久しぶりの故郷
僕達のクエストは順調に進んだ。
何度か魔物と戦ったが、誰も怪我することも無く危険地域前まで来れた。
「さて明日には危険度エリアに入る」
夜、火の番をしている僕とレアさん、ゼルさんで明日のための話し合いをしている。
「俺達は何度か訪れたことがあるが、ルークとレアはおそらくそんなに詳しくないだろうから説明しておくぞ」
Aランクパーティーであるゼルさん達はこの地域でのクエストを何度か受けたことがあるので注意点などを話してくれる。
「まずこの地域に生息しているのは大体が魔獣だ、その中でも狼の魔獣が多い」
「それゆえに匂い、音には十分注意してくだされ」
「お、交代にはまだ早いが」
「いえ、二人にこの先について教えているようだったので私もと思い」
と言うことでマーヴィンさんが説明に加わった。
「まず確認されているのが角狼、風牙狼、炎咆狼の三種類、他にも啄岩鳥、跳豹」
マーヴィンさんが言ったのは僕でも知っている有名な魔物だ。
「他にもいろいろ居ますが脅威になるのはこの5種類ですかね」
「それだけですか?」
「レアさん、確かにこの5種類は単体ではそこそこの強さしかありません、ですがこの地域では相当な数の群れを成し、私達ですら簡単に危険になるのです」
その通りだ、ゴブリンでさえ群れを作れば危険なのにそれ以上の魔物だ、危険は跳ね上がる。
「それにこのエリアにはボスが居ます、本来なら一種類の魔獣の群れでさえ危険なのに複数の魔物の群れとなると私達でも逃げるのが精一杯なのです」
魔獣などにはボスとなりえる存在が発生することがある。本来は一種での群れだがこのボスが加わることにより複数の魔物が群れを作る場合があるのだ。
そしてこれから向かう地域はその群れがいるのだ。
「なるほど、かなり危険なですね」
「はい、今回はレアさんとルーク君もいるので極力戦闘しない方針でいこうと思っています」
その後はどういった経路で進むのかなどを説明してもらい僕らは寝た。
ルークとレアが寝静まった頃。
「ゼル、本当にルーク君を連れてきてよかったのですか?」
「ああ」
「親御さんを心配させてまで?」
ゼルはエリックと同じテントで寝ているルークを見る。
「なぁ、ルーはどれくらい強くなったと思う?」
「はぁ?・・・・・・・そうですねEランク狩人ぐらいの腕前はあるのでは?」
「俺はなすでにBランクはあるんじゃないかって思っているんだ」
ゼルの言葉にマーヴィンは動きを止めた。
「本気ですか?」
「ああ」
「その根拠は?」
マーヴィンは少し訝しげにゼルの事を見る。
「アイツが俺から剣を教わっているのは知っているな?」
「ええ、私もたまにですが魔術について教えてますし」
「魔術の方はどうかは知らないが、剣の技術は結構な腕になっている」
「たしかに剣の腕は上達したでしょう、ですがそれはそれなりですBランクもあるようには思えないのですが」
「ああ、剣腕はそこそこだ」
「ならなぜ」
マーヴィンはなぜそう評価したのかゼルに尋ねた。
「・・・・・・・アイツの身体能力は俺以上だったからだ」
マーヴィンは困惑した。
「確かに魔物を倒していると身体能力が上昇する事例がありますがそれもそこそこでしかないはずです、魔物と戦う機会がほぼ無いルーク君は」
「ああ、本来は年相応の力しかないはずだ、だが訓練中何度も試してみた、間違いなくルーは俺以上の力を持っている」
その後二人は何も話すことなく時間が過ぎていく。
翌日、僕達は慎重に進んでいく。
周りには以前の面影も無いくらい青々とした草花が生い茂っている。
僕達は道があっただろう場所を進んでいく。
そして見慣れた景色が見えてきた。
「ここ・・・・」
僕は懐かしさを覚える。
この場所だともう少しで村が見えるはずだ。
「あ・・・・・」
村が見えた。
村はほとんどが崩れており道も蔦や草などが生えている。
村の周りにあった柵はほとんど壊れており役目を果たせていない状況だ。
村長の家、賑わっていた市場、誰かが手入れしていた畑
他にもさまざまなものが荒らされていた。
「あの村がハガルナ村?」
「そうだ、いやだった村だな」
僕達は村の中に入っていく。
「止まれ」
村の柵を通り過ぎると前を歩いていたエリックさんが停止した。
「エリック」
「退くぞ、此処はまずい」
僕は何がなんだか分からなかったがゼルさん達は即座に村から出て行く。
そして少し離れた場所で僕達は話し合いを始めた。
「何があったのですか?」
僕と同じように何が起きているのかわかっていないレアさんは皆に問いかけた。
「エリック詳しく説明してくれ」
「結論から言うとあのまま進むと俺達は魔物の群れに襲われていた」
その言葉に僕とレアさんは固唾を飲んだ。
「エリックの感覚は俺達よりも鋭い微かな音や匂いを探知できる」
(・・・・まるで犬みたい)
「犬みたい」
