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始まり

視点がしばらく変わります

勇者とは、どんな存在か。


ある人は魔王を打ち倒す存在。


ある人はどんな困難にも立ち向かう存在。


また、ある人は弱い民を守るもの存在だ。


だが勇者とは物語に存在ではないのだ。



勇者とは―――









ギルド暦78年。


ミカラ大陸の最も南にある国、ペセア国の辺境の村。


その中の一つの家で新しい命が生まれようとしていた。


「がんばれ!がんばってくれノーラ」

「うぅ、あぁあああああああああああ!」


そこにはお腹が膨らんだ女性とその傍らには一人の男性と老婆がいる。


「コーディ、あんたは下がってなさい。ここからは私がやるから」

「でも村長」

「あんたはノーラの手でも握っててあげな」


コーディと呼ばれた男性は心配そうな顔をしながらノーラに寄り添い手を握る。


その後も夜明けまで出産は続いた。




そしてついにそのときは来る。


「オギャアアア」


生まれた赤ん坊は母親に抱きかかえられている。母親は生まれたばかりの子供を見て微笑む。


「生まれてきてくれてありがとう」


窓から日の光が母親と子供を照らす。まるで生まれたことを祝福しているように。







それから5年が過ぎる。


大小二つの影が草原にあった。


「ルークーそろそろご飯にしましょう」


少年はルークと名付けられ、すくすくと育っていた。


「今日のお昼ご飯はなに?」

「サンドイッチ作ってきたから此処で食べましょ」


二人は布を敷きお昼にする。


「お父さんは今何してるかな?」

「今頃、おっきな動物を倒しているんじゃないかな」


ルークの父親コーディは猟師を生業にしていた。


その後も他愛無い話をして時間が過ぎていく。日が傾き始めたころに二人は荷物をしまって家に帰る。


「あっ、お父さん」

「おっルークにノーラ今帰りか」

「ええコーディは?今日はどうだったの?」

「おお、今日は鹿が取れたからな早めに帰ってきたんだ」

「そうならすぐに準備しなくちゃね」


そういって三人は家の中に入っていく。


ノーラは料理の準備をして、コーディは鹿をさばきに家の横に立てている小屋に向かう。


ルークは父親であるコーディの後を付いて行く。


その後、ルークは父親の手伝いをし鹿の肉を捌き終わり料理に使う肉と燻製にする肉と分ける。


「じゃあこれをノーラに持っていってくれないか」

「うん、わかった」


ルークは肉を持ってノーラの元に向かう。


「お母さん、これ」

「あら、ありがとうね。今日はシチューにするから楽しみにしててね」

「うん」


ルークは母親の調理をすぐ傍で見る。


「ルーク、お父さん呼んできてちょうだい」

「は~い」


ルークは父親を呼びにいく。


「父さんご飯できたって」

「わかった、これ終わったら行くよ」


こうしてルークの日常は過ぎていく。




そんな中の一日。


朝になると()はベットから降りる。


その後、家の近くにある川に水汲みに行き家に戻る。


「いつも水汲みありがとうね、料理用意したから食べちゃいなさい」

「はーい」


母さんと一緒にご飯を食べる。


「この後はどうするつもり?」

「近くで遊んでくるつもり!」

「そう、遠くに行っちゃダメよ」

「わかった」


僕は家から出て村の中心に向かう。そこには比較的に歳が近い子供達の遊び場になっていた。


「遅いよルーク」


