おかえり
更新した日に読んでくれる人が多いので素直に嬉しいです。
そんな感じで佳織と勉強を始めた。
どんな感じなのかなって自分の復習がてら彼女の発音を聞いていたところ、どうやら学び直してるということは本当のようで、しどろもどろな発音で聞き取りにくい。
一応僕も復習という形で確認している。両親も覚えているようで、発音とかのダメ出しとかに協力してくれた。
そんな感じで時間が過ぎていき、佳織が何とか単語の基本的な発音ができるようになった頃。
チャイムが鳴ったので中断して時計を見たら12時近くを指していた。
「あ、お昼だ」
ということはチャイムを鳴らしたのは……。
僕がその結論に至った時にはすでに、答え合わせは終わった。
『ただいまー……ん? 靴が1足多いな』
『た、ただいま、です……』
「あ、帰って来た」
「え、誰が?」
佳織が不思議そうにしてるので、説明しようか迷っていると、向こうから来た。
「連……その子誰? 見たことある気がするんだけど」
「え、レン? そんな……」
その声につられて佳織はリビングの入り口の方へ向いて驚く。
「え、『凪』さんに同じクラスのジャンヌさん!? ど、どういうことなの連君!!」
佳織が僕に視線を戻すと、姉さん達も僕に視線を向けてくる。レミリアさんなんて顔が真っ青だ。大丈夫だから退院したはずなのに疑わしくなるんだけど、本当に問題ないの?
もう3人で勝手に自己紹介やってほしいんだけど……こっちは昼食作りたいから。そんな願いが叶うことなんてないのが目に見えているので、僕は簡単にそれぞれ説明することにした。
「『凪』って呼んだ人は僕の姉さん。レミリアさんは同じ事務所だからってことで姉さんが住まわせたの。で、西条佳織って名前ぐらい知ってるでしょ姉さん。あとレミリアさん、僕ただ勉強教えていただけなんだけど、退院して本当に大丈夫なの?」
説明しながら教科書などを片付ける。それから携帯電話でちょっとした料理の作り方を検索する。
言葉のない空気が漂う中、検索結果を眺めながら「ついでだから佳織、昼食一緒にどう?」と提案する。
我に返ったのか情報の処理が済んだのか少し遅れて「め、迷惑じゃないの?」と訊かれたので「一人増えようが材料余ってるし手間じゃないよ」と言っておく。
「あ、姉さん。レミリアさんの服で洗濯するものあるなら洗濯機ね」
「分かってるわよそれぐらい」
「で、レミリアさん」
「は、はい……」
そこで僕は彼女の方を向いて「お帰り、レミリアさん」と笑いかける。
すると彼女は持っていた荷物を床に落とし、頬を赤く染めて感極まった口調でこういった。
「た、だだいま、です!」
これで事件は本当に終息を迎えた……かな?
戻ってきた姉さんがレミリアさんの肩を抱いて自室へ戻ったようなので、僕も昼食の準備をする。
佳織はというと、何かを察して「また今度にするよ。それじゃ!」と言って帰った。
ま、帰るならそれでいいんだけど。ちょっと拍子抜けしたけれど、それでもやることは変わらない。
すると、何を思ったのか母さんがこんなことを言ってきた。
「ね、ねぇ連。料理を手伝ってもいい……?」
思わず凝視する。遠慮がちに言っているが、散々言い訳重ねてやろうともしなかった人がいきなりだ。目を丸くするどころじゃない。別人になったんじゃないかっていうぐらいにまで信じられない。
が、せっかく自分で提案してきたのを無碍にすると可能性を潰す恐れがあるのを重々承知なので「それじゃ、簡単なものからやってもらうから」と了承する。
まさか通るとは思っていなかったのか母さんが驚いたので「自分から提案したんでしょ?」と言ってからピーラーとニンジンを渡す。
「皮むいといて。流し台の上で」
「わ、分かったわ」
何やら覚悟を決めた感じで言うので、内心で呆れながら玉ねぎの茶色の皮をむき、半分に切って中の芽を抜いてから原型が残るようにくし型に切る。本当は最後の方が良いんだけど、時間置くと涙が出るようになるから。
それらを皿においてから鍋に水を入れて中火で沸騰させ、沸騰するまでの間に必要な材料を乱切りしていく。
今回作るのはレミリアさんが住んでいる方でよく食べられているスープ。なんでそれにしたのかって言うと、故郷で食べたようなものの方が退院初日の料理としては妥当だと思ったから。懐かしさとかで余計に泣きそうな気がするけど、まぁ回復促進する効果は期待できるかなって。
