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現状

アレから村まで戻ると代えの馬車を用意するために二日滞在することになった。


「この馬車の代金も払ってもらうからな」


俺達は乗合馬車を一つ借りてクレッシェの町へと向かっている。


「分かっている、この程度の金はちゃんと払うさ」


馬車の中では一切悪びれる様子の無いヴィーサにゼルさん達が苛立ちを感じていて雰囲気は最悪だった。


「ねぇ、あのヴィーサさんっていつも・・・・その」

「ええ、ヴィーサは典型的な貴族なので」


この国ではないとはいえヴィーサさんは貴族なのだ、それなりの態度をとっても問題ない。


「残念ながら俺らは冒険者だ、貴族を敬う必要すらない」


冒険者はどの国にも属さない人たちだ、そのため貴族や王族を敬う必要はないとされている。


そのため貴族とギルドは仲が悪い部分もある。




騒がしい馬車で数日するとクレッシェの町にたどり着く。


「それじゃあルー俺達はギルドに報告に行くぞ」


僕達全員ギルドに入るとカウンターでクエスト完了の報告をする。


するとギルドマスターから呼び出しがかかり、そのままギルドマスターの元に向かう。


「ご苦労さま」


あいもかわらず机でデスクワークをしているギルドマスターの姿があった。


「それで報告を聞こう」


それから僕達は何があったかを報告する。


「へ?じゃあ勇者ってルークのことなのか?」


報告を聞き、疑った眼で僕を見てきた。


「どうやらそのようなんだ、まぁ俺達の仕事はここまでで、あとのことは正直知らん」


ゼルさん達のクエストは村の往復の護衛だ、それ以外のことに関してはまったく関心が無い。


「そうか、でレア様、そちらの方は?」


ギルドマスターはヴィーサさんのことが気になっているみたいだ。


「お初にお目にかかるギルドマスター殿、私はゼラフィス王国ミゼラトラ伯爵家の三女、ヴィーサ・グラ・ミゼラトラと申します」


これにはレア以外が唖然とする。


道中では同じ人物とは思えないくらい丁寧に挨拶をしていたのだ。


「丁寧にどうも、俺はこのクレッシェの町のギルドマスター、名はゼルファという以後よろしく」


なぜだろうギルマスの挨拶がゴロツキのメンチ切りにしか見えない・・・・・


「まぁ、挨拶はコレくらいにして本題に入ろう」


そういってギルドマスターは引き出しから一つの書状を取り出した。


「レア様、貴女の本国から通達が来ています」


レアがその書状を受け取り、内容を確認する。


だがレアの表情が見る見る青ざめていく。


「レイア様?」


ヴィーサさんがレアさんの書類をのぞき見る。


「なっ!?これは本当ですか!?」


ヴィーサさんは書類を見るとギルマスに迫る。


「なぁギルマス、なにが起こってんだ?」

「・・・・隠すほどのことでもないだろう」


ギルマスは椅子に深く座りなおすと事情を話し始める。


「まず、レア様とヴィーサ様が戻るのはゼラフィス王国であるのは知っているな?」


コレにはゼルさん達と僕はうなずく。


「で、そのゼラフィス王国の近隣にシュルカ国ってのがある」


ギルマスは大体の地形を描いて説明してくれる。


まずこの国は大陸の先端部分にあり7割ほどが海に囲まれている。


そしてレアさんの故郷であるゼラフィス王国はひとつ国を挟んだ先にあるのだ。


そして今話題になったシュルカ国はゼラフィス王国の北側に隣接している国で西側では最も北側にある国だ。


「そしてこのシュルカ王国だが、現在魔物の王と交戦している、いや・・・・していたが正しいか」


それはつまり


「また一つの国が潰れたわけか・・・・・」


ゼルさんの言葉にギルマスは深く頷く。


「そして現状だが、ゼルフィス王国とクレク聖国と交戦に入っている」

「早すぎないか!」

「ああ、あいつらはシュルカ国を滅ぼしたらすぐさま南下して戦争をしているのさ」


僕はギルマスたちの話よりもレアの様子が気になっていた。


「レア・・・・」

「・・・・・」


レアは返事がない。


「ヴィーサさん」

「あ・・ああ、ルーク、なんですか?」

「その手紙にはなんて書いてあったの」


するとヴィーサさんは手紙を見せてくる。


『親愛なるわが娘へ


今、我が国は魔物の王、魔王との戦争が始まっている。奴らは数が多く、我が軍も手古摺っている、今でも小さくない領地が奴らに奪われている。手紙が届いたときにはもしかしたらゼルフィス王国は滅びているかもしれない。もし予言の子を見つけたらお前の判断で国に連れてくるかほかの国に託すかを決めなさい。


