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昼食

 庄一達が気を利かせて三人だけとなった。これどうすればいいんだろう。素直に同行した方が良いのかな。

 気が重い選択を受け入れなきゃいけないんだなと大きく息を吐いていると、それを見た佳織が「え、えっと、い、いやだった……? そ、それなら別に強制はしないんだけど!」と慌てて本音を隠したのでとりあえず自分の顔を殴って思考の転換をして、「どこで食べる予定なの、佳織?」と質問する。


「え、何で殴ったの?」

「ちょっと自分の思考がまずい方へ向かっていたからリセットするための強硬手段。そうでもしないと僕の思考は抜け出せなくなるから」

「……連君ってさ、本当に頑固だよね」

「まぁそうだね。で、どこで食べる予定だったの?」


 話題を戻したところ彼女も思い出すように「え~っと」と呟いて考えてから、「どこだっけ文歌さん」と中川さんに確認を取った。

 中川さんはため息をついて「今日の昼食は食べ歩くと自分でおっしゃっていらしたではありませんか」と答えてくれた。


「あ、そ、そうだったね! あははっ!!」

「食べ歩きって……まだ滞在するのに昼食の選択肢を狭めてどうするのさ」


 笑ってごまかしているようなのでツッコミを入れたところ、「これはこれで合理的ですよ池田様」と中川さんが反論した。

 その言葉に食べ歩きのメリットを即座に脳内で挙げていき、そこから導かれる意見にたどり着いた時に説明してくれた。


「食べ歩きをするということは様々な店を見て回れます。そこから自分が気に入ったお店とかをその日に見つけておけば、場所に迷う必要はありません。料理が一品しかないお店などないでしょうから、そのお店だけで食べ続けても飽きたりはしないでしょう」


 他にもお金持ち特有の警戒するものが在りそうだけどなんて思いながら「なるほど。そういう意見もあるんですね」と納得する。


「と、いう訳なんだけど……い、一緒にどうかな?」

「ん? そうだね~……行こうか。ひょっとしたら安上がりなお店とかあるかもしれないし」

「もう! そうやってすぐにそっちの方向に行こうとするんだから! だから主夫とかで納得しちゃうんだよ!?」

「なんで知ってるの!? 佳織と泊まる場所違うよね!?」


 驚いていると、佳織がしまったという顔をした。この表情を見た時点で佳織は誰かにこの話を聞いたことは確定。そして、女性陣の中に犯人がいることも。だって庄一達はさっきまで僕と一緒にいたんだから。


「ねぇ佳織。怒らないから誰に聞いたのか教えてくれない? もしくはさ、さっきまで一緒にいたのかどうか答えてよ」


 詰問したら彼女は黙ってしまった。黙秘権を行使しているように見えたけど、僕の考えだと本当のことを言うべきかどうか、もしくはどうやってぼかして説明しようかどうかについて考えている沈黙だ。

