過去に王様と会ってました
王都に入り俺らは一直線に王城に向かった。
城に到着するとグランたちとは別れて一室で待機するよう言われる。
中には俺達だけなので部屋に備えられているソファに横になる。
(暇だ~城の中を見てみるか『召喚・タナトス』)
『召喚』とは言葉のとおり契約した対象を呼び出す魔術である。ちなみに呼び出したのはフィーシィの配下である最上位闇精霊『タナトス』だ。
『久しぶりです、わが主よ』
タナトスは真っ黒いフード付きローブで顔は白黒の仮面をしていて、右手には銀色に輝くレイピア、左手には金色に輝く拳銃を持ち足が無い姿だ。
『おう、久しぶりだな』
こいつは万能なので重宝している。
『それで主よ我はどうすればいい』
『俺の目と耳になってこの城を見せてくれ』
『承知』
『それじゃあ繋ぐぞ』
無属性魔法『感覚共有』でタナトスとの視覚と聴覚を繋ぐ。
『それでは主よいってくる』
それが崩れて百匹の黒い鼠になって家具の陰に入り散っていく。
部屋にいる三人は目を開き驚いている。その後いろいろ聞かれたがはぐらかしといた。
タナトスに城の中を調べてもらう。
その方法は体を分散させて影と同化させ、さまざまな場所に入り込んでもらうことによる情報収集だ。
とある一室でグランと豪華な身なりをしている十数名が会議しているようだ
「グラン殿下お戻りになられて、私どもは安堵しております」
「すまんな、お前たちには心配をかけた」
「いえ、殿下が戻ればそれだけで」
「ああ、それで私が留守にしている間に王宮内で変化があったか?」
「それなのですが殿下―――――」
その後の話で、グランが外国に行っている間に王宮内の状況がわかった。
少し前に国王が病で倒れ、その後もどんどん憔悴していってるらしいのだ。国中から優秀な医師や神官を呼んでみてもらったが全員がさじを投げたようで、現在もほとんど寝たきりで動くことができないみたいだ。
それによって水面下で王位継承権を持つものが争っている。現在の勢力比はライル殿下が4割、グラン殿下が3割、ニコル殿下が2割で中立派が1割となっている。それも政治関係の貴族はほとんどライル殿下の派閥で、経済に明るい貴族はグラン、軍事関係の貴族はニコル殿下の派閥が主立っている、といっても全員がそうではないが勢力図的には大体こうなっているようだ。
話を戻そう医師や神官によれば王様はあと一年生きればいいほうなのだそうだ。
「今、国王様の仕事をほとんど宰相閣下が行っております。そして他の殿下はそれぞれの立場を強くするために動いています」
「そうか」
「グラン殿下が海賊に捕まったのも他の派閥の妨害だと考えるものも現れています」
「それは確かなのか?」
「確証はありませんが、可能性だけならありえるかと」
「はぁ、私だけならまだいいが妹であるメルダまで巻き込むとはな」
「まったくですな」
前から思うのだがグランはシスコンだな、貴族達もあきれているみたいだから周知の事実見たいだけど。
「それでこれからのことなんだが」
「殿下、私どもは他国とのつながりを強化していき地盤を固めていけばいいと思います」
「そうだな、そうすれば国内でも私の利用価値も上がるだろうからな。だがニコルのほうはどうだ」
「それが問題でございます殿下、ニコル殿下は・・・」
「はぁ~あいつは野心、いや野望を持っているからな」
「はいそのとおりですな」
「このまま従来どおり行けばライル兄上が王位を継ぐことになる。私は王家直轄の領地を分譲され公爵の地位が約束されるかな?そしてニコルは将軍の地位をもらってから宮廷貴族にでもなるのが一番穏便に済ませることができるが」
「問題はニコル殿下が納得するかですよね」
「そうなんだよねニコルは目的のためなら何を切り捨てても成し遂げるからね、例えば私と兄上を事故に見せかけて殺すとか」
「それはありえないと思いますが」
「いやいや私の勝手な推測だよ、今回の王位継承は下手すれば内戦まで発展するかな」
「それは・・」
「みんなも薄々気づいているんじゃないかい?」
グランの言葉に誰も返事ができない
(まぁ、そうだよなここまでわかってるなら、そうなる確率が一番高いだろうに、それに)
「主要な武闘派貴族はニコルの派閥だから勝率があるのが怖いんだよな、私の身もどうなるか」
「では選りすぐりの騎士たちを殿下の護衛に付けましょう」
「いや」
(おや?)
