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確かな勘違い

四月だけで三十話ですって。五月以降が短くなりそう……

 小屋に向かう途中、庄一から電話が来た。久し振りの友達の声に日常が戻ってきたんだなと思いながら、用事があるから遊べないよと言って封殺。大体の用件分かるから。


 そういえば材料どうしよう。近くに木材屋あったかな……あった気がするんだけど。買いに行ってから向かった方が良いかな。不審に思われない立ち回りのような気がする。


「って、立ち回りってなんだ」


 思わずそんな独り言が漏れる。通り過ぎる人はそんなことを気にしていない。そして僕も気にしていない。


 空に雲が無くなってきた。段々晴れてくるらしい。まるで事件の終わりを祝福しているかのようだ。


 …………ようやくかぁぁぁぁぁ


 脱力しそうになり、思わず気を引き締める。終わったのは終わったけど、それはそれ。やることがあるので今気を抜いたらどうでも良くなると自分に言い聞かせる。


 さ、買いに行こうっと……あ、長さ分からない。


 仕方がないのでそのまま小屋へ直行した。



「こんにちはーって、うわっ!」


 小屋に入ったら明るかった。眩しいとまではいかないけど、一瞬視界が潰されるぐらいには驚く明るさだ。

 少し目を瞑ってからゆっくりと目を開ける。すると最初は眩しかったと思ったのに目が慣れたのかそこまで明るくなかった。丁度家庭用の電球で発せられる明かりと同じぐらいだった。


 と、そこで気づく。目が慣れたわけじゃないと。


 部屋のライトが一気に調節されるなんて、魔術か自動調節機能がある照明だけだ。後者でもある程度のルール決めが必要である以上、純粋な電化製品なわけがない。

 あと神様だし。正直何でもありな彼らだからそれで片付く。


 じゃぁ今回の仕掛けってなんだろう。そう考えた僕は自然と上に視線を向ける。


 そこには光の球が漂っていた。


「あれかー……」


 大黒アレ置いて行ったのか。明るいからいいけど、大丈夫なのかな? 悪さとかしないよね。

 そんなのは杞憂だと思うけど。とりあえず信じてみることにして昨日置いていった道具たちを確かめてみる。

 ……うん。大丈夫だね。掛けた道具はない。

 一つ一つ手にもって確認していたら、何かがあることに気付いた。


 それは、道具からだ。道具から猛烈に引っ張られる「何か」が発せられている。これが何なのか分からないけど、どうもこの道具たちは昨日触った時と違い仮にも神社だからか乱雑に扱ってはいけないのが分かる。いや、そもそもそんな予定すらないけど。


 というか、ここで作業して問題ないのかな……? 今更な疑問を抱いた僕は、それを片隅に置きつつとりあえず設置する場所を決める。まぁ順当に入って見える奥の壁だね。


 とりあえずメジャーと手帳とペンをもって奥へ行く。中央にドドンと置いてあるのが好みだろうから、そこら辺は問題なさそうだけど。


 さて問題は……。


「どのくらいの大きさで作るのか、ってことだよね」


 高さが2mで奥行きと幅がそれぞれ5mほどのこの空間。殆ど物がないために広く感じられるこの中に神棚を飾るとして……まぁ位置も大体決まってるか。

 で、問題が大きさ……大きさ……。


「よぉ連! どうだ、明るくなったろ!!」

「……うんありがとうね大黒。ところでさ、神棚って基本的にどのくらい大きければいいのかな?」

「あ? そこまで大きくなくていいぞ? お前が出来る範囲での大きさなら」

「あ、そう」


 つまり……まぁ、そんなに大きくなくていいのね。じゃぁ1mぐらいでいいか全長。背後から大黒の声が聞こえたことに驚かない僕は手帳に完成予定図を書いていく。

 イメージは大事だ。料理だって未知の食材を使う時は少し味見をしてからイメージで発展させるし、形を思い浮かべることが出来ると何が必要かを思い浮かべやすい。


「あ、そうだ。釘とか使わないでくれよ」

「え、無理なんだけど。始めようとしてる人間に何高度な要求をしているの?」

「いや、そんなのは重々承知だ。だから置いていった道具にちょっと仕掛けたからよ、それでなんとかしてくれよ」

「君もそうなんだけどさ、僕を何だと思ってるの……? すぐに何でもできたわけじゃないんだけど」

「分かってる! 本当に無茶な要求だって言うのも!! だけど金属類を使われると、この場には不釣り合いなんだよ……」


 そう言いながら両手を合わせる。僕はその必死な態度にまぁ確かに景観とかにも合わない気がするなぁと頷きながら、考えてみる。

 周囲は確かに自然だ。小屋も確かに木材ばかり。金属という異物をいれたら目立つのは当たり前なんだろうけど、果たしてそれだけなのだろうかと。


 ……ひょっとして使われたら本当にまずいことが起きる?


