邂逅
僕は光を感じて眼を覚ます。
「ここは・・・・・」
僕は家の残骸をどかし立ち上がる。
「うっ」
ふらふらと立ち上がると、何が起こったのか思い出す。
「レアさん!」
僕は急いでレアさんがいた場所に向かう。
「はぁはぁはぁ」
ボロボロの体に鞭を討ち急いでレアさんの元に向かう。
村はやってきたときに残っていた家は今回の戦いでほぼすべてが瓦解している。
僕はレアさんがいる方向を見ると煙があがっているのが見える。
「・・・・と言うことは」
僕はさらに急いで煙が立ち上っている場所に向かう。
そこにいたのは
「「「「「ルーク!」」」」」
ゼルさん達だ。
ゼルさん達は夜明けまで戦闘を続けていたらしい。
本来ならもっと長引きそうだったらしいのだが
「途中でな大きな音が聞こえたと思ったら、魔獣の動きが変化してな、それが戦闘を終える鍵になったんだ」
とのことだ。
「それよりルーク、お前たちの方は何があったんだ」
僕は何があったかをゼルさんに説明する。
「そうか・・・だからあんな状態だったのか」
ゼルさんは治療し終えて寝ているレアさんを見る。
レアさんは戻ってきたゼルさん達に発見されミレアさんが聖魔術をかけて何とか死なずに済んだのだ。
「なるほどな~だから途中から大型の気配が消えたのか」
エリックさんが会話に入ってくる。
「消えた?」
それからの説明では最初は魔獣たちを指揮していたみたいで多彩な攻撃をしていたのだがゼルさん達がなかなか崩れないのがわかると魔獣もゼルさん達を足止めするように守りに徹したようになり大型の気配が消えたのだ。
「たぶんだけど、ルーク達を先にやって俺達の動揺を誘おうと思ったんじゃないか?」
エリックさんはこう予想している。
だが僕の予想は違う。
(あの狼のことだゼルさん達では遊ぶことができないから楽そうなこっちに来たんだろうな)
「しっかし、あの場所では何が起こったんだ?」
ゼルさんは村にできた大きなクレーターを指す。
そこは僕と狼が最後に衝突した場所だ。
『ガァアアアアアア』
『ハァアアアア』
僕は最後のやり取りを思い出すが何が起こったかはさっぱりわからない、唯一わかっていることは僕の体から青白い蒸気が出たことだ。
「皆!レアが目を覚ましたよ!」
比較的壊れていない家にあるベットの上にレアさんはいる。
「レアさん」
「無事でよかったです、ルーク」
レアさんは僕の姿を見ると安堵する。
「ミレア、レアは大丈夫なのか?」
「ええ、さすがに全快ではないけどほとんどの傷は治ったわ」
「すぐにでもこの場所から離れたいのだが」
「問題ないわよ」
隣でそんなやり取りが行われている。
「ルーク」
レアさんは真剣な目を向けてくる。
「生き残れたのですね」
「ああ、全員無事に・・・・」
「よかったです」
そういい再び眠りに着いた。
その後、僕達はミレアさんに部屋から追い出されその場を後にした。
その晩、僕はヘレナさんに伝言と食事を届けてくれと頼まれレアさんの部屋に訪れる。
「――――-よ」
部屋から声が聞こえてくる。
僕は少し動きを止めて耳を傾ける。
「怪我はほとんど治ったけど、どうしても・・・・・」
「問題ありません、これはルークを守るときにできた傷跡です、誇れこそしても後悔することなどありません」
「そう・・・背中の傷で何か言われたら私に言ってね、そいつに後悔させてあげるから」
「ふふっ、はい」
そんなやり取りを僕は聞いていた。
(僕をかばって付いた傷が)
僕は後悔に似た感情が胸の中に広がる。
(僕がもっと強ければ)
そういったことが自然と浮かんでくる。
「あれ?どうしたのルーク?」
前から声が聞こえる。
ミレアさんがドアから出てきた所で僕を見つけたようだ。
「ルーク?」
「ああ、えっと食事を持ってきました。それと伝言も」
僕はレアの部屋に入る。
「それで伝言って?」
レアさんが食事をしながら聞いてくる。
「『レアの体調が問題ないなら明日の朝から町に向けて出発する』だそうです」
今もゼルさん達は準備を進めている。
「レアちゃん、私も準備手伝いに行ってくるね」
ミレアさんは僕を残して部屋を出る。
「えっと、レアさん」
「・・・・・・」
なぜかレアさんは機嫌が悪い。
「あの~」
「レアよ」
「えっ」
「レア、昨日はちゃんと呼んでくれたじゃない」
どうやら『さん』付けが気に入らなかったらしい。
「じゃあ、レア」
「それでいいわ」
満足してもらえて何よりだ。
「怪我は問題ないのか?」
「ええ、無事に治ったわよ」
「でも、ミレアさんは傷跡は残るって」
この言葉でレアさんの表情が曇った。
「そうね、でもいいのよこれは」
レアは慈しむように微笑む。
「そういえば、ルークは準備とかはいいの?」
「持ってきたものは全部纏めてあるよ」
「じゃなくて」
????
