クラスメイト
前回より紹介はスムーズになったかな?
「行ってきます!」「行ってきます!」
7時20分。
レミリアさんと一緒に家を出た僕は学校へ向かう。高等部は中等部とそれほど離れていないので時間はほとんど変わらない。敷地内にまとまっているわけではなくてフェンスで区別されているので、少し面倒だ。一緒ならそのまま突っ切って行ったんだけど。
今中等部行ってそこからフェンス飛び越えたら犯罪になるのかなと考えながら駆け足で学校へ向かう。自転車かエアボード買った方が移動楽なんだろうけど、自転車置き場申請から防犯登録の手続きが今更って感じするし、エアボードはそもそも燃費悪いからなぁあんまり移動に向いてないって感じする。
まぁざっくり交通に関して言うと、バスや自動車といった自動4輪ものは殆どない。地域によってはあるんだけど、それほど見ないかな。バイクもあるけど、配達員が乗ってるぐらいかな。
基本が徒歩。そこから自転車とか他の島へ行くなら海上列車に乗るか、あまりに遠いようなら魔法による転移か科学技術によるテレポートになるかな。あ、あと船か。
なんでバスとか殆どないのに名称が残っているのかというと、電気自動車とか水素自動車でそれなりに活用されていたんだけど、修理問題とかでほぼ廃棄になったらしい。飛行機やロケットも似たような理由で一部を除いて鉄くずとなって再利用されたとか。一部所持してる人はいるようだけど。ここでもね。
こんな世界になってから技術革新が起こったのは素直に感心するんだけど、名前が残ってないって事実が少し怖かったりする。僕的にね。
ちなみにエアボードっていうのを簡単に説明すると宙に浮ける板。板の中で燃料を混ぜ合わせて爆発を起こし、それを推進力とか浮力とかに変換してるんだけど……やっぱり重い。100㎏はない気がするけど。そして一度爆発させると反応しなくなるまで続くので、じゃじゃ馬感がすごい。高いしね。そんな感じかな。
「そう言えばレン」
「何かな?」
「えっと……同じクラスですね」
「そうだね。中等部から高等部そのまま繰り上げて、別なところへ行った人たちの穴埋めみたいな入り方したからね」
「そんな言い方はないと思いますよ、レン」
「あはは」
とはいっても僕の語彙力でやんわりと説明できない。
なんて、二人で話をしながら移動していると、後ろから「久し振り、連君」と声をかけられたので反射的に振り返る。
「や。覚えてるかな、私のこと。女の子と一緒に登校なんて、小学校の頃じゃ信じられないけど」
「…………佳織?」
「わぁ、憶えてくれてたんだ!! 嬉しいよ!」
そういって飛び跳ねる彼女――西条佳織を目撃した僕は、そういえばそうだよ……と前々日に張り出されたクラス表を友達と見に行った時のことを思い出して逆にため息をついた。
西条佳織。小学生の頃、僕がそれなりにやさぐれ始めた時にそれなりに一緒にいた少女。超能力者であることを隠し、家のことも隠してたのに明るく振舞っていた、ある意味で僕と対極の存在。
昔はショートカットだったのに、髪を伸ばしていたのかポニーテールにしており、身長も僕より高くなっていた。
あの頃と違い身体的特徴もそれなりに成長しているので少し緊張しそうになったけど、不意に疑問に思ったので聞いた。
「なんで僕の後ろから現れたの?」
「え? だって連の家の近くに引っ越してきたから」
あれから大変だったんだよ~と嘆く彼女の言葉を半ば無視して僕は頭を抱えたくなったけど、隣のレミリアさんの不機嫌度が上昇しつつあるし、そもそも登校中だったので「話はあとでね」と言って背を向けて再び学校へ駆け出すことにした。
「あ、待ってよ!」
「待ってください!!」
初日遅刻は勘弁してください!
あんなことはあったけど遅刻する時間より早く到着したのでほっとする。
この学校のクラスは全学年3クラスずつ。他にも学校があるから少数にしてるんだとか。ほぼ全員中等部からなんで代わり映えしないけどね。
ちなみに僕のクラスはBだ。
校庭から教室まで移動する間でクラスメイト達に挨拶する。レミリアさん達とは学校に到着した時には少し離れていたのでそのまま他人の振りをする。どうせすぐに意味がなくなるけどね!!
