親とは
ゼルさんとの訓練の翌日僕はいつものようにギルドに来ていた。
いつもなら僕はレアさんと別れて掲示板のほうに行くのだが、今回は違った。
「レア様」
ギルド職員がやってきてレアさんに話しかけるが
(レア・・・・様?)
ギルド職員はレアさんを敬うように様付けして呼んだ。
「なんですか?」
「ギルドマスターがお呼びになっています」
そういいレアさんを連れて行く。
廊下を三人で進む。
そしてギルドマスターの部屋にたどり着く。
「ギルドマスター、例の依頼人が到着しました」
「中に通せ」
職員が声をかけて、中から声がする。
職員が扉を開けてレアさんを中に通す。
「は?!」
「え?!」
中から驚いた声が聞こえる。
「さあ君も」
僕も職員に促されて中に入る
「「「「「ルーク?」」」」」
ゼルさん達の声が重なった。
少しの間、僕とゼルさん達は困惑していた。
「君も座なさい」
ゼルさんに向かい合っている人物が声をかけてくる。
その声にしたがって椅子に座る。
「ではクエストについて説明したいのだが・・・・」
全員の視線が僕に集中する。
「えっと」
「君はなぜここに来たのか?」
「ギルドマスター、私が彼を連れてきたのです」
レアさんの言葉で最奥に座っているのはギルドマスターであることがわかった。そのギルマスは僕を怪しんでいるけど僕はレアさんに一緒に来てほしいと言われて此処まで来たのだ。
「それはなぜ?貴方様の立場なら知る人は少ないほうがいいはずです」
「そうなのですが、彼には助けてもらった恩があるのです。それなのに私が正体を隠し事はどうしてもできませんでした」
「・・・・・・そうですか」
会話の中で僕はなんとなく分かった彼女、レアさんは身分を隠す必要があるみたいだ。
「始めまして皆様、私のことはレアとお呼びください」
レアさんは貴族がするような仕草をして自己紹介する。
「今回『気ままな旅人』の皆様に集まってもらったのはレア様のクエストを受けてもらいたくてね」
『気ままな旅人』とはゼルさん達のパーティ名だ。
「ちなみに内容は?」
「とある村、いや村があった場所までの護衛だ」
ギルドマスターの言葉に心当たりがあった。
「7年前になくなった村、ハガルナ村までレア様を護衛してもらいたいんだ」
ギルドマスターはクエストの内容をゼルさん達に伝える。
内容は、ハガルナ村に向かうレアさんの護衛だ。ゼルさん達を雇うんだ報酬も破格の値段になるはずだ
ただ
「ただその際にとある条件を飲んでもらう」
「条件?」
ギルドマスターは受ける際に一つの条件を出した。
「レア様がその村に関わったことすべてを他言しないことだ、ギルドの契約魔術で縛らせてもらう」
この言葉に皆は押し黙る。
それもそうだ本来干渉をを良しとしないギルドが契約魔術を使用すると言っているんだ、言い換えればそれほど重大な案件なのだ。
「ギルマス、今回のクエストはそこまで難しいのか」
「いやそうではない、どちらというと機密性が相当高いというものだ」
「じゃあ難易度はそこまででないのか?」
「まぁ、あの土地の適正にあっている魔物は出てくると思うが」
ギルマスとゼルさん達は話し合いを続けている。
「びっくりした?」
レアさんは僕の隣に来る、さながらドッキリの反応を見に来たかのように。
「えっとレアさ・・ま」
「レアでいいですよ」
敬語で話そうとするけどレアさんは前のとおり呼んでほしいと言う。
「じゃあレアさんで」
「ええそれでいいですよ」
ここで疑問に思っていることを聞く。
「なんで僕に教えてくれたの?」
「何がですか?」
「身分を隠していること」
「それは先程言ったとおり隠しておくことが私にとって心苦しかったからですよ」
レアさんは苦笑しながら言う。
「確かに最初は私もこのことは告げずにこの町から出ようとしました、ですがあの家出優しく迎えられていつしか私の中で後悔に変わりました。なので今回、ルークには隠さずに教えることにしました、まぁ詳しい身分は教えられないのですが」
レアさんは申し訳なさそうに告げてくる。
「そっか、でも僕は嬉しいよ、レアさんが話してくれて」
そういってレアさんのほうを見る
「それを聞いて心が軽くなりました」
「おい、ルー」
ゼルさんが僕に話しかけてくる
「どうしました」
「此処から先はお前も聞いたほうがいいと思ってよ」
ゼルさんの言葉で僕はギルマスとゼルさん達の話し合いに参加する
「てことでギルマスもう一度話してもらっていいか」
「本当にその子を連れて行くのか?」