 とりあえず根気よく答えを待っていると、中川さんが主に対して助け舟を出した。


「私とそういう印象があるという話をしたからですよね」

「う、うんそう! 旅行前に連君の説明してたら文歌さんがそんな印象を持ったんだ!!」

「……あっそ」


 見え透いた嘘に対して何も言わない。決めつけは良くないだろうけど、彼女の焦りがその意見の信用を無くしている証拠なのだから。


 というか別に怒る気もないのに、どうして隠すのだろうか。ちゃんと言わないと正直に話してくれないのだろうか、やっぱり。

 となると自分の胸の内をすべて出して孤立する未来しか選べなくなるんだけど……そうなるなら種は蒔いておくべきなのかな、あらかじめ。

 人間関係ってやっぱり疲れるよなぁと肩を落としていると、「ご、ごめん連君!」と謝ってきた。


 ――ああ。


 彼女の謝罪する姿を見て、吐き出せない負の感情が渦巻いているのを自覚して、悟る。



 僕はなんて身勝手で、卑怯者で、協調性がなくて、都合のいい人間なのだろう、と。



 こんなもの、人間であれば当然だ。当然の『業』だ。許せないなんて言えない、誰にでも胸の内に潜ませている『業』。

 だからこんな事実を悟ったところで、醜い自分を自覚したところで受け入れる以外の選択肢がない。変えることなんて不可能に近いし、目を背けるなんて論外だ。


 すでに気付いていた事実。昔から直面するたびにそれを確認しているのに繰り返す。学習しているのかどうか疑わしい確認。

 今すぐ彼女と別れたい。そして大したものを口にせずにただ景色を眺めたい。夜になって死ぬリスクが高まっても眺めて、捜索されても。


 独りでいたい。孤独でいたい。誰とも関わり合いを持ちたくない。昔の自分がもたげてくる。逃避にすらならない逃避に昔の僕が追いすがり、今の僕と重なっていく。


「――君? 連君!」

「…………ああ、どうしたの佳織」

「え、えっとさ、ここでずっと立っているのも変だから、い、一緒に行こう?」


 緊張しているのか気を遣っているのかどちらとも取れる口調で提案してきた彼女の言葉に対し、進行中の僕は「そうだね」と平坦な声で返事をした。


 緊張することなんてないのに。


 飲み込む言葉が自分の中に蓄積される。果たしてそれは良いことなのかどうか判断が出来ないからしない。ただ、奥底に沈んでいく。

 今まで何の気なしに自然とやっているこの行為。それこそが自分をこうしているのではないかと歩きながら推測する。


 となると僕は直したんじゃなく化けたのか。あの頃から今。


 その結論が出た時にはすでに、僕の認識は上書きされる。


 小学生の頃から本質は変わっていない。ただその本質を隠すように皮をかぶっただけ。


「ふふっ」


 佳織たちに聞こえないよう小さく呟き、俯いて嗤う。笑って、いい加減に思考を止める。

 こんなのは堂々巡りだ。解決策を思いついてるのかどうか、なんて自問自答したところで僕にとって都合のいい答えしか出てこないのだから。


「えっと、話聞いてた?」

「え、ごめん。色々考えないといけないのがあって聞いてなかった」

「もう。他の子でも考えてたの?」

「違うよ。というか、他人のことを考える余裕なんて、僕にはないね」

「そう?」


 僕の言葉が予想外だったのか目を見開いて訊き返してきた。その反応を示されるのが意外だったのでこちらも驚く。


「え、だって昨日の列車の中」

「あれ? 最悪僕に被害が及ぶ可能性があるでしょ? 深入りしたくないから返答を遮っただけ」


 すらすらと昨日考えていたこととは違う言葉で説明していく。それを脳内では冷静に塗り替えていく。


 自分の方向性をこれ以上乱さないために。もう、自分が不安に振り回されないために。


 そうやって過去の行動の理由すらも一定の方向性で変えていると、「そっか。ありがとうね、連君」と礼を言われた。


「……意味が分からないんだけど?」

「だって、あの場にいるみんなや私達にも被害が及ぶ可能性を考慮してくれたんでしょ? だったら、益々感謝しないと。結局、みんな知ったけどね」

「……そっか」


 別な解釈をされたせいで齟齬が発生した。けれど僕は止める気なんてなかった。多少の齟齬なんて勘違いで一蹴できるし、自分の考え自体を疑わせることなんて容易い。なにせ、しつこく聞かれれば誰だって不安になるのだ。それがたとえ正しい知識だとしても。


 そんな考えを踏まえ、お腹が空いてきたので「で、どこで最初食べるの?」と本来の目的を訪ねる。

 佳織がジト目で睨んできた。


「……その話をしていたのに連君が聞いてなかったじゃん」

「ごめんごめん。あ、高い場所なら僕はここでさようならだから。別に一食抜いても生きていけるから人間って」


 絶食しても一日二日なら生きていけるし。


「えぇー! それだったら一緒にいる意味ないじゃん! 昨日も言ったけど、そこまで高い店に行くことはないだろうし、心配なら私がお金を払うから!!」

「それ、僕がただのヒモじゃん。嫌なんだけどそこまでしてお昼食べるのが」

「人の厚意は素直に受け取ってよ。それに、ヒモだなんて思わないよ」


 顔を近づけてきて真顔でそう返してきたので、客観的に見ればそうみられてもおかしくないんだよなぁと考えながらため息をついて降参する。


「……分かったよ。とりあえず今日はお願いするけど、帰ったら金額をきちんと清算したいから」

「だから別にいいって」

「よくないよ。親しき中にも礼儀あり。金の貸し借りが一番もめるんだから」

「本当に頑固なんだから……そうだ!」

「何?」

「お金はいらないからさ、帰ったら料理を食べさせてよ! それでチャラってことにしよう?」


 その提案に思わず渋い顔をしたけど、彼女が出した妥協案以上は平行線をたどることは目に見えていたので「……まぁ、佳織がそれでいいのなら」と納得する。


 ようやく話がまとまったことに彼女は安堵したのか僕の手を握り、「じゃ、早速行ってみよう!」と近くのお店へ突撃した。


「ちょっ!」


 準備が出来ていなかったので思わず転びそうになったけど、彼女のペースに何とか合わせることが出来、そのまま店へはいった。



 結局、四店もめぐって色々なものを食べた。味付けに関しては色々言いたいことがあったけど、この味付けで店が繁盛してるならいいかと思った。僕が関わっているわけじゃないし。


 あと、レミリアさん達と遭遇することはなかった。

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