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少し遊びましょう

 現在僕達一同は自然公園へ赴いている。


 というのも、女性陣でどういう意見があったのか知らないけどこちらの意見に合わせてくれるという申し出があったから。そのことを言ったらなぜかみんな僕の意見に合わせてくれるというので、勘繰りながらも言った通り自然公園にあるアスレチックで遊ぼうとなり、みんなでここに来たのだ。


 到着して僕はまず何度目かになる確認をした。


「えっと、本当にいいの?」

「しつこいぞ、お前。いいって言ってるだろうが」

「そ、そう……ならいいんだけど」


 多少苛立った庄一にそう言われ、大人しく引き下がるけど、内心では納得がいっていない。わざわざ僕の提案に付き合う必要性がないのに。これが感情での決定なのだろうか。

 初めてのようなケースに戸惑いながらも、僕は敷地内へ足を踏み入れた。



 ここの自然公園は本当に『自然』だ。人の手入れが殆どされておらず、人工的に作り出されたアトラクションの類だって巨木たちに紛れるように設置されている。

 どこまでが公園でどこからかが違うのかは人の手で決められているけれど、この島の三分の一だ。正確に言うとキャンプエリアとか動物園エリアとかも含まれていてその広さなんだけど、こんな世界になった後もそびえたっているのを間近で見ると、生命の神秘とか大自然の驚異とかそういったものを感じ取れる。


 不思議だ。大黒の小屋に行ったときみたいな延長線上って感じがしない。慣れ親しんでいないからか判断できないことだと思う。でも、明らかに「日常」が僕の中で消え去った。

 果たしてこの感覚を共有できる人が近くにいるのだろうかと振り返ったところ、彼らもまた眼前に広がる木々を見つめて呆けていた。


 黙って視線を前方に向ける。すると上の方、木の枝の上に誰かが乗っているのが見えた。それは僕が見ていることに気付いたのか一瞬でいなくなる。まるで魔法でも使ったかのような迅速さだ。


 ……ひょっとしてストーカーかな? あり得なさそうな予想を立ててそれ以上深く考えないようにしてから、一回大きく深呼吸をする。

 澄んだ空気を体内に取り込む。その代わりに溜まっていたものを吐き出す。それは自分の中に累積されている狂気の感情だったり、体細胞で使われた酸素のなれの果てだったり。

 少ししか吐き出していないのに、何故かそれ以上の解放感に包まれる。これがここの特徴なのかなと冷静に分析しながら、口を開く。


「凄いよね、この空気。この景観。これが公園として成り立っている奇跡。自然って本当、人智を超えてるよねぇ……」


 一応みんなに言ったはずなんだけど、返事がない。これは……どうなんだろう。僕の言っていることが実感できないのか、そんなことを言われるなんて予想だにしなかったのか。

 流石に反応がないと僕としても恥ずかしい限りなんだけど……なんて思っていると、「この公園をそう評したのは君が初めてなんじゃないかな?」と前方から声が聞こえた。


 僕は脱力して「先回りかい、佳織?」と投げかけたところ「荷物置いて散歩と言ったらここだと思ったよ」と嬉しそうに近づいてきながら答えてくれた。後ろに文歌さんを引き連れて。


