ステルスゲームってスリルあって面白いよね
その後、クレアも適当な理由を付けて棄権した。
それでは最後に俺の出番が来る。一番長く木刀のような形状をしているものを手にとった。
「それでは最後にテオドール対レドルの試合を始める、まず宣誓を」
「我レルドは神に誓っていかなる結果であろうとも受け入れます」
「ワレテオドールハカミニチカッテイカナルケッカデアロウトモウケイレマス」
「それでは・・・はじめ!」
開始した時点で互いに動かない、いや正確には俺は動かない。向こうは長剣(無論木剣だ)を構えて俺の動きを警戒している。ついでに俺の体に魔法で枷を付けて平均120にした。
「構えないのか」
「いや構えなんていらないから」
「っ貴様は強いがそのおごりが敗北につながることを教えてやる」
騎士は俺の言葉を挑発として受け取り激怒している。俺はもともと構えなんてないってことを言いたかったんだけどな。
騎士は突き、袈裟斬り、逆袈裟斬りなどで急所を狙ってくるがそれを最低限の動きだけで避ける。
「くそっ!」
この騎士はさっきより強く技術もあるが短気だな。自分の技が通じなくなったらいらだってくるタイプだ。
「ふ~む、あの騎士は実力はあるが、性格に難があるようだと思うのだが」
「そうでございます殿下、レルドは今年入団したばかりの腕の立つ者なのですが少々傲慢になってしまったので、少しお灸をすえようかと」
「なるほどな」
そうゆうことなら協力しよう。
「このやろっ!」
「ほいっと」
「うわっ!」
レルドの剣を躱して足払いをして転ばす。
「ほらほら早く起きないと負けちゃうぞ~」
「テメェ!」
こうしたことを何度も続ける。時には腹を蹴り転ばしたり、ある時には振り下ろした腕ごと一本背負いで何メートルも投げ飛ばしたり、何度も何度も勝負がつかないようにあしらっていく。
「はぁはぁはぁ・・・くそっ!」
「まだ続けるか?気づいてるだろ、もうほとんど勝ち目なんてないって」
「それでも意地ってもんがあるんだよ」
「ならおいで、まだまだ勝利するには足りないぞ」
そこから俺らは笑いながら戦っている。しかも先ほどとは比べられないくらい動きがよくなって行きながら。
こいつに合った流派があったので俺が少し教えるとする。俺が手本のような動きをして、それを相手が真似る。こうやって徐々に体の動きを教えていく。少しの間だけど、こうしていたら相手の本性がある程度わかってきた。この少年は素直なのだ、それも愚直などの部類だ剣がそれを語っている。
「さっきの言葉は謝る。あんたの強さには敬意を払う」
「そうか」
「こんな楽しいのは久しぶりだ、もう少し続けてくれ」
「了解、もうやめてくれって言うまで終わらせる気はないけどな」
そこからは俺も周囲も無言で若き騎士を見守っていた。たぶんだけど彼が傲慢になったのはスランプに陥ってしまってふて腐れてたんだと思う。現にどんどん速く強くキレもよくなっきてる、それと比例するように顔が生き生きしてきた。
そんな時間もレルドの体が限界まで来たらお終いだ、最後は俺の目の前で大の字になっている。
「はぁはぁ・・・はぁ~~~」
「さすが終わりか。一言アドバイスしとくよ、お前は確かに強い。だがそんだけだお前からなんの願望も伝わってこなかったぞ。人は目標を失ったら終わりだぞ」
こいつは何かをやりたくて強さを求めるんじゃなく、単純に強さだけを求めていた。だから強くなれないとわかったとたん不貞腐れ始める。
「・・・・・・・・そうか」
「それまで勝者テオドール」
俺は開始地点からほぼ動かずレルドはその目の前で大の字になっていた。そこにグランが近づいてくる。
「さすがだね、レルドは若いが騎士団内では上から5番目に入るくらい強いらしいのだが、それを子供のようにあしらうなんてね」
「あれぐらいならな」
「海賊を壊滅させた腕だ、これくらい当然だね。これで文句ないよねベルマルク辺境伯」
グランのそばには、豪華な服を着た茶色の髪の見た目30代の男性がいた。
「確かにこれほどの腕を持つなら護衛は大丈夫だろう、テオドールといったね護衛を任せてもいいかな」
「受けるからにはやりきるよ、あと失礼だがあなたは?」
「私はここの領主であるバルク・ゾラ・ベルマルク辺境伯である。殿下の救出には感謝している」
その後、護衛の話をするために一室に案内された。