春休み中の話題とかで盛り上がりながら教室に入った僕は、指定されてないことをいいことに中学時代と同じ席にすることに。
案の定、そこに行ったらその近くに親友二人が座っていた。
「よっ、連」
「……おはよう」
「おはよう庄一、圭」
僕が挨拶すると二人とも笑って返事をしたので、それにつられて笑いながら座ろうとしていた席の机にカバンを置いてから座る。
僕を見つけて最初に挨拶したのが中等部からの親友の一人である岡田庄一。身長は175位と高く、体格は僕と似たような感じだけど、身体能力がずば抜けて高い。魔法でも超能力でもなく、ただ純粋に肉体の能力が高いんだよ。父親が魔法や超能力が入り混じるプロ野球界で数少ない「普通」の選手だからだろう。結構有名らしいけど、僕興味ないのは知ろうとしなかったから詳しくない。
髪型は寝ぐせとか気にしないタイプなので酷いことになってる。僕もあまり気にしない方だけど、寝癖は直す方だ。じゃないと姉さんに笑われる。
で、少し間をおいて挨拶してきたのが同じく中等部からの親友である木村圭。身長は160位と僕達の中で低く、体格もちょっと心配になるぐらいには細いけど、動きは俊敏だし庄一とのキャッチボールに付き合えるんだから非力ではない。
同じ「普通」の人だけど、パソコンや電子機器、そして情報収集能力が高い。きっかけは分からないけど、裏社会という情報屋に片足突っ込んでるみたいだ。犯罪行為はしてないだろうし、これからするつもりもないだろうけど。
家庭内はあまり語りたくないようだけど、薄々冷淡な家庭なんだなと庄一も気づいているだろう。多分。
とまぁ「普通」だけど普通じゃない人たちの中で僕は普通だねと言い張りたいんだけど、そう言ったら二人に睨まれたので言えない。
ただ家庭環境が普通じゃないだけで「普通」なんだけどなぁ。とぼやくんだけど、それを言うと今度は胸ぐら捕まれたので、それも言えない。
曰く「料理のレベル、レパートリー、調理速度。それらが俺らから見ても異常だし、そんなスピードで調理する奴テレビに出演してる料理人ですらいない」
曰く「料理、買い物、洗濯、掃除。それらをこなすのは確かに普通だが、家計簿を小学生からつけるとか家の財産管理してるとか、挙句マッサージを憶えるなんて、中学生の領分を超えてるし考える同年代なんてお前以外ありえない」
等々。反論できないけどね。事実だから。
とまぁそんな感じで普通の人達でも浮いてる僕達。おかげで嬉しくもない有名人になっているので頭を抱えたくなる。真面目に他の学校へ編入しようと考えればよかったかな。
でもまぁ、僕達より有名な人たちがこのクラスにいるから……なんて現実逃避にならないんだけど。
「そういや彼女は?」
「誤解を招くいい方しないでよ……そろそろ来るんじゃない? 一応、他人の振りしといてねって釘を刺したから僕そのまま置いて行ったけど」
「相変わらず薄情だな、お前」
「……でもそうしないと面倒」
「そうなんだよねぇ……あれ、庄一は一緒に来たんじゃないの、新道瑠奈さんと」
「なんでだよ。いくら幼馴染でもそんなことしねぇよ」
「……だから彼女が出来ない?」
「はぁ!? 何言ってやがる圭! それ言ったらお前だってそうだろうが!」
「相変わらず朝からうるさいわね、あんた達」
圭のあおりに反応した庄一が怒鳴ると、心底うるさそうに注意をしてきた女性の声が。
そんなことするのは一人しか知らないので僕達は視線を向けて挨拶する。
「おはよう久美さん」
「……おはよう」
「けっ」
「本当に相変わらずね、あんたは」
「んだよ幼馴染とられたのか」
「取られてないわよ。言っても起きなかったから置いてきたのよ」
肩をすくめる彼女――清水久美に乾いた笑いを浮かべることしかできなかった僕達は、恐らく遅刻するだろう彼女の幼馴染――中島元に内心で合掌した。
中島元。中等部三年生の時に仲良くなったクラスメイトで、世界相手なのかこの国にはびこってる組織相手なのか判断がつかないけど、戦っている男の子。幼馴染の清水久美さんやおそらくその仕事関係で知り合った寺井菫さんに、敵対関係にあったらしいレイジニア=ゼロさんに藤木花音さん達と一緒にね。彼女達、元のこと大好きなんだよね。逃げ回ってるけど、本人。
なんでそんなこと知ってるのかって? 圭に訊いた。以上。
いやさ、最初の方は遠目で見て騒がしいなと思ってたんだけど、圭がポツリと漏らした言葉が気になって……今に至るんだよね。だから中等部で元たちが巻き込まれた事件に関しては大体知ってる。誰にも教える気はないけどね。
ちなみに清水さんが超能力者、寺井さんが魔術師、レイジニアさんがネクロマンサーっていう魔術師という分類から外れた能力者で、藤木さんは「普通」。天才科学者兼発明家だけど。
「久美? 元さんのこと置いてきて遅刻させるなんて酷過ぎます!」
「しょうがないわよ。前起こすときにやり過ぎて起こしに来ないでって言われたんだから」
「でもでもー、それって昔のことでしょー? 普通に起こしてもよかったんじゃないの~?」
なんていつも通りに話題が向こうで固まったので、僕達はそのまま話題を戻す。
「……別に彼女はいい。今のところ」
「けっ。相変わらずだな、おい」
「というか庄一って結構そんな話題に持っていくけど、どうして? 自分でも本気で彼女欲しいとか考えてなさそうだけど」
「…………お前本当さ、そこに至るまでの思考回路どうなってるの? 確かにそうなんだがよ、勉強の成績普通なのに対人技能高過ぎ」
「え、別に。大したことはしてないよ? 機微が分かれば簡単」
「……でも鈍い」
「ふざけてるよな、本当」
「ええ!?」
そんな他愛のない会話をしていたらチャイムが鳴ったので、僕達はホワイトボードの方へ向く。その時教室内を見渡してみれば、レミリアさんや佳織もちゃんといた。
まぁ他人の振りしてもらっているから話しかけない方が良いよね。しばらくは。