亜麻色の髪をした同じくらいの少女が僕に声を掛ける。


「なんかあったのか?」


次に声を掛けてきたのは茶髪の元気のよさそうな少年だ。


「遅れてごめんよロブ、ラナ」


亜麻色の髪をした少女はラナ、茶髪の少年はロブという。二人とも僕と同じ5歳で友達だ。


「それよりユリウス兄さんはいないの?」

「家の都合で結構遅れるって」

「兄さんの家って商人だからな~いろいろなることがあるんじゃないのか」


今話に出てきたのは5つ上で僕達にとって兄のような存在、ユリウスだ。


「そっかまた剣を教えてもらいたかったのにな」

「しかたないわよ」

「そうそう、でユリウス兄さんがいないとなると何して遊ぶ?」


それからご飯になるまで僕達は遊んでいた。そして休憩中にロブがとあることを聞いてくる。


「なぁ、俺の父ちゃん達が魔物が増えてきたってつぶやいていたけど何か知ってるか?」


初耳だ、僕と同じようにラナも知らないといった顔をしている。


「そっか、なら俺だけ知らされてないわけじゃないみたいだな」


そしてロブは何かを思いついた顔をした。


「なぁなぁ、魔物って見たことあるか?」

「無いわ」

「僕も無い」


僕もラナもまだ小さいって理由で村から出してくれないんだ。


「俺も無いんだけどよ・・・・見たくないか?魔物」


そしてロブは何か思いついたような顔をして提案する。


「昼飯食べ終わったら近くの森にでも入らないか?」

「それって魔物みたいから」

「そのとおり」

「魔物って怖いんじゃないの?」

「平気平気、一応木剣でも持っていけば逃げることくらいはできるようになるさ」


このロブの提案で僕達はご飯を食べ終わってから森の方に遊びに行くことにした。


僕達は一度家に戻ってご飯を済ませてから森のほうに向かう。


三人は村の近くにある森の入り口にあつまる。


「おし集まったな、それじゃあ行くぞ!」


ロブの言葉に僕達は後ろを付いて行く。


森に入ってから獣道をたどっていくと小さな小川にたどり着いた。


「ふぅ~疲れたか?」

「僕はぜんぜん」

「毎回思うけどお前の体力ドンだけ高いんだよ」


ロブはラナの方にも声を掛ける。


「ラナは疲れたよな」

「うん、さすがにちょっと疲れたかな」


ロブもラナも疲れたということで一度川で休憩する。


「ふぅ~生き返る~」


ロブは川の水を飲みながら感想を言う。


「お前達も飲んでみろよ」


僕は手で水をすくい、飲む。


水は冷えていてとってもおいしく感じた。


「冷えていておいしいね」

「だろ」


僕達は川で休んでいる。そして休憩していると待てなかったのかロブが一人で上流に行ってしまった。


「ロブもせっかちだよね」


ラナはロブの後姿を見ながらつぶやく。


「・・・ルークはこの村居心地悪くない?」


ラナが心配そうにこちらを見る。


「どうして?」

「だって!その髪の色だけで村の人は気味悪がっているんだよ!」


ラナは眼に涙を溜めながらしゃべる。


「私のママやパパはルークとは遊ぶなって言うんだよ」


僕はそれを静かに聞いている。


「それにルークの髪だけで村の人に気味が悪いって家を村のはずれに移動させたりして・・・・」


ラナは泣きながら話す。それを見た僕は。


「僕はそうは思ってないよ」


ラナは僕を見る。


「僕には優しいお母さんやお父さんがいる。他にもラナやロブ、それにユリウス兄さんもいる。確かに僕の白い(・・)髪が気味悪がられているのは知ってるよ、そのせいで母さん達には迷惑掛けているのも」


