彼らの行動
午前九時頃。
僕と圭と庄一と元の男性陣は、部屋での話し合いの結果「午前中は勉強して、午後になったら昼食を兼ねて散策する」という方針になった。旅先だというのに時間の使い方が間違っている気がしなくもないけど、長期の時間の潰し方が分からない僕としては、日常の延長をした方が変に緊張しなくて済む。お金もないしね。
そんな訳で勉強。とはいっても僕は数学しか持ってきてなくて、みんな持ってきてないので一人がランダムに問題を出し、それを残りの三人が解くという方式をとることになった。答えが分かっている問題に限るけどね、勿論。
「……なぁ。やっぱり旅行先で勉強ってよ、間違ってないか?」
「とりあえず一巡しようよ。終わったらどうせ飽きるだろうし」
「俺はもう飽きたんだが……」
「……集中力が足りない」
庄一が一問目を始めたばかりに弱音を吐いたので圭が諫める。出題者の元も答えを知りたいのか自分で解いている。
制限時間は五分。計算式の省略はなしで問題を始めたばかりなんだけど……と頭の片隅で思いながら問題を解くことに集中する。
時間が設けられるというのは焦るものだ。些細な問題でも度忘れして慌てて思考の坩堝に嵌るのだから。
でも、仕事なんかはそんなものだと思う。納期とか締め切りとか、スケジュールとか。日程のゴールが決められた中でお金を払ってもいいと向こうが思うクオリティで完成させなければいけないのだから。そう考えると学校のテストや課題も社会人に通じるものが在るのかもね。
っと。出来た。時間は……3分半か。とりあえず検算しよう。
そして残り時間検算をしていたところ、タイマーが鳴った。
「……終わり」
「だー! もう少しで答えかけたのに!!」
「まぁ大丈夫かな」
「それじゃ、答えをどうぞ」
「「x=3」」
「せ、正解」
僕達の声を揃えた解答に元はちょっと引きながら合っているといった。庄一の方はどうなんだろうと除いてみたところ、あと少しだったらしい。丁度答えを書くだけで時間を迎えたようだ。前半文句を言っていたというのに解くスピードが速くて僕は驚いている。
「なんだかんだ言って早いじゃん、庄一」
「あ? 褒めてるのかよ、それ」
「褒めてる。これが去年の期末なら良かったのに」
「まだそれを引っ張るのか! お前いい加減にしろよ!?」
庄一が圭につかみかかろうとしたので、「いやーでも。あれは言われても仕方ないって」と元が追い打ちをかけた。
「おう元。いい度胸してんな。テメェだって中二の頃不登校で成績ズタズタだったじゃねぇか」
「うっ! あ、あれは庄一のあの時の状況と違うでしょ……庄一の場合、試験勉強しなくてもいいとか言ってあまり参加しなかったからじゃん」
「というかさ、自分の非を認めていい加減いじられることを受け入れたら?」
「そっ、そう、それは……って、連に至っては度々タイムセール行くのに学校休んでいるだろ!」
「そうだね。で、だから何さ?」
「っ」
庄一が3人の間の秘密を持ち出してきたので、僕は普通に肯定して切り返す。正直此処迄ごねるなんて男としてカッコ悪いと思うんだけど。やってしまったのだから素直に受け入れる他ないというのに。何が彼をそこまで強情にさせるのだろうか。
「え? 連が中等部頃度々午前中休んでいたのってそれが原因だったの?」
「8割そうかな。あとの2割は頭痛とか風邪ひいたとかで休んでたよ。いつも通りに弁当とか朝食とか洗濯物やってから自分の部屋に戻って寝てたし」
「え、風邪ひいても……?」
「当たり前じゃん」
そう言い切ったところ、訊いた本人が目をそらして「…その……ごめん」と呟いた。
「いや、謝られても困るんだけど。それより庄一はいい加減自業自得だから喚かないでよねかっこ悪い」
「ぐっ」
「あとこのことは秘密だからね元。この3人以外でその話題が出たら、真っ先に君を疑うからそのつもりで」
「こ、怖いよ連!!」
「そう?」
いつも通りのトーンで言ったはずなのにと首を傾げると、黙っていた圭が「次」と言ったので慌てて庄一が問題を探し始めた。
ま、そんな時間も長く続くはずもなく。
案の定一周したら庄一が投げたので、午前十時ごろには元が持って来たトランプで遊ぶことになった。今は七並べをやっている。
「というかこれ、普通夜じゃない?」
「とはいっても今から出かけたら鉢合わせる可能性あるだろ? そうならないためにこうして午前中引き籠ってるんだろ」
「……正直言えば、公園で遊んでいれば遭遇する可能性は低い」
「だったら最初に言ってよ、圭」
そう言ってハートの8を置いたので、僕は少し考えてからクラブのエースを置く。
「うわっ、マジかよ! ……しゃぁねぇ。こっち出すしかねぇな」
「……これ」
せっせと圭が並べるせいで、また僕の番。手札は残り三枚で……置ける場所は……ここしかない……って、あれ?