ギルマスは僕を不思議そうに見ている
「ああ、あの村のことを知っている人物が入ればこちらとしても少しはマシになるからな、俺は連れて行ったほうがいいと思っている」
「・・・・・・わかった、今回の依頼はレア様の護衛だ、目的地はハガルナ村」
ギルマスが僕を見ながら今回のことについて話してくれる
「道中は普通に魔物が出てくるだろうし、あの地域は危険指定されている本来なら君、ルーク君は立ち入ることする許されない」
ギルマスの言うとおり僕にはまだ許可が降りるわけがない
「だが今回臨時として『気ままな旅人』にポーターとして雇われるなら話しは別だ」
ちなみにポーターとは荷物持ちのことだ
いつドコで魔物の襲撃に遭うかわからない場合、戦えるメンバーの一人が荷物で戦闘に入れなくて壊滅したという話しは珍しくない。
他にも荷物により動きが鈍くなり振りになるなどのデメリットがある、そのためにポーターという役割がある。
「お前らとルーク君を組み合わせるとギリギリBランクパーティーとなり立ち入り許可が下りる」
「なるほど、それなら問題がなくなるのか」
「ただし、ギルドからルーク君にだけは報酬が渡されないのだ」
これは僕のような人が無理に依頼を受けないようにするためだ。
「ちなみに報酬は?」
ゼルさんはレアさんのほうを向く
「前金で50万ナルク、成功報酬で200万ナルクを用意しています」
つまり前金に大銀貨5枚、成功報酬に金貨2枚ということだ
「気前がいいな」
「それほど大事な用件であると思ってください」
「了解した、俺達は受けるが・・・・それでルーは参加するか?」
ゼルさんは僕に問いかけてくる。
「・・・・一度、母さんと相談してきたいんですが」
と言うことで明日もう一度ここに集まることになった。
「「・・・・・」」
道中、レアさんと僕は気まずくなっていた。
「・・・ごめんなさい」
「えっとなにが?」
「ルークを巻き込んでしまったこと」
どうやらレアさんは僕を巻き込んだことを気に病んでいるみたいだ。
「レアさんはクエストを依頼しただけで、気に病む必要はないよ、僕は冒険者だリスクに見合った報酬ならクエストを受ける、だからもしクエストで何かがあってもそれは冒険者の責任だよ」
「・・・・ありがとうございます」
僕達はその後も無言のまま家へ向かう。
「ただいま」
「お帰り~」
家に帰ると台所で母さんが料理をしていた。
「もう少しでできるからテーブルに座って待ってて」
僕達はテーブルに着き料理ができるのを待った。
「お待たせ、料理ができたわよ」
僕達は料理をテーブルに並べて食べ始める。
料理がなくなるころに
「母さん」
「なに?」
「クエストを受けようと思っているんだ」
「どんなクエストなの?」
僕はある程度、掻い摘んで説明した。レアさんが身分を隠していることは話さずに。
そして出たのが
「だめです」
この一言だ、いつものように笑っている顔ではなく真剣な表情で語る。
「貴方はまだ12なのよ、私は貴方が冒険者になること事態反対したのを覚えている?」
そうだ、僕がギルドに登録しようとしたとき母さんは猛反対したのだ、だが最後は折れてくれた。
「しかも行き先が私達の住んでいた村でしょ?今あそこは危険な魔物でいっぱいなのよ」
母さんの言うとおりだ
「それに!貴方のお父さんだって魔物と戦って命を落としたのよ!」
母さんは目に涙を溜めて叫ぶ。
それを見て僕は何もいえなくなった。
「少し頭を冷やしなさい!」
そういって階段を上がっていく。
「「・・・・・」」
僕達はまったく動くことができなかった。
「ごめんレアさん、君のクエストを手伝うことができなくなった」
僕は申し訳なくなり、レアさんに謝った。
「いえ、ただ一人の子供を危険な土地に生かせるような親が居るはずありません」
「本当にごめん」
そういって僕達はそれぞれの部屋に戻っていく。
「・・・・・・・・・・」
翌朝、僕は部屋を出てしたの階に下りると母さんが料理の準備をしていた
「あの」
「ルーク」
母さんはこちらを見向きもせずに話しかけてくる。
「クエストはどうするの?」
「僕は受けないよ」
「ルーク、私が言った言葉を覚えている?」
「言葉?」
「『あの子のことは面倒見てあげなさい』」
母さんは近づいて僕の頭を撫でる。
「それにお父さんの言葉も」
『・・・・ルークはこれからどんな大人になりたいんだ?』
『僕は・・・皆を・・・守れるようになりたい』