「ここにある思い出の品のことよ、お父様の形見の品とか、あの家にある家族の物のこと」
レアさんの言葉で理解した。
「ありがとうレアさん」
お礼をいい部屋を出る。
そして僕は自分の家に向かうのだが。
「で何を持っていくつもりだ?」
「さすがに動きを制限するものは遠慮してもらえますか」
エリックさんとマーヴィンさんが付いてきていた。
なぜ二人がいるのかというと、僕はゼルさんの下に行くと自分の家から形見の品を持って帰りたいことを伝える。
「わかった、エリック、マーヴィン付いて行ってくれないか」
「いや、僕一人で」
「バカ野郎、お前は依頼主から最優先で守ってくれって頼まれているんだ、護衛もなしに送り出せるわけ無いだろう」
とのことで二人はやってきたのだ。
「そこまで大きいものは持って帰りませんよ」
家に着くと僕は中に入らず物置のほうに向かう。
「・・・・・あった」
物置にはさまざまなものが置かれており、その中でお父さんよく使っていたナイフと装備を回収する。
続けてさらに奥には村で行われる祭典に使っていた装飾を取り出す。
(母さんが言っていたな、これはお父さんからはじめて貰った髪飾りだって)
他にもいろいろ思い出がある品を回収すると、次は家に入る。
「これは要らない、これは・・・・・持って帰れないよね」
次々と持っていく物と置いてく物をを分けていく。
「よし」
荷物を選別し終わると二人と一緒に村に戻る。
「戻ってきたかルー」
ゼルさんはなにやら木をいくつも重ねている。
「これは?」
「後のお楽しみだ」
そういい僕達も手伝わされた。
日が落ちるころになるとそれは完成した。
「これでいいだろう、さて飯にするぞ」
ゼルさん達は家に入るとミレアさん達が用意したと思われるご飯に手をつける。
「それじゃあはじめるぞ」
そして日が完全に落ちると全員が集まり、焚き木に火をつける。
それと同時にレアとミレアさんが歌う。
僕達はそれに聞き入っていると周囲にさまざまな色の光の粒が浮かび上がる。
そしてそれは徐々に上昇しやがて空に消えていく。
そうこれはミレアさんの宗派にある鎮魂の義なのだ。
聞くと、これは死んだ人が安らかに眠り、来世に幸運がありますように、という意味を込めているのだとか。
僕はこの光景を見ながら村での思い出を思い出す。
ロブと一緒に村長にいたずらして怒られたこと、ラナと一緒に家事を手伝ったこと、ユリウス兄さんにお土産を貰ったこと、母さんとお父さんと一緒に遊びに行ったこと。
さまざまなことが思い浮かんでくる。
そして気づかぬうちに自然と涙がこぼれてくる。
僕は涙を拭いていると何かに頭を撫でられた感触が残る。
『泣くなよ、男がだらしないぞ』
僕はすぐに振り向くがそこには誰もいない。
でも確かに感触があり声が聞こえた。
僕は燃え尽きるまでその火を見ていた。
―――――――――――――
「魂の神秘だな」
「あ~アレね」
「ああ、素直にすごいと思うよ」
