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それはまさに

 無言で帰宅した僕達。いつもなら面倒な程にテンションが高い両親や、我儘が過ぎる姉さんが一言も喋らないことが不気味に感じる。そこまでショックを受けるようなことを言っただろうか。昨日のセリフだって、散々溜まっていた不満をぶちまけたんだな程度の認識で終わると思っていたんだけど。なんか洗脳されてからおかしいんだけど、三人とも。


「昼食何がいい?」

「「「…………」」」


 沈黙。


 ひょっとしてインパクト強すぎた? 考えうる可能性を浮かべながら冷蔵庫を眺めていると、弱弱しい声で父さんが話しかけてきた。


「……なぁ、連…」


 なんとなくながらで聞くような話じゃないと思ったので、僕は冷蔵庫の扉を閉めてキッチンから顔を出し「どうしたの父さん?」と訊ねる。


 食べたいもの答えてくれないならおかゆで良いのかな? 食事が喉を通っているのか疑わしいし。


 切り替えたらすんなり決まったので終わったら作ろうと考えていると、「……すまなかった」と。


 今更。


 沈痛な面持ちで今更。


 ()が謝罪の言葉を口にした。



 僕は。


 それを聞いて僕は。


 許す気もない、あまりにも遅すぎるその言葉に。


「あっそ」


 ――興味がなかった。



「「――――!」」


 両親は僕の言葉に露骨に動揺する。仕事ならそんなことないはずなんだろうけど、やっぱりこの二人は仕事に特化しているのかなんて再確認する。

 というか、自分で踏み込んできたのなら仕返しされる覚悟位あって然るべきだと思うんだけど。多分、この三人にそんな余裕はないから……なんていった方が良いんだろうか。


 無暗に人の精神を折る必要性を感じないので言葉選びを考えていると、姉さんが口を開いた。


「……連」

「ん? どうしたの姉さん」

「――私のこと、憎い?」

「……昔はね。今はまぁ多少苛立つぐらい」

「そう……そう…」


 う~ん。本当に元気のない人たちだ。いつもみたいに反省の「は」の字も知らないテンションはどこへ行ったのだろうか。反応に困る。

 とりあえず他に言いたいことがあったことを思い出したので、「ところでさ」と切り出す。


「な、なんだ……?」

「僕がいなくなってから、どうして風呂は洗ってないの? どうして洗濯物やってなかったの? そしてなによりもさ、食料あったはずなのに、何をどうして姉さんの貯金に手を付けるってことになったわけ? 不要と判断したのは全部回収して掃除したんだけど」

「「「!!」」」


 三人は俯いたまま体を震わせていた。どうやら、触れられたくない話題らしい。


 だけど僕に関係はない。


「弁明がないなら別にいいけど。二人の共有通帳からその分姉さんに移しておいたから。文句は言わせないよ。流石に十万以内なら僕も見逃す気はあったんだけどさ……二人とも、やりすぎって言葉知ってる?」

「「…………」」

「姉さんもさ。両親に泣きつかれたからってホイホイ引き落とさないでよね。自分で稼いだ金なんだから、もっと大切に使ったら? 結婚式にでも充てる予定だったんじゃないの?」

「……」


 なんか姉さんの視線がテレビの方を向いた。テレビつけてない筈なのに。


 重苦しい空気が家の中を包む。そして僕もこれだけ長続きするとは思いもしなかったので内心で頭を抱えている。


 おかしいな。本当、いつもみたいに反省の色のない態度で来るとばかり思っていたから何も思いつかない。これもう料理作った方が良いかな? どうせ注文してこないみたいだし、僕は素直に料理に徹した方が良いかもしれない。精神衛生上。


 なんだか立場が逆転したような感じがして気持ちが悪い。バンバン要求通してくる人たちがしおらしくなっているのだから、まだ洗脳が解けてないのかとうがった見方をするぐらいには。