「考えが通じて嬉しいな♪」

「僕は別に散歩しに来たわけじゃないから正確には似通った、だね」

「そんな細かい上げ足取りはいらないよ、もう!」


 ただの訂正なのに屁理屈だと言われた。どうしてみんな細かいところを指摘されるとそういうのだろうか。納得しないものだろうか。

 自分でもそういうことあったかなと過去を振り返っていると、「じゃぁ何しに来たの?」と訊かれたので正直に答えた。


「アスレチック」

「え、それ?」

「ん?」


 何故か佳織の顔色が悪い。一体どうしたんだろう。ある程度危険なものだというのもは予想しているけどそんなにひどいものなんだろうか。

 そもそも佳織、ここに一回来たことあるのかな? 今更な疑問に今聞いておこうかなと思っていると、視線を彷徨わせている彼女がいた。


「……本当に行くの?」

「そうだけど?」


 真顔で答えると彼女は少し唸ってから覚悟を決めたかのような表情を浮かべ「私も行く!」と言ってきた。


「……だそうだけど?」


 さりげなくみんなに話を促す。不意打ちの様だったのかみんな若干狼狽えていた。何やっているんだろうと思っていたところ、特に否定されなかったので頷くことに。


「ありがとう!」


 笑顔で礼を述べる彼女の足が若干震えているのに気付いた僕は、そこまで怖いものなのだろうかと首を傾げながらも時間を気にして「じゃ、行こうか」と歩き出した。



 佳織が嫌がった理由が実際に見たら理解できた。


「あーこれは……」

「いやーこれは」

「え、ちょ、え?」

「あ、あははは。私も話には聞いていたけど~」

「「「「「……」」」」」

「本当にやるの!? 連君!」


 彼女の必死な言葉は素通りしていき、ただただ眼前に広がる――正確に言うと視界の上にある――木々の間に設置されたアスレチックの数々に圧倒されていた。

 地上6mぐらいの高さ。命綱はあるんだろうけど、それでもあの高さというのはちょっとやそっとの覚悟じゃ慣れないんじゃないだろうか。


 少し考える。

 別にこれを見て怖気づき、辞めるのもいいだろう。責める人はいないだろうし。

 でも。

 この高さ程度(・・・・・・)で折れるのが果たして自分自身にとっていい経験になるのだろうか。それは紛れもなく、始める前に諦めてしまうことなのではないだろうか。


 たかが遊びに命を賭けることは、やってはいけないことなのだろうか。


「…………」


 経験は人生を豊かにする。爺ちゃんかそれとも誰かが言っていた言葉であり、それを信じている。

 だから……。


 息を吐いてから庄一に「やる?」と訊くまでもないだろう質問をわざわざする。

 返答は是。切り返す形でどうするか聞かれたので、迷いなく答えた。


「やるよ、僕も」

「お、マジか」

『!?』


 みんなが驚く中、庄一が圭に「お前どうする?」と訊いたところ「……やる」と短く答えた。

 意外というかなんというか。あまり自分から危険に飛び込んでいく感じがしないから呆気に取られていると、「他に行く奴いるか~?」と庄一が確認する。とはいっても実質一人にしか質問してない気がする。


 その一人はというと、息をのんで怯えていた。


 振り返って確認したらしい庄一は「じゃ、3人で行くか」と歩き出す。

 圭は「……そう言えば久し振り」と言いながらついて行くので、「無理しなくていいよ。レミリアさん達スカートはいてる人の方が多いんだから。あ、元はみんな事よろしくね」と笑顔で言ってから「待ってよ~」と言いながら駆け出した。



「ようこそ挑戦者諸君」


 スタート地点らしきところにある受付に言ったら少し離れた場所に案内された。で、筋骨隆々な男性が説明をするのか目の前に来てそう言った。僕達は木で作られた椅子に座りながら聞いている。元たちは遠巻きで見守っている。


「当公園が誇る絶景且つ度胸試しの場所として有名な『ツリー・アスレチック』の管理リーダー、ルサーガだ。挑戦者諸君には、挑戦前に必ず聞いてもらい、従ってもらわなければいけないことがある。心して聞いてくれ」


 そう自己紹介してから彼はそのアスレチックを指さして「あれを見ろ」と言うのでつられてみる。

 そこには、現在挑戦している人がいるようだった。ぼんやりとしていて判断しづらい。


「あそこに見えるのが、今の挑戦者だ。そして、あの挑戦者がギブアップするか途中で落下するか、クリアしない限りお前たちにはここで待ってもらう」


 どうやら、挑戦権は一人ずつのようだ。きっと構造上の理由だろう。まぁ他にも様々な理由を思いつくけど、暇つぶしにしかなりえないので深くは考えない。今から求められるのはあの上に立っていも平然としていられる精神力。それと楽しむ心。


 ああでも。気負う必要性ってないんだよね。逆に緊張するから。自己暗示の弊害っていうんだろうか。自分がこうであろうと思い込めば思い込もうとすると、今の自分が不安になるっていう。実際の名称があるかどうかわからないけど、要は遠い理想を定着させようとして、その理想通りに動くという強迫観念を実行しようとする弊害。多分、自己否定でなり替わろうと思っていても、無意識の中で自己以外を拒絶している矛盾からくるもの……かな。専攻してるわけじゃないから想像だけど。


 脇道にそれた思考を中断するために息を吐く。その間にも説明を続いていく。


「腰にはちゃんとロープを結び、上にいる係員の指示に従い絶景と恐怖を味わいながら遊んでくれ」


 ――どうやら、変な方向に思考を持って行ったせいで聞き逃した箇所があるようだ。


 やっちゃったね。

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