残り枚数と配置を見て違和感を覚えたのでしばらく考える。庄一から急かされているけど無視して。
二分ぐらい考えてから、僕は結論を出した。
「あ、これ僕負ける」
「え?」
「は?」
「……」
仕方がないので置ける場所にカードを置く。そして順々にカードが置かれていき、また僕の番なんだけど……
「パス。置ける場所がない」
「ん、そうか」
そういうと庄一が普通に置く。現状を眺めながら圭は少し考えて「パス」を宣言する。
それを聞いて元がカードを置こうとしたので、その前にルール確認のため質問した。
「そう言えばパスって何回までできたっけ」
「あ? 二回までだろ」
「じゃぁ僕は残り一回か……」
「えっと、置いてもいい?」
「あ、うんいいよ」
遠慮がちに元がカードを置く。其の配置で彼らの残りカードを推測してから……自分の敗北は揺るがないことが確定情報になったことに息を吐いて一枚置く。これで残り一枚。
でもみんな一枚だし、僕のカード最後だと出せないから、ね。
お昼になったので昼食ついでに散策する予定の僕達は外に出た。
話題はさっきのカードゲームの話。
「『負けた』とかいきなりなに言ってるんだと思ったが、ジョーカーだったのかよ。パスしたところで出して俺達に拾わせればよかったのに」
「それやっても良かったんだけど、最終的に僕に返ってくる気がしたから大人しく負けようと思ったんだよね。それに、最後にジョーカーって反則でしょ?」
「相変わらず頭の回転が速過ぎるんだけど……二分ぐらいでそこまで考えられたって」
「……頭の回転が速いのはいいこと」
素直に褒められていると受け取り、「今日はどこで食べるの? 場所によっては僕遠慮するけど」なんて釘をさす。
「いやお前それはよ……」
「あれ、連君? ジャンヌさん達は?」
「こんにちは、佳織。今日は別行動だよ」
「え、そうなの!? じゃ、じゃぁ、二人きりになれるチャンスってこと」
後半を小さい声プラス早口でしゃべられたので何を言ってるのか分からなかったから返答せずに「これからお昼?」と問いかける。
彼女は大きく頷き、「そういう連君たちも?」と聞き返してきたのでこちらも頷く。
彼女が何か言う前に僕は庄一達と話し合う。
「どうしようね?」
「いや、なんで西条さんが言う前にこうして話し合うんだよ」
「いうことぐらいわかってるでしょ? だったらさっさと結論を出した方が良いでしょうに」
「え、分かったの?」
「……鈍すぎ」
「うっ」
元が脱落したので僕達三人で――
「お前行って来いよ。一人で」
「え」
「……金がないならどうしようもない」
「待って。それって世間一般で言うヒモでしょ? 嫌なんだけど」
「うるせぇいいからテメェひとりで行けや」
「うわっ」
――話し合おうとしたら共謀されて庄一に蹴りだされ、佳織の前に移動させられた。
本気じゃなくても痛みはあるので蹴られた部分を抑えながら「それじゃ、行こうか?」と話しかける。
彼女は流れについていけなかったのか瞬きを数回してから「あ、うん!」と元気良く返事した。
庄一達はもう移動していた。