「死して誰かを想い、その想いだけで魂を存在させ続ける、下手すれば霊体に進化することができそうだったくらいだな」
「・・・・それでどうするの?」
「・・・・・・・・少しくらいは想いを汲んであげてもいいよな?」
「ご随意に」
―――――――――――――
僕はいつの間にか草原にいた。
見渡す限りの草原だ、それ以外に何も見当たらない場所だ。
「ここは」
「やぁ」
振り向くと、言い表せないくらい綺麗な人がいた。
「あ、あな、たは」
口がうまく回らない、口だけではないからだが動かない。
だが自然と恐怖などは感じなかった、むしろ逆に安心感すら覚える。
「俺はそうだな、君を勇者にした存在かな」
「えっ?」
思考が止まる。
レアさんが言っていたが勇者はお告げにより存在が明らかになったと、つまりそのお告げを出した存在、しいては
「神様・・・ですか?」
「まぁそうだね」
あっさりと肯定された。
(なんかあっさりとした神様ですね)
「よく言われるよ性格が軽いって」
「えっ?!」
「神様なんだ、心くらいは読み取れるさ」
僕は混乱した。
「まぁいろいろ聞きたいだろうが、とりあえず置いといて君に質問がある」
神様は真剣な顔をしてこちらを見る。
「これから君は自分に力があることを理解するだろう、その上で君はどのようにして生きたいのだ?」
先程とは違い一切の虚言も許さない雰囲気。
「さぁ返答を」
僕は真剣に考える、そして思いつく
「僕は皆を守れるようになりたい」
かつて僕がお父さんに継げた言葉だ。
この言葉に納得したのか神様はいい笑顔を浮かべ、そして
「う・・・ん」
僕は目を覚ました。
周囲を確認するが寝た状態となんら変わりが無い。
(夢?・・・・・だけどはっきりと覚えているし)
なにより本能がアレは本当のことだとささやいている。
僕はもう一度眠ることにした。
翌朝、僕達は荷物を持って馬車を預けた村に戻る。
「しっかし、ここまで平和になるとわな」
村の帰り道でエリックさんがつぶやく。
「おい、エリック、真面目にやれよ」
「問題ないよ、なぜだか来たときと違って周囲に魔物の気配がまるで無いんだよ」
これは僕でもわかった来た時とは違い空気が重くない。
村まで行くときはまるで暗い森の中で捕食者に見られているような気配がしたが、今は通い慣れた森のような感覚になっている。
「そうだな~」
俺らはこうしてまるで散歩の帰りかのように足軽に帰路に付いている。
「ん?止まれ、変だな馬車の音がする」
この場所は危険指定されている、そうそう人が来る場所ではない、ましてや音がする馬車で来るものなどほとんどいないだろう。
なのに道の先から馬車の音がするのだ。
「・・・・・なぁ、あれって」
見えてきたのは見覚えのある馬車だ。
「なんでゼルさんたちの馬車が?」
馬車は猛スピードで僕達の方に向かってくる。
「退いて退いて!」
僕達はすぐに横に避けて避ける。
「って!今のは!」
すると馬車は反転しようとするが急な方向転換は危ないわけで
ガシャン!