 一番最悪な可能性としてはそれかな。具体的なものは分からないけど、統一することで発揮される奴って言うの。

 僕としてもここが無くなる(最悪な予想として)のは嫌だから大黒の意見を酌みたいんだけど……。


「実際金属を使わずに組むって難しいと思うんだけど。初心者に出来ると思ってる?」

「い、いや、だからほら、気が向いたらって言ったろ!」

「そうは言ったけどさ……」


 「練習で」って言ったの憶えてないのかな。いや、憶えているんだろうけど前提条件があれだから必死になっているんだった。

 大黒の状況を思い出した僕はどんな方法があるのか頭の中で考えたけど、これから始めようとしている人間に到底できるとは思えない方法だ。溝掘って挟み込むとかさ。釘より確かしっかり固定できるんだっけ。なんかそんなテレビやっていた気がする。DIY特集より前に。


 まぁ訊いてみればいいか。そう思った僕は「ところでさ、大黒。神棚出来たとして、どうやって飾るの?釘とか使えないんだよね?」と訊いてみる。


「……ん? あ、ああ。それは……大丈夫だ。ここを構成する一部とさせるから。接着剤も釘もいらないぜ」

「うわぁ」

「なんで引いてるんだよ!」

「それって大丈夫なの? 神様がそんな些事で力使って」

「大丈夫大丈夫。そこまで強力じゃないし」


 まぁそういうならそうなんだろう。僕はそう納得して「そこまで言うなら仕方ないけどさ、うまくできなくても怒らないでね?」と言っておく。


「ああ大丈夫大丈夫。お前が思いを込めたもので、お前が今できる中で最高なものだと判断したやつで」

「露骨にハードル上げるなぁ」


 まぁやってみない事には始まらないのだろうけどさ。

 そんなことを思った僕は、結局どこへ行っても変わらないんだなぁと諦観して大人しく従うことにした。



 とりあえず財布と手帳とペンをもって木材屋へ行くことにした。この時点でお昼位になっている。

 まぁあそこで唸っていても仕方がない部分もあるし、初心者なのだから聞いた方が手っ取り早いよね。

 初めて自分からやろうという気持ちが勝ったことに高揚感を憶えながら歩いていると、電話が鳴った。

 歩きながら僕はポケットから取り出して電話に出る。


「はいもしもし」

『あ、連』

「どうしたの姉さん? 面会駄目だった?」

『いや、大丈夫だったわ。聞いてなかったけど、相当ひどかったようね。レミリア』

「姉さんとどっこいじゃない?」

『……。あんたに伝言よ』


 それを聞いた僕は思わず立ち止まり「いらないよ」と答えた。


『え?』

「彼女からの伝言でしょ? だったらそれは彼女自身が伝えるべきだと思うんだ。酷いことを言ってるような気がするけど、自分の気持ちを伝えるならやっぱり、人伝はいけない気がする」

『……連。ずいぶんなこと言ってるわね』

「という訳さ。あ、姉さん。まだ病院にいる?」

『……ええ。今昼食中』

「そうなんだ。ならもう一回レミリアさんのところ行ってくれない? 伝え忘れたことがあるんだ」

『何よ』

「君の両親は特に連れ戻す気はないみたいだから、自分で今後を決めるといいよ、って」

『あんた……そこまで…………』

「ちゃんと連絡しておいてね」


 そう言って僕は姉さんの言葉にかぶせるように電話を切る。

 息を吐く。彼女がなんと伝えたかったのか。自然と脳内で候補を固めていく。

 ある程度候補が絞り込めたので空を見上げ、相変わらずの晴れ模様に眩しさを覚えたので目的地へ向かうことにした。



 目的地に着いた。木材屋は国から集めた様々な種類の木の丸棒や木板で商売をしている。まぁ輸送コストとかで割高なんだろうけど、品質は大丈夫……のはず。目利きできないからわからないけど。

