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到着!

「なんであんな空気になってたの?」


 気になった僕が問いかけたところ、三人とも反応がない。今まで寝ていた圭とがさつだなんだと言われている庄一はともかく、最後までいた元が何も言えないとなると、彼女達の心情の変化が原因だったのだろう、やはり。


 何があったのやらと思いながら首を回した僕はそのまま車窓に視線を向ける。


 広がる景色は小さく見える島々。水平線はどこまでも続いており、光の反射により青々とした海が輝いている。この光景はまさにならでは、だろう。飛行機(小型。操縦士含め十人前後)でも見えるし船でも見えるけど、海に近い視線で見れるのはこれだけだ。


 自分の気持ちが高揚していくのが分かる。この景色を見ただけでこの旅行が意味を成しているのも。

 そのまま見続けていると、イルカやトビウオたちが飛び跳ねているのも目撃した。


 柄にもないことは承知だけど、僕は興奮した。


「ねぇ見てよ! こっちでイルカトビウオとか飛んでる!!」

「……確かに」

「あ、本当だ」

「……つぅか、お前のテンションの上がりようが凄くて驚けないんだが」

「え、そう?」


 窓にかじりつくような体勢で景色を見ながら返答すると、ちょっと我が目を疑う光景が。


「……?」


 見間違いかなと思って瞬きしてから目を瞑ってもう一度みたところ。


 巨大な蛇に乗って海を渡っている『誰か』がいた。

 そっと視線を外し、これまでのテンションの上がりようをフラットに戻す。実際には落ちたら上がるのに時間はかかるんだけど、その誤差を最小限にする。


 ……あれ、何だろう。厄介事が向こうから来たのかな。


 思わず遠い目をしたくなる。僕はもうさっきまでのテンションを保てる気がしない。

 なんで!? 僕なんかした!? もう流石にお腹いっぱいなので引いてくれません!?

 心の中で絶叫する。傍から見ればただボケっと窓の景色を見ているだけなんだろうけど、放心状態ですしっかりと。


「どうしたの?」

「…………あ、あーうん。ちょっと、ね」


 これは言わないでおく。というか見えてないのなら、これ厄介事じゃなくて神様達だね。断定するのは良くないけど。


 …………何しに来たんだろう?


 どうせしょうもない理由だと思うんだけど、わざわざあんな蛇に乗ってくるタイプじゃないんだよなぁ大黒は。となると、誰だろう?

 煮え切らないというか不思議な感覚になる疑問に首を傾げていると、列車がブレーキをかけたのか慣性の法則で僕の身体がぶれる。


「うわっ」

「おいおい大丈夫か?」


 慌ててシートに手を乗せて体を支えた僕は、完全に止まったことを確認してから荷物を手に持つ。

 駅のホームが見えた。待っている人が何人もいる。恐らく今日帰る人たちなのだろう。

 そう考えると僕達も随分高校生としてはおかしい行動をとっているんだなぁなんて柄にもなく思いながらドアが開いたのでさっさと出ていく。忘れ物はないし。


「到着っと」


 一足先に駅のホームに降り立ち、荷物を置いて腕を伸ばす。そして首を回してから荷物を手に持ち、みんなが集まるのを待つ。


「やっと着いたか。暇すぎて疲れたぜ」

「……よく寝れた」

「本当によく寝てたよね、圭」


 呆れたように元が言うと、「色々……あったからな」と短く答える。

 それから少しして、女性陣がこちらに来た。

 すると開口一番「ありがと」と僕に言ってきた。


 見当のついた僕は「別にいいよそんなの」と流す。だってそれほど大それたことはしてないし、旅行に来たというのにテンション下降気味で始まるとか逆に心労が溜まる。それに何より解決したのは彼女達だ。促した一因が僕にあるんだろうけどね。

 だからまぁ、流す。こんなことでもお礼を言えるのはいい点だけどね。


 圭は僕に視線を向けている。見てないけど、視線の方向が立ち位置的に圭だったから。

 気になることかなと内心で肩をすくめていると、「つぅかさっさと行こうぜ? 荷物持ったまま観光したくねぇしよ」と庄一が助け舟を出してくれた。本人にその気はないんだろうけど。


「あれ? 普通のホテルって基本的に十五時前後にチェックインじゃないの?」


 女性陣は知らされていないのか困惑気味の様子。佳織は無関係だから良いとして、久美さん達知らないのは意外だなぁ。レミリアさんにホテルの場所知らせてないから当然だけど。

 まぁ論より証拠かな。そう考え、「じゃ、佳織またあとでね」と佳織の横を通り過ぎる。

 彼女はハッとしてから「あ、そ、そうだったね! 一緒に来たからそのまま一緒に行こうと思ってたよ」と取り繕った笑顔を浮かべて返事をしてくれた。


 ……相変わらず気丈だなぁ。彼女の態度をそう評価しながらも、そのまま歩き続けた。



 駅から出て徒歩一時間。舗装されている道なんて駅周辺にしかなく、それゆえに島のほとんどが自然に即した雰囲気を出している。動物園はほぼ放し飼いだし、公園は大自然の中で体験できるアトラクション風にだったり。一応キャンプ場があるらしいけど、僕達は今回関係ない。