「今護衛してもらっている者たちがいるのだが彼らに護衛を頼もうと思っている」
「殿下!素性も明らかになっていない者をお傍に置くことは!」
「それに下賤な者たちがいつ裏切るか!」
(ずいぶん嫌われているな~)
「皆の者の気持ちもわかるがあの者達は裏切らないよ」
「何か根拠があるのですか」
「いや、勘だね」
「殿下・・・・」
「こうゆう場面で私が間違えたことがありましたか?」
「・・・・・」
「それが答えだ、もし間違っていても死ぬだけで済むさ」
その後、どの国とつながりを強くするかなどを話してこの会議は終了した。
俺はその後も情報収集に勤しんでたのだが日が落ち始めたころに来客が訪れた。
やってきたのはメイドだった。
「テオドール様ですね、わが主が貴方に会いたいとの事です」
「失礼ですが主の御名前は?」
「内密にとのことです」
少し考えたがここはついていったほうがよさそうだ。
「失礼ですが、奴隷であるあなた方はここにいてください」
とゆうことなので一人で一室に連れられてきた。そこにいたのは豪華なベットに横たわっている40代の男性と見た目は20代にしか見えない女性だ。
さてとここまで予想できるかな、国王と王妃だ
国王は痩せ細った体に青い髪だが眼には確かな強さを感じさせるものがあった。王妃は金髪碧眼でおしとやかな麗人だ。一目見ただけでは20代と間違える容姿をしているのだが実際は3『ギラッ』いやここまでにしとこう。
「そなたがグランを助けてくれた者か」
「ええ、いえ、そうです」
「この場は非公式だ、楽にしてよい」
「じゃあそうするよ」
俺の言葉遣いに二人がすこし意外そうな顔をした。
「ふふ、面白い人ですね」
「そのとおりだなグランが気に入るわけだ。さて我がこの国の王、レグルス・ザラ・ヘクメスだそして」
「私がこの国の王妃アルナール・ザラ・ヘクメスです」
「俺はテオドール、家名はないからただのテオドールだ」
「うむ、それでそなたを呼んだ件についてだが」
(それは気になってた)
二人はそろって頭を下げた、それには俺もちょっと驚いた。
「公の場では王なので頭を下げることはできない。だがここは公の場ではない、グランの父親として感謝を示したかった」
「手の込んだことをしてすみません、ですが私たちはこうでもしないと頭を下げることすらできなかったので、この場を作らせてもらいました」
「なるほどわかりました」
「うむ、それで君がこの国来た理由をを教えてくれないか」
ん~、ここは一応考えといた設定を使うか。
「まぁ、一言で言うと旅みたいなものですかね」
「ほう旅とな」
「ええ師匠(本体)から一通りのことを習い終わったので世界を見て回ろうかなと」
この体を慣らすために本体との模擬戦とかしたから嘘ではない。
「なるほどな、ではそなた旅の話をしてくれないか、見てのとおり動けない身でな少し外の話を聞きたいのだ」
「いいですが、自分は旅に出たばかりなのでほんの少ししか話せませんよ」
「それでもよい」
俺は重要な部分を隠して体が完成してからのこと話した。話を終えるころには日がほぼ沈んでいた。
「面白かったぞ、話を聞いていると我も空を覆う大樹を見たくなる」
話が終わるとメイドがやってきて
「陛下そろそろ時間です」
「そうか、最後に一つグランを頼むぞ」
俺はメイドに退出させられて部屋に戻った。その日は部屋で食事をして就寝した。
(しかし、あいつが王だったとはな)
これは俺が家を作るためにいろんな所を飛び回ってた頃だ。
木材や鉱石、それといろいろ使える魔獣の素材など集めてた頃のことだ。
他の大陸に行き、妖樹の素材を手に入れるためにとある森に入ったとき。トレントの場所を特定して、その場所に向かう。だがそこには何体もの人や馬が倒れ馬車が横たわっていた。意識があるものは無く、近くには老妖樹が枝をうまく使い馬をむさぼり食べている。馬がいなくなると次は人を食べ始めていた。