 万一の可能性として本当に反省しているのかもしれないけど……僕其処迄強く言ったかな? 普段より過激だったのは認めるけど。


「……連」

「さっきから名前を呼ばれる回数が多いんだけど。ちゃんと本題に入れないなら考えてまとめたら? その間に昼食作っておくから」

「……ああ」


 はぁ。ようやくか。そう思いながら僕はおかゆを作ろうと思ったけど、そもそもご飯炊いてないので余計に時間がかかる。

 他に何があったっけと家にある食材を頭の中で思い浮かべ、食べやすいものを思い出してから連鎖的にそれに合うような食材を思い浮かべる。


 パスタがあったからそれを茹でて……トマト、いや牛乳と卵でカルボナーラもどきかな。ブラックペッパーの代わりに胡椒を振りかけて、ベーコンの代わりは…ハムで良いかな。


 そうと決めたらさっそく調理を始める。とはいってもお湯を沸騰させるところからなんだけど。


 地味に長いよねと思いながらボウルに牛乳と卵を入れて混ぜ合わせる。まぁ泡が立たない程度だからそれほど時間かからないけど。そしてハムも細切りにしておく。


 あとは茹で終わるまで待つだけかなと沸騰する間包丁とかを洗って片付けていると、「連。来てくれ」なんて言われた。


「え、今鍋のお湯沸騰させているんだけど……」


 状況ぐらいわかってるよね? と確認したけど、それでも「来てくれ」と言うので、とりあえず沸騰してすぐに吹きこぼれないように火力を落としてキッチンから離れる。


「どうしたのさ?」


 首を傾げて問いかける。すると彼らは椅子から無言で立ち上がって一斉に僕に向かって頭を下げてきた。


「え?」


 さっきから謝罪だ何だを一蹴してきた僕からしたら驚きである。どうしてそれに拘っているのかに。


 まず、父さんが顔を下げたまま「本当に済まない。許されるなんて思えないが、それでも」と謝る。それに続いて母さんも「ごめんなさい。私達がしっかりしてなくて」と定型文よろしくな謝罪を。

 そして最後に姉さんが「連に言われた通り、『姉』失格よね。本当にごめん。貴方を置いて行ったりして」と言ったので、僕は目を瞑って少し考えてから、沸騰する音が聞こえてきたのでキッチンへ戻る前に言っておいた。


「どれだけ繕うが、本音は『僕が居ないと家庭が崩壊するからいなくならないでください』でしょ? そんな見え透いた薄っぺらい謝罪の言葉をよく言えたものだね」


 謝罪の言葉をさんざん口にされたことから、本音はいなくなられると困るだろうと推察はできていた。だから三人に謝られたところで響くことはなかった。そういうことなんだろうなとあらかじめ考えていたから。


 僕がパスタを鍋に投入していると、父さんが回復したのか「いや確かにそうだが……なんでそうやってぶっちゃけるんだ」と言ってきた。

 一応爺ちゃんの血を引いてるんだからこれぐらいは簡単に予想できるんじゃないかなと思ったけど、一応答える。


「最初に謝罪した時に効果がないこと分かったでしょ? 同じことを繰り返すからだよ」

「……なんだか父さんに似てきたな」

「爺ちゃんレベルなんてまだまだだよ。生きてればその内そこまで辿り着けるんだろうけど」


 あの人落ち着かせてから動揺させずに秘密を語らせたりできるから……うんマジで恐ろしい。まぁいずれ話すけど、一応この場で言えることは僕の家系は『何かしらの分野で飛び抜けた才能を持つ』のだそう。僕の思考能力もそこに起因したのかもしれない。


 タイマーが鳴るまで暇だなと鍋の中身をかき混ぜていると、「ねえ連」と急に姉さんがいつもみたいな声とは違う、どこか緊張したような声で呼びかけてきた。


「何か?」

「ありがとう、口座の件」

「別に礼を言われる筋合いないと思うけど。むしろ二人から謝罪を受けてしかるべきだと考えているけど。なんで僕に謝って姉さんに謝罪しないのかな二人は?」

「「!!」」


 忘れていたのか肩を震わす二人。自業自得なので僕は特にいう気はなく、「そろそろ通帳管理母さんに任せようかな。家のローンと光熱費と僕の学費をそこで支払っているからその分を考慮してさえいれば、二人のお金の使い道に文句は言わないようにするから」と言っておく。これは本心だ。少しずつ自分たちでやってもらって行くしか、両親の自立は万が一にもできないだろう。……できない方が高いだろうけど。


 こんな両親のおかげで子供の自立が早まるってどうなんだろうか。明らかに反面教師以上の効果があるけど、それ以上に僕みたいに精神が狂う気がするんだけど。


「え?」

「なんで露骨に嫌がるのさ」

「そんな……そんなことになったら家が破産しちゃうでしょ」

「そうならないように頑張ってねって話なんだけどなぁ」

「そもそも破産するまで使わないだろうに」

「なんか……使いたくなるだろ?」

「ないな」「ないね」


 父さんの同意を求めるような発言を僕ら姉弟は一蹴する。その貴方達のせいで僕は自分で経済を回す余裕がありませんけど。とは言わないでおく。段々戻ってきた感じがするから。

 なんだかんだで戻ってきた空気に僕は息を吐く。それと同時に日常が戻ってきたのも。まだ一人完全に戻ってきた様子はないけども。


 果たして彼女は大丈夫なのだろうかと思いながら、なんだか急に態度がしおらしくなったというか変わり過ぎて逆に気味が悪い姉さんの相手を適当にしつつ四人分の昼食を作って食べた。

これは中等部の話もちらっと乗せた方が良いですかね……

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