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誰と行く?

このペースで十二月まで書いたら……360ぐらいまで行くのかな。いけるのかな。なんて不安に思ったり

 その夜。

 レミリアさんは意識を取り戻したけど、僕の説明をきちんと聞いてくれないのが拍車をかけた。具体的に言うなら、僕の前に姿を現そうとしない。夕飯でさえ呼び掛けても来てくれない。


 仕方がないので食べ終えてから呼びかけて部屋に僕が籠ることに。そうでもしないと……って感じ。


「やっぱり誤解はちゃんと解かないといけないのかな……?」


 庄一たちには僕の考えをきちんと説明した。その時のみんなの顔が忘れられない。


 だって呆気に取られているというか、引いているんだもん。僕の顔を見て。そこまで下劣で愚劣で最低なことを考えてないのにさ。ただ彼女の精神安定とか、両親の子供離れとか、僕の精神安定とか、色々とメリットを考えた結果の結論だというのに。


 言葉何か間違えたかな? みんなの反応を思い返しながら腕を組んで首をひねっていると、ドアがノックされた。


「連……ちょっといいか?」

「何父さん?」

「レミリアさんと昼間何があった? 昨日まで一緒にいただろお前」


 ドアを開けないまま、正直に答えた。


「友達が旅行券くれるって言うからレミリアさんに一緒にどう? って聞いただけなんだけど」

「…………それかぁ」


 何やら納得がいった様子。教えてもらおうかなと思ったけど、彼女の気持ちを他人から知るのはフェアじゃないというかなんというか。僕の中でそういうこだわりがある。

 そのまま黙っていると、「お前彼女をどうしたいんだ?」なんて質問が来た。


「どうって……ただ事件前と遜色ないぐらいに元気でいて欲しいだけだけど。あれ、そしたらもう達成してる? 今の状況からしたら」

「……ああ、そうか。お前の行動指針が見えた。で、見えたから敢えて言わせてもらうんだが、もうちょっと感情的に見てもいいんじゃないか? それ(・・)、確かに真理的なんだが……人間って言えば感情だろ?」


 流石に親だからか伝わったらしい。いつもの調子に戻ってきた証左だ。嬉しい反面家事ができないところまで戻らないで欲しいと思ったりする。今後の努力次第だと思うんだけど。彼らの。

 言われた言葉に僕は少し考える。

 感情的に考えるというのはつまり、『愛』とか『恋』とか『好き』とか、そういう本能的なものを中心に考えろということだろう。父さんらしい遠回しなアドバイスだ。僕に他人の気持ちを知れと直接的なアドバイスを言っても従わないと理解しているのだから。


 でも僕の奥底まで今まで読めなかったのはどうなんだろうとという疑問を振り切り、少し彼女がこうなっている原因を考えてみる。


 ……単純に考えれば恥ずかしいのだろう。次点で男性と二人きりで旅行するという行為がまだ早いと考えているから、かな。ありえなくはないんだろうけど、僕と一緒にいることに緊張して自分の中で考えがまとまらないってのも。うん。

 でも誰かと一緒にいるだけで不機嫌になるのはどうしてだろうか。安直に考えると嫉妬なんだろうけど、そうなると疑問が一つ。


 一体僕のどこを好きになったのだろうか。


 姉さんと出会ってから僕の話を聞いたのは容易に想像できる。だけど僕に好意を抱く理由が見当たらない。全くと言っていいほど。


 おそらく彼女は幻想を抱いたまま。僕の中身を上辺だけで判断しているだけ。そう考えると辻褄は合う。


 ……で、どうしよう。


 自分なりの結論が出たところで、そこからが思い浮かばない。こういうところで僕は普通だと自負できるんだけど、見えないところだからね。どうしようもないね。

 ……はぁ。ため息が出る。

 解決策が思い浮かばない。多分、経験値が足りないからだ。恋愛感情というフィルター越しで人の感情を考察することを。あまりにも人の奥底にある心理ばかりに慣れてしまったから、こういう『人間』らしい『普通』の感情に対する考えを。


「ねぇ父さん」

「なんだ? というかそろそろ開けてくれないか?」

「良いじゃん別に不便じゃないんだから……レミリアさん、置いていって大丈夫かな?」

「悪化するんじゃないか、それ」


 即答。今の状況を鑑みてその結論に達していることから察するに、父さんの中で彼女がすっかり僕依存になっていると考えているのだろう。

 思わず目頭を押さえたくなる。あの状況で彼女に行けるのは僕だけだったから仕方がないのだろうけど、吊り橋効果以上になっていることに。


 正直言って好意を持たれるのは嬉しい。けれど、「お付き合い」とかそういった話になると心が動かない。全くと言っていいほどね。酷いこと言ってるのは重々承知だ。だけど僕の本音なのだからしょうがないじゃん。誰に何と言われようともそうとしか思えないのだから。