僕は自分の白い髪をいじりながら答える。


「僕だって気持ち悪いと思うものはあるし嫌だって思うものもあるんだよ。でもね、それだけで村を嫌いにはならないよ」


僕はラナの頭を撫でながら答える。


「・・・そっかなら安心だね」


ラナは涙を拭き笑顔を見せる。


「にしてもロブ遅いね」


ラナはロブが行った方向を見る。


するとロブはちょうど帰ってきた。


「おいこっちに来てみ」

「どうしたんだ?」

「いいから」


ロブは強引に僕達を連れて行く。


さっきの所から離れて川の上流の方に移動する。


すると前方に何かが動いている。


岩の陰から見てみると。緑色の肌に醜悪な顔をしているサルみたいな動物がいた。


「アレは・・・・」

「たぶんゴブリンという魔物だろ、前にユリウス兄さんが話をしてくれたのに似たようなのがいたじゃん」


ゴブリンという魔物は木の棍棒みたいなものと木の槍を持っていた。


「しかしすごいな、魔物ってあんな奴の事なのか」


ロブはゴブリンを見て感心している。


そして僕達は。


「ロブもう戻らない?」

「そうだよロブ、父さんたちは魔物は危険って言ってたよ」

「なんだよルークお前まで怖気づいたのか?」


ロブは小馬鹿にしたような顔を向けてくる。


「何のために剣を持ってきたと思っているんだよ・・・・木だけど」


ロブは腰にある木剣を触りながら言う。


「だけど」


そのときだ



「グギャーギャギャギャ」



僕達は後ろを向いてみると少し離れた所にもう一匹ゴブリンがいた。


「ギャーギャグガァ」


僕達の後ろにいるゴブリンは叫ぶ、すると先程の三匹もこちらにやってくる。


「くそっ、逃げるぞ」


僕達は川から離れて森の方に逃げる。


「あいつら追ってきやがる」


ロブは後ろを見ながら言う。


僕達はがむしゃらに森の中を走る。


「あっ」


後ろから転ぶ音と共に声が聞こえる。僕らは止まり後ろを確認するとラナが木の根に躓いて転んでいた。


「「ラナ」」


僕らはラナに駆け寄る。


「ラナ立てる?」

「うん、イタッ」


どうやらラナは躓いたときに足を痛めたようだ。


「ルーク、ロブ」

「っロブ!ラナを背負ってこのまま走ってくれ!」

「ルークお前はどうするんだ!」

「僕はここでゴブリンたちを食い止める」


僕は剣を腰から抜きゴブリンに向かい合う。


「死ぬなよ!」


ロブはラナを背負いながら走っていく。


(これで大丈夫だ、後は時間を稼いでから僕も逃げればいい)


ゴブリンに向きあう、すると僕は自分が震えてることに気づく。


(怖い、でもここで逃げたら二人が)