「さて護衛するにあたっていくつか話すことがある、殿下がどのような立場に置かれているかだ」
「それって貴族のドロドロした部分のことか?」
「まぁそうだな・・・もうすこしオブラートに包んでもらえないか。ともかくだ殿下が王位継承権第二位なのは知ってるな?」
「ああ」
「そこで問題になるのが第一王子と第三王子だ。グラン殿下たち兄弟の評判は知ってるかね」
「いんや」
「第一王子であるライル殿下は凡才、第二王子であるグラン殿下は秀才、第三王子であるニコル殿下は天才と知られている」
「うわぁ〜、それって」
「貴様が思っている通りこの国は次の王の選定でめんど・・・・複雑になってきているんだ」
(おい、こいついまめんどくさいって言おうとしなかったか)
「今、この国は4つの派閥に分かれている」
それからの説明だと、第一、二、三王子の派閥、それと無所属の派閥だ。第一王子は一言で言うと現状維持、いうなれば国王派。第二王子と第三王子も王国派であるが違いは他国に向ける姿勢である、第二王子は周辺の国とで同盟などつながりを強くしようとしていて第三王子は他国を滅ぼし国を大きくしようとしている。最後に無所属派閥(以後中立派とする)は文字通りどこにも属していない派閥であるこれは時期に起こる騒動に巻き込まれないようにしている貴族たちが集まってものだ。
「私は中立派なので基本どの王子ともつながりがある、だがそれゆえに護衛は最小限しか出せないのだ。けど王子に何かあると責任が問われるから傭兵団など腕の経つものたちを紹介するぐらいはしなければならないがな」
「うへ~」
「まぁ、今回は殿下自身が見つけてきたみたいだから手間が省けたが」
「護衛は?俺たちと騎士団から最低限とそれ以外は?」
「今回はテオドールが護衛してくれるみたいだからそこまで多くはしていない」
それなりに信用してもらっているみたいだな。
「殿下の護衛をするのは君たち以外では先ほど模擬戦をした連中と数名の傭兵だけだ」
「その傭兵は問題ないのか」
「ああ、私と専属契約している傭兵だ、問題はない」
その後、ある程度詳細を聞いてから宿に戻ろうとしたが殿下が出発する四日後まで部屋を貸してくれることになった。一度宿に戻り、残りの荷物を貸してもらった部屋に移す。
残りの日数は市場で買い食いしたり、雑貨屋や武器防具店を巡ってみたり、あの三人娘を鍛えたり途中で俺も鍛えてくれってレルドが乱入してきたり、などなど此処での生活を堪能してた。
そんなこんなで出発する日になった。
「じゃあ王都まで頼むよ」
グランの言葉で俺らは出発した。
豪華な馬車一台、普通の馬車3台、特性の馬車一台で道を進んでいるんだが俺の馬車が一番目立っている。
何せトレーラーハウスなのだ、中は快適さをこれでもかってほどにいろいろ詰め込んだ。冷蔵庫、エアコン、洗濯機(+乾燥機)、キッチン、ダブルサイズのベット、クローゼットなどなど完備している。動力は電力の代わりに魔力で動く使用にしておいた。
これをグランに見せたときの顔は今でも忘れられない。ベルマルク辺境伯は本気で譲ってくれって交渉してきた、まぁ譲る気はなかったので断ったが。当初は奪ってでもってかんじだった。
「しかし、この馬車は居心地いいな」
「自分の馬車にもどれよ」
「いやだよ、この馬車に乗ったら他の馬車になんか乗りたく無くなるよ」
俺は文句をいいながらソファに座っているグランに特性の紅茶を入れる。
「しかし、これは本当にすごいな、今まで見たことのない魔道具だらけだ」
「ん?魔道具ってそんな珍しいのか?」
それからある程度魔道具について聞いた。魔道具は作るのが相当複雑で、なおかつ魔石を使って動かすのだが燃費が悪すぎるらしい。大体、魔石の含まれている魔力の3割使えればいいほうらしい。さらに使える魔石は条件があって一定以上の品質がないと使えないのだ。これにより持っているのはよほどの金持ちか物好きなコレクターぐらいなのだ。
まぁここにあるものはそんなの関係ないんだけどな。
「しかし、テオドールはひどいな」
「なにがだ?」
「いくら奴隷でも女性だぞ、少しは優しくしてやろとか思わないのか?」
それと3人娘は外にいる、ステラは馬を操縦していてティアとクレアは上に上がって周囲を警戒している。
「ぜんぜん、こうゆう雑用のためにあいつら買ったも同然だからな」