 僕は素直にレジで暇そうにしてる人に訊いた。


「すみません」

「……あ、どうか?」

「神棚って、どうやって作れますか?」


 僕がそう訊ねると、その人は僕を見てから高らかに笑い出した。


「今時ネットで見ればわかるのに訊くのか、それ! しかも神棚って!! お前さんは神職にでも興味あるのか?」

「あ、いえ。そういう訳じゃないんですけど……」

「なんだ違うのか。そうなると益々不思議なんだが……まぁいい。神棚なら売ってる。こっちだ」


 そう言うとレジにいた人はこちらに来てそのまま歩き出したので、そのままついて行く。


「これだよこれ。神様の社付きの棚。相当前には家に飾る人が結構いたらしいんだが……今じゃそれも見ねぇし、これを買っていく客だって、お土産感覚だ」

「え、えー……」


 案内された先にあったものを見て、僕はものすごくテンションが下がった。

 だって……こんな


「こんなの作れるわけないじゃん!!」

「お、おうそうだな! だから笑っちまったんだ」


 正直に言ってくれたが怒る気もなく、自分の調査不足にただただ呆れるだけ。普通に棚作るだけだと思った僕を物凄い殴りたい。

 ああもうなんてこった! 難易度が高いとかじゃない、正真正銘仕事して存在する品物を最初に作ることになろうとは思わなかった!! というか無理! できるわけないじゃん!!


 本当にもう……なんて項垂れているとメールが届いたようだ。力なく見てみると、「棚だけ作ってくれればこっちで鏡とか用意するぞ」と書かれていた。大黒がメールを送って来たらしい。


「はぁ……」

「どうした?」

「えっと、お恥ずかしながら勘違いしていたようで」

「ああ、そうだよな」

「木材だけで棚を作りたいんですが、どうやったらいいですか?」

「木材だけ、か……」


 その人は腕を組んで考え込んでしまった。


「やっぱり、難しいですよね」

「いや、出来なくはないんだが……その、工程が、な」

「工程?」

「溝を掘ってそこに差し込むって感じの奴だな。凹凸を作って差し込むんだ。凹凸のサイズは大体同サイズじゃないと緩くて大変だったりするんだが、まぁ緩かったらその分を補正して埋め込むってやり方もできる」

「え、それ難しくないですか?」

「そうでもない。最近だと機械で加工できるからな。工賃は頂くが。手作業でやれないこともないぞ。溝が必要な場所に四角を描く。で、差し込む方はその幅に必要な大きさになるように中心から振り分ける」

「振り分ける?」

「中心となる線から同じ距離になるように両側に線を引くことを言う……で、溝はまぁ突き抜けたところで問題はないんだが、差し込む方は短すぎると抜けやすくなるから溝の深さによって長さは調節しないといけない」

「そうなんですかーありがとうございます」


 親切に教えてもらったので僕は手帳にやり方を書いていく。それを書いている間にも話は続いた。


「まぁ溝を作るだけでも棚は作れなくないが、スライド式になると強度の問題が発生するからなぁ」

「へぇ」


 意外と木材だけでもなんとかなるもんだなぁと思っていると、「ところで、材料は決まってるのか?」と訊かれたので「いえまだです」とまとめながら答える。


「木の種類によって硬さとか違うから、どの部分はこの木とか決めた方が良いぞ」

「えっと、僕初めてなんですけど」

「ああそうだったなすまん。これはまぁ、アドバイスだと思ってくれ」

「あ、はい」


 手帳に書き終えた僕は「えっと、それでその、棚を作りたいんですが」と言うと、その人は「その前に図面はあるのか?」と訊かれたのでえっと、図面って何ですか? と質問で返したらその人はちょっと戻ったと思ったら普通のA4コピー用紙を持ってきてくれたので見てみる。


 そこには、作ろうとしているものを上から見たり横から見たりした図が在ったり、事細かに数字が書かれていた。


「それが図面。製品を正面から見たり上下や左右の側面から見た図を描いて長さとかを指示するために必要なものだ。加工法とか溶接とか塗装とかも書く必要あるが、まぁ木材で作るならそこまではいらない」

「必要ですか?」

「あった方が楽だな。自分で加工するにもどこまで削ろうとか感覚でやったら失敗する。なら自分で決めた大きさが見えていたほうがやりやすいだろ」

「なるほど。確かにそうですね」


 ま、誤差とかを考えるとその大きさ通りってのは難しいんだがな、人の手だと。

 そう言われて綺麗に作るならやっぱり機械の方が良いんだなぁと思いながら教えてもらったことをメモしていると、紙が一枚目の前に差し出された。


 僕が受け取ると、「どうせ暇だし少し教えてやるわ。そこから材料買ってくれ」とその人は笑って言ってくれた。

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