僕は震えながらも剣を構える。


ゴブリンは立ち止まり、ルークを囲うように動く。


「グギャ!」


一匹のゴブリンが棍棒を振るってくる。


それをルークは転がりながら避ける。


「うわっ」


「「「ぐぎゃぎゃぎゃ」」」


ゴブリンはそれを見て笑っている。そして弱った獲物を嬲るように棍棒を振るったり槍を振るったりしている。


僕はゴブリンの攻撃を何とかかわしていく


「はぁはぁ(そろそろロブたちは逃げることができたかな)・・・・・よし」


僕は十分(じゅうぶん)時間を稼いだと判断してゴブリンたちから逃げる。


それからどれだけ森の中を掛けただろうか、いまだにゴブリンはルークの後を追ってくる。


「まだ追ってくる」







ルークは空を見る。もう既に空は暗くなり始めていた。


「はぁはぁはぁ」


ルークは森を抜ける、するとそこは


「ああっ」


そこは逃げ場の無い崖だった。


「「「「ギャッギャッギャ」」」」


後ろを見るとゴブリンたちが追いついていた。


ルークは後ずさるが後ろは断崖絶壁だ子供であるルークにこの崖を降りることはできない。


ゴブリンの一匹が飛び掛ってくる。それを見てルークは眼をつぶってしまう。


「・・・・・・あれ?」


眼を開けてみると自分の目の前にゴブリンが倒れている。


そのゴブリンには先程はとは違い、後頭部に短い短剣が刺さっていた。


そして前方を見てみると森からなにかがこちらに猛スピードでやって来ているのがわかった。


それが森を抜けると金色の髪を切りそろえた少年が現れた。


「ルーク!」

「え?」


少年の前にはゴブリンたちがいる。


「邪魔だ!」


少年は腰にある二本の剣を抜きゴブリンに切りかかる。ゴブリンたちは突如現れた存在に戸惑ってしまう。結果ゴブリンたちは全部一太刀で倒されてしまった。


「ふぅ~、大丈夫か?」

「ユリウス兄さん!!」


ルークはユリウスに抱きつく。


「怖かったろ、さぁ村に戻るぞ」

「うん」


ユリウスはルークの手を取って村へと戻った行く。





僕はユリウス兄さんに連れられ村に戻った。


家に帰るとお母さんが泣きながら抱きついてくる。そのあと相当怒られた。


お父さんも帰ってくると僕を抱きしめる、その後はお母さんと同じで相当怒られた。


僕はご飯を食べてからベットに入る。するとゴブリンを倒したユリウス兄さんのことを思い出した。


僕がピンチになったら助けてくれたユリウス兄さん。その場面を思い出して


「僕もユリウス兄さんのようになりたいな~」


あの時の兄さんにあこがれを抱くようになった。







ルーク達が森に行った日の夜。


「皆集まったか?」

「ああ村にいる大人はほとんどいる」


村長の家では大勢の大人が集まっていた。


「それで猟師たちの話は本当なのか?」

「ああ周辺で魔物の発見が急増している、今日ラナたちがいた場所を聞いたが本来ならあそこに魔物なんかでないはずなんだ」

「他にも森の奥では以前より魔物自体が強くなってきているんだ」

「町への道でも魔物の数や質が上がってきていると聞いた」


数人の大人からの報告で皆不安になる。


「静かにしろ。フェルタナ、できれば旅商人である貴方に知恵を貸してもらいたい」


村長が頼ったのはこの村唯一の商人であるフェルタナに聞く。


「かまわんが、そういうことならユリウスに聞くのが一番じゃないか」


フェルタナと呼ばれた女性は近くにいるユリウスの頭を掴む。


「なにするんだよフェルタナさん」

「ばか、母さんと呼べもしくはママとかでも可」


周囲の大人たちはまた始まったという顔をした。


「じゃれるのもそこまでにしろ、それでユリウスどうすればいいと思う」


村長が二人を止めて、本題に入らせる。


「そうだな正直言えば自衛できれば一番だが、魔物の質と数でこんな村なんて簡単に滅ぼされると思う。無難なのが皆でお金を出し合ってギルドに依頼した方が確実だと思う」


10歳の少年の意見を大人たちは静かに聴いている。


「ではユリウスの言葉通りギルドに依頼したいと思うがどうだ?」

「・・・毎回思うけど俺の一案だけじゃなく他の意見も聞いてみろよ」

「それもそうじゃな、他に案がいるものもいるか?」


「領主様に軍とかを出してもらうとは?」

「無理だろ軍を動かすにもお金がいる、その金はギルドに依頼するよりも高くなるはずだ。おそらく領主は動かないと思う」


「じゃあ皆で柵とか作ったらどうだ?」

「その柵がどれくらいで作り終わることができる?そして本格的に柵を作るなら相当の金がかかると思うが」


「じゃあ戦える大人たちだけで森の魔物を討伐するのは?」

「害獣とかじゃねえんだぞ。ましてや戦える大人ってどれくらいいるよ?門番数人に猟師を生業にしているのが20程度、その30人未満で森の魔物を全部討伐できるか?」

「ワナとか使えば」

「たしかに有効だろう、だがそのワナさえ食い破ってくる魔物がいたらどうするんだ?ましてや村の方も守る必要がある、いいとこ10人ほどが限度だろ?」


村人がいろいろと案を出すがそれを全部ユリウスが論破する。


「そら。結局ユリウスが論破するんじゃないか」


村長の一言がこの場に響く。


「それでは、すまんが皆から少しずつ出し合ってギルドに救援を求めようにしようと思うが、皆はどう思う?」


他の村人から否定の意見は出なかった。


こうして村の方針が決まった。

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