案の定横転した。
「っっっっっっ痛って!」
御者席に座っていた人物は横転したさいに投げ出された。
「っとこうしちゃいられない、レイア殿下!ご無事ですか!」
その人物はすぐさま立ち上がりレアさんに駆け寄る。
「このヴィーサ、レイアに怪我を負わせたとあらばこの命であがなう所存です」
「・・・・・はぁ、相変わらずですねヴィーサ」
その人物はレアさんの目の前で跪く。
「えっとレア、知り合い?」
「貴様!!今なんと言った!!!!」
その人物は腰にある剣を抜き剣先を向けてくる。
「この方を何方だと思っている!ゼラフィス王国の第二王女、レイア・グルファ・ゼラフィス様であるっ痛!」
レアさんは杖で思いっきり殴りつける。
「ど、どうなされましたか?!レイア様!?」
レアさんは凄まじい顔をしながらその人物に詰め寄る。
「・・・・色々言いたいことはありますが、まずヴィーサなぜ貴方はここにいるのですか?」
「そうです!私はレイア様をお助けすべくこの地までやってまいりました!」
「助けに?」
「そうです、聡明なレイア様が無断でいなくなるはずがございません!なので何者かに攫われたと思い急いで追ってきたわけです」
この金髪の女性だか男性だか分からない人物―――おそらく男性だろう、体の一部がまったくないことから―――はレアを追ってきたみたいだ。
だが追ってきた理由が誘拐って。
「お父様に事情を説明しに行ったのですか?」
「いえ!時間がおしかったので書置きだけ残して追ってきました!」
コレを聞いてレアは額に手を当てて俯く。
「でこの馬車はどうしたのですか」
「はい!少々貴族の特権を振りかざしまして借りました!」
あの横たわっている馬車はどう見てもゼルさん達の馬車なのだが・・・・・
「・・・コレって俺らのだよな?」
「間違いありません、この傷は以前のクエストで付いたものです、他にも見覚えのある傷跡だらけ」
「馬車は村の人に預かってもらっていたのでは?」
「そのはずだよ」
「じゃあなんでこんな所にあるんだ」
レアはあの人物から詳しい話を聞いている。
「では誘拐されたのではないと」
「勿論ですよ」
レアは頭痛がしているような顔をしている。
「あ~すまんがいいか?」
ゼルさん達は本人から話を聞こうとしている。
「貴様!無礼」
「はいはい、良いから答えて」
「はっ!」
この人はレアに敬礼しながら答えてくれる。
簡単に言うとレアを追ってここまで来たらしい、その理由がレアがいなくなったからだ。本来なら上司とかに報告して対応するのだがこの人はどうもレアを神聖視しているみたいで
「レア様が何も言わずに消えるわけがありません!」
レアが何も言わない→他人から何かされて何も言えない→誘拐だ!
ということらしい。
(うん、馬鹿だな・・・)
まるで猪みたい突っ込むことしか脳に無いようだ。
それで部下に分かるように書置きを残してみにつけているものだけを持って追ってきたらしい。
「レイア様、陛下が心配しております私と共に帰還しましょう」
そういうヴィーサの肩をゼルが掴む。
「おいアレはどうゆう了見なんだ」
ゼルさんはいい笑顔で馬車を指差す。
「なに村で馬車を調達しようとしたんだが、今村にあったのがそれだけだったのだ、悪いとは思ったが借りた」
ということらしい。
「なにが借りただ!もう車軸が折れてここから動かせない!どうしてくれるんだ」
「それはすまない、無論ちゃんと料金は払うさ」
ヴィーサさんが弁償することを了承するとゼルさん達もしぶしぶながら怒りを納めた。
ちなみに村に戻るとすぐに馬車を預けた相手がやってきて。
「馬車が盗まれた!」
と告げてきた。
「実はあんた達より後に村に来た人が来てな、なんでも先に進むからあんた達馬車を貸してくれって言われて、無論預かり物だって言って断ったさ!だけど何度もしつこくてな最終的に追い払ったんだけど・・・・」
で次の朝には馬車と馬が消えており、家の前には書置きが置いてあったらしい。
『拝啓、馬車の預かり主よ、いかがお過ごしでしょうか。
さて今回はほんとに申し訳なく思いますが私の身の上の都合のみで馬車を拝借しました、無論これがしてはいけないことなのはわかっております。
しかし私は命に代えてもやらなければならないことがあります、必ず馬車はお返しするのでどうかご容赦ください。
ヴィーサ・グラ・ミゼラトラ
』
俺らの視線が全員その人物に向かう。
「ははは」
当の人物は笑っていた。