「まぁ、護衛をしっかりしてくれるならこっちは文句ないけどな」
昼間はトレーラハウスで紅茶飲みながらゆっくりとしている、グランとボードゲームしたりカードゲームして、夜は外でハンモック出して夜空を見ながらコーヒー(カフェイン抜き)を飲んで寝る。これの繰り返しだ。
いくつもの村をとおり王都にあと少しのとこでそれは起こった。
トレーラーでグランとポーカーをしていてると、これから通る道の近くに盗賊がいることがわかった。
ちなみになぜわかったのかというと、俺はこの体から自然に漏れ出るほんの少し(常人からしたら考えなれない量なのだが)の魔力で周囲に膜を張った状態にしていて、何かがその中に入ると膜の外に出るまで常に探知することができるようになっている。
それによって近づいてくる盗賊がいることがわかった。
俺は盗賊が近づいてくるのをグランに教えると、すぐさま馬車を停止させて迎撃体勢を取らせた。
「それでテオドールどこら辺にいるんだ」
「いるのは、この先にある泉の近くの森に潜んでる。人数は48人とやたら多いね」
「おい、こっちはテオドールたち4人と護衛4人、傭兵2人。そして私と妹とそのメイド2人の14人しかいないんだぞ」
「やっぱ厳しいか、じゃあ・・・・レルドと俺で盗賊つぶしてくるか。な」
「いや「な」じゃないですよ。テオさんはともかく俺には無理ですよ」
「大丈夫だ、7人までなら同時に相手できると思うからな」
「いやいやいや無理ですよ」
「てことでグラン、俺とレルドで盗賊つぶしてくるからここで待っていてくれ。他の奴は一応殿下の護衛をしといてくれ。討ち漏らしはそっちで処理してな」
「一応って」
それだけ言い終えたあと嫌がるレルドを引きずりながら森に入っていく。
「いやいや、なんで俺まで」
「いや~暇だし話し相手がほしくてさ」
「俺はそのためだけに!」
「そ」
そこからは横でギャアギャアとわめいてるがそろそろ盗賊に近づくので強制的に黙らせた。
息を潜めながら森に入ると盗賊に近づき盗賊がまばらに散らばったので、正面から堂々と行こう思ったが。
「レルド、お前は隠密行動とか得意か?」
「俺は騎士ですよ、隠密行動は専門外ですよ」
「じゃあお前はここで待っていてくれ」
せっかくだから練習台にでもしようと思う。
「いいですけど、何をするのですか」
「ないしょだ、ただ気づかれないように静かにしといてくれよ」
(さぁステルスゲームをやってみようか)
動くだけで音が鳴る大太刀をしまって、料理用のナイフ(ドラゴンすらも切れる)を取り出し、音を立てないように動く。
まずは外側から徐々に削っていく。
まずはトイレのため少し離れた1人。
次は近くに潜んでる3人組。
その次は7人ほどが纏まっている箇所。
このように徐々に削る。残り17人になったところで盗賊団の何人かが異変に気づいたようで、そのことを頭に知らせに行った。後ろを気づかれないようについて行き、5人が纏まってるところについた。
「頭」
「どうした」
「此処は何かおかしいです、周りの連中と連絡が取れません」
頃合か、ここで出よう
「そうだよ、残りはお前たちとほんの少しだよ」
「誰だ!」
「いや~君には感謝してるよ頭の所まで案内してもらって」
「な!」
「てめぇ!あれほど此処にくるときは注意しろと言ったろ!」
「すいません」
「笛を吹け!」
ピィーーーーー
ん?さっきまで散らばっていた盗賊が全員近づいてくる。訓練された兵士みたいに一糸乱れづにこちらにやってくる。
「ん~なんか兵隊みたいだな、まぁいい頭だけ残しとけばいいか。じゃあはじめるか」
おれは亜空庫にナイフをしまってからいつもの大太刀を取り出す。
「それじゃあいくぞ!」
それからは蹂躙だった、太刀が振るわれれば盾ごと人の体が上下左右に別れ、投擲で攻撃したら掴みそのまま返される。
残り頭を含めて3人になった。
「さ~て、降参するかい」
「・・・・・おい」
頭の合図でそばの二人がボスの頭を刺して殺す。
「口止めかな」
ギチッ・・ドサッ
「毒か?おーい出てきていいぞ」
「すごいですね、50人近くを一人で・・・」
「コツさえわかればレルドでもできるさ」
「・・・・・無理でしょ」
こうして盗賊騒動は終わった。
その後は何にも起こらず。すんなりと王都に到着することができた。ただこれは厄介事の前触れだとは誰も知らなかった。