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四月の終わり

今話から新章です。ただ、この話も長くなりそう

 庄一と圭、そこに突撃してくるように来た佳織とレミリアさんで始めた勉強会から数日が経過した。


 二人きりで勉強していた時よりも真剣に勉強に取り組んでいたのを見るとなんか複雑な気分になったけど、佳織が僕に質問してくるたびにペンを動かす手が止まるので、演技で誤魔化してるのかなと勘ぐってしまう。逆にレミリアさんが僕に質問してくるときに佳織の雰囲気が一瞬変わるし。たかが勉強中でそんなにコロコロ雰囲気変える理由ってなんだろう? よくわからないや。


 で、それが終わってから数日。その間に出来た合鍵をレミリアさんに渡したり、作ろうと思っていた棚を作りに小屋に行って「何か」が宿った道具たちに振り回されながら不格好ながらも、指先を怪我しながらも完成させたりした。何とか目標となるものが完成して安堵した。それと同時に達成感を味わった。続きそうだなとも。


 勉強の方は学校側がほとんど進んでいなかったのが(庄一に関してはところどころ抜けていた)原因で、僕と圭が三人の勉強を見なければいけなかった。四分の一とか流石に終わっていると思ったんだけどなぁ。


 そして四月も終わりが近づいてきた。通常ならここらから五月の頭まで大型連休になるはずだったんだけどね。

 今日も今日とて僕の家に集合して勉強です。みんな暇なのかな。圭や佳織はその限りじゃない気がするんだけど。

 レミリアさん? 彼女はほら、ちょっと精神状態の経過次第だから。精神科医じゃないけど僕。


 そういえば最近マッサージやってないけど、誰か手ごろな人がいないかな。レミリアさん以前物凄い拒絶反応してたから無理だし。姉さんは遅れを取り戻さんとする勢いで仕事に邁進中だから家に戻ってくることが少ないし。


 しばらくぶりに練習用の人形を引っ張り出して練習しようかな。勉強しながらそんなことを考えていたところ、圭が声をかけてきた。


「…連」

「ん? どうしたの圭?」

「そろそろ大型連休が始まる頃」

「そうだね」

「……旅行にでも行きたいか?」

「どうしたのさいきなり。そりゃ行こうかなって思ってたけど」


 急にそんな提案をしてくる彼の意図が分からないのでペンを止めて首を傾げると、「これ」と言ってパンフレットを渡してくれた。


「どうしたんだよ圭。いきなりそんな話振ってよ。商売でも始める気か?」

「……庄一はいいから手」


 なんでだよ! と喚く言葉を無視してパンフレットをよく読んでみたところ、どうやら箝口令の報酬だと考えてよさそうだ。事件を引き合いに出してるけど、言ってることはこれからも黙っていてくださいみたいな感じだね。

 で、その報酬がこの国にある自然地域の観光リスト。ホテルは指定されているけど見る場所は自由。おまけに期間の幅を選択もできる。それでもってホテル代が無料タダ。嬉しい話だ。それ以外にお金をかけられるってことだし。


 ただちょっと気になることがある。


「ねぇ圭」

「……なんだ?」

「これさ、僕の裁量で人数に関して決められるみたいな書かれ方されているんだけど……どうなの?」

「?」


 意味が分からないって感じで首を傾げた圭は、僕に渡したパンフレットを受け取って眺め……何も言わずに席を立った。


「あ、おい圭! どこ行くんだよ!」

「……電話。分からなければ、連に」

「え、えー……」


 置いてけぼりにされた庄一がそのまま僕に視線を向ける。けれど、それを遮るように佳織が話しかけてきた。


「何貰ったの?」

「え、目録」

「真顔でハッキリそう言えるって、相変わらず連君はすごいなぁ。旅行の招待券じゃないの?」

「おお、佳織ったら随分踏み込んできたね。まぁそうだけど」

「なぁ連。ちょっと「レン! こ、この問題教えてくれませんか!!」

「どうしたのさいきなり大声出して……えっと、その問題は……この式を変換してから」

「そ、そうだったんですか! あ、そのありがとう、ございます……」

「どういたしまして…で、庄一何?」

「……いや、ここ教えてくれ」


 何やら疲れた様子の彼が示す問題を見た僕は、そこは確か……と。


「先にそっち側をまとめてからこっちの式と合わせるんだよ」

「お、そっか。そうか! ありがとな!」


 元気に問題を解き始めた庄一を見て息を吐くと、佳織がポツリと漏らした。


「連君ってさ、本当にいろんなことできるよね」

「そう?」


 そんなに超人的かなと自分の過去を思い浮かべて首を傾げたかったけど、今更ながらズレた人生を送っていることを理解してしまったので「誤解のないように言っておくけど、それはすべて嵌っているからそう見えるだけだよ」と予防線を張っておく。


「勉強なんて学校に行かない間暇だったから教えてもらって進めてただけだし。家事なんて人生の大半つぎ込んでいるだけだし」

「「「…………」」」


 沈黙。みんな俯いてしまった。そこまで辛い内容を語ったはずじゃないのにどうしてだろう?


