仇
レアさんのペンダントが光り始める。
「まさか!」
レアさんは僕の家に向かって走り出す。
「レア(さん)(様)」
僕達は走り出すレアさんを追いかける。
そして気づいた僕の家が近くなれば近くなるほどその輝きが増していく。
そして家の前にたどり着くとペンダントがひとりでに動く。
「あっ」
レアさんに続いて僕達も家の中に入る。
家はそこまで広くないので7人も入ったら手狭になる。
ペンダントは一つのベットの上で止まる。
そして
「これは・・・・・・」
ペンダントが光ったと思ったらベットに元気だったお母さんが映し出される、そしてその腕の中には赤ん坊がいた。
「これ・・・・僕?」
母さんは優しく微笑んで赤ん坊を撫でている。
「・・・・てことは勇者はルーになるのか?」
僕に全員の視線が集まる。
「ペンダントが指し示したと言うことはおそらく・・・・」
レアさんも勇者は僕だと思っているみたいだ。
するとペンダントが僕に向かって飛んでくる。
「うわっ!」
ペンダントは腕に巻きついて僕の腕と融合する。
「「「「「「ルーク!?」」」」」」
そして最後には腕に腕輪のような紋様が描かれる。
「ルークが・・・・・・」
レアさんがなにやら考え込んでいる顔をしている。
「あのねルーク」
「警戒!」
レアさんがなにやら言おうとしたがエリックさんが声を上げる。
「どうした!?」
「奥のほうから大型の魔獣が迫ってきている!他にも多くの魔獣が来てる!」
「全員村に戻れ!」
僕達は全員急いで村まで戻る。
「エリックまだ追ってきているか?!」
「ああ、しかも広がりながらこっちに来てる」
「向こうには指揮官の魔物がいるようだな」
魔物は無差別に僕達を追ってきているのではなく徐々に追い詰めるように迫ってきているとのことだ
「ゼル、このままでは追いつかれて終わりです、どうしますか」
「・・・・・・」
マーヴィンさんが状況を冷静に分析してゼルさんに伝える。
ゼルさんは考え込む。
そして
「ルー、この場でできるだけ視界が広い場所はあるか?」
「ある!」
「どのくらいで着く?」
「村までの道のすぐ脇だからすぐに着く!」
「じゃあ案内してくれ!」
僕が先頭に立ち道から外れる。
そして木々の間をすり抜けていくと視界が広い草原に出る。
「よし、ここなら問題ない」
そういって全員武器を構える。
少しすると森の奥からどんどん狼が現れる。
「おいおい勘弁してくれよ」
その数は50匹以上だ、さらに言えば未だに大型の魔獣は現れていない。
「ルー、お前はレアを連れて村まで戻ることはできるか?」
ゼルさんは苦い顔をしながら言う。
「お前達を連れたままアレを相手にするのは正直荷が重い、だからお前らだけ村に行ってもらいたい」
僕達は静かにゼルさんの言葉を聞く。
「村にはまだ魔物避けが効いているはずで安全だ」
「わかりました」
ゼルさんの声色からそれが最善策だと理解した。
「いいか合図したら村まで走れ、マーヴィン」
「少々お待ちを・・・・・・・・・・・・・・いつでもいいですぞ」
「おし、それじゃあ行け!」
僕達は村をめざして走る。
「『炎滅壁』」
その声と同時に後ろが明るくなり熱を感じた。
「振り向くな!走れ!」
僕は振り向きそうになったがゼルさんの声でやめた。
その後は村までレアさんと走る。
俺達は狼達に向けて戦意を放つ、これは狼達の気を逸らさせない為だ。
「『炎滅壁』」
数匹ルーク達を追おうとするがマーヴィンの魔術で侵攻を防ぐ。
「させないわよ」
さらに遠回りしていく個体もいたがヘレナがそれを弓で阻止した。
「今ので数体しとめたわよ」