バラゾ・グルファ・ゼルフィス



そう書かれていた。


「これって」

「ええ、すでに私たちの国は敗北しているかもしれないということです」


僕がヴィーサさんを見ると顔を伏せ説明してくれる。


「だけどギルマスはまだ戦っているって」

「それはいつの情報なのですか?もし現状であってもここから国に戻るのに最低でも一か月はかかります、それまで前線が持つか・・・持ったとしても現状のあなたでどれだけの戦力になりますか?それに母親のことはどうするつもりですか?」


これに僕は答えられない。


確かに戦っているって情報はいつのものかわからないし、戻るのにも早くてもそれぐらいはかかるだろう。何より僕が戦争に参加して何かできるのかわからない。


そしてどうしても心残りなのが母さんの存在だ。


(父さんが死んだことで衰弱しているのに僕すらもいなくなったら・・・・・)


絶対に僕は行くことはできない。


「詳細な情報はあと二日で届くはずだ、だから」

「・・・・・ええ、この町からは出ません」


レアさんは青い顔をしながらギルドマスターに答える。


それから僕たちはギルドを出て解散となった。


「えっと・・・・ヴィーサさん?」

「お気になさらず、私はレイア様の護衛ですから」


ゼルさん達はこの町の拠点へ、ヴィーサさんとレアはなぜだか僕の家へ。


「ただい・・・母さん!」


家に入ると母さんが台所で倒れている。


「ヴィーサさん!治療師を呼んできて」

「わかった!」


ヴィーサさんに治療師を呼んでくるように指示し、僕は母さんをベットに運ぶ。


「呼んできたわよ!」


ヴィーサと治療師が家にやってくる。


そして治療師は状態を把握すると


「体は何の問題もなかった、おそらくほかのことが原因だろう」


と診断した。


「君がいなくなったことにより旦那が死んだことをおもいだしたのではないかな、大丈夫すぐに目を覚ますと思うよ」


そう言い治療師はお金を請求して家を去っていった。


それから僕はレアの部屋にふたりを案内した。


本当はヴィーサさんにほかの部屋を貸そうと思ったのだが。


「私はレイア様のお傍にいます」


といいレアさんと同じ部屋を希望したのでそのままレアの部屋で寝泊まりすることになった。


その後、夕食の買い物を済ませ、家に戻り夕食の支度を済ませる。


夕食の支度ができると二人がにおいにつられて台所に来た。


「もうできるからもう少し待ってて」

「何か手伝えることはありますか?」

「じゃあ食器を出してもらえるかな」


料理が完成すると二人とともに席に着き食べ始める。


(さすが貴族だ)


