野郎四人による益のない会話
どうもお久し振りでございます。なんというか、申し訳ございません。
「しっかし連。お前相変わらず変なところで根性出すよな」
「……相変わらずって何さ、庄一……」
現在はホテルの自室。僕は何とも言えない疲れのせいでベッドに体を預けている。庄一達は多分、椅子に座ってる。
「庄一、そっとしてあげなよ……そういうところがダメなんだって」
「うっ。そ、そっか。わ、悪い」
「……言葉だけで何度聞いたんだろうね……」
気だるげに追撃を入れる。正直現状としては自分が生きている事にホッとした反動で体から力抜けているせいで言葉にキレはないけど。
でも彼にはきちんと届いたようで「……本当にすまん」と謝ってくれた。まぁ許すかどうかなんて考えるまでもないと思うけど。
「……でも無理もない。アレは俺も焦った」
「こっちなんて西条さんとジャンヌさんが駆け寄ったんだから……でも無事でよかったよ」
「…あーりがと」
俺の時と態度違くね? 庄一がそんなことを呟いたけど、僕は無視した。
僕の番になったから木の上に向かった。そして、覚悟を決めた僕は最初に風景をカメラ機能で撮ってから一気に橋を渡る。そこまでは何ら問題はなかった。
次の平均台。心拍数を整えて問題ないと思い一歩一歩慎重に踏み出して残り三分の一になったところ、風にあおられて体勢を崩し落ちそうになった。
下から悲鳴が聞こえたけど何とか踏ん張った僕はそのまま速足で平均台を渡り切った。この時点で心拍数が上がってて、真面目な話このまま行ける気がしなかったので景色を撮ってから深呼吸を繰り返してある程度落ち着かせる。
で、その次の板がそれなりに揺れていた。風で。
僕はもうこの時点で人為的に揺らされている線は切った。いや、立て続けに揺らす馬鹿もいるだろうし、見ず知らずの人間を殺したい奴だっているだろうけど、その線は限りなく薄いと見た。
だって、空を舞いながら笑い声をあげてる奴らが見えるから。
……うん。妖精かなんかだろうけど、良い度胸してるね。
この時点で僕は表情を消した。そして僕の視線に気づかないバカを睨みつけながら、揺れている板を力強く踏みつける。
係員の人はそれを見て驚いている。けれど、僕にはどうでも良かった。
視線を戻し、尚も揺れている足場を無視し、踏みつける。
そうしたところ、全体的に揺れが収まった。だからと言って僕の気持ちは収まらない。ありていに言えばこの現象を起こしている奴に対し、相当怒っていた。
だから。
お守りを握りしめ、毅然とした表情で上空を睨みつけ内心で『静かにしろ』と静かな怒りを込めて指示する。というか。
何しにきやがった。
何こいつら。興味半分で僕にいたずらしに来たの? ふざけるのも大概にしろよ。何様のつもりだよ。ああくっそ。大黒天居ないから話通じる奴いないし普通の人だから行動を止められもしない。
「面白い?」
思わず漏れた言葉。別に感情を乗せたわけでもない、ただただ八つ当たり気味に呟いてしまった言葉だったんだけど……。
ピタリ。と、軽やかに宙を舞っていたやつらの動きが止まった。それと同時に板の揺れも収まった。そして僕もなんか疲れた。この疲れはマリアさんに奇跡を叶えてもらう時に感じた疲労感と一緒だ。
僕の身体に一体何が起こったのか分からないながらも原因を推測しつつ渡り切り、最後だと気合を入れなおしてロープを握り、勢い良く移動した。
……って感じで無事とはいいがたいけどクリアしたのは良いものの、変に疲れたせいで僕自身が何もする気が無くなり、ホテルへ直帰。みんな構うことないのについてきてくれた。ありがたいけど、大黒を問い詰めて八つ当たりするチャンスが消えた。
でも、冷静になって考えてみるんだけど、一般人が神様と話せることを隠していることはまぁ当たり前として……なんで僕は揺れていた原因が空にいると理解したんだろう。
ベッドに体を預けたまま、普段より鈍行な思考を進めていく。
時たまある。経験則なのか、考えずに原因に当たることが。直感なんだろうけど、鋭いと思ったことはないし、仮に直感でも筋道を立てておけば思考法として経験になるから自然とやっている。
今回は何でだろうか……一応、快楽殺人者が付近にいるとかそういう可能性を排除した後で……ん?