『そうか、なら皆にやさしくして、頼りになるように強くならないとな』
もちろん覚えている、この言葉のとおり僕は強く優しく生きるようにしている。
「ならレアちゃんが困っているなら手伝いなさい」
「それって」
「物置にお父さんの古い装備があるから持って行きなさい」
「!わかった」
どうやら母さんは僕がクエスト受けることを許してくれたみたいだ。
僕は早速物置に行く、そこには古びているがちゃんと手入れされている皮装備一式と剣あった。
「それ、お父さんが小さい頃に使っていた物なのよ」
遅れて母さんが着いてきた。母さんは剣と皮装備を袋に詰め始めた。
「これはね、お父さんが小さい頃に使っていたのもなのよ」
そういって懐かしそうに剣を見ている。剣と防具を袋にしまうと一緒にキッチンに戻る。
少しするとレアさんが自分で起きて下に降りてくる。
そして食事が始まると。
「ノーラさん」
レアさんは真剣な顔をして母さんに話しかける。
「今日までありがとうございました」
レアさんは母さんに頭を下げる
「どうしたの急に?」
「おそらく私が出したクエストが受注されるはずです、そしたら私は護衛と共にこの町から出ることになります」
レアさんはクエストでこの町を出ることを伝える。
「それとこれを」
レアさんは小さな袋を出す
「・・・・これは受け取れないわ」
「いえ、これは私の気持ちなので受け取ってください」
母さんが中身を確認するとレアさんに返そうとする、だがレアさんは母さんに渡そうとする、そうした行動が何度も続いた。
袋の中身はおそらく金銭だ。
「レアちゃん、私はねもう一人の子供だと思っているのよ、そんな子からはお金は受け取れないわ」
「ノーラさん・・・」
「でも、レアちゃんの気がすまないのなら、そうね・・・・」
少し考えた後
「時々でいいから手紙を送ってね」
その言葉を聞いてレアさんは何も言わなくなった。
そして家を出ようとすると母さんは僕とレアさんを抱きしめた。
「二人とも無事で居てね」
そう告げられ僕達は見送られた。
「ふぅ~もう独り立ちする年頃なのね」
私は家に戻ると物置にある思い出の品を見る。
「ねぇコーディ」
私は置いてある弓に手を触れる。
「覚えているかしら、私に結婚を申し込んだこと」
私はそのときのことを思い出す。
「『いつどんなときも俺がノーラ、君を守るだから、俺と結婚してほしい』、そういってコーディは私に花束を渡してきたのよね」
当時のコーディの顔を思い出して笑いそうになる。
「もし貴方がいたら今回のことをどう思うかしら、何を考えているんだって怒る?それともようやく冒険に出るのかって背中を押す?」
私は弓を見ながらコーディの顔を思い浮かべる。
浮かんできたのは満面の笑みだ
『大丈夫さ、僕達の子供だよ!』
そういっているような気がした。
私は少し心が軽くなったのを感じて物置を出る
「ウッッッ!」
私は軽く咳き込む、口に当てた手を見るとべっとりと血がついていた。
「お願いだからもう少し持ってね」
僕達はギルドに向かう。
「ルーク、気になっていたのだけどその袋は?」
レアさんは今回に限って大きな袋を持ってきたことが不思議みたいだ。
「これは母さんに使えって渡されたのもだよ」
ギルドの中に入ると職員に呼び出されて以前来た部屋まで案内される。
そこには既にギルドマスターとゼルさん達が待っていた。
「ようやく来たか、とりあえず席に着きなさい」
僕達は用意されている席に座る。
「さて結論は出たかな?」
みんなの視線が僕に集まる。
「彼は参加しま「僕はクエストに参加します」えっ?」
レアさんは僕の言葉に驚いている。
それも当然だろう今朝のことを知らないのだから。
「お~ルーは今回は参加するんだな」
「ええ」
「期待しているぞ」
「ちょっと待って」
僕とゼルさんの会話にレアさんが入り込んでくる。
「なんで?ノーラさんには反対されたのに」
「・・・今日の朝に許可してくれたよ」
僕は大きな袋の中身を見せる。
「これは母さんが用意してくれたんだ、クエストに行くなら必要だろうってね」
「そうなの・・・」
「どうやら話しは済んだみたいだな」
「ええ、クエストの話しに入ってもらえますか」
「わかった、大体は昨日話した通りだがもう一度説明して置こう」
僕達はもう一度説明を聞く。
「まず今回のクエストはレア様の護衛だ」
そこから詳しく説明が行われた。
クエストはレアさんを僕のいた村、ハガルナ村までの護衛だ。報酬は前金に50万ナルク、成功時に200万ナルクとなる。