「それでもまだまだいますけどね」
数匹が倒れたが他は止まる気配が無い。
「さてじゃあ気合を入れろよ」
「わかってるよ、しかし」
「どうしたのエリック?」
「奥に大型の気配があるんだが一向に寄って来ようとしないのが気になってな」
エリックほどではないが俺も少しなら気配を探れる。
森の奥にでかい気配が漂っているのが俺にもわかるくらいだ。
「弱るまで待つつもりなのでは?」
マーヴィンの言うことがで正解のような気がするが違うと何かが訴えかけている。
「そういうことは後でわかるだろそれより目の前のことに集中しろ」
狼が痺れを切らしそうなので全員に声をかける。
そして
「アウォオーーーーー」
森の奥からの声で一斉に襲い掛かってくる。
僕達は村の前まで来ることができた。
だがここまで来ても絶対に安全とはいえない魔物避けの効果が切れてたらここにも魔物がやってくる
「効果は言葉通りなら明日の昼間まで持つそれまでは安全だと思うけど」
「それまでにゼルさん達が帰ってこなければ私達も危ない」
僕達は村長の家にまで移動する。
ここはゼルさん達が補強を済ませており他よりもだいぶマシになっている。
僕達は夜まで待ったがゼルさん達は帰ってこなかった。
「ルーク、そうやって待っていてもしょうがないわ。とりあえずご飯にしましょう」
そういいレアさんはご飯を持ってくる。
ご飯といっても干し肉とパンだが。
「それよりこの後のことをどうするか考えましょう」
レアさんはこの後のことを考える。
だが二人だとそこまでいい案が出てこない。最終的に明日の昼まで待って、それでも戻って来ない場合はここから二人で帰ることにした。
それから時間が過ぎて夜になった。
僕達は村長の家にいる。
「「・・・・・・・」」
ただ空気はとても重い。
それも当然だろう、一匹の魔物に襲われでもしたら僕達はなすすべも無く殺されるだろう、この恐怖に耐えながら僕達は夜を越そうとしている。
そんな状態で愉快な気分にはなれないだろう。
「僕はこの後はどうなるんだろう」
僕は紋様が刻まれた腕を見ながらつぶやく。
レアさんの言葉通りなら僕は北に向かい魔王と戦うことになる。
「私と一緒にゼラフィス王国に来てもらいます、当然、国賓待遇で迎えられると思います。その跡に国の援助を得て魔王と戦うことになると思います」
「僕にそこまでの腕など無いんですけどね」
「・・・・・すみません」
レアさんは僕に謝ってくる。
「どうして謝るのですか」
「これから貴方は今までとは違う日常になります、今までの生活には絶対に戻れません、そしてそれは私の責任でもあります」
レアさんは懺悔するように僕に告げる。
「だからといって私は貴方を連れて行くことをやめることはありません、なので怨んでください、そして憎んでください、それが貴方を戦争に巻き込む私が背負う罪ですから」
そんなレアさんに僕は言う。
「僕はレアさんに怨むことなんてないよ」
レアさんがこちらを見上げる。
「僕は元々13歳になったらあの町を出ようと考えていたんだ。行き先は決まってないけどおそらく北のほうに行ったと思う」
この言葉に嘘はない。
僕は13になったらあの街を出て行くことを決めていた、理由は色々あるが主な理由は久しぶりに二人に会いたいのだ。
「それにもし怨むのなら僕は僕を選んだ神様を怨むよ」
「それは・・・・恐れ多いことです」
少しだけどレアさんは笑ってくれた。
「そんなわけで僕はレアさんを怨んだり、ましてや憎むことなんて無いさ」
少しは気が楽になればいいなと僕は思った。
そうして夜が更けていくと思ったのだが。
ドン!
大きな音が村に響く。
「なんだ?!」
ドン、ドン、ドン
僕は窓から外を見る。
見えたのは真っ赤な色の毛をした大きな狼だ。
それが村に入り込み幾つもの家を壊している。
「レア、魔物が来た!」
「なぜ?!」
僕はすぐに装備を取り付ける。
「レアさんはすぐに逃げる準備をして」
「ですが!」
「いいから」
僕はすぐに剣を取り出して家を出る。
「僕が囮になるからレアさんは逃げて!」
「な!?」
僕は音が大きい方に急いでいく。
幾つもの家の間を潜り抜けていくとそいつの姿が見えた。
真っ赤な色の狼で馬車と同等の大きさ、狼の額と四肢に鋭い角を持ち、犬歯二本がとてもでかく、毛も一部が黒色で立派な紋様のように見える。
『なんだ出てきたのか、鼠みたいに逃げ惑うのかと思っていた』
頭の中に声が響いてきた。
『ん?なんだ?』
どうやら狼の声のようだ。
「お前なのか」
『おっようやく反応したか』
狼はこちらを見て声をかけて来ているみたいだ。
『逃げなくていいのか』
狼はつまらなそうにこちらを見る。
「逃げてもいいのか?」
理性があるならと思い僕は話しかける。
『おお、逃げろ逃げろそれを追いかけて嬲り殺すのはとても楽しいからな!』
「!?」
狼は前足で攻撃をしてきた。
僕はそれを転がることで避ける。
『そらそらもっと逃げ惑え』
狼は鼠をいたぶるように僕を攻撃する。
僕は家の間をすり抜ける。
『いいぞいいぞ、もっと逃げろ』
狼は喜んで僕を追ってくる。
僕は幾つもの家を通り過ぎる、狼は僕の姿を見失ったようで近くの家をしらみつぶしにしている。
『にしても久しぶりにニンゲンどもが現れタ』
『昔も同じようにニンゲンで遊んだことがあってナ』
『ヤツラはよく抵抗してくれたヨ』
『中でも強いのが一匹いてナ』
『仲間はこ、コディとかいったカ』
「・・・・・・・・・」
『他のヤツラは一回で動かなくなったガ』
『そいつは違っタ』
『なんどもなんども向かってきタ』
『だから腕をもいで遊んでいたのサ』
『最後にはルーとしか言わなくなってナ』
『おもしろくなかった、お前は面白くなくなるなヨ』
僕は狼の前に出て行く。
『なんだ逃げんのか・・・お前も詰まらん死ネ』
僕は剣を振り前足と切り結ぶ。
『・・・・・・・・ム』
僕は勢いに負けて吹っ飛ばされる。
家の壁をいくつの通り過ぎる、そして広場まで吹き飛ばされる。
『意外だな今ので死なないとは、殺すつまりだったのだがナ』
狼はゆっくりとこちら側にやってくる。
「ガハッ」
動こうとしたけど体中から痛みが出てくる。
『・・・・だが、もう死にかけカ』
僕の思うとおり体が動かない。
狼が少しずつ近づいてくる。
(動け!動け!動け!)
狼がゆっくりと近づいてきて既に目の前にいる。
『もっと楽しませてもらいたかったぞ』
そういって足を振り上げる
が、それが振り下ろされることは無かった。
「『火球』」
『・・・・・ン?』
狼は火の球を食らうがまったく動じない。
そして向ける視線の先にはレアがいる手にはなにやら杖みたいなものを構えている。
先程の攻撃は彼女が放ったもののようだ。
『もう一匹いたのカ』
「逃げて!」
彼女は再び魔術を放つ。
『ハハ、もっと抵抗しロ』
狼は遊ぶようにレアさんに近づいていく。
そして
「キャッ」
レアさんの悲鳴と同時に何かが崩れる音がした。
僕は顔をそちらに向けるとレアさんが狼に吹き飛ばされているのが眼に入る。
『ふむ、手加減を間違えたカ』
レアさんはピクリとも動かない。
『そろそろ戻らないといけないな』
狼はレアさんに近づく。
『メスは肉が柔らかくてウマイのだ』
その言葉を聞き僕は必死に動く。
手足を動かせば傷口から血が溢れる。
痛みこらえながら僕は狼に走る。
持っていた剣は半ばから折れて使い物にならない。
走っている途中に剣が置かれているからそれを拾い走る。
「はぁああああああああああ」
僕は全力で狼の横っ腹を剣で叩く。
僕の攻撃なんて羽虫のようなものだと思ったが、違った
「ガァグガアアア」
狼は足が地面から離れて吹っ飛ばされる。
「レア!」
僕は声をかけるけどまったく反応が無い、だがかすかに息はあるみたいだから生きてはいるみたいだ。
『キサマ!』
狼が起き上がる。
そして体から赤い蒸気のようなものが吹き出てる。
『久しぶりに痛みを受けたぞ、その礼にお前にも苦痛をやろウ』
狼はそう言うととてつもなく速く動き襲いかかってくる
だが
『ナ!?』
狼は僕を噛み殺そうとしてくるので僕は半身になって避ける。
そしてなぜか僕はそのスピードについていくとこができたのだ。
その後も爪で切り裂こうとしてくるがそれを剣で防ぐ。
何度かそんなやり取りが行われると狼は距離をとった。
『・・・・ナルホド、お前も持っていたカ』
僕は何のことか分からなかったが自分の腕を見たことでわかった
「え?!」
僕の腕、いや体から青白い蒸気が出ているのだ。
「なんだこれは?」
『・・・・・偶然カ、なら理解する前にコロス』
狼は一層赤くなり襲い掛かってくる。
速度は先程よりも速く僕は本能できるギリギリだ。
「グゥ!」
威力も相当上がっている。
僕は受け止められず何度か転がる。
「う・・・・!」
僕はすぐに立ち上がり迫ってくる爪を避ける。
『チッ・・・避けるカ、だがこの状態なら手も足も出ないだろウ』
狼は再び襲い掛かってくる。
(身体能力で劣るなら!)
僕は襲い掛かってくる狼に合わせて剣の力を抜く。
そして体を滑らすように剣を動かす。
すると自然と剣が滑る部分が切り裂かれていく。
『なゼ!』
それからも何度も攻撃を受け流す。
(ゼルさんから習っていてよかった)
これはゼルさんから剣を習った結果だ。
(といっても僕は生き延びるためだけの剣術しか教えてもらってないけど)
受け流しはそのうちの一つで自分が受け止められないほどの力で攻撃されたときの対処法の一つとして教えられた。
(ゼルさんは真っ先にこれを教えてくれたのも納得だ)
ただ、それ以外の技は教え込まれてないのだ。
(このまま行けば!)
もう一度突進してくる狼にあわせて受け流す。
だが
『同じ手は何度食わん』
狼はフェイントをかけてタイミングをずらす。
「しまっ」
狼の爪は僕に迫ってくる。
だが横から僕と爪の間に入ってくるものがある。
薄い赤い髪が舞う
僕はレアさんと共に吹き飛ばされる。
「・・・・レアさん」
「だめ・・・・ルークは死んじゃだめ、生きて」
レアさんは背中に大きな傷跡ができてる。
「レアさん・・・」
『未だに動くカ、まぁそれも終わりだろう』
狼は僕に近づいてくる。
『今度は順序を間違えン』
狼は僕に近づいてくる。
『ん?』
狼に何度も火球が飛んでいく。
「ルークはやらせない」
『まだ死なぬかさっさと終わらせよう』
狼は鬱陶しそうにして駆け出そうとする。
(やめろ、やめろ!)
すると僕の体から青白い光が溢れる。
「な、なんだ」
【・・・・・・・なれ】
「えっ?」
【汝、人の希望となれ】
不思議な声が頭に響く。
僕は頭に響いた声をいったん無視して狼に駆け出す。
『ヌ!』
狼はあっという間に接近した僕に驚く。
「ハァ!」
そして剣を振るう。
狼を牽制するつもりで攻撃したのだが、結果は違った。
「グギャアアア」
狼の体にとても大きな傷跡ができ、それは不思議なことに剣以上の長さになっている。
『離れロ』
狼は口から炎を吐き出す。
「くっ」
僕は耐えかねて離れる。
『さっさと死ね』
狼はレアさんに炎を向ける。
「まずい!」
僕はレアさんを抱えて物陰に隠れる。
「・・・・・・よかった」
レアさんはかろうじて生きている状態だ、だがこれ以上長引くとどうなるかわからない。
「少し待っててね」
僕は物陰から出て狼に剣を向ける。
『フン、我がここまでてこずるとはナ』
狼はこちらを見据えている。
『だが我も時間がない、だから終わらせてもらう』
狼は体中から炎を纏う。
「残念だけど、僕も引けないから全力で抗うよ」
『傷だらけの体でよくさえずル』
「お前も傷だらけだけどね」
僕は集中する、すると青白い蒸気がさらに噴出す。
そして
「ガァアアアアアア」
「ハァアアアア」
僕の青白と狼の赤黒が交じり合って視界が見えなくなる。
そしてすごい衝撃を受けて僕は家を何軒も吹き飛ばされた。