僕は言葉に出さなかったがレアさんは出してしまった。
エリックさん以外笑いをこらえている。
「あ、すいません」
「い、いや、いいんだ、そう思われるのも何度かあったから」
そういってエリックさんは苦笑する。
「それで俺が感じた限りでは10匹はいたはずだ」
「一つの群れか?」
「おそらく、あのまま戦えば負けはしないが戦闘の音で周囲の魔物を誘き寄せるかもしれない」
「いい判断だ」
僕とレアさんはそのやり取りを聞いて納得した。
「それではどうするんですか?」
僕は気になって尋ねる。
「マーヴィンいつものできるか?」
「アレですね」
「そうアレだ」
ゼルさん達だけでわかる会話が行われる。
「ガゥ」
村の中にいる魔物は何者かが来たことには気づいていて、このとき腹は膨れていたので縄張りに入らなければ見逃すつもりでいる。
そして侵入者は縄張りに入ることなく離れていったのでそのまま放っておく。
そしてしばらくするとまたやってくるしばらく縄張りの周りをグルグルしていると思ったら4匹が縄張りに入ってきた。
「グル」
俺は配下に排除するよう命令する。
「アオーン」
配下は仲間に合図をして即座に襲い掛かっていく。
9匹の配下が木の何かの間をすり抜けて襲い掛かっていく。
俺はこれで問題ないだろうと考え周囲の警戒に戻ろうとしたが
キャイーン
配下の叫び声を聞いて考えを変えた俺は配下の元へ向かう。
そこには4匹の猿のような獲物が居た。
俺はふがいないと思い配下を指揮して戦う。
いつもどおり自慢の脚を使ってかく乱、配下と共に強襲する。
4匹は固まり動かない、配下を差し向け注意を散乱させる。
そしておおきな猿に隙ができる、それに気づいているのは俺だけだ。
だから
「ガァアアアアアアア」
俺は首を噛み切ろうと襲い掛かる。
すると、先程とは比べもにならない反応速度を見せ、そして
僕はエリックさんとともに事の成り行きを見ている。
「アレは何をしているんですか?」
レアさんの視線の先ではゼルさんたちが村の中や外を行ったり来たりしている。
「アレは魔術の準備をしているんだ」
「魔術?どのような?」
「アレは『消音結界』という無属性魔術だ」
そこからエリックさんは説明してくれた。
マーヴィンさん達が行き来していたのは結界の基点を設置していたと説明してくれた。
そして肝心の内容だが結界の中の音を外に漏らさないための魔術らしい。
「おっとゼル達が動くぞ」
僕達は視線を戻す。
視線の先ではゼルさん達が村の中を進んでいく。
ある程度進むとゼルさん達はなにやら固まりながら慎重に進むようになった。
「そろそろだな」
エリックさんがつぶやくとゼルさん達に動きがあった、いや動かなくなったと言うべきか。
「なぜ止まったのですか?」
「見ていればわかるよ」
エリックさんはそういうと指をさす。
「ほら来た」
指先を見るとゼルさん達の周りを数匹の狼が取り囲んでいる。
「危ない!」
僕は思わず叫んでしまったけどエリックさんは慌ててない。
「大丈夫、大丈夫見ててごらん」
ゼルさん達は全員が背中を合わせて狼達の攻撃を防いでいる。
「本当に大丈夫なんですか?!」
「信用無いな~大丈夫だって」
ゼルさん達は追い込まれていく、と思っていたのだが。
狼のリーダーだと思われる一際大きい狼がゼルさんに飛び掛った所から状況は変わった。
「えっ!」
「ほらな」
隣のエリックさんのドヤ顔がうざい。
何が起こったかというと、大きい狼がゼルさんに飛び掛るがゼルさんは今までとは違う速い動きで斧を振り、狼の頭を両断したのだ。
その後、動きを止めた狼達に向けてヘレナが矢を放ち、マーヴィンさんが『火球』の魔術を数十個発動して狼達を蹂躙する。
「よし、じゃあ俺らも向かうぞ」
僕達はエリックさんと共に村に入る。
「なにこの匂い」
レアさんは鼻をつまみ嫌そうな顔をする。
僕達の先ではゼルさん達が焚き火をしていて、嫌なにおいはそこからしているみたいだ。
「この匂いは魔物避けの香を使っているのさ」
エリックさんが何をしているのか答えてくれる。
魔物避けの香をとはそのまんまので、粉末を火に焼べるだけで魔物が嫌がる匂いを広範囲に発生させるものだ。
だが
「「「・・・・・・」」」
女性陣が死んだような眼をしている。
「・・・・・・・・あれなんですか?」
僕はこっそりとエリックさんに尋ねる。
「あ~あれね、俺らはなれたけどまだヘレナとミレアはこの匂いがとても嫌いなんだよ、そしてレアも初めてでいい感じは・・・・・」
納得した。
「でもこれは一回使えば2日は効果があるから今だけだよ」
と言うことで気にするなとの事らしい。
僕達は眠れそうな家を探す。
いくつかの家を見てみると村長の家が比較的マシだったのでここにした。
既に日も落ちかけているので今日は夜に備えて補強したりして今日は終わった。
夜は持ち回りで見張りをする。
