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いざ行かん!

 当日。


 いつも通りに起きた僕はいつも通りに両親の朝食と弁当を作る。姉さんはいらないと言っていた。マネージャーから強制休日を作られたせいでとも。

 勢いが削がれて苛立っていたみたいだけど、僕からしたら姉さん、やる気に反比例して疲れた雰囲気が隠せていない。


 なので問答無用でマッサージを執行して寝かせることにした。滅茶苦茶つやっぽい声出していたけど、身内のそれに興奮するほど家族愛がないし。


 海上列車で向かわないといけないので出発の時間はそれなりに早い。だからまぁこうしてやることをやっているわけで。

 不在の間の生活資金は僕の部屋に置いとくからと言って実際置いといたけど、あれ何日持つかなぁ。普通に生活していればそこまで不満のない額だと思っているんだけど……。

 弁当におかずを詰めながら心配する。まだ抜けきってないんだなと苦笑しながらも時計を見たら5時40分。


 そろそろ洗濯物終わるかなと思いながら弁当の準備を終え、残った料理を皿に分けていつも通りテーブルに並べてから洗面所へ向かった。


「お、おはよう、ご、ございます!」

「おはようレミリアさん」


 目に隈はできて無い様で何よりと思いながら洗濯物を干していると、「あ、あの、て、ててて」と声が聞こえたのでどういう意味かを推測してから答えた。


「料理に使った調理器具とか洗って片付けてくれない? こっちは大丈夫だから」

「! はい!!」

「元気なのは分かったからとりあえず声量落とそう?」

「あ、は、はい……」


 相変わらず僕は彼女を見ないで会話する。見てもいいんだけど、彼女が視線を合わせてくれないし度々小声で早口になるものだから、困る。


 元気みたいなのは分かるけど、あれで彼女仕事できるのだろうかと将来を心配しながら洗濯物を干し終えて、彼女を視界に入れないように洗濯籠を洗面所へ戻しに向かった。今日は晴れって言ってたし、姉さん居るから問題はなさそうだね洗濯ものに関しては(・・・・)



 リビングに戻ってきたら両親が欠伸をしながら寝ぼけ眼で朝食を摂っていた。レミリアさんも。


 あ、彼女、1日しか経ってないけどまぁ何とか食事の時は一緒に食べられるようになりました。会話はままならないんだけどね。僕だけと。嫌われてはいないんだろうけど……うん。


 驚かせて喉に詰まらせたとか流石にシャレにならないと判断し、静かに自分の部屋へ戻って旅行へ持っていく荷物の確認を行うことにした。


「とはいっても服3日……今日着てるので4日分で問題ないし。向こうにランドリ機能の洗濯機あるって話だから。他にもっていくものは財布に携帯電話に充電器……パスポートはいらないか。移動中に読む本は4冊あれば行き帰り問題ないはず。勉強道具どうしようかな~やっぱり」


 悩ましい。休学中なのだから自宅学習してないといけないという延長線上で旅行先で勉強するかどうか。

 腹が鳴る。まだ食べてないし。時計見たら6時半近くになってた。


「ってやばっ! ええい、数学だけ持っていこう」


 確認ついでに焦りながらもなんとか持っていくものを決め、それを背負ってリビングへ向かう……前に、僕の机の上に置いてある封筒の重さを確認してから向かった。


「おはよう父さん、母さん」

「なんだ連。食べていかないのか?」

「食べるよ。先に持って来ただけ」


 挨拶してから自分の席に座り、急いで食べる。設定した待ち合わせの時間は乗車時間までにある程度幅を持たせてあるので実はそこまで慌てるようなものではないんだけど、まぁそこは性分というか。


 頻りに食べることに集中していると、母さんが「まぁ頑張ってみるわ。あなたが帰ってくるまで」と息込んでいた。

 飲み込んでから返事をする。


「やらないといけないことはそこに貼ってあるから。あとお金の使い方も考えてね。今日は辛うじて姉さん居るけど、あまり頼らないであげてね」

「……そうね」

「だなぁ。いつまでも頼ってばかりじゃだめだもんな……」

「早々に気付くべき問題なんだけどそれ……ごちそうさま」


 食べ終わって食器を流し台にもっていく。レミリアさんがやったのか、それとも自分たちでやったのか定かではないけど食器がないことに気付いた。進歩したといえそうだ。


 もっとも、僕が居ない間酷かったらそれも撤回するけど。


 少し急ごうと思いながらスピードを上げ、レミリアさんが荷物を持って来た時には歯を磨き始めた頃で、7時近くになっていた。


 ま、まぁまだ余裕あるから(震え)。



 それなりに急いだけど指定した時間より五分ほど遅れた。自分で指定しておいてなんて様なんだろうと思ったり思わなかったりしながらネイチュアへ向かう駅――集合場所に到着。