で、向こうに合わせたいのは山々だったんだけど、材料の都合上ないのがたくさんあるのでそれ『風』になってしまうのはご愛嬌というか。
家にある材料使ったものだから故郷と似ても似つかないかなと思いながら人参含めて三種類になったので母さんの方を見ると、悪戦苦闘しながらピーラーで皮をゆっくり剥いていた。
僕はとりあえず鍋の火力を落として別の準備をする。相変わらずご飯炊いてないから昼食がご飯類に出来ないんだよなぁと思いながら乾麺を探す。
……残っていたのはうどんとパスタ。しかもちょうどいい感じの分量。
とりあえず先にパスタ茹でて、残り三分ぐらいになったらうどん入れればいいかな。
深い鍋を用意したけど水を入れられないので待っていると、「で、出来たわ」と言って渡してきたので、ぐるりと見てから両端を切り、ささっと乱切りする。
「ありがと」
そのまま鍋に入れて切った材料を固い順に入れてから残りの材料を切って投入。そして放置。
で、別な鍋に水を淹れてから沸騰させている間に使わない器具を洗って片付ける。
それを見ている母さんが「は、早くない、連?」と驚いていたので「そうでもないけど」と答える。
「慣れた結果効率化されただけ」
「そ、そう……? 本当にそれだけかしら……?」
なんで信じられないんだろうと内心で首を傾げ、それでも灰汁を取ったりしてスープの方の様子を見つつ、ゆでる用のお湯が沸騰してるか確認する。
強火にしたので沸騰する時間が早い。勢いよく泡が出てきたのが続いたら火力を落としてパスタを投入。塩は……良いかな。味付けらしいから。
そんな感じで20分ぐらい格闘して調理は完成。食べたことがないから味付けが相当不安だけど、まぁあくまで『風』、なんちゃってだから。なんて言い訳しながら深皿にパスタとうどんを取り分け、そのスープを入れていく。
「……! え、この匂いは」
「どうしたのレミリア……ん? なんか懐かしい匂いするわね」
「ん? ひょっとすると渚が向こうにいた時に食べたんじゃないのか?」
「もどき、だけどね。はいどうぞ」
誰もとりに来なかったのでいつも通り僕が皿を持って配膳していく。ばつの悪そうな顔をしているけど誰も取りに行かないんだけど。酷くない?
とりあえず全員にいきわたったので「どうぞ」と言って勝手に食べ始める。
……イメージでしか味が分からないから、あっているかどうかわからなくて自己評価がしづらい。美味しいには美味しい。別な料理だって認識で良いかな、これ。
自己分析しながら食べていると、父さんが「なんでうどんとパスタが一緒になっているんだ?」と訊いてきたので「余ってたから」と答える。
今度は姉さんが「なんの料理を参考にしたの?」と訊いてきたので「レミリアさんの出身地にある家庭料理」と言うと驚かれ。
レミリアさんに「どうして……」なんて言われるのは予想できていたので「地元の料理食べて上向きになってくれたらいいかなって思って」と説明する。
「ところで似てる?」
「え、ちょちょっと待ってください!」
味を聞いたらレミリアさんは慌ててスプーンでスープを上品に掬い、深呼吸をしてから飲む。なぜそれが必要なのかと思ったけど、猫舌なのかなと思っておく。
しばらく吟味したらしい彼女は、思い出すために閉じていた瞼を開き、素直に答えてくれた。
「大まかな味わいは似てますけど、深みとかは違いますね」
「そっか。ありがと。食べたことない料理を作るのってやっぱり難しいね。今度教えてくれる?」
「え! わ、私がですか!? そ、それって……え?」
「どうしたの?」
急に慌てだしたと思ったら何かに気付いたのか声を上げたので訊ねてみると、「食べたこと、ないんですか?」と確認するように問いかけてきたので、「調理工程とか材料調べれば出るじゃん。それで作ったんだよ。味に関してはまぁ調味料とかで類似料理思い浮かべたけど」と考えを教えたところ、一堂に沈黙した。
代表してなのか、姉さんが教えてくれた。
「あのね、連」
「うん」
「あんた、相当凄いことやってるわよ」
「……?」
「普通の人はまず初めての料理を作るとき、調理工程を見ながらよ?」
「うん。僕も見たよ」
「それって、作る前にでしょ?」「うん」
「……いい? 知っている中の似ている料理を基にして再現しようだなんて、遠回りだけど結構常識に喧嘩売ってるのよ」
「でも出来てないんだけど」
それに、スープパスタうどんとか言う発想がおかしい料理になったけど。
そんな思いを抱きながら反論すると、みんな息を吐いた。




