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ホテル内

連日投稿している人を素直に尊敬します。

 蹲って不貞腐れていた僕にみんな罪悪感が出てきたのか謝りながら優しい言葉をかけてくれたけど、僕はこのことを生涯忘れないだろうと思った。特にレミリアさんが慌ててフォローしてくれたみたいだけど、なんかそれすらも僕にとっては凶器になりえたから、自然と自分から距離を取る。


 露骨にショックを受けているみたいだけど、あれだけ僕が否定してるのにむしろランク上げてみんなを納得させたのだから罪は重い。みんなも同罪だ。申し訳なさそうにしているけど。

 このことはみんなにきっちり仕返ししてやろうかな……そんなことを思いながらホテルに入る。


 一歩踏み入れた瞬間、僕の認識は完全に去年圭に誘われて泊まったヒューマニーステーションのエントランスホームだった。大理石の床に石柱、そしてシャンデリア。覚えている限り同じ配置のそれに目を奪われた。


「うわぁ……」


 圧倒されてそのまま立っていると、「何突っ立ってるんだよ」と庄一に言われたので慌ててちょっと移動する。

 続々と入って来たけど、圭を除いたみんなの反応は僕と同じだった。

 これ幸いと思い僕は「何突っ立ってるのさ」と笑いながら庄一に言われた言葉をみんなに言い返す。

 みんな我に返って恥ずかしそうに俯いたところ、「ようこそおいでくださいました」と奥から声が聞こえたので振り返る。


「池田連様に中島元様ですね。この度は我々のプランに参加して頂きまして、誠にありがとうございます。私は当施設の管理人で本井リューザと申します。皆様には当施設内にある様々な最新サービスで日頃の疲れをいやしていただければ幸いです。話は聞いてると思いますが、最新サービスをご利用なさった時はアンケートにお答えください」


 自己紹介とか諸々やってから肩に手を当てて頭を下げる本井さん。僕は彼を見てから他に人がいる感じがしないので視線を彷徨わせる。だけど見える範囲に人はいない。

 同じく気になったのか、「あの、本井さん以外に人はいないんですか?」と元が質問すると、彼は答えてくれた。


「いえ、おります。ですが、ほとんどが調理スタッフなので直接会うことがないだけです」


 そんなところなのかな。もう少し訳がありそうだけど。

 なんとなくそう思ったけど追及して変な話題に飛ぶのを恐れた僕は「これからよろしくお願いします」と頭を下げる。話題を終わらせたともいう。


「かしこまりました。精一杯おもてなしをさせていただきます」


 そして僕達は部屋に案内された。



 その途中。


「そういえば聞き忘れていたのですが、チェックインの時間はどうでしょう? 一応新しいのですが」


 歩きながら質問してきたので、僕は「大いに助かりました」と答える。


「そうですか」

「ただ、それは止まる場所が観光する場所に近いなら喜ばれるのではないでしょうか? 遠いと逆に荷物が心配になるかと」

「なるほど。チェックインの時間は無暗に固定してはいけない、と……貴重な意見ありがとうございます。他の皆さんは何か?」


 僕以外の答えも聴きたいのか本井さんが話を振ったけど、みんな答える様子はない。

 遠慮でもしてるのかな。それとも言いたいことがないのかな? 圭が言わないのはなんとなくわかるけどさ、旅行というか色々な地へ行くことが多そうなレミリアさんとか菫さんも何かないの?

 首を傾げると、未来さんが言った。


「それでしたら服などホテル内で使うカバンを受け取っていただければ、と思います。そうすれば遠くても観光はできますし、チェックインを固定しても問題はないかと」

「なるほど。確かにその通りですね。お客様の荷物を先にお泊りになる部屋に届けておけば更に良さそうですね。窃盗などの問題もはらんでいますが……アリと言えばアリですね」

「もしくはお客様自身にチェックイン時間を指定して頂ければいいのでは? そうすれば気を揉む必要もありませんし。最大の問題はチェックアウトとチェックインの間の時間が短くなる可能性があるぐらいですか」

