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宣言

 僕が黙って扉を開けて入ったところ、一人露骨に顔を俯かせた。

 当たり前の反応だったので僕はそれを無視して「目覚めはどう?」と質問する。


 先に父さんが答えた。


「どう、と言われてもな……まさか洗脳されていたなんて」

「そうね。意識を失ってから四日ぐらい経ってるとか言われて驚いたわよ」

「そっか。そんなものなんだ(・・・・・・・・)


 一人だけなぜか僕が発言するたびに怯えているけど、流石に弱くなり過ぎじゃないだろうか。今後の生活大丈夫かな? 僕には関係ないけど。

 観察して現状を把握した僕は、「まぁよかったよ目が覚めて。入院代が嵩んで貯金で間に合うかどうか不安だったからね」と冗談交じりに言ってから椅子に腰を下ろし、三人から視線を一身に……いや、姉さんだけ僕と目を合わせようとしない。


 それに両親が気付いたのか何か言おうとしたけれど、それを進めるとこっちの話が言えなくなりそうなので、僕は遮ることにした。


「と」

「でさ。こんな事件の直後で悪いんだけど、僕から言いたいことがあるんだ」

「……なんだ?」


 顔色変えずに父さんが訊いてきたので、親子だなぁと思いながら考えていたことを口にした。


「もうさ、僕出て行っていいかな?」

「「「…………」」」


 彼らは只、表情を忘れて僕を見ていた。



 こんなこと言うタイミングじゃないことは重々承知だし、普通じゃないのも理解している。だけど僕的にはここ以外に言うタイミングがない気がした。だから言った。


 彼らが黙ったままなので、説明する迄もないだろう事情を理解させるように話す。


「前々から考えていたんだよね。正直、どうして僕がここまでやらないといけないんだろうって。ぶっちゃけさ、勝手にやれよって思ったよ。もう両親二人で勝手に暮らしてろよって。家が汚くなろうが自己責任なんだからその尻拭いをする必要性なんてないじゃんって。姉さんがいなくなってからさ、正直ふざけんなって思ったよね。ねぇ分かる? 夢を追いかけた代償を背負わされた弟の気持ちを。分かるわけないよね。だからこうして戻ってきて、こうして普通に話をしている。両親にしたってそう。実の息子の話を真面目に聞かないで、取り合わない。たまに聞いても三日も持たない。そんな生活を続けさせるほど成長したのも悪いんだろうけどさ、あんた達は恥ずかしくないの? 大人としてさ、年上としてさ、何も恥ずかしくないって思っているの? とんだお笑い草だよ。そう思ってるなら僕がその自信を粉々にさせてやるよ。ほら、かかってきな?」

「「「……」」」


 反論は、なかった。まぁしたらしたで加速していく狂気の中で誰かの精神が折れるまで話は続いていたんだろうけど。

 話していると段々戻ってきたので、いったん僕の方も休憩をとる。


 なんか疲れた。慣れていないからなのか、それとも人を壊すことにエネルギーがいるのか判断のしようがないけど、普段の家事の量をやったぐらいには疲れた気がする。よく寝れそうだ。

 思わず欠伸をする。だけど家族からのリアクションはない。


 まぁ別にすぐ返事が欲しいという訳でもないし、そもそも断られても行きたくなったら僕は行こうと思ってるから気にしてないけど。

 最低限の話は出来たから良いかなと思った僕は時計を見てから立ち上がり、「じゃ、今日はこれで。明日には退院できるみたいだから一応連絡はしとくよ。お大事に」と言って部屋を出た。


 姉さんが呼び止めたみたいだけど、僕は無視した。



 とりあえず言いたいことは言ったので目的は達成。で、昼を食べてから庄一のところへ行こうか、庄一のところ行ってからにしようかと近くのベンチに座って考えてる。

 二択なんだろうけど、このタイミングって結構難しいよね。やっぱりここは直感で行った方が良いのかな?

 そう結論を出したところ、「あ、連君だ~」と聞き覚えのある声がしたのでそちらへ視線を向けると、花音さんが元の隣で歩いていた。なんとそこに圭もいる。


 一体何があったんだろうかと思いながら黙っていると「久し振り~」と近づいてきたので「久し振り」と返事をする。


「どうしたのさ」


 解決に尽力した三人が集まって僕のところに来る必要性に疑問を生じているので素直に質問したところ、元が苦笑しながら「いや、昨日連が言ってたお花見やろうかなって。僕達四人で」と話し始めた。


