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入学式

こんな書き方で大丈夫だろうか……

 先生が教室に入ってきてすぐに元が教室のドアを開けたために鉄拳制裁という名の拳骨を浴びるというギャグマンガ並みの展開が起こった後。


 その先生が「新入生諸君。以前のクラスで変わり映えしないと思うだろうが、何人か編入している。その人たちのために自己紹介をしてくれ」と入学式が始まる前だというのに提案した。

 時計をちらっと見てもうすぐ入学式だから移動しないと駄目なんじゃ……なんて思っていると、「先生、もうすぐ移動しなければいけないんじゃ?」と去年まとめ役だった久美さんが指摘する。


「……ん? いやそうだな。すまん。時計を見間違えたみたいだ」

「先生ジョークきつすぎますよ~」「最初から笑い取りに来ないでくださいってー」


 先生が首を傾げてるところにお調子者組が先生を茶化す。この時点で僕は違和感を覚えた。

 確証はないけど……先生と僕達の認識に――この時間はこうだという認識に――ずれみたいなものが生じていることが。

 根拠としては先生が演技でも笑いを取りに行ったのでもなく「本気」で首を傾げていることぐらい。何やら納得がいってないという、消化不良であると顔に出てる気がするぐらい。


 さりげなく教室内を見渡して僕と同じような違和感を覚えている人を探してみる。


 …………圭だけ、かな。この中だと。


 何やら厄介事が始まる前兆かな? なんて頭が痛くなる予想をしながら、考えるのをやめた先生は廊下で移動してる生徒たちを見て「笑ってないでお前たちも移動だ!」と声を張り上げたので、僕は黙って立ち上がった。



 最近神様と知り合いになった。自己紹介の時にそんなことを言ったから、今ここで説明したいと思う。


 きっかけは去年の冬休み。家を勢いで飛び出した僕は、誰も見つけられないであろう秘密の場所でしばらく過ごそうと荷物をもって小学生の頃に偶然見つけた森の奥にある社みたいな小屋へ。

 久し振りの掃除も兼ねてのんびり一人で過ごすぞーと思いながらふすまを開けたら、埃まみれだというのに誰かがいて、声がして、反射的にふすまを閉めたら向こうが明けて……って流れでね。


 最初は痛い人なのかなとか思ってたけど、一緒に過ごしていくうちに信じられない現象を見せつけられたし、そしてなにより初対面であるはずの僕のことを一切合切その場で説明したんだからね。信じるほかなかったよ。


 因みに知り合った神様は今のところ七福神全員。今は全員が同じ場所に住んでるとのことで、誘われた形で僕も一人でそこへ遊びに行った。


 で、なんでそんな説明をしたのかというと、そのせいか知らないけど稀に見えることがある。空間を広げるために掛けられた魔法や、結界。透明になってる人など。「普通」の人が見えるべきではない正体が見えるようになったみたいなんだよね。ありがたいのか困ったことなのか判別できないけど。


 あ。神様の名前を知ってる理由は社会の授業で過去の宗教や神話などに出てくる神様の名前をいくつか習ったから。それなりにメジャーな神様達だから覚えてる。ま、自己紹介されたときに知ったんだけどね。本当は。

 でもなんでそんな授業したんだっけ? …………あ。魔術師に関連した話だっけ。ゼウスとかイザナギとか、バステトとか魔法を扱う上での関連付けをする際に必要な知識として色々教えてもらった気がする。かなり大雑把だったけど。


 まぁそんな話を今ここでしたってことはそれなりに理由があるわけで……。


 体育館へ向かう列の中。必然的に近くなる庄一と圭と話しながら体育館に近づくと、なんだか重苦しくなってきた。別に空気が悪いとかじゃなく、単純に自分の中の感覚に何かが差し込まれているような不気味な感覚。体の内部で悲鳴を上げるほどではないけど頭が変になりそうな、不快で、不気味で、不可思議な感覚に苛まれながらそれを表に出さずに移動して、気付いてしまった。


 体育館が「何か」に覆われていることに。


「…………」


 思わず絶句して足を止めそうになったけど踏みとどまり、列を崩すことなく移動する。その間にあれの正体に当たりをつける。


 おそらく結界。ただ、何というか、知識のない僕にはこれが良いものかどうかわからない。相変わらず体は警告音を発しているし、段々焦燥感が出てきた。

 意味も分からず感じる恐怖。自分の中で生まれつつある何か。


 訳も分からず、誰とも相談もできない状況下でも時間は進んでいく。

 正体の分からない焦燥感。自分が自分じゃなくなりそうな感覚。ここが誰もいないなら叫びだす位まで我慢していたからか、庄一が気付いた。


「? っ! 連! お前どうした顔色!? 大丈夫か!!」


 大声で僕に呼び掛けてくれたおかげで列は自然止まり、視線は僕に集まる。

 そんな中でも僕は隠し通せると思っていたから首を傾げた。


「どうしたのさ庄一。顔色変?」

「変も何も鏡見ろ! というか、周りの奴らの反応を見ろ!!」

「?」


 ここで可笑しいなと気付いた僕は圭や近くにいた元たちの姿を見渡す。すると彼らは一様に心配そうな表情を浮かべていた。

 ……ああ、隠し通せなかったのか。

 素直にそう結論を出した僕は、大きく深呼吸をしてから戻ってきた先生に「すいません。緊張からか体調が不安定になっているようです。落ち着かせたいので保健室へ向かってもいいですか?」と頼み込む。