ただ僕に関してはギルドから報酬が出ることがないなので僕はゼルさん達に雇われる形になるわけだ。
本来ならゼルさん達で250万ナルクを山分けする形になるのだが、僕に関してはその山分けの中には入ってない、あくまで個別に雇われているので僕に支払われるのはゼルさん達からのお小遣いと言うことだ。
「俺はルーを10万ナルクで雇おうと思っているが皆はどうだ?」
ゼルさんの声に反対意見は出なかった。
数字だけで見れば僕は安いと思われるかもしれないがこれは間違いだ。
ゼルさん達はクエストに必要経費を差し引けば大体40万がいいところだろう。さらにパーティーとしての費用、例えばより強い魔物と戦うために武具を買ったり緊急時に備えて高価な薬品を買ったりなどだ、それら含まれていることからさらに差し引かれる。
話しがずれたので元に戻す。
ハガルナ村まで大体7日、そしてレアさんの用事が終わるまで滞在する、その後この町まで戻ってくる。
これがクエストの大体の内容だ。
そして今から向かう地域の危険性の話しになる。
ハガルナ村の地域は狼型の上級魔獣の縄張りの中にある。
それにより生息している魔物は動物系が多い。
ただ
「この群れのボス情報は1年前のが最後なんだ、今どうなっているかは予想の域を出ない」
とのことだ。
大体はゼルさん達で簡単に狩れるくらいの強さらしい。
そして今回のパーティーの話しに入る、まずはゼルさん達『気ままな旅人』のことからだ
「まず俺がリーダーをやっているゼルだ狩人ランクはA、主に前衛でタンク、アタッカーの役割をしている」
ゼルさんは脇にある大きな斧を叩きながらレアさんに自己紹介する。
「俺はエリック、狩人ランクはBだ、武器は短剣でスカウトの役割をしている」
次はエリックさんだ、エリックさんは軽薄そうな性格だが意外と義理堅い。
「私はマーヴィンと申します。狩人ランクはAで魔法を使ます」
マーヴィンさんは魔術士だ、さまざまな魔法を使い敵を倒す。僕もほんの少しだけ魔術について習っている。
「私はヘレン、エリックと同じくBランク狩人よ。役割は基本弓使いだけどスカウトもできるわ」
ヘレンさんは弓兵だ、基本は後ろで矢を放つのだが場合に応じて短剣を持ち前衛もできる。
「私はミレアといいます、見ての通り神官で聖魔術が使えます」
最後にミレアさん、ミレアさんは聖魔術と言うものを使える。
聖魔術は女神教でしか教わることができない魔術だそうだ。聖魔術は主に回復や解毒などの魔術で余り戦闘向けとは言えず後方要員になるそうだ。
最後に全員の視線が僕に集まる。
どうやら僕の自己紹介を待っているようだ。
「僕はルークといいます、今回はポーターとしてパーティーに加えさせてもらいます」
自己紹介が終わるとギルドマスターは僕達を一室に連れてきた。
「なら最後に契約魔術を使わせてもらうぞ」
その部屋は床と壁に魔術陣が書かれており中央に机のようなものがある。
「一応だが説明しておくぞ、まず君たちにはこの紙に書名してもらう、そして魔術を発動させると書かれている条件が無条件で発動させられる。例えば『俺は浮気をしたら死にます』と言った風にだ、そして俺が浮気をした場合は魔術が発動し書面どおり俺は死ぬ。質問は?・・・・・・無いようだからはじめるとしよう」
ギルマスは机の上にある紙に契約条件を書いていく。
[ギルド契約
一つ、クエストを受けた冒険者は何の理由もなしにクエストを放棄してはならない
二つ、クエストを受けた冒険者は今回のクエストで知りえた情報を第三者に流してはならない
三つ、クエストを受けた冒険者は依頼者に危害を加えてはならない
四つ、上記三つのどれかを違えたのならギルドの権利をすべて剥奪、その上で罰則を与える
]
そして名前を書く場所がある。
「さて、では此処に名前を書いてもらえるか」
全員(レアさんは除いて)が名前を書くとギルマスが魔術を発動させる。
部屋全体が薄く光ると僕達の中に光が吸い込まれていく。
「さてこれで問題ないだろう」
そういって外に移動する。
そこには1台の馬車が止まっており荷物の運搬が行われていた。
「すでに荷物の手配が終わっていたのか」
ギルマスは感心したように馬車を見る。
「ああ、昨日の内に俺はクエストを受けると決めていたからな」
ゼルさん達は既に準備が終わっている。
外ではすでに出発する準備ができているので僕も装備をつけてから馬車に乗り込む。
「よし全員乗り込んだな、じゃあ行くぞ!」
こうして僕は再び故郷に戻ることになった