「昨日は元自身嫌だって言ってなかった?」

「そうだったんだけど……あの後考えてさ、連にはお世話になりっ放しだったし一番忘れたがっていたのって連だったのかなって思ったら」

「――――」


 僕は今驚いている。多分、元はそこまで深く考えてない。おそらく直感でそう言ってるだけ。なのに僕の葛藤していた部分に近づいたのだから。

 だから彼はモテるのかと納得できた僕は「いつやるのさ? いきなり今日とか準備してないからやめて欲しいんだけど」と訊いてみる。

 それに答えたのは圭だった。


「…日食で料理を準備してくれている。それに、ちょうど今日桜が見ごろな場所が近くにある」

「問答無用で今日なのね。……まぁその方が助かるか」

「そうだよ~。何せほとんどの人は退院するから~」


 殆ど(・・)、ね。

 レミリアさん以外に精神状態がやばくなった人っているのだろうかとぼんやり考えたけど、答えなんて出ないので「今から行っても大丈夫なの?」と訊いてみる。


「……問題ない。連絡すれば向こうが届けてくれる」

「そっか……なら行こう? 時間ももったいないし」

「……ああ」「うん」「そうだね~」


 あえて触れないでいたのかなと勘ぐりながら、僕は病院を出た。



「庄一元気だった?」

「……まぁ。一人だけ洗脳されたことで悔しがっていた」

「あははっ。相変わらずそういうところで張り合うよねぇ」

「……今回は知らない方が幸せだから教えてない」

「そうだね。知らなくていい話だよ……菫さん達には話しちゃった、元?」

「え? えっと……その…」

「私がうまくごまかしといたよ~詳細は語らないでってやつ。二人きりで色々行動できたし~」


 そう言って花音さんはにへらっと笑顔を向けてくる。その時に元に対してご愁傷さまと思ったけど、いつもそんな感じだった気がしたのですぐに霧散した。


「因みになんていったの?」

「ん~~三人とも操られて大変だったけど、いなくても変わりなかったよって」

「……え、そんなこと言ったの!?」

「そんなこと言うわけないよ~。ただ、真実を知りたいなら上位組織のコンタクトを自力で取ってねってことぐらいだよ」

「それは上手いはぐらかし方だね」「ナイス、花音」「……そんなこと言ったら何とかしようってなるんじゃないの?」


 なんか元が変な心配をしてるようなので、僕は言ってあげた。


「彼女達の力じゃどうあがいても無理でしょ? 上位組織と言っても様々だから今回どこが関わっているのか分からない。分かっていたとしても所属組織の中の上司を通じてじゃないと話をすることは無理。そして組織内が無茶苦茶になったのにそんな話が通ることなんてほぼない……そんな感じでしょ、圭?」

「……概ねそんな感じ。だから元は問い詰められても黙秘権を行使できる胆力を持て」

「……あれ? 結局僕に返ってくるじゃん!」


 うわぁぁ!! と頭を抱え始めた元を見て僕と圭は笑う。

 桜までの案内を元たちがしてくれるというので、僕はそれについて歩いている。ただ、周りを見ているとどうにも向かう場所はあそこのようだ。ひょっとすると大黒たちが何かやってくれたのだろうか。


 ……いやどうだろう。計り知れないから正直考えても無駄な気がする。


 空を見る。天気予報が今のところ当たっているから快晴だ。見た限り雲一つない。僕の心とは真逆で笑えてくる。

 比較は簡単だ。違うところを見つければいい。元々個性が違うのだから、僕達は簡単に堕ちる。

 で、僕自身は比較せずとも心の中に燻ぶっているものが在るから比較する気もなく堕ちた後なんだけど。だから真っ暗だ。自分の心の奥は。


 こんなでも周りから普通の人に見えるんだから、世の中は分からないよね。


 首が痛くなった気がしたので視線を戻すと、「どうしたの連。空なんか見てて」と訊かれたので「良い天気だなって思ったんだよ」と無難に答える。


 昨日通った道を歩く。どうやら僕の推測は間違っていないらしい。

 と、ここでさらっと出てきた単語で気になるものが在ったのを思い出した。


 日食。正式名称は日暮食堂。安さと量でいつも行列を作っているお店だ。中等部の頃にお世話になった。

 そこの大将にはバイトや手伝いをお願いされたことがあってそれなりに親しいけど……どうしてなんだろうか。まさか……圭の同業者?


 いやそんなまさかな……と勘ぐった自分を反省しながら「そういえば圭。どうして日食が?」と訊いたところ「……アフターケア」と言われたのでマジっすか……と予想外のことに衝撃を受けた。


「そういえば連君はどうしたの? レミリアさんのところへ行ったの?」


 驚いていたところに花音さんからそんな質問が来たので我に返った僕は「ああ、一度も行ってないよ。彼女自身が落ち着くまでは無理なんじゃないかな? 変に刺激して長引かせる必要もないしね」と答えた。


「え、そんなにひどいの?」

「う~~ん。彼女の事情だから教えられないよ。僕だって蒸発する間に何があったのか知らないし。蒸発する前のことをつなぎ合わせて考えられた有力な可能性ってだけだし」

「……相変わらず恐ろしい」

「情報を的確に拾ってくるほどじゃないと思うけど」

「どっちもどっちだよね~。真実に近い推測をするか、真実をかき集めるか」

「えっと、なんていうか、ごめん」

「謝る必要はないよ」


 元が変な謝罪をしたので僕はそう言ってこの話題を切る。どうしてこの話題に対して僕に謝るのかが分からなかったけど、まぁ些末事かな。


「そろそろ着く?」

「うんそうだね」

「……久し振り」

「10日ぐらいしか経ってないんだよね、ここに私達暮らしてから」

「意外と籠城したねぇ」


 なんだか懐かしく感じる。つい最近までここで生活していたことに。

 そして昨日来た時と風景ががらりと変わっていたことに驚いた。桜が咲いている感じが一切なかったのに、教会の周りで桜がきれいに咲いている。ご丁寧にこの周囲だけ。

 となると神様の御業確定だねと納得した僕は心の中でありがとうと呟いて「で、料理どこ?」と圭に訊いた。


 因縁ある場所で忘れるという目的のお花見なんて矛盾するような気がするけど、この日僕達ははしゃいで確かに薄れさせることはできたと思う。


 で、僕は帰った先で荷物を受け取って家事終わらせて夕飯適当にして風呂に入ってから大黒に礼を言って寝た。


 あー明日家族にどんな顔で会えばいいんだろう?


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