「? どうした?」

「え、ただ僕をそこまで過大評価してほしくないよって言っただけなんだけど」

「……そうか」


 何か言いたそうな感じがしたけど、席に戻った時にはその雰囲気が消えていた。さりげなくやってしまえるのだからすごいよね本当。


 あ、電話終わったのか。


「なんだって?」

「……特に指定はしないそうだ。一人で来るのもよし。誰かと一緒に来るのもよし」

「そっか。それじゃ、お言葉に甘えていこうかな」

「ん? どっか行くのか?」

「明後日から五月の初めまでネイチュアでのんびりしようと思って」


 さらっと予定を言ったら、全員呆気にとられた。渡してきた本人ですらだ。

 おかしいな。この時期に使ってくださいって意味だと思ったんだけど……いきなり過ぎたのかな? でも1日猶予あるし……圭が連絡すれば準備ぐらいできそうだと思うんだけど。


 我に返るのが一番早かった庄一が質問してきた。


「おい家のことを優先してたのどうした?」

「今は流石に優先しすぎたって反省したから、少しずつ両親にやってもらってるところ。まぁ姉さんと連絡着くだろうからいない間何とかなるでしょ。ならなくても自業自得だから怒るだけだし」

「……なんか、やっぱり変わったよ、お前」

「そうかな?」


 僕は僕のままだというのに周囲の人には変わったとみられるらしい。家族に向かっての言葉をそのまま吐いたらどんな反応するのだろうか考えたら、一瞬で耐えられないだろうなという答えが思い浮かんだ。姉さん達でさえしばらく目が死んでいたんだ。フィルター抜きで耐性のない彼らに言ったら引き籠りかねない。


 友達をそんな目に遭わせたくないのでそれ以上言わず「でさ、レミリアさん」と最近態度が著しく変わって対処のしようがない彼女に声をかける。


「はい! な、なんですか?」


 慌てて取り繕うその態度に昔みたいに戻れないのかなって思いながら「一緒に行く?」と提案する。


「「「!!?」」」

「ふぇ、えぇぇぇぇ!?」


 3人はざわつき、彼女は顔を真っ赤にして勢いよく立ち上がった。そのせいで椅子は倒れたけど、彼女にはその意識がないようだ。

 というか、そんなに誰かを誘うのが驚愕なのかな? それとも女性を誘ったことが驚きなのかな? 両方なのだろう。


 周囲の反応をしり目に自己分析に没頭していく。


 まぁ捉え方によってはデートに見える……というより、付き合ってもいない男女で初デートが旅行って文章の時点で可笑しいことに気付いてないのかな? ただ彼女のメンタルがどこまで戻ったのか経過を知りたいだけなのに。ついでにリフレッシュして精神の安定を図りたい。


 そこまで考えてないからこその反応なんだろうと結論付けて意識を戻すと、佳織が凄い形相で顔を近づけていた。


「どうしたのさ?」


 冷静に首を傾げて質問する。彼女から出た言葉は「見損なったよ連君の変態!」だった。


 ――うん。そんなことだろうと思った。

 反論せずにレミリアさんを見る。彼女はへたり込んでようだ。視界に映らずに庄一が下に視線を向けているから。

 僕の性格を理解できてるならその程度の浅さじゃないことぐらい気付いてもいいのに……やっぱり心理的なプロテクトが高過ぎるのかな。そうでもない気がするんだけど。


 というか返事が欲しいんだけど。


「レミリアさん。レミリアさん?」

「あー……連」

「どうしたの庄一?」

「レミリアさん……気絶してる」

「え」


 今まで似たようなこと結構あったけど……これあれかな。ちょっとレミリアさんに近づきすぎたかな。

 人との距離感は難しいなぁと今更なことを思った僕は、「とりあえず明後日からさっき言った通りの日程で行こうと思ってるけど、人数は確定してないから」と圭に言っておいた。

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