ひょっとして……『視えた』? 大黒達と同じように、彼らの姿を。
「…………」
地元ではそんな存在を見たことがなかったために僕は信じられなくなる。ただ、可能性は高い。妖精とか精霊とか、言葉上ではこの世界に存在するのだから。見たことはなかったけど。
だとすると別の問題が浮上する。彼らを僕にけしかけてきたやつは一体何を考えていたのか、という。
多分、いや確実に犯人は神様だといえる。ただし動機が分からない。
愉快犯だったら考えても無駄だなぁと天井を見るように体を動かす。
それを見ていたのか、庄一が声をかけてきた。
「どうしたよ?」
「ん~~なんかな~こうしているのが……不思議で。あんまり心配された記憶も……ないし」
「……今までが忙し過ぎただけ」
「そういや連を心配することって殆どなかった……よな?」
「圭もそんな感じだよね。なんていうか、二人ともどこか問題ないって思えるからかな?」
結局はイメージの問題だよねとぼんやり思いながら、のそりと起き上がってから本格的に会話に参加する。
「元は危なっかしいよね。だからみんな心配する」
「でもあれは異常じゃね?」
「……好きな人が傷つき、いなくなるのが耐えられないのなら妥当」
「…………」
元は頬を赤らめて俯く。それを無視して「そういえば庄一は新道さんと一緒に登校してないの?」と矛先を向ける。
彼は露骨に焦った。
「はっ、ハァ!? いくら幼馴染だからってんなことするかよ! 元たちじゃあるまいし」
「……でも偶に一緒に帰ってる」
「そりゃ一緒の道だからな……って、なんで知ってやがる!」
「むしろ知られてないと思う方がおかしいと思うんだけどなー」
「……大丈夫。二人で仲良く寄り道しながら帰っていたことは拡散しない」
「言ってるだろうがよそれ! ふざけんなよ圭マジで!!」
「あ、あはは……ま、まぁ庄一。それぐらい普通のことだから別に怒ることじゃ……」
意識が戻って来たらしい元が庄一を宥めようとしたところ、「うるせぇ!」と叫んだ。
その悲痛の叫びに隠された気持ちを推測しながら、彼の過去も思い出して可能性を創造していく。
――遠ざけたいのかな。負い目を感じて。あの叫びは否定したかったんだろうか。
なんて。
誰も何も言えない空気の中そう結論を下した僕は。
そんな空気を裂くように言葉を漏らした。
「はぁ。ホテル側の迷惑になるから声量落とそうよ」
庄一は僕の方を見てから大きく息を吐いた。
そんな彼を見て圭はアドバイスをした。
「そうやって感情に任せて喋るから信憑性が高まる」
「うっせ。お前らみたいに感情を自制するなんて機械みたいなやり方出来ねぇよ俺は」
「……まぁそうだな」
「そこは嘘でもオブラートに包めよ圭……」
彼はその後に元を見る。
元は瞬きをして困惑している中、彼は「ま、確かに普通のことだよな」と呟いてから時計を見て「少し外出るわ」と部屋を出て行った。
「いってらっしゃい」
「……気を付けて」
「おう」
庄一が出てすぐに元が「大丈夫だったの?」と心配そうに聞いてきたので「一人にすればいいんじゃない? 変なことに巻き込まれそうだけど」と僕なりの考えを答える。
まぁ、今ついて行く必要性はないよねぇ。冷静になってもらう必要があるから。あと、考えを整理してもらう必要も。
圭も同じ意見だったのか隣で頷いているようだったけど、元は納得しないようだ。
と、そこで彼はテーブルに置いてあるものを見つけてから僕達に訊いた。
「あれ、庄一って財布とスマホ、両方ここにあるの?」
「……そうだな」
圭が頷いたところ、「そ、それって大変じゃん!」と庄一の財布と携帯を持って部屋を出てしまった。
まぁ元の気持ちも理解できるけど……。ぼんやりとそう考えてから圭に話しかけた。
「ああいう人が増えたら世界も少しは良く見えるからな」
「…………何とも言えない」