 流石に先生も現状の僕を見て唯事じゃないことを理解したようですぐさま頷いてくれたので、制止も聞かずに一人で列を出て保健室へ向かった。


 たぶん、誰もいないだろうから聞けるだろう。この原因を。


 段々落ち着いてきたことに安堵しながら、それでもこびりついてる感覚のせいで顔を歪めながら、僕は保健室へ向かうことにした。




 保健室へ入ったら先生がいなかった。そりゃそうだろう。体育館の方が人が多いのだから。

 入学初日で保健室のお世話って笑えないなと思いながら、制服の内ポケットから取り出したお守りを握る。そして「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」と呼びかけた。


「おうどうした珍しい……って、大丈夫かお前!」


 僕の呼びかけに応じて現れた身長が140ほどのぽっちゃり体形で、顔が平ら、眉が太くて目が細い人物。服装は『福』と書かれた帽子をかぶり、太古の民族衣装――神職の人が着ているアレに似ている――を着ているのに言葉が僕達と同じような感じなので崇めるというより親しみを感じる彼――七福神の一柱大黒天。前に一人って言ったら「神様(俺達)の数え方は『柱』だからな」って注意されたっけ。


 まぁいいや。ともかく彼が冬休みに知り合った神様で、貰ったお守りを通じて神様と会話できるようになったし、たまにだけど空を飛んでる人影を見たり魔法が見えたりしてる。


 来て早々驚いて心配してくれたので、僕は不格好に笑顔を作って「今は何とかね」と小声でつぶやく。誰かに見られたら独り言呟いてるやばい奴って映るから。それに、大黒天達なら聞こえるしね、小さくても。

 あまりうるさくして人が来られても困るのでベッドに腰かけて一回深呼吸してから、僕は質問した。


「早速で悪いんだけど、ちょっと聞きたいことがあるんだ」

「んあ? わざわざ俺を呼びだして聞きたいことってなんだ? お前の状況と関係あるのか?」

「うん」


 頷いてから僕は入学式だったから体育館へ向かっていたら段々気持ちが悪くなり、自分の中に異物が混ざり始めてきた感覚に襲われたから……と事情を説明する。


 それを聞いた大黒天は目を瞑って考えてから「ちょっと見てくる」と姿を消し、すぐに戻ってきた。


「なるほどな」

「分かったの?」

「ああ。それよりお前、今どんな気分だ?」

「良くなってきてるよ。だけど、まだ少し気持ち悪い」

「そうか。なら、大丈夫だな」

「それは体育館へ行っても?」

「いや、それはお勧めしない。クラスで合流するぐらいなら大丈夫だろ」

「それじゃぁ終わるまでここかぁ……」

「…………なぁ連」

「何?」


 見てきてから大黒天の表情が硬かった。そのことについて言及せずに話をしていたら、向こうが何かを決めた表情でこういった。


教室でクラスメイト(・・・・・・・・・)、そして家で家族と(・・・・・)会話してもショック(・・・・・・・・・)を受けるかもしれない(・・・・・・・・・・)が、俺が保証する。お前は大丈夫だ」

「? どういうこと?」

「……こうやって仲良くしてくれて悪いんだけどよ、俺達は見るだけなんだ。これ以上は言えない。お前がどう行動するかはお前が決めることだからな」


 僕はすぐに理解した。


「神様の決まり事、ね」

「そういうことだ。悪いな」

「いいよ。僕が知りたかったのは僕に起きた異変だけだったし。もう少ししたら大丈夫なんでしょ?」

「ああ。大丈夫だ」


 自信満々にそう言ってくれたのでそれを信じることにした僕は、「わざわざありがとね、大黒」と礼を述べる。


 すると彼はいつも通りのテンションに戻り「気にするなよ! 俺達の仲だろ!!」と親指を突き立てたので「そうだね」と言ってその手に拳を軽く当てる。


「じゃぁな! どうしてもだめだと思ったら、俺達のところ来いよ!!」

「遠すぎるんだよなぁ……」


 消える間際にそう言われたので思わずそう漏らした僕は、チャイムが鳴ったところで時計を確認し、そろそろ終わったかなと思いながら保健室を出ることにした。





 ――そして僕は大黒の言っていた『意味』を理解した。

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