それを眺めていたが冷めた気持ちにしかならなかった。
(何だろう、人が食べられているのを見てもただ自然の摂理だと感じるようになったな)
「うっ・・・だれか・・助けてくれ!」
馬車の中の誰かが眼を覚ましたようだ。とりあえず食事に夢中な老妖樹は無視して馬車に向かう。
「頼む誰でもいいアルナを助けてくれ」
「だれかー、誰かいないのか!」
「たのむ・・・誰でもいい・・・助けてくれ」
おれは馬車の扉を開けて中を確かめる、。そこには青髪の青年と金髪の女性がいた、女性のほうは体に馬車の木材が刺さっており時間が経てば死んでしまうような怪我だ。青年は扉が開いたことに気づいた。
「そこにいるのか、だれでもいいアルナを助けてくれ」
逆光でこちらの姿が見えないのか手で光をさえぎるようにしてこちらを見て、反対の手では女性をこれでもかというぐらいに抱きしめている、まるで放せばいなくなってしまうと思い込んでいる子供のように。
その姿を見てなぜだがこの二人を試してみたくなった。
「その女性を助ける代わりに何が出せる?」
「俺のすべてをやる、だからアルナを」
俺の問いに即答した。
「それが命でもか?」
「当たり前だ、アルナが助かるなら俺は今此処で死んでもいい」
「ふふ、わかった」
俺は二人に近づき治癒魔術を使う。
すると二人の傷が塞がっていく、ただ女性に対しては抜きながら掛け続けていく、刺さったままだと変な形で治療することになるので抜きながらしなければならない、しかも一気に抜いてしまうと出血多量で死ぬ可能性もあるのでゆっくりとだ。
二人の治療を終えた。
「おい、アルナは大丈夫なんだろうな」
「安心しろもう死ぬ心配は無い」
「ああ・・・・お前は木人なのか」
「まぁそんな感じだ」
「それで俺をどうするんだ」
「どうもしないよ」
「は?」
「だから何もしないって」
「では何であんなことを聞いたんだ!」
「なんとなく」
「っ!お前は!」
「その前に外を見たほうがいいぞ」
そこで自分たちの置かれている状態を思い出したのか慌てて外に出る。女性に関してはクッションを引いて横にしてだ。
外では老妖樹が人を食べて残り7名にまでなっていた。その様子を見て青年が顔を青くしていた。
そこで横にいる俺を思い出して
「・・・あの者達を救ってはくれないか」
「一度目は無料でやってやったが、二度目は有料だ何を払う?」
「できることならある程度のことはやろう」
「・・・・・・まぁいいか、じゃあ下がっていろよ」
俺は腕を振るう。すると緑色の風が老妖樹を切り裂く。
「これでいいだろう」
「ああ・・感謝する」
「ついでだ、いくつかサービスしてやる」
まず、ここら辺一体に結界を張り安全を確保する。
「なにを」
その次に風で横になっている馬車を立てる、といってもボロボロだけどな。
「なにをしたんだ」
「とりあえず結界を張った。これで一日は持つはずだ。結界の外には出れるが一方通行なのは気を付けろよ。そして馬車だが車輪の軸だけ直せば何とか使えそうだな、そして馬だがこれを使え」
合成魔術『人形作成』で馬の土人形を作る。
「この馬は一日でただの土になるから注意しろよ、お前の命令に従うようにしといたから」
「感謝する。もし来れるなら一度、王宮に来てほしい、お礼がしたい」
「まぁそんときにな」
「俺の名前はレグルスだ。お前の名前は?」
「そうだなオルフェウスとでも名乗っておこうか」
神話の中で最も印象に残っている名前だ。
神名は教えることができないのでとっさにその名前を出すことになった。
その後、俺は老妖樹をしまってから立ち去る。
これがレグルスとの出来事だった。