 ざっと五月の初めまでとか言ったけど、三日も経たないで飽きそうだなぁと思いながら歩いていた僕は、足を止める。


「ここかぁ……」


 目の前にあるのは今回の宿――エリュー。正確に言うとホテルではなくて新人教育施設だという。なんでも、新しいことは常にここで行い、それが利益となるならデンタツにあるヒューマニーステーションで採用されるとか。要するにフィードバック機能があるんだろう。

 少し羨ましいと思いながらも外観を眺めていると、「は、はやい、っての」と遅れてきたらしい庄一が声をかけてきた。


 振り返ってみたら、みんな走っていた。

 思わず首を傾げる。


「なんで走ってるの?」

「お前が先導した結果だよ! 何の迷いもなくスタスタ行かれるこっちの身にもなれ! 元なんて必死にパンフレット見ながら来てるんだぞ!!」

「圭は?」

「あいつは久し振りに来たから挨拶してからだと」

「レミリアさん」

「ほれ」


 後ろを指したのでそちらを見ると、息を切らしながら頑張って走ってきている彼女の姿が。


 ……ん?


「なんで僕のすぐ後を追いかけなかったの?」

「おまっ、さらっと駅出てさらっと人ごみ紛れて、そのまま後ろ気にせず歩き続ける奴が言うセリフじゃねぇよ! あの後西条さんとの空気が微妙な感じになって何かやろうとしたらお前いなくなってたからあたふたしっぱなしだったんだ!!」

「ああ、それは御免。でも圭に大体の方向教えてもらったり、元と一緒にゆっくり来ればよかっただけじゃないの、それ」

「お前を独りにさせられるかよ!」


 そういうと彼は肩で息をする。そこまで体力を消耗するほど急いできたのか。やっぱり友達思いだなぁ。僕にはもったいない気がする。

 そうこうしているうちにみんなが集合してくる。レミリアさんに始まり、圭、久美さん、レイジニアさん、菫さん、未来さん、元と花音さんと言った順に。


 開口一番にレミリアさんが怒った。


「レン! 酷過ぎます!!」

「あはは、ごめんごめん」


 笑って謝る。置いていったのは事実だから、まぁ彼女が許してくれないのならどうしようもない。

 こういっては何だけど、やっぱりレミリアさんって可愛いんだよなぁ。普通の人の感性から行くと「モデルみたい」とか「クール系美人」とかなんだろうけど、やっぱり第一印象から僕と他人じゃ違うのかな?

 変な考察を始めかけたのでそっぽを向いてる彼女を見て、なんて声をかけたらいいんだろうかとってことを考え


「ちょっ、は、早すぎるよ連……」


 ――られなかった。

 内心で溜息をついてから元に『君たちは君たちで行動すればよかったのに』と言おうとして、止まる。

 そのままいった場合、また面倒な場面になりそうだと思ったから。

 少し考えてから、答える。


「気が逸ったんだ。ごめんごめん。どうせ目的地は一緒なんだから何があるのか確認してからでもよかったんじゃない? これは庄一にも言ったけどさ」


 それに対し元は「あ」と声を上げる。あ~そういうこと。慌てた流れに乗っかったんだ。そりゃ分からないね。

 焦るとやっぱりろくなことにならないなと思っていると、いつの間にか隣にいたレミリアさんが「あの、レン。あそこが、宿泊場所ですか?」と俯きながら訊いてきたので、振り返って「うんそうだよ」と肯定する。


「はぁ~四階建てなのは分かるけどよ……周囲から浮いてね? 洋館とかならともかく、思いっきり鉄筋コンクリートだろ」

「……本来はただの試用場だから外観に関しては拘っていない。ただしサービス系においては今後使われる可能性がある」

「ねぇ、それって私達、ただのモルモットじゃない?」

「俺は別にいいぜ。タダで宿泊できるなら。死にはしないだろ」

「……そうだな」


 久美さんの意見に反論する二人。それに便乗する形で僕も言った。


「そうそう。友達がそんな残酷な一面持つわけないじゃん。それに何といっても無料。昔から『無料より高いものはない』って言葉があるけど、そんなの捉え方次第だよ。今回は安い方。家計に響かないし何より最新サービスを体験しておけば今後スタンダードになった時にちょっと得した気分になれる! 旅費の中で一番処理に困る宿泊代に困らないなんて夢みたいじゃない?」

『…………』

「って、え? どうしたのさみんな? なんでそんな罪悪感に目覚めた表情してるの?」


 どうやら僕の演説が一同を困らせたらしい。おかしい。いかに素晴らしいことかを説明したはずなのに。

 代表してなのか、圭が呟いた。


「……主夫」

「いやそりゃまぁ今まで家の平和守ってたけど……って、なんでみんな頷いてるのさ!?」


 ほとんど会わない未来さんにまで頷かれた! 流石にショックだよ! 僕一体どんなイメージになってるのみんなの中で!!

 とそんな中でレミリアさんだけが声を上げた。


「ち、違います! レ、レンは主夫なんかじゃありません!」

「レ、レミリアさん……」


 あ、否定してくれる。そう期待を抱いて続く言葉を聞いたところ――


「レンはものすごく有能な秘書です!!」

「すごいランクアップしたよレミリアさん!? それならまだ主夫の方が合ってる気が……ってなんでみんなも納得してるのさ!?」


 結局、みんな撤回してくれなかった。


 流石に僕は肩を落として地面に蹲ることしかできなかった。


 ……泣いていいかな。

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