「おお、それはいい案ですね。予約の段階で設定して頂ければこちらの応対も楽になりそうです……いやはやこうして具体案が増えると嬉しい限りです」


 本当は考えていたんじゃないだろうかこれぐらいなんて考えてから、黙ったままのみんなに話を振る。


「どうしたのさ黙って」

「あのよ、なんで逆にお前そうポンポン出てくるんだよ。旅行そんなにないんだろ?」

「初めて行ったのは去年だよ……でもこれぐらいパッと思いつかない?」

「い、いや、全然」


 元が全力で否定するので「それって難しく考えてるからじゃない?」とそれを否定する。


「そ、そうですか?」

「だってこれ、『ちょっとした不満』を直接ぶつけるだけでしょ? チェックインの時間帯についてどう思ったかを素直に答えればいいだけじゃん。レミリアさんや菫さん、未来さんは今までなかったの? ロケ地とか家族旅行で色々行ってるんじゃないの?」

『…………』


 三人が沈黙した。あれ? 説明したのになんで?

 訳が分からないので首を傾げると本井さんが「池田様は流石に鋭いですね」と褒めてくれた。悪い気はしないけど、そこまで変なことを言った気がしないのでとても気になる。

 歩みが止まりそのままみんな動いてないけど、誰もそのことを追及する気配がない。

 変わりになのか、花音さんがぽつりとつぶやいた。


「連君の思考回路が異次元過ぎるせいで何も言えないんだって」



 何とか再起動した三人に改めて話を振ったけれど特に新しい意見が出なかったので移動を再開して。


 女性陣の部屋割りに関しては大部屋――疑似的なスイートルームで、僕達は四人一部屋。どうやら家族連れを想定した部屋割りにしたいみたい。


 案内された部屋のカギはどうやら電子ロック方式のようで、部屋ごとに設定された番号を入力して鍵を開けるとのこと。

 メモを取ることは禁止で、もし忘れた場合は設定者である支配人または受付の人に訊くか、一緒に来た人に開けてもらうからしい。

 ついでに言うと客が変わるごとに部屋の番号が変わるように設定されているとのこと。そうなるとホテル側の負担大変ですねと言ったらサービス向上にかかる手間は必要経費です。と真顔で返された。すごいプロ意識だ。見習いたい。


 そんな訳で、僕達は部屋の中にいる。各々寝たい場所を早めに決めて(ベッドが四つある)そこに荷物を置き、現在はテーブルを囲むように配置された椅子に座っている。


 で、何をしているかというと……。


「そっちの予定どうなの?」

「え? まぁ買い物とかじゃないかな?」

「行きたいとこないのかよ元」

「え、う~ん……動物園とかは行きたいかな」

「……言わなきゃいけない」

「うっ。それはそうなんだけど……連はどうするの?」

「とりあえずアスレチックで遊んで、今日は終わり。明日からまぁ制限しないから行きたいところ行って来ればって感じだけど」

「え、え~」


 このように僕達の予定を教え合っている。なんでって? 気になったから。

 別に鉢合わせになってもいいんだけど、なんか同じ場所に来た人間としてどういったところで観光するのかという興味が沸いたから。

 まぁ訊いたところで参考にする訳じゃないんだけど。


「って、おい。一緒に行こうぜ連」

「行きたい? それなら別にいいけど、文句は言わないでね」

「……おう」


 どうなるのか分かったのか間を置いて肯定する庄一。対して圭は「俺は俺で行くところがあるから連の意見には賛成だ」と意見を述べる。


「って、あれ。レミリアさんどうするのさ?」

「どうするって、彼女のいきたいところと僕が行きたいところが違ったら別れるけど?」

「え、マジかよ」

「……それは危なくないか?」

「とはいってもねぇ。僕は彼女の保護者じゃないし、彼女の行動を制限する理由もないし。まぁ僕の行きたいところを変更して翌日に回したりとかするかもしれないけど……流石に過保護過ぎない、それ?」


 僕がそう言って首を傾げると、彼らは何とも言えない表情だった。

 ややあって、庄一が「そういう問題じゃねぇと思うんだけどよ」と呟く。それにつられてなのか、元が「それは過保護って言わないんじゃ……?」っていうし、圭も「……誘った側とは思えない」とダメ出しをしてきた。


 一緒に行こうと誘ったけど、一緒に見て回ろうって提案してないんだけどなぁ……。屁理屈なんだろうか。


 そんな反論をせず、ノックされたので話題を終わらすように席を立った。

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