 すると庄一と圭、元たちがすでに待っていた。


「ごめん行動の予定がずれ込んだせいで遅れた」

「珍しいこともあるもんだな……っていうか、その理由ってなんだよ」

「遅刻した理由」


 真顔で答えたら庄一が言葉に詰まった。レミリアさんは女子グループに合流した。


「……全員揃った」

「そうだね。でも、あそこに行く最初の列車の時刻って、余裕あるよね。わざわざ余裕持たせた理由ってあるの?」

「遅刻して乗り遅れないようにするため。考えればわかることだよ。前日立てた予定が当日狂った場合、修正するのは当日しかできないんだから、あらかじめ余裕を持たせてたの」

「連から電話受けて一緒に行くことになった時に送られた集合時間に首を傾げたけど、そっか。それもそうだね」

「……相変わらず保護者」

「そこまで考え廻らねぇよ」


 そんな感じでそろそろ駅のホーム行こうかという話になって移動しようとしたところ、背中から女性が抱き着いてきた。


「やっほー! 抜け駆けはずるいよ~」

「どうせ勝手についてくると思ったし、レミリアさんの心情を優先してたからね」

「な~んだ。驚かそうと思ったのにー」

「いい加減レンから離れてください!!」

「はいはい」


 レミリアさんの激昂で女性――佳織は大人しく離れた。ただし、圭を除いて周りの人の理解が追い付いてない。みんな瞬きを繰り返している。

 とりあえず隣に来た佳織に訊いた。


「ホテルどうするの?」

「ん~とりあえず格式高いホテルなんだよ。何事も慣れだって言ってこの機会だからということでさ」

「じゃぁ偶然に任せるしかないんだ」

「連君が誘ってくれなかったからねっ」

「お嬢様」


 そっぽを向いた彼女を諫めるかのように鋭い声が割り込む。その声は若い女性のよう。

 声がした方へ視線を向ける。

 彼女の斜め後ろに、その人はいた。


 女性用のスーツをピシリと着こなし、その佇まいはどこか秘書を彷彿とさせる三十代まではいってないだろう。そんな、眼力だけで威圧できそうな美人というより美女が。

 表情には出さずに驚いていると、慣れているのか佳織が「なに、文歌さん」とうんざりしたような口調で問い返していた。


 こんなことになったら周りからの視線は釘付け。友達は圭を除いてあんまり思考できてないみたいだし、レミリアさんなんて不機嫌さがはっきり出ている。


 ……あれ?


「元」

「え、あ、何?」

「今回菫さんの保護者担当で来るの?」

「……相変わらず、なんでわかるのさ」

「いや、普通にいるから」

「……」


 黙り込む元をしり目に携帯電話で時間を確認した僕は「はいそれじゃさっさと行くよ!」と手を鳴らして指示を出すことにした。


 みんな慌てて行動を起こした。




 海上列車。

 島と島をつなぐ交通手段の一つ。魔法と科学技術の結晶らしい。詳しいことは分からない。確か、線路を海に浮かべるのとかでたいそう苦労したとかなんとか。


 で、そんな利器を何気なく使っている僕ら。いやまぁ本当にありがたいんだけど。


 これを作った人たちって机上の空論とか馬鹿にされたのだろうかと物思いに耽る。ちなみに列車の席は見事男子と女子で別れました。今は佳織についてきた女性の自己紹介が列車内で行われている。


「寺井家の方はご存知かと思いますが、初めまして。わたくし西条家メイドの一人であり、現在お嬢様の付き人兼保護者をしております。中川文歌と申します。以後お見知りおきを」


 出発して少ししてから自発的に行われた自己紹介。みんなどうやら呆気に取られているようだけど、僕は目を瞑って情報を整理していた。


 つまり佳織の現状は親と離れ離れになっているのが高いのか。もしくは両親の付き人も兼ねてる……はなさそうだな。だとしたら付き人『兼』保護者なんて表現を使わないだろうし。


 確認する必要ないんだよなぁ別にと思いながら目を開けると、なぜか視線を集めていた。


「どうかした?」


 僕の問いかけに代表して庄一が「いや、寝てるのかと思ってよ」と答えてくれたので、傍から見ればそうだろうねと納得してから「情報の整理をしていただけだよ」と返す。

 それに食いついたのは中川さん。


「はて。今の情報で何かわかったのでしょうか?」


 どことなく挑発的だったので、僕は少し考えてから「わざわざ危険にさらす(・・・・・・)必要ないですよね?」と警告する。


「?」

「「!」」


 当事者以外首を傾げ、二人は驚いていた。流石に動揺を隠せていないようで、動きが固まっている。

 それだけで僕の仮説が証明されたようなので、ため息をついてから「隣の車両で本読んでるから」と別行動する旨を言って、荷物をもって車両を移った。


 流石に男性居ると話せない話題もあるだろうし。話しても気まずそうだしね。確実性のあるリスクは回避してこそ。

 そんなことを思いながら空いてる席に座り、本を読み始めたところ、圭も来た。


「どうしたの」

「睡眠」


 そういうと正面の席に座り、そのまま瞼を閉じた。

 結構無理なスケジュールだったかなと思いながら、「ありがとね」と読みながら労った。

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