ヴィーサさんの食べ方は一切音を立てることなく食べて人を不快にさせることがない。


同じくレアも優雅に食べている、以前食べたときとはまるで違った。


僕もできるだけ見様見真似で食事をする。


「ルーク、無理して真似することはない」


ヴィーサさんは僕が食べにくそうにしているのを見てそう言ってくる。


「ありがとう、じゃあふつうに食べさせてもらうね」


堅苦しいのはやめて普通に食べ始める。


そして料理がなくなると


「それでルーク、お前はどうする」


ヴィーサさんがぼくに話しかけてくる。


「どうって?」

「ここに残るのかそれとも私たちと共にくるのかだ」

「・・・・・・・」

「私はルークに勇者である義務を果たしてほしいと思っている、だがおまえにもここでの生活があるのは分っている、ゆえに無理にとは言わない」

「・・・ヴィーサさんなら僕を無理やりにでも連れて行くのかなって思っていたよ」

「私もそうしようと思っていたのだが、な」


ヴィーサさんはうつむいているレアに視線を飛ばす。


「それでルーク、君はどうするのかを聞きたい」

「・・・・・・・」


僕は答えられない、ここを出たい気持ちもあるがそれよりも母さんのことが心配だ。


「そうですか・・・・・」


ヴィーサさんは僕の表情からある程度予想ができたのだろう。


それからそれぞれ部屋に戻って日を越す。












「・・・・・・・・・・」













翌朝、朝食を用意しようと台所に行くと


「あら、おはようルーク」


母さんがすでに料理を作っていた。


「母さん!体は大丈夫なの!?」

「ええ、心配かけたわねもう平気よ」


そういって胸を張る。


そのようすから大丈夫そうだと判断した。


「ほら、あの二人を起こしてきなさい」


ということで僕はレア達を起こしに行く。


「お~い、朝食の用意ができたよ~」


すると部屋の中で何やら音がする。


「わかったすぐに行く」


そう返事がすると中から


「レイア様、起きてください」

「ヴィーサ、まだ眠いのですが」

「ここは宮殿ではありません起きてください」


中の声で大丈夫そうだと判断して下に降りる。


下ではすでに料理が並べてありあとは座って食べる状態だ。


「そういえばルーク、村はどうだった?」

「・・・壊れていた」

「そっか、魔物に襲撃されてから7年もたっているものね」


それから村に何が残っていて、何が壊れているのかを話す。


「家は壊れていた?」

「・・・そういえば家だけ壊れていなかった」


今思えば不思議だ、村のすべての家は何かしらが壊れていたが僕たちの住んでいた家だけ全く壊れていなかった。


「よかった、ならいろいろ持ってこれたんじゃない」

「そう!すこし錆びたりしていたけどほとんど無事だったよ」

「なら後で見せてね」

「うん!」


すると階段から足音が聞こえてくる。


「いい匂いですね」

「ええ、食事の用意、感謝する」


二人が席に着くと食事を始める。


「大丈夫かしら、貴族様のお口に合うといいのだけれど」

「問題ない、とてもおいしいです」

「そうならよかった、普段はどんな料理を食べているの?私貴族の食事事情とかしらないから」

「それは」


あの平民には容赦ないヴィーサさんが母さんには普通に話している。


ゼルさん達には辛辣に対応していたのに母さんには穏やかに会話をしている。


でもそれより気になるのは


ハムッハムッハムッ


無言で黙々と食事を続けているレア。


「ルーク君、この後時間をもらえないか」

「?いいですよ」


ということで食後にヴィーサさんに連れられギルドの訓練場に来る。


だがそこには


「おっルーじゃねえか・・・・それと」

「昨日もあった人の名前すら思い出せないのですか」

「馬車の件忘れたわけじゃないよな」


ゼルさん達がいたのだ。


二人は顔を合わせるとすぐに毒を吐き始める。


これにはエリックさん達は、またか、って顔をしている。


おそらく僕も同じ顔になっているだろう。


「それで貴族様が何でこんな場所に来てんだ」

「彼と手合わせしようと思ってね」


そういい僕のことを見る。


ちなみに僕は手合わせの件は聞いていない、まぁいいけど。


「はっお前の剣なんかに俺が教えたルークの剣が負けるかよ」

「では試してみようか」


そういい木剣を僕に私渡してくる。


「さて打ち込んできたまえ」


そういい剣を構える。


ヴィーサさんは半身で剣を中段に構える。


とりあえず木剣を取り構える。


「いつでもいいぞ」

「では!」


僕は力強く踏み込み距離を詰める。


「!!」


ヴィーサさんは一瞬驚いたがすぐに落ち着き冷静になる。


「てぇりゃ!」


僕は剣を振り下ろすとヴィーサさんは剣を軽く当て、絡めるように滑らせる。


グギャ


「いっ」


僕は手首にかかる痛みから思わず剣を落としてしまった。


「これで終わりだな」


ヴィーサさんは僕の首に剣を添えて終わりを宣言する。


これには訓練場にいる全員が唖然とする。


ヴィーサさんは僕に手を指し伸ばす。


「手首は大丈夫か?」

「ええ、痛みはありましたが今はそんなでは」


僕は手首を見せる、するとなにやら驚いている。


「・・・・これが勇者」


なにやらつぶやいたようだが聞こえなかった。


「おい、ルー、なにあっさり負けているんだよ」

「なにお前の剣より私の剣が優れているだけだろ」


この言葉にゼルさんは青筋を立てた。


「おし、じゃあ次は俺が挑戦させてもらうぞ」

「いいだろう、実力の違いを見せてやる」


僕はこの場から離れて観戦しているエリックさんのもとに向かう。


「どんまい、ありゃ相手が悪いは」


エリックさんがそう慰めてくる。


「ルーク君、手首を見せてください」


僕は言われるがままに手首を見せる。


「・・・・・あれ?」


ミレアさんは不思議なものを見たかのように固まる。


「ルーク君、もう手首は痛くないの?」

「ええ、最初は痛かったですがもう痛くないですよ」

「・・・もう治ったというの・・・・」

「ミレアさん?」

「ルーク君さっきの音からして、君の手首は確実に一度折れたわ」


ミレアさんからして剣を受けた時の音は確実に骨が折れた時の音らしい。


なのに僕の手首はケガが一切ないのだ。


これにはここにいるみんなが首をかしげる。


「「「「「「「おお~~」」」」」」」


後ろから歓声が聞こえる。


どうやら決着がついたようだ。


そこには膝をついた二人(・・)が見えた。


だがそこにある人影はもう一つあった。


「そこまでだ、さすがにこれ以上激しくなるならケガだけじゃすまなくなる、納得できないなら俺が代わりに戦うことになるぞ」


ギルマスは手には武骨な手甲をはめている。


どうやらそれで両者の戦いを止めたようだ。


「わかったよ、おい決着はまた今度だ」

「よかったな、止めてもらえて」

「それはこっちのセリフだ」


いまだに言い争いは続いているが戦いそうな雰囲気はなくなった。


そのあと何かしら用事があるとかでヴィーサさんだけギルドに残った。











家に帰るとお母さんが待ち構えていた。


「ルーク、話があるわ」

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