 気持ちに気付かないふりはできる。というか、僕の想像だから当たっている保証はどこにもない。

 所詮独りよがりの妄想だ。心当たりがある事実をつなぎ合わせて安直な答えを真実と「仮定」しているのだから。外れている可能性だって大いにある。


 なんだってここまで悩まないといけないのだろうかと天井を見て思った僕は、言い忘れていたことを思い出したので「そういえば父さん」と話しかける。


「どうした? そろそろ開けてくるのか?」

「いや別にいいじゃんそれは。そうじゃなくて。さっき言った旅行だけど」

「そんなこと言ってたな。いつ行くんだ?」

「明後日」

「ん?」


 扉越しでも聞き間違いかという表情を浮かべて確認している姿を想像できたので、僕は言った。


「明後日から五月の初めまで行ってくるから。明日ちゃんと生活費下ろしておくから、それで工面してね。僕が居ない間。姉さんにどうしようもなくなったら連絡していいけど、頻繁にかけて仕事の邪魔をしないようにね。母さんにも言っておいてね」

「ちょ、ちょっと待て! いきなり過ぎるぞ!? 明後日!?」

「そうだよ? あ、レミリアさん置いてく?」

「それはやめておけ。悪いことは言わない……しかし急すぎるだろう……」

「姉さんも似たような感じでいなくなったから、それよりましだと思うけど。単に旅行だから」

「…………むぅ」


 父さんが唸る。恐らく必死に頭を働かせているのだろう。自分の生活スタイルと照らし合わせて。

 僕が居ない間外食し放題だけど、そこまで僕が残すお金があるわけないから……とか、そんな考えかな? あまり深くは考えないけど。


 母さんにも言わないとなぁと思いながら、レミリアさんやっぱり僕と少し離れた方が良いんじゃないかと懸念する。流石にこの状況は色々なところに悪影響が出る。本職を今精神衛生上を理由に休んでいるのだから、リハビリを兼ねてもらわないといけないんじゃないかな……。


 相変わらず他人のことを心配して考えながら立ち上がった僕は、声が聞こえないのでドアのカギを開錠して、開ける。


 父さんは真剣な表情を浮かべ、腕を組んで悩んでいた。


「父さん」

「……………………」

「父さん!」

「うおっ! 何だ連。出てきたのか。どうしたんだ?」

「そろそろ明日の準備しないといけないから出てきたんだよ。今九時だし」

「いけねっ。風呂沸かしてない」

「やってきてよこんなところで考えてないで」


 息を吐いて急かすと、父さんは慌てて降りて行った。

 また彼女とすれ違いになるのだろうかと思いながら、僕も降りた。



 そんなことはなかった。

 彼女はリビングで母さんと何やら話をしていたところだった。


「あら連。聞いたわよ、今。ずいぶん大胆に誘ったわね~」


 にんやりとしている母さんの顔を見て、真顔で首を傾げる。その瞬間、何かを悟ったのか真顔になる。親子だからかそこら辺の意思疎通はばっちりみたいだ。


 ……我ながら酷い意思疎通だと思うけど。


 そんな状況でも気付かない彼女は、目の前であたふたしていた。後ろに僕が居るのに気付いているはずなのに。その動きが可愛いくて微笑ましいんだけど、ここで笑うのはお門違いだろう。


 でも答え知りたいんだよな……そう思った僕は言葉で聞こうが文で見ようが構わないことに気付いた。だけどなんとなく言いづらかった。そのままいうのがなんというか、誠意に欠けるというか、うん。


 これ、通り過ぎても大丈夫なんだろうかと母さんを見てみるけれど、向こうは頭を抱えているだけ。そんなに僕の現状が悲惨だろうか。だとしたらその張本人の片割れが何を悩んでいるのか。

 役に立たない罪悪感に駆られるより、それを認めた上で改善しようと努力してほしいのが被害者の弁なんだけど。そこらへん分からないものなのかな?


 もう少し待って彼女が通り過ぎるならメールで返事を聞こう。そう思ってそのまま佇んでいると、彼女が振り返って驚いた。


「レ、レン!? い、いいい一体いつから!?」

「母さんが僕に話を振った時に気付いてたんじゃないのレミリアさん……? ところでさ、大丈夫?」


 答えがきちんと返ってくるのか不安になりながらも再度問いかけたところ、俯いて暫く指を動かし続けながら小さい声で「行きたいです」と答えてくれた。


 意地悪いと思うけど、聞こえてないふりをしてもう一度聞き返したところ今度は視線を斜め下に固定したまま「み、みんなと一緒に行きたいです」と小声プラス早口で。


 ようやく聴けた。僕は内心で胸をなでおろしてから彼女の横を通り過ぎ「ところで、みんなって僕の家族? それとも友達?」と背を向けて質問する。だって顔合わせ難いみたいなんだもの。こればっかりはどうしようもない気がする。


 ピクッと母さんが反応した。目敏いけど、僕からしたらその選択肢は最初からない。

 本当はレミリアさんもそうだろう。これ以上体を休ませて鈍らせるのはまずいと。恐らく会社側から有給届受理されないのではないだろうか。父さん達。


 となると僕の中の選択肢が一択しかないのでそのまま明日の準備をしようとキッチンへ移動したところ、彼女がこちらを向いて顔を真っ赤にさせて早口で答えた。


「ク、クミやショウイチといったお友達と一緒でお願いします!!」


 勢いよく頭を下げたと思ったらそのままリビングを出て行ってしまった。階段を駆け上る音が聞こえるから、姉さんとの部屋に戻ったのだろう。父さん「うおっ」とか情けない声上げていたけど。


 明日の献立の下準備をいつも通りのペースで終わらせながら、佳織は呼ばない方が良さそうだと思った。


 ま、勝手に来そうだけど。

お読みくださりありがとうございます

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