僕はマーヴィンさんとレアさんと共に最初の見張りについていた。
「レア様、そろそろ教えてもらえませんかなぜこの村にやってきたのかを」
目的地に到着したことにより次に何をするのかを知るためにマーヴィンさんはレアさんに目的を尋ねる。
「少し長くなりますけどいいですか」
僕達はうなずくと此処に来た理由を話し始めた。
「ここよりずっと北が今どうなっているかご存知ですか」
僕もマーヴィンさんも知らないので首を横に振る。
「・・・・数年前、最も北にある国でとある魔物が発生しました。発生した領地はいつものことだと考え普通に対処しようとしました、けれどもそれが間違いだったのです。その魔物は瞬く間に幾つもの領地を飲み込み、果ては国まで飲み込んでしまいました、そしてその魔物の勢いは未だに衰えずに周辺の国をいくつも飲み込んで行っています。現在進行を食い止めているシュルカ国とそれを支援しているゼラフィス王国とレリア聖国はどうにかして侵攻を食い止めています、ですが有効な手立てが無く、どんどん不利になっていっているのです。このまま負けると誰もが思いましたが、そんなさなかレリア聖国とゼラフィス王国に神からお告げを受けました。『最南にある村に魔王と対になる存在、勇者が現れる』とそれと同時にゼラフィス王国の王都にある神殿とレリア聖国の神殿に手がかりとなる魔法具を授けてくれました、そして国から派遣されてきたのが私なのです」
レアさんはそういって胸元から青い水晶でできたペンダントを取り出す。
「これがそのとき授けられた魔法具です」
「ほぅ、たしかに凄まじい魔力を帯びている」
僕にはわからない何かをマーヴィンさんには感じられるみたいだ。
未だに魔力を感じ取れるようにはなっていないので僕には綺麗なアクセサリーとしか思えない。
「だから私はさまざまな村に行き手がかりを探しているのです」
レアさんはペンダントを握り締めながら自分に言い聞かすように言う。
「それにしてもお告げも結構あいまいだね」
少し思い雰囲気になったので僕は会話を変える。
「そうよ、だから私は色々な村に行ったり来たりをしていてね」
うんざりしている声色でレアさんは言う。
「ということはレアさんは勇者を探しに来たわけですか」
「そうです、魔王を食い止めるため」
その後、交代までレアさんの旅の話を聞いていた。
翌朝、僕はレアさんに村の中を案内していた。
「此処が村の中心部だよ」
来ているのは毎朝にぎわっていたのが今は残骸だらけになっているところだ。
「ペンダントは・・・・・反応しない」
レアさんはがっかりしたがすぐに持ち直した。
「ふぅ、ルーク、違う場所も案内してくれない?」
それから色々な場所を案内した、民家のある場所、教会、商店、井戸、馬車小屋などなど。
隅から隅まで案内したが一向に反応しない。
村の中の最後の場所を案内したがまったく反応が無かった。
「ごめんね、力になれなくて」
「いえ、もしかしたら手がかりの示し方が違うのかもしれませんね」
そういってゼルさん達の下に一度戻る。
「おっ戻ったな、収穫はあったか?」
僕達は首を横に振る。
「そうか・・・・・」
「まぁとりあえずこれでも食べなよ」
ヘレナさんが僕達にパンと干し肉を渡してくる。
それから僕達は一度昼食にする。
「それにしても反応しなかったのですか」
「ええ」
「そうですか、ここより南には村は無いはずなんですけど」
ミレアさんの言うとおり、この村より南には人が住める場所がない。
「となると東の方なのですかね」
東にも大陸は広がっておりそちらでこの村よりも南にある村があるかもしれないのだ。
「まぁ反応しなかったもんは仕方ないだろう、それより故郷はどうだ?」
僕は村を見渡す。
「なつかしいですね、こんな状態になっても生まれ育った場所なので」
「そうか」
「あともし良ければ自分の家に言ってみてもいいですか?」
「ん?なんだ行ってなかったのか?」
「ええ、僕の家は村から少し離れているので」
「じゃあ午後はルーの家に行ってみるか?」
「いいですね、私もルークの過ごした家を見てみたいですし」
ということでご飯を食べ終わったら一度僕の家に行くことになった。
「しっかしなんでルーの家だけ村から離れているんだ?」
ゼルさんが家へ向かっている道中に尋ねてくる。
「それは・・・・」
「ゼル」
「あ~すまんただの好奇心だ、答えたくなかったら答えなくていい」
ゼルさんがミレアさんに窘められている。
「べつにそこまで深い理由は無いですよ・・・・ただ僕の白髪が気味悪がられていて両親が教育に悪いからと村から遠ざけていただけですよ」
「それは」
「別に気にしていないので大丈夫ですよ」
それから数十分歩くと森の入り口にある自分の家が見えてくる。
「ここが僕の」
「「「「「「「え?」」」」」」」
僕の言葉の途中でレアさんの胸元から光が溢れた。