脳内に響く声に思わず動きを止める。その際の思考について、彼女は淡々と説明してくれた。
『一応、昨日の夜の時点でパスはつながっています。貴方の表層ぐらいならば私にも伝わります。流石に抱え込んでいるものに対しては強く思わないと伝わりませんが』
……これ、迂闊に思考できなくなった?
『それには及びません。ただ、私が不可解だと思った場合に問いかけるだけなので』
『あっ、そう』
『ええ。で、あなたはなぜそんな馬鹿な思考をしているのですか?』
僕は瞬きをしてから、「バカかなぁ」と漏らす。
『人間とは、群れて生活する種族なのでは? それをあなたは相手に悪いと思って距離を置こうとしているようですが、その態度こそ悪いのでは?』
言い返す言葉が思い浮かばなかった。
『……はぁ。マスターは確かに放っておけない感じはありますが、あまり身を削り過ぎて倒れられたら私にとっても問題なので』
『随分とストレートだね』
『言い回しよりストレートの方が勘繰らなくていいのでは?』
確かにそうだけどさ。そんなことを思いながら現実で溜息をつく。
オーディンさん達はこれを見越して僕に渡したのだろうか。なんかあれだ。普段怒られることが少ないから新鮮だ。
『私がマスターに渡った理由は、単純に波長が合っただけです。説明しましたよね?』
『ああ、うん』
と、そんな確認をしていたところ庄一が動き出したので『またあとでね』と念じて指輪をポケットに入れる。
その少し後、庄一が起きた。
彼は腕を伸ばしてから首を回し、僕に気付いてから「おはよう」と挨拶してくれたのでこちらも返す。
「おはよう庄一」
「……。圭の奴は?」
「洗濯しに行ったよ」
「あーそうか」
寝ぼけた返事をしながら欠伸を漏らして起きた彼。相変わらず朝が弱いんだけど、よくも学校に間に合っているものだと感心する。
少しばかり羨ましいなと思っていたところ、圭が戻ってきた。
「……庄一おはよう」
「おー相変わらず早いなぁ」
二人の会話を聞きながら時間を見たら、八時近くとなっていた。元はまだ起きてこないようだ。
素直に呟く。
「元が遅いのってなんか新鮮だね」
「……そうだな」
「確かに」
「何かやったの?」
僕と別れてからの話を聞いてなかったなと思ったので質問してみると、二人は顔を見合わせて首を横に振る。どうやら、想像している酷いことで体力を消耗したわけではないらしい。
まぁ寝ているならそっとしておくのも選択肢の一つなんだけど、朝食抜きになってから今日の行動をするのは些かつらいだろう。というか朝食もうすぐじゃん。
「とりあえず起こそうか」
「んだな」
圭も頷いたので、僕達三人で元を起こすことにした。
元を三人で覚醒させて朝食。
どうやら落ち着いたらしいレミリアさんは、それでもぎこちなさを醸しながら僕の隣の席で朝食を摂る。
服装は全体的にベビーブルーで統一されている。と思う。デザインは結構可愛らしいものではないのだろうか。レースとかついてるみたいだし。
そんな彼女をしり目に昨日と違う種類にローテーションか、本当に毎日違うのかなと疑問を浮かべながら食べた。
食べ終えてから。
食堂を出てとりあえず質問してみる。
「今日って予定あるの?」
「レ、レンはあるんですか?」
「あるわけないけど」
今回の予定なんてリラックスしたいぐらいだし。
だから散々各自でどうぞと言ってたんだけどなぁと再確認していると、「で、でしたら!」とみんながいるというのに叫んだ。
「い、いい、一緒に、プールへ来てくださいませんか!?」
「へ、プール?」
「は、はい! えっと、その、最近、何かに悩んでいるようでしたので、動いて忘れる……まではいかないでしょうけど、気分転換になったならな、と思いまして……」
「…………」
不安げに話す彼女に、やっぱり優しいなぁと再認識してから、僕の直近の言動を振り返って思わず視線を外す。本当、ひどいことばっか言ってるから。
何だろう。僕以上に人格が出来てる気がする。すごいな、これが社会人なのかな。
それに比べて僕ってなんて浅ましいんだろうと自己嫌悪に陥っていると、彼女が不安を覚えたらしく「だ、大丈夫ですか?」と確認を取ってきたので、「大丈夫だよレミリアさん。行こうか」と後ろめたさを隠しながら返事をする。
「えっ、あ、っ、は、はい! 行きましょう!!」
………レンタル代足りるかな。
プール。地域が運営している公共施設。屋内なので外が悪天候だろうが、寒かろうが年中無休でやっている。今日みんなでそこへ行くことになった。
「にしても、何か不思議だな」
「何がさ?」
「いや、ここ最近のお前ってなんかよ、他人にかかわる気がないって雰囲気出してただろ」
「そうだっけ?」
いつもそんなことを考えているから気にしてなかったんだけど。
やっぱり思考が漏れてないから知られてないのかなぁと思いながら首を傾げていると、「自覚なかったの連君?」といつの間にか混ざっていた佳織が質問してくる。しかもさりげなく隣にいるし、服装を見たところそれなりに大人しめだった。ひょっとすると着替えは毎日あるのだろうか。大変じゃないのかな?
それに答えずに「よくわかったね、ここが」と話を振る。
「偶然だよ偶然! やっぱり私達考えが似通っているんだね!!」
「考えが似通っているのは僕じゃなくてレミリアさんじゃないかな……昨日昼前に出会って話をしていたり、とかね」
「は、はははっ、そ、そ、そんなことないって! ほ、本当に偶然なんだって!!」
「そういうならそれでいいけど」
話をうやむやにして終わらせる。そして周囲を見ると、案の定絶句していた。
この反応にも慣れたものだと内心で溜息をついてから、「さて、行こうか」と一人で歩き出すことにした。
時間を